第26話 本当の想いと心からの決意
旅を続けていたヨキ達はラティアでトューランドットに襲われ、一人生き残っていたところをリースに助けられたヘルシャフトの娘、ラピスと再会した。
そこにヘルシャフトによって作られたというフォルシュトレッカーの一人、シュタインボックが現れ、シュタインボックとの戦闘になる。
予想以上にシュタインボックが強く、防戦一方になる中、鋭く尖った木の破片がシュタインボックと戦う自分達の様子を、少し離れた所から見ていたラピスめがけて飛んできている事に誰よりも先に気付いたリースが飛び出し、ラピスを庇った。
その結果リースは左肩に木の破片が刺さり、大怪我を負ってしまった。
「また、私を助けたのか…? どうして……?」
ラピスは驚きのあまりに声が震えていた。
これでリースに救われたのは二度目であり、何故自分を助けようするのかがわからなかった。
リースは大怪我を負っているにも関わらず、はっきりした口調でラピスの質問に答えた。
「同じように、今を…生きている…者……同士、ヘルシャフトも…人間も……関係…ありません…」
それを聞いたラピスは更に困惑した。
生きている者同士、ヘルシャフトも人間も関係ない、その一言に戸惑っていた。
(どうして関係ないと言える? 何故そんな事が…いや待て、私はこの言葉を“前にも聞いた“事がある…)
ヨキ達は大怪我を負ったリースのもとに駆け寄ろうとしたが、それをシュタインボックは遮った。
ヨキ達はそのまま蔦に絡まれ、動きを封じられてしまった。
シュタインボックはリースの傍に行き、強引にも左肩に刺さった木の破片を抜いた。
大怪我の原因になっていると同時に、傷口から血が溢れないよう栓としての役割も担っていた木の破片がなくなった事で、傷口から大量の血が流れだしたが、リースは痛みをこらえ、叫ぶ事はなかった。
そんなリースの反応をつまらなさそうに見ていたシュタインボックは、なんのためらいもなくリースを足蹴にした。
それでもリースは叫ぼうとしなかった。
「……っ!」
「テメェ、リースから離れろこの人でなし! ろくでなし! 今すぐぶっ飛ばしてやる!」
バンはリースを足蹴にするシュタインボックを見て怒りが込み上げ、シュタインボックに罵声を浴びせながら蔦を振りほどこうと暴れた。
だがシュタインボックは聞く耳を持たず、バンの言葉を無視して冷たい眼差しでバンを睨んだ。
その目には殺意が見えたが、バンは気付かなかった。
するとシュタインボックは何かを思いついたらしく、面白そうに言った。
「そうだ、面白い事思いついた♪」
ヨキ達はシュタインボックが何を考えているのか分からず、混乱した。
シュタインボックは鋭く尖った木の枝を折り、それをラピスの目の前に放り投げた。
それを見たラピスは、リースが自分を二度も助けるという予想外の事に混乱しているため理解できなかった。
「コイツのとどめはアンタがやりなよ、ラピスさんよぉ」
それを聞いたヨキ達はすぐに悟った。シュタインボックはラピスにリースを殺させるつもりなのだ。
ラピスにリースを殺させようとするシュタインボックの行動を見たキールはある事に気付いた。
「そうか、『忠誠の儀式』か!」
「忠誠の儀式?」
「なんで今ここで儀式なんて言葉が出て来るんだ⁉」
忠誠の儀式と聞いたヨキとバンは、それがなんなのかがわからず、目の前で大怪我を追ったリースがいたぶられている様子を見せつけられている事もあって混乱した。
するとスズは忠誠の儀式について話し始めた。
「堕天になりかけたヘルシャフトが人間を殺して正天に戻るための唯一の方法の事だ!
アイツ、ラピスって人にリースを殺させるつもりなんだよ!」
それを聞いた二人は愕然とした。
余りにもむごい方法で、ヘルシャフトは堕天となる事を避けるのだ。
しかも唯一という事は、他に方法はないという事になる。
このままではリースが殺されてしまうと考えたヨキは、リースを助けようと法術を唱えようとするが、喉に蔦が絡まり、喉を絞められ声を出せないようにされてしまった。
キールも同様に蔦に喉を絞められ、法術を使えないようにされてしまう。
ラピスは鋭く尖った枝を手に取り、それをリースに向けたが、ラピスはすぐには刺さなかった。
(このまま小僧を殺せば、忠誠の儀式は成され私は堕天せずに済む…)
ラピスは無自覚にリースを殺すべきかどうかで迷っていた。
自分にとって目の前で倒れているリースは人間で、助ける価値もない存在の筈だったが、酷く抵抗感を感じていた。
「……っ」
「ほらほらぁ。はやくソイツにとどめを刺さないと血をだらだら流して勝手に死んじまうぜ?」
(そうだ、ただ殺せばいい。それだけでいい筈なのに……。一体、何が正しいんだ?)
シュタインボックにからかい半分で急かされ、早く殺さなければという焦燥感とリースを殺す事への抵抗感の板挟みになり、ラピス何が正しいのかわからなくなっていた。
その時、ラピスの懐からの美しい水色の石がついた首飾りが出てきた。
(これは、あの時のトルコ石の首飾り…?)
ラピスの眼に首飾りが移ると同時に、ラピスの脳裏を何かが過ぎった。
それは子供の頃の自分と、血を流して倒れている青年の姿であり、そしてある事を思い出した。
*****
『なぜだ! なぜワタシを助けた⁉ 人間ではないというのに、答えろ星火!』
『同じように、今を…生きている…者……同士、ヘルシャフトも…人間も……関係…ないよ…』
『そんな事でワタシを助けたのか⁉ 星火、お前はどれだけバカなんだ⁉』
子供時代のラピスは、目の前で血を流しながら倒れている星火と呼ばれた青年から自分を助けた理由を聞いても、その意味が全く解らなかった。
星火は血を流しながらも、優しく微笑みながらラピスに話し掛ける。
『バカで…構わない…。だって、こうして…君を、助ける……事ができた…んだ。これで……良いんだよ…』
『これでいいって、そんなの、理解できるわけないだろう!』
『そう、だね…。今は…まだ、わから……なくて……も良い…。
いつか……わかる…時…が来る……から…』
そう言いながら星火は、自分の首に着けていたトルコ石の首飾りを外し、子供時代のラピスの首に着ける。
『これは、僕から…のさい…しょで……さい…ごの……おくり…ものだ…きっと、君を…守って……くれる…から、外さず…身に着け…ていて』
『もういい、もういいから、もうしゃべるな! これ以上しゃべればお前は…』
『わかってる…。自分……の、体…の事……はじぶ…んが、一番…分かってる。
だから、一つだけ、お願い……して……良い……かな?』
傷口から血が流れているにも関わらず、手当てもせずに喋り続ける星火を止めようとする子供時代のラピス。
星火は混乱する子供時代のラピスをなだめるように、壊れ物に触れるかのように、子供時代のラピスの頭を撫で、優しく微笑み続けながらラピスにあるお願いをした。
『…ラピス…君は…自分の……心に、…嘘を…つか……な…いで…く…れ……』
『約束する。お前のそのねがい、ぜったいに叶える』
『………約束………だよ……』
約束するという子供時代のラピスの言葉を聞いた星火は、そのまま目を閉じた。
『星火? ……っ! 星火、しっかりしろ、星火ォオオオ‼』
*****
(思い出した。私はあの日、人間の星火に救われたんだ。最後に“自分の心に嘘をつくな”と約束して…)
自分が人間の青年、星火に救われた事を思い出したラピスは、最後に星火と交わした約束を思い出して思った。
何故、自分はわざわざ助ける気はない事をリースに伝えに来たのか、どうして翼が灰色になってしまったのか。
(自分で気付いていなかっただけで、死なせたくないと、そう思った。
そう思ったから、私の翼の色は薄れて行ったんだ…)
それは、星火が死んでしまった時と同じようになる事を防ぎたかった、星火と同じように誰かを目の前で死なせたくはなかった、例えそれが、星火と同じ人間であったとしても無自覚にそう思っていたから。
ラピスは再度、星火と交わした約束の内容を思い出す。
『…ラピス…君は…自分の……心に、…嘘を…つか……な…いで…く…れ……』
そしてラピスは自分が今本当にしたい事を考えた。
答えはただ一つだった。
その答えを見出したラピスは、鋭くとがった木の枝をリースに向けて刺した。
ラピスがリースを刺す光景を目の当たりにしたヨキ達は絶望に襲われたが、それはすぐに消えた。
「これが、私の答えだ!」
枝はリースには刺さっておらず、地面に突き刺さっていた。
そのあとにシュタインボックの足元から先端が尖った木の根が生えて来たため、シュタインボックは素早くよけた。
ラピスは腰の剣を手に取り、ヨキ達の動きを封じていた蔦を切り裂き、ヨキ達を開放した。それと同時にラピスの翼は灰色から白へと変わる。
シュタインボックはラピスを睨んだ。
「おい、どういう事だ? あれ程までに人間嫌ってたアンタが人間を助けるなんてよぉ」
「見た通りだ、シュタインボック。私はこの場にてお前達に、そしてヘルシャフトに仇なす者、『ウィアグラウツ』となる!」
ラピスが出した答え、それは“自分を庇った人間の少年を救いたい”という答えだった。
例えそれが、誓いを破る事になったとしても、自分の心に問い、見出した自分の本当の答えだとラピスは確信したからこそ、ラピスはリースを救う事を選んだのだ。
突然のラピスの行動に驚くヨキ達。
それとは裏腹にシュタインボックは怒りに満ちていた。
ラピスの行動は自分が使える主への裏切り行為に値する、自分の主と同じように使える存在であったとしても、主を裏切るのであれば別だ。
「ガキを助けるために主を裏切るとは大した度胸だなぁ」
「フォルシュトレッカー・シュタインボック、貴様はウィアグラウツであるこの私が倒す!」
「なら俺は十番目のフォルシュトレッカーとして、堕天であるアンタを抹殺する。
覚悟しろ、裏切り者!」
ラピスとシュタインボックはほぼ同じタイミングで攻撃を仕掛けた。ラピスは剣を使ってシュタインボックが持っていた小さな槌を空中に弾いた。
だがシュタインボックは距離を取り、地面から鋭くとがった植物を生やし、ラピスに向けて伸ばすがそれをラピスは躱した。
シュタインボックは僅かにできた隙に空中に弾かれた小さな槌を素早く回収し、ラピスに追撃する。
ラピスは繰り出される小さな槌によるシュタインボックの攻撃を剣でいなし、自分に襲い来る植物の攻撃を素早く躱しながら、自分もまた攻撃を繰り出す。
ラピスとシュタインボックの二人が繰り広げる攻撃の余波は、リースの元に集まっていたヨキ達にも届いていた。
ヨキ達は自分達に来る攻撃の余波から必死になってリースを守っていた。
出血も酷く、意識が無い。何より傷が深かった。
「全員下手に動くな! できるだけ守りを固めるんだ!」
「リル! リースの方は⁉」
「意識が無いわ! 無理やり抜かれたって事もあるけど、あんなに尖った木の破片が刺さったとなると…キャアッ⁉」
「ラピスさんの方も凄く荒々しくなって来てるよ! 大丈夫かな⁉」
リースの治療をしようにも、次々とヨキ達の元に木の枝やラピスとシュタインボックの攻撃の余波で砕けた岩が飛んでくるため、まともに応急処置もできず、ヨキとキールは法術で防ぐ事で精一杯だ。
そんな中、ラピスは自分に襲い来る植物をできるだけ切り刻んでいた。
後ろにいるヨキ達にも自分達の攻撃の余波が届いている事に気付いており、飛んでくる覇王樹の棘を素早く弾き落とし、自分を捕らえようとする木の根や蔦を自分が操る蔦で絡め捕り、時には木を生やして薙ぎ払う事で、ヨキ達の負担をできる限り減らしていたのだ。
(この状況でまともに治療する余裕はないか。このまま放置していれば危険、早急に肩をつけるべきか…)
ラピスがヨキ達に意識を逸らした時、シュタインボックの生やした木のツルがラピスを捕らえた。
ラピスの意識が一瞬の間だけヨキ達に向いた時に、シュタインボックはチャンスと言わんばかりにラピスを捉えたようだ。
ラピスを捉えたシュタインボックは自分が勝ったと思ったが、捕えられたラピスは突然砕け散った。
その光景にシュタインボックは驚いたが、それと同時に自分の背後からラピスの声が聞こえて来た。
「忘れたか? 私は樹と氷、二つの属性を操る事ができる」
ラピスのその言葉にハッとしたシュタインボックは自分の背後を振り向いたが時すでに遅く、ラピスは手に持っていた木の破片を自分の力で太い枝を生やし、シュタインボックにお見舞いした。
その衝撃でシュタインボックは空中に吹き飛ばされた。
ラピスは剣を鞘にしまい、木の蔓でできた弓と氷の矢を作り出し、標準を空中に吹っ飛んだシュタインボックに合わせる。
「これで止めだ!」
ラピスはためらう事なくシュタインボック目掛けて氷の矢を射る。
氷の矢はまっすぐ突き進み、シュタインボックを仕留めた……筈だった。
突如吹き荒れた強い風がシュタインボックを別方向へ飛ばし、氷の矢を飛ばした。
地面に転げ落ちたシュタインボックは、何処からともなく現れたノースリーブとアームカバーを身に着けた金髪金瞳の黒ずくめの少年に腕を掴まれ、無理やり立たされた。
ラピスはシュタインボックと共にいる金髪金瞳の少年を見るなり睨んだ。
「貴様は、レーヴェ! お前もシュタインボックと同じ任務とやらか⁉」
それを聞いたヨキ達はまさかと思った。
キールはレーヴェと呼ばれた金髪金瞳の少年の服装の特徴と、普通の少年らしからぬ雰囲気から、シュタインボックと同類だと悟り、ラピスに尋ねる。
「ラピス、あの金髪野郎は…!」
「奴はフォルシュトレッカー・レーヴェ、五番目だ」
「嘘でしょう、こんな時に敵の増援?」
「最悪の展開だぁ!」
新たなフォルシュトレッカーが現れた事に対し、ヨキ達は警戒したが、レーヴェはシュタインボックの腕を掴んだままラピスに向かって話し始めた。
「ラピス、貴女がご主人様を裏切るとは意外だ。自分のした事が愚かな事だと後悔するぞ」
「チッ! 次に会った時には桜色の小鳥ちゃん以外全員皆殺しだからな!」
そのままレーヴェとシュタインボックはヨキ達の前から去っていった事によってヨキ達は難を逃れた。
ラピスは早歩きでヨキ達のもとに行き、意識を失っているリースの傍によると、懐に入れていた短剣を取り出し、それを使って自分の髪を切った。
すると斬られた髪の毛はたちまち形のない光に変わり、リースの傷口に集まり、リースの傷口はたちまち塞がった。
リースの傷が治ったのを見たヨキとバンは驚いた。
そんな二人を見たリルは解りやすく、理解できるように説明し始めた。
「私達の翼には傷を治す力があるの。髪にも同じ力があるけど、深い傷を治す程の力があるわ」
「って事はつまりどんなに深い傷でも治す事ができるのか」
「確かに治す事は出来るけど、そこは個人差があるから決して万能とは言えないわ」
丁度その時、リースは意識を取り戻した。リースはまだ焦点の定まらない目で周りの様子を確認する。
周りにいるバンやヨキ達の輪郭がはっきりと見えてきた。
リースの声に気付いたヨキ達は、一斉にリースの方に顔を向けた。
自分を見て安心しきっているヨキ達を見たリースは不思議に思ったが、すぐに自分の身に起きた事を思い出した。
色も音も次々と蘇ってくる。
シュタインボックの攻撃を避けている中で、木の破片がラピスめがけて飛んでいる事に気付き、何も考えずに飛び出した。
無我夢中でラピスを庇い、木の破片が自分の左肩に突き刺さり、そのまま倒れた後、刺さった木の破片をシュタインボックに無理やり抜かれ、そのあとの事は覚えていなかった。
次に目を覚ました時には痛みもなく、傷が塞がっていて周りには自分を囲んでいるヨキ達の姿があった。
その中にはラピスの姿もあったが、ラピスの翼と髪を見た途端リースは驚いた。
「ラピスさん、翼が…っ! それに、その髪…」
「ラピスはお前と俺達を助けるために、ヘルシャフトの誓いを破って堕天になったんだ。
髪の毛も、お前の傷を治すために自分から切ったんだよ」
スズから自分を助けるためにラピスが堕天した事を聞かされたリースは驚いた。
ラピスはそこに訂正を加えた。
「堕天ではない、ヘルシャフトに仇なす者、ウィアグラウツだ。貴様もそこの娘も同じだ」
「ウィアグラウツ、か…。ちょっと不思議な感じね」
「でも、堕天って呼ばれるよりもそっとの方が良いな」
それを聞いたリルとスズは少し違和感を感じたが、堕天といわれるよりもそう呼ばれた方がいいと思った。
ラピスはリルに支えられているリースを見ながら、呆れたように言った。
「貴様のバカっぷりは、貴様自身の兄並だな」
「なっなんだとぉ! ふざけるな!」
遠回しに自分の事を馬鹿にされたバンはむきになってラピスに殴りかかったが、それをラピスはひらりと躱し、バンの拳は何故かヨキの顔に直撃した。
「へぶしっ!」
「うわっ! バンお前ヨキに当ててどうするんだ⁉」
「だーっ! しまったーっ!」
「ってかなんでヨキに当たるんだ?」
「大丈夫ヨキ?」
「なんで僕達はいつもこうなんですか⁉」
そんなヨキ達の様子を見ていたラピスはため息をついたが、子供の頃を思い出す。
特にリースを見ていると懐かしさと温もりを感じた。するとリースの姿が星火に見えた。
リースが星火に見えた事に驚いたラピスだったが、すぐにリースの姿が見えた。
ラピスの目には涙が溢れ、今にも零れ落ちそうになった。
(リース・レイフォン、お前は本当に似ているよ。
姿も性格も、人間ではない私を助け、優しさを教えてくれた星火に)
もう二度と感じられない温もりに、もう二度と会う事も触れる事もできない者の姿がそこにあった。
だがそこにはリース・レイフォンという名の星火と同じ姿の少年がいた。
その少年との出会いが自分の過去を、トルコ石の首飾りが、自分に優しさを教えてくれた存在を思い出させたのだから。
個人的に文章が多くなってしまいました。
もしよろしければ、読みやすさに関してのアドバイスを下さい。




