第25話 迷いと変化
流血沙汰、及びショッキングなシーンがあります。
上記の事が苦手な方はご注意ください
マリと共に行動を共にしていたヒエンとレイアから、マリが今何処にいるのかを知るため、炎の古文書を手に入れるために行方知れずのケイを探すヨキ達。
ヨキはレイアが言った言葉が少し気になっていた。
するとバンが自分の顔を覗き込むかのようにみている事に気付いた。
「どうしたのバン?」
「なんかヨキ、雰囲気変わってきたな」
その一言にヨキは驚いた。雰囲気が変わってきたと言われても、どう変わってきたのかが解らなかったからだ。
バンは話を続けた。
「最初はビビりまくってたけど、旅してる内にヘルシャフトと真正面に立ち向かえるまでに逞しくなったよな」
自分が逞しくなったという事は性格が変わってきたという事になる。
自分ではそれ程自覚はなかったが、バンが言うのだから間違いないのだろうとヨキは思った。
すると空を見ていたスズが何かに気付いた。
「なぁ、なんかこっちに来るぞ?」
それを聞いたヨキ達はすぐに上を向いてスズが示している方向を確認すると、確かに自分達に向かって何かが飛んできていた。
その飛んでくる何かを見ている内に、キールがある事に気付いた。
「おいあれ、ヘルシャフトじゃないか⁉」
それを聞いたヨキとキールは武器を構え、バンとリース、スズの三人はすぐに臨戦態勢に入ったが、リルは近づいてくるヘルシャフトの翼を見て驚いた。
そのヘルシャフトの〝翼が灰色になっている〟のだ。
その事にいち早く気がついたリルは慌ててヨキ達を止めた。
「待って! あのヘルシャフトの翼が灰色になってる!」
それを聞いたヨキ達は武器を降ろして臨戦態勢を解いた。
そしてヘルシャフトはヨキ達の目の前に降り立つと、そのヘルシャフトを見たスズ以外全員が驚いた。
何故ならそのヘルシャフトがトューランドットに襲われた際にたった一人助かり、茂みに隠れていた所をリースが助けたヘルシャフトの娘だったからだ。
「アナタは確か、ラティアで会った…」
「やはり、あの時の小僧か」
ヨキ達の目の前に降り立ったヘルシャフトの娘は、上目線でリースに声を掛けた。
スズは何が何なのかわからず、小声でキールにヘルシャフトの娘とはどういう関係なのかを聞いた。
事情を知らないスズに対し、キールはわかりやすいように説明した。
キールから詳しい話を聞いたスズは、ヘルシャフトとの娘との関係に納得しているとリルはヘルシャフトの女にある事を聞いた。
「あの、前にあった時に聞いてなかったんだけど、貴女の名前」
それを聞いたヨキ達はハッとした。
確かにリルのいう通り、ヨキ達はこのヘルシャフトの娘の名前を知らなかった。
というよりもトューランドットがラティアを去った後に。マーダに預けたまま誰も名前を聞いていなかった。
ヘルシャフトの娘は名前を名乗った。
「ラピス・ラズリーナ。それが私の名だ」
ヘルシャフトの娘はラピスと名乗った。
するとキールはラピスに槍を向けたため、突然のキールの行動に驚くヨキ達は慌ててラピスに向けたキールの槍をどけた。
だが、ラピスはキールに槍を向けられても動揺する事もなく話を続けた。
「私はこの小僧に忠告しに来ただけだ。〝私はお前を助ける気はない〟とな」
ラピスはリースに対して助ける事はないとはっきり伝えると、それをいたヨキとバンはラピスに何故リースを助ける気はないといったのかを尋ねた。
「おい、それはないだろ? 助けてくれた恩を仇で返すなんて」
「そうですよラピスさん。受けた恩は必ず返すものだと思いますよ?
恩を仇で返すのは無しだと僕は思います」
ラピスに向かって受けた恩を仇で返すのはよくないと話すヨキとバン。
特にリースの兄であるバンは納得できず、何よりリースに対するラピスの態度にかなり不満を抱いていた。
そんな二人にリルはそのような態度をとる理由を説明した。
「それは無理よ、二人共。ヘルシャフト以外の種族を助けるという事は、私と同じように誓いを破る事になってしまうの」
ヘルシャフト以外の種族を助ける事は、誓いを破る事になる聞いたヨキとバンは驚いた表情でリルを見た。
驚くヨキとバンの様子を見たキールは、ヘルシャフトの誓いの一つを教えた。
「ヘルシャフトの誓いの一つ、『決して同胞以外を助けてはならない』。
つまりこいつを破れば即刻堕天にされる」
「あ~、あの掟か。そんなつもりはなかったとはいえ、うっかり他の種族を助けたせいで堕天した奴が何人かいたな」
キールからその内容を聞き、過去にその掟を破ってしまい堕天になってしまったヘルシャフトが何人もいたとスズが証言した事で、決して同法以外を助けてはならないという掟を守るのは難しい物だと知ったヨキとバンは、それ以上は何も言わず黙りこんでしまった。
掟が変わり堕天したヘルシャフトが殺されてしまう事は既に知っていた。
現にリルが破りかつての仲間からボロボロになっても追われ続けていたため、命を狙われる原因となったヘルシャフトの誓いが、ヘルシャフト達にとってどれだけ恐ろしい掟なのかはわかっていたため、下手をすればラピスも堕天とみなされ命を狙われてしまう事になると分かったのだろう。
三人のやり取りを見ていたリースはラピスに向かって驚きの一言をいった。
「ごちゅうこくありがとうございます、ラピスさん。でも僕は平気ですから心配しないで下さい」
それを聞いたラピスは表情こそ変えなかったが、目を見開いて驚いていた。
リースはヨキ達の中で一番年下であるため、まさかこんな言葉を聞けるとは思ってもみなかったのだろう。
ラピスは動揺を隠し、言葉を続けた。
「そうか。なら私の忠告は無駄だったという事か。伝える事は伝えた。私は去るぞ」
そういって再び飛び立とうとするラピスをキールのある一言で止めた。
「だったらなんでお前、自分の翼が灰色なんだ?」
それを聞いたヨキ達はラピスの翼を確認すると、キールが言った通り、ラピスの翼は灰色になっていた。
余程の事がない限りヘルシャフトの翼は色が薄くなり始める事はない筈で、確かに自分を助けたリースを助ける気がないのなら翼が黒いままの筈が、ラピスの翼は全体的に灰色になっていた。
だがそんな中、バンはいつものようにただ一人、どういう事なのかがわからなかったのだ。
そんなバンに呆れたリースはバンにわかりやすいように説明した。
「つまりラピスさんは僕をたすける気がないなら、つばさが黒くなくて灰色になっているのはおかしいという事ですよ」
それを聞いたバンは納得したように手を叩いたが、そんなバンを見て更に呆れるヨキ達。
すると突然リルの周りに蔦が生え、リルに絡み付いてきたのだ。
「きゃああっ⁉」
「リル!」
リルは自分の周りに生えて絡みついてきた蔦に驚き、風を起こして蔦を薙ぎ払う余裕がなかった。
それをバンは慌ててリルの元に駆け寄り、リルに絡み着いた蔦を引きちぎったが、蔦は次々と生えてくる。
このままではバンまで蔦に絡みつかれて捕まってしまうと判断したキールはすぐ横にいたスズに指示を出し、スズはとっさに風の刃を放って蔦を切り刻んだ。
バンはリルの周りから一時的に蔦が消えたのを確認すると、リルの手を掴んで蔦から離れた。
「大丈夫かリル⁉」
「な、なんとか。だけどさっきの蔦は…?」
「今の蔦、キール君じゃないよね? 法術唱えてなかったし」
「チェッ。もう少しだったのになあ~。桜色の小鳥ちゃんが欲しいのに邪魔しないでよ」
リルが無事だった事に安堵していると、突然聞こえてきた少年の声に驚いたヨキ達は周りを見回した。
するとヨキは黒いトレンチコートを着た少年がすぐ近くにいる事に気付き、大声で少年がいる方向を指さしながらバン達に知らせた。
「皆あそこ! 誰かいるよ!」
「さっきまで誰もいなかった筈なのに、いつの間に…⁉」
ヨキに指摘されバン達もすぐに黒いトレンチコートを着た少年の存在に気付いた。
スズに至っては自分達以外には誰もいなかった筈なのに、黒いトレンチコートを着た少年の存在に困惑していた。
その事から黒いトレンチコートを着た少年が只者ではない事を悟ったキールは、少年に何者なのかと頂いた。
「お前何もんだ! 見た所、オイラと同じナチュラルトレジャーじゃないみたいだな?」
「俺はシュタインボック。十番目のフォルシュトレッカーさ」
シュタインボックと名乗った少年の瞳を見たヨキは寒気がした。
シュタインボックは普通に笑っている等に見えるが、その瞳は狂気が宿っている様に感じたため、ヨキはバン達にシュタインボックに対する自分が感じた事を伝えた。
「バン、あの人明らかに変だよ。なんていうか、正気じゃない」
「それは俺も気付いた。多分リースやキール達も気付いてると思う」
流石のバンもシュタインボックが可笑しい事に気付いており、シュタインボックを警戒していた。
するとラピスがシュタインボックに話しかけた。
「シュタインボック。フォルシュトレッカーである貴様が何故ここにいる?」
それを聞いたヨキ達は全員ラピスの方を見た。
その話し方からしてラピスはシュタインボックが何者なのかを知っているらしく、キールは真っ先にラピスに聞いた。
「おいてめぇ! コイツの事知ってるのか⁉」
「フォルシュトレッカーは、我らヘルシャフトによって作られたまだ見ぬ驚異となるモノを消すための執行人、兵器のような存在だ」
ラピスから聞かされたヘルシャフトに作られ、まだ見ぬ脅威となるモノを消すための兵器の存在、それを聞いただけでもヨキ達は混乱した。
ヨキ達の目の前にいるのはどう見ても人間であり、兵器のような存在には見えなかった。
ラピスと同じヘルシャフトであるリルとスズの二人も、フォルシュトレッカーの存在を知らなかったらしい。
ラピスは一人顔をしかめながら、シュタインボックに自分達の目の前に現れた理由を問いただした。
「それよりも、何故貴様がここにいる? 答えろ!」
「答えは簡単、任務だからさ♪」
「任務だと?」
それを聞いたラピスはシュタインボックが任務のためだと言い切ったため、理解できなかった。
シュタインボックは意気揚々に話を続ける。
「そっ。将軍格のフォルシュトレッカーのお一人から命令が出てね、“スピリットシャーマンと刃向う種族を殲滅せよ”って言われたのさ。
で、こいつらを見つけた矢先に偶然アンタがいたって訳」
それを聞いたヨキ達は素早く攻撃態勢になり、シュタインボックを警戒し始めた事に比べ、シュタインボックは全く動揺するどころか、仕掛けてくる気配すらない。
バンはシュタインボックになぜリルを襲ったのかを聞いた。
「それよりもお前、なんでリルを襲ったんだ⁉」
「それはフォルシュトレッカー殿が“堕天は好きに扱え”って言ってたから生け捕りにしてもいいって事だろ?
だからそこにいる桜色の小鳥ちゃんが欲しかったんだよねぇ」
(((もしかして、物凄く嫌な事考えてる⁉)))
シュタインボックが明らかに可笑しいと思ったヨキ達は身震いを起こした。
特にリルは、もし自分がシュタインボックに捕まったらと考えただけで怖くなっていた。
「それよかアンタはなんでコイツ等といる訳? 今まで行方を眩ませていたアンタがさぁ」
「貴様に関係ない事だ」
自分の事は関係ないと言い張るラピス。
だがシュタインボックはラピスに不利な言葉をいった。
「関係ないって言われてもねぇ、実際の所翼が灰色になっちゃってるじゃん」
それを言われたラピスはどうしようもなかった。
確かにラピスは今の自分の翼が灰色になっている事を自覚しており、言い返す事ができなかった。
更にシュタインボックは話を進めた。
「まぁ兎に角桜色の小鳥ちゃん欲しいから、さっさと任務を終わらせてもらうぜ」
シュタインボックがそう言ったあとにヨキ達はシュタインボックから今まで感じられなかった殺気を感じた。
それはまるで人間から“全く違うナニカ”へと意識が変わったかのような気配だった。
次の瞬間、シュタインボックは突如目の前から消えた。
「消えた⁉」
「バカ! 消えたんじゃなくて移動したんだ!」
目の前からシュタインボックの姿が消えた事に驚いたヨキ達は周囲を見渡し、シュタインボックの姿を探すが、キールは誰よりも先にシュタインボックの居場所を見つけ、反撃した。
だがその攻撃を突如生えてきた茨の壁に遮られた。
それを見たキールはすぐに立ち止まり茨の壁にぶつからずに済んだが、その事に気を取られている隙にキールは足元から生えて来た木の根にぶっ飛ばされた。
スズは慌ててぶっ飛ばされたキールを風の力で受け止め地上に下ろした。
「大丈夫かキール?」
「おかげさまでな! それよりもアイツ、能力者か!」
そうこうしている内に今度はシュタインボックが攻撃を仕掛けてきた。
その事に気付いたヨキはとっさにキールの目の前に出た。
「ウィンドュ・ウィンドュ!」
ヨキはウィンドュ・ウィンドュを唱え、強風を起こしてシュタインボックとの距離を置こうとした。
だがシュタインボックはヨキの攻撃をかわし、何処からともなく小さな槌を取り出してヨキの頭に向けて振りかざした。
その様子を見ていたキールはヨキに頭を守るよう指示を出し、ヨキもその指示に従い頭を守る形で杖を構え直し、シュタインボックの攻撃を防いだ。
だが思いの他シュタインボックの一撃は重く、攻撃を受けた反動でヨキはバランスを崩して倒れてしまった。
シュタインボックは間髪入れずに転倒したヨキに追撃する。
「リル、風で俺をアイツの所に飛ばしてくれ!」
「アイヴィ・アイヴィ!」
ヨキが危険だと判断し、バンはリルに風で自分を飛ばしシュタインボックとの距離を詰めて攻撃を仕掛け、キールはアイヴィ・アイヴィによって生えた蔦を操りヨキを救出した。
リルの風でシュタインボックとの距離を詰めたバンはそのまま接近戦に持ち込もうとしたが、シュタインボックはバンの接近に気付き瞬時に攻撃対象を変え、バンに向かって槌を振るった。
バンもギリギリの所で反応してシュタインボックの攻撃をいなしたが、無傷という訳にはいかず、すぐに距離をとって右手を抑えた。
シュタインボックの攻撃をいなした際にダメージを受けたらしく、バンの右手は赤く腫れあがっており、右手は使えなくなっていた。
エアー・ガンで応戦しようにも、前にヘルシャフトと交戦した際に破壊されたため、遠距離からの攻撃はできない状況だった。
シュタインボックは治療する隙を与えまいと地面から蔦を生やし周囲にいるヨキ達に追撃する。
シュタインボックが全体攻撃を仕掛けて来たのを見たキールは指示を飛ばし、ヨキ達はヨキ・キール、バン・リル、リース・スズと三組に分かれその攻撃をかわした。
「なかなかやるじゃん。でもこれはどうかな⁉」
シュタインボックはそう言うと両手を地面につけ、大量の植物を生やした。
それに驚いたヨキ達は必死になって攻撃を躱した。
右手を負傷したバンに至っては、攻撃を躱す事で精一杯だった。
「なんだよこの植物の量⁉」
「こんなに沢山の植物を操れるの⁉」
「リル、スズ、絶対空中にはいくな! 空中で捕まったら地上にいるオイラ達じゃ助けられなくなる!
全員互いのペアから離れるなよ!」
「あれ? こっちに来ないってうわぁッ⁉」
少しでも孤立すれば間違いなく捕まると判断したキールは、互いのペアから離れないように指示を出すと、自分とペアを組んでいるリースと背中合わせになるように体勢を立て直し、襲い掛かってくる植物を槍で薙ぎ払う。
しかし、シュタインボックが操る植物はあちこちにある木々や岩を破壊し、飛び散った破片がヨキ達の体を傷つけ、シュタインボックの植物も止まる事はなくヨキ達にダメージを与え、次第に追い詰めていた。
(この程度の攻撃で怯んでいてはたいして反撃はできない。やられるのも時間の問題だな。
そうなるとあの小僧もここで終わる、という事か…)
近くからシュタインボックと応戦するヨキ達の様子を見ていたラピスは、一方的に防御に徹しているヨキ達の様子を見て近いうちに倒されるだろうと判断していたが、剣で応戦するリースの姿を見て自分でも気付かぬ内に複雑な心境になっていた。
だがその時、いくつもの鋭く尖った木の破片が近くにいたラピス目掛けて飛んでいた。
ようやく自分に危険が迫っている事に気付いたラピスは急いで飛んできた木の破片を躱すが、他の方向から飛んできた石の礫が頭部をかすり、思わず怯みその場でしゃがみ込んでしまった。
ラピスは慌てて体勢を立て直そうとしたが時は既に遅く、回避不能な距離まで飛んできていた。
(この距離では会費も防御も間に合わない…!)
ラピスはもうだめだと覚悟し、思わず目を瞑った。だが、不可解な事が起きた。
木の破片が自分に刺さったのなら痛みを感じている筈なのに、全く痛みを感じず、何故だろうと思っていたその時だった。
水が滴るような妙な音がし、ラピスの顔に生暖かい物がついた。
ラピスは目を開け、恐る恐る指で顔に着いた生暖かい何かに触れ、それの正体を確かめた。
「これは、血…⁉」
ラピスの指は赤い血で染まっていた。自分自身は何故か無傷であったため、それは自分のものではない事は解った。
何が起きたのか把握するため、ラピスは周りを見て状況を確かめた。
何故かは知らないが、ヨキ達は絶望と驚きに満ちた表情をしており、シュタインボックは最初こそ驚いていたものの、後になって笑い始めた。
「アハハハハ! こいつは傑作だ! 敵を庇いやがって、なんて馬鹿なチビなんだ!」
それを聞いたラピスはまさかと思い、木の破片が飛んできた方角に顔を向けた。
そこにはなんと、木の破片が左肩に刺さっているリースの姿があった。
ラピスの無事を確認したリースは安心したのか、左肩に木の破片を突き刺したままその場に倒れたのだった。
それを見ると同時に、ラピスの心には迷いという心が生まれた。




