第20話 絶望的な可能性
リンドウの手掛かりを求めているうちに、マリの手掛かりを得たケイ達は一刻も立たないうちにアーカイブの部品があるとされている町に着いた。
だがその町は、既にヘルシャフトに襲われた後だった。
建物は崩れ、木々は燃え、街の住人の憩いの場であっただろう噴水広場はボロボロになっており、それを見たケイ達は呆然とした。
ここにマリとリンドウの手掛かりがあるのかと思うと、とても信じられず、ケイとディモルフォセカは今にも気絶しそうになっていた。
最年少であるラヴァーズは、町の惨状を見て倒れかけた所をカトレアに支えられた。
「町が滅茶苦茶になってる…」
「兎に角、町の人達に聞いてそれから考えなだめやな…。
皆、平気か?」
状況はどうあれ、マリとリンドウの情報を集めなければならないと考えたニヤトは、全員に動けるか確認を取った。
「ごめん、ちょっと無理かも…」
「私もちょっと」
「アタシは大丈夫だけどラヴァーズが無理そう。悪いけど情報収集は外れるわ」
「セッシャとニヤトが聞き込みをしてくるでごじゃるから、皆はここで待っていてくれでごじゃる。
ディルカ殿、写真を借りともよいか?」
そう言われたディモルフォセカは、リンドウの写真が入ったロケットを無言でヒバリに渡した。
確かに二人の言う通りかもしれない。
ケイとディモルフォセカの二人は、マリとリンドウを探す気力が薄れており、ラヴァーズは倒れた際に気を失ってしまったため、誰か一人は付き添う必要があった。
町の惨状を見て精神的にダメージを負ったケイ達をカトレアとタメゴローに任せ、ヒバリとニヤトはマリとリンドウの情報を集める事にした。
「ワイがマリの手掛かりを探すさかい、ヒバリはディルカの弟の手掛かりを探してくれ」
「承知!」
ヒバリとニヤトは二手に別れてリンドウとマリの手掛かりを探しに行った。
ニヤトはマリ、ヒバリはリンドウの手掛かりを探すが、ヘルシャフトに襲われたという事もあり町の住人達から中々話を聞く事ができず、仮に聞けたとしても、あまり良い情報ではなかった。
マリは無表情でこの町を出ていったらしく、それとど同時にヒエンとレイアがマリを追いかけて行ったという情報も手に入った。
マリが町を出て行った時に、何か色付きガラスのような物を抱えており、マリが持っていた色付きガラスの元々の持ち主の事を知り、その人物に会いにいって詳しい話を聞く事にした。
一方ヒバリはディモルフォセカから受け取ったリンドウの写真が入ったロケットを町の住人達に見せ、リンドウの情報を集めていた。
すると信じがたい事ばかりが集まったため、ヒバリは頭を抱えた。
(参ったでごじゃる。今まで集めたリンドウ殿に関する情報の内容、ディルカ殿に伝えるべきかどうか…)
ヒバリがディモルフォセカに、今まで集めたリンドウに関する情報を伝えるべきかどうか悩んでいると、マリの情報を集めていたニヤトと再会した。
お互い集めた情報を伝えた際、リンドウの情報を聞いたニヤトは信じられないという様子で間違いはないのかとヒバリを問いただした。
「ホンマにリンドウで間違いないんか? 別の誰か言う可能性は⁈」
「ディルカ殿から拝借したリンドウ殿の写真を見せながら確認したでごじゃるが、本人で間違いないようじゃ」
「どないするんや。そないな事、ディルカに聞かせられへんぞ?」
ヒバリからリンドウの情報を聞いたニヤトは、その内容を聞いてディモルフォセカに聞かせられるものではないと判断した。
ニヤトに一通り話し終えたヒバリは、話した事で落ち着きを取り戻したため、リンドウについてケイとカトレアと相談する事にした。
「一度噴水広場に戻ってケイとカトレア殿に相談するでごじゃる。
この情報をディルカ殿にそのまま伝える訳にはいかないでごじゃるよ」
「まぁ確かに、ディルカにとどめ刺すようなもんやさかいな」
「場合によっては、情報の一部を偽装してごまかす事になるやもしれぬ。また噴水広場で」
ニヤトと別れたヒバリは一旦ケイ達が待つ噴水広場に戻る事にした。
ヒバリが噴水広場に戻ると、気を失っていたラヴァーズが目を覚ましてケイを気遣い、ディモルフォセカは気分がすぐれなかったのか噴水のすぐ傍にあるベンチで横になってタメゴローを抱き枕代わりにして眠っており、カトレアが付き添っていた。
「あっヒバリ…」
戻ってきたヒバリに気付いたケイは弱弱しい声でヒバリの名を呼んだ。
「どうだった⁉ ディモルフォセカの弟君の事?」
カトレアはヒバリの元に駆け寄り、リンドウの事を尋ねた。
ヒバリは暗い表情をしながらケイとカトレアの二人をリンドウの事で話があると伝え、ディモルフォセカから離れた所に移動させた。
ヒバリが暗い表情をしていたため、何かあったと判断したカトレアは眠っているディモルフォセカをラヴァーズに任せ、話を聞く事にした。
ヒバリはディモルフォセカが眠っている事を確認すると、今まで集めたリンドウの情報を話し始めた。
「それが、ディルカ殿の弟君はアーカイブの部品を探していたのは間違いないようでごじゃったが、そのアーカイブの部品がないと知った後に町を出て…それから……その…」
ヒバリはその後を話す事を躊躇っていた。
内容が内容なだけに、眠っているディモルフォセカに聞こえないようにしなければならない。
それを見かねたカトレアはヒバリに聞いた。
「何? それからどうなったの⁉」
「……ヘルシャフトがやってきて、町を襲ったらしい、でごじゃる…」
「「⁉」」
それを聞いたケイとカトレアは驚きを隠せなかった。
リンドウが町を去ってからヘルシャフトが現れ、町を襲ったと聞かされたカトレアは、偶然にしては出来すぎていると思った。
「他に何かわかった事はある?」
「あるとすれば、ヘルシャフトが町を襲ったのはリンドウ殿が町を去った次の日だったくらいしか…」
「それじゃあまるでリンドウの仕業みたいじゃないか!」
「その事でリンドウ殿がヘルシャフトの手先ではないか、という噂が流れているのでごじゃるよ。
途中でニヤトにもあったのでこの事を伝えたが、ニヤトもディルカ殿に伝えられるものではないと答えたでごじゃる。
とてもディルカ殿には癒えぬ内容ばかりで…」
ヒバリからリンドウの情報を聞かされたケイとカトレアは、信じられないという様子だったが、リンドウが町を去ったタイミングとヘルシャフトが町を襲ったタイミングが良すぎるため疑わざるを得ない。
何よりその情報を、ディモルフォセカ本人に聞かせられるようなものではないというのがわかった。
そのためヒバリはケイとカトレアに相談し、ディモルフォセカにどう伝えるべきかどうか判断する必要があった。
だが、そこで予想外の事が起きた。
「リンドウが、ヘルシャフトの手先?」
「えっ?」
「ディモルフォセカ! いつの間に起きてたの⁉」
ケイ達の後ろには先程までベンチで横になり、眠っていた筈のディモルフォセカが立っていた。
ケイ達はリンドウの事で話し込んでいたため、ディモルフォセカがいる事に気付かなったのだ。
自分達の後ろにいたディモルフォセカを見たケイ達は、さっきまでの会話を聞かれたと思い、これはまずいと思った。
(リンドウが…弟が、そんな、そんな事……!!)
ケイ達の会話を聞いていたディモルフォセカは、生きていた双子の弟が、たった一人の弟がヘルシャフトの手先かもしれないと知って混乱してしまい、その場に取れてしまった。
ディモルフォセカが倒れる姿を目の当たりにしたケイ達は慌ててディモルフォセカの傍に駆け寄った。
ラヴァーズは倒れたディモルフォセカの腕に触れた途端、すぐにディモルフォセカの腕から手を離した。
「どうしたのラヴァーズ⁉」
「そっそれが、ディルカさんのうでがすごくあつくて…」
「え、熱いって」
それを聞いたカトレアはディモルフォセカの額に手を当てた。
するとラヴァーズの言う通り、ディモルフォセカはとても熱かった。
しかもとても長い間触れていられない程の熱を出していたのだ。
「アツ! ディモルフォセカ、ぶち熱うなっとるんだけど⁉」
「きっとショックのあまりに一気に体温が上がって熱が出たんだ。カトレア、代わってくれ!」
「もしや、さっきの話を聞いたせいで…」
「この熱さはまずい、病院に連れて行こう! カトレア達はここでニヤトを待っていてくれ!
ヒバリ、手伝ってくれ!」
カトレアに変わり、ディモルフォセカの容体を確認したケイは、このままではディモルフォセカが危険だと判断し病院に連れて行く事にした。
まだ戻ってきていないニヤトとすれ違いになってはいけないため、ケイはカトレア達に噴水広場に残ってニヤトが戻るのを待つように指示を出し、ヒバリと共にディモルフォセカを町の病院まで運んだ。
*****
その肝心なニヤトは、アーカイブの部品を持っていた人物の家についていた。
その人物に話を聞く事ができれば、マリの行方を追う手掛かりが手に入るに違いないと思い、少し気が張っている。
「ここやな。おっしゃ!」
ニヤトは家のドアを叩いたが、誰も出てこなかった。
丁度その時、隣の家から一人の老人が出てきたため、ニヤトは老人にアーカイブの部品を持っていた人物の事を尋ねた。
「すんまへん。この家に住んではる人、今何処におるかわかります?」
「あぁその人なら病院じゃよ。怪我人が多いからのぉ」
「病院か…。情報も集まったし噴水広場に戻ってケイ達と行くか」
アーカイブの部品を持っていた人物が病院にいると聞いたニヤトは、噴水広場に戻る事にした。
広場に戻るとそこにケイとディモルフォセカの二人がいなくなっている事に気付いたニヤトはカトレアに聞いた。
「あれ? カトレア、ケイとディルカは?」
「あぁニヤト。それが、ヒバリがディモルフォセカの弟君の情報持ってきて、そこまでは良かったんだけど…」
それを聞いたニヤトは自分が戻ってくる前に何があったのかを二人に聞いた。
「なんかあったんか? まさか、リンドウの事話したんか⁉」
「正確には、アタシ達が話しているところを聞かれっちゃったのよ」
「それがげんいんでディルカさんが…」
「なんや⁉ ディルカがどないかしたんか⁉」
「「実は…」」
カトレアとラヴァーズはニヤトが戻ってくる前に起きた事を話し始めた。
それを聞いたニヤトは病院と聞いた途端、アーカイブの部品を持っていた人物の事思い出した。
「せや! アーカイブの部品を持っとったっちゅう人がおってん! その人に聞いたらマリの事がわかる思て…」
「病院なら、ケイさんとヒバリさんがディルカさんを連れていった場所かも!」
「それなら早く行ってその人を探しましょう! ディモルフォセカの事も心配だし…」
ニヤトからアーカイブの部品を持っていた人物が病院にいると聞いたラヴァーズは、その病院がケイとヒバリが倒れたディモルフォセカを連れて行った場所ではないかと指摘した。
カトレアも、倒れたディモルフォセカの事が気がかりだったため、アーカイブの部品を持っていた人物を探す事も含め、すぐにでも病院に向かうべきだと進言した。
カトレアにそう進言されたニヤトは、タメゴローを抱えカトレアとラヴァーズと共にすぐさま病院に向かった。
*****
その頃、ケイとヒバリによって病院に運び込まれたディモルフォセカの容体は、とても酷かった。
リンドウの事を聞いたショックによって出た熱はとても酷かったらしく、一向に下がる気配がなく、それどころか酷くなるばかりだった。
恵みの村で薬を買いに来た村人の診察をした事があるケイは落ち着いて診察結果を待っていたが、それを見ていたヒバリはとても動揺していた。
「これは酷い、ここまで体温が高い患者は初めてだ」
「そんなに酷いでごじゃるか⁉」
「やっぱりか、すぐに連れてきて正解だったな」
「リ…ンド…ウ…リン…ドウ……」
ディモルフォセカが譫言のようにリンドウの名前を呟いているのを聞いた医者は、顔を強張らせた。
それを見たケイとヒバリは、その医者にリンドウの事について尋ねた。
「おっさん、リンドウって奴に心当たりがあるのか?」
「もしやリンドウ殿の事をご存じであられるか?」
「知ってるも何も、その少年が町を出た翌日にヘルシャフトが来て、この町をめちゃくちゃにしたんだ! 何か知っているのか?」
ディモルフォセカを診察している医者から、ヒバリが集めた通りの情報を聞いたケイとヒバリは、医者にディモルフォセカとリンドウの関係を説明し始めた。
「もしかしたらその人物が、ディルカ殿の生き別れた双子の弟君かもしれないのでごじゃる」
「なんだと⁉ いや、言われてみれば顔つきが似ているような…。 むしろ、瓜二つじゃないか!」
「小さい頃ヘルシャフトに襲われて、その時に生き別れになってからお互いに生きてる事を知らないままだったんだ。
熱を出して倒れたのも、さっき言ってた事が原因なんだよ」
ヘルシャフトに町を襲われた原因であるリンドウが、自分が診察しているディモルフォセカの双子の弟だと聞かされた医者は驚いた。
ケイとヒバリは医者にディモルフォセカについて話し始めた。
ヘルシャフトに事故と見せかけられ殺されかけた事、メディアロルでボルがリンドウらしき人物を見た事により、リンドウが生きているかもしれないとわかった事まで、今までの事を全て話した。
するとそこへニヤト達が診察室に入ってきた。
それを見た二人は何事かと思ったがニヤト達だとわかると落ち着いた。
「ニヤト、無事カトレア殿立ち度合流できたでごじゃるな」
「マリの事についてなんか解ったのか⁉」
ケイはマリについて何か解ったのではないかと思ったのか、ヤマトに聞いた。
「ここにアーカイブの部品を持ってたいう人がおるらしくてな、その人に聞けば何かわかるんちゃうかと思うて…」
それを聞いた医者はすぐにニヤトの方を見た。
医者に視線を向けられたニヤトはしばし驚いていたがすぐに落ち着きを取り戻し、ニヤトは医者に聞いた。
「ナッなんやあんさん、もしかしてアーカイブの部品を持ってた人の事知っとるんか?」
すると医者の言葉を聞いてその場にいた全員が驚いた。
「いっいや、そのアーカイブの部品を持っていたのは私なんだ」
それを聞いたケイ達は声を揃えて叫んだ。
マリとリンドウが探していたアーカイブの部品を持っている人物が、ディモルフォセカを診察している医者だとは思ってなかった。
するとディモルフォセカを見ていたカトレアが大声で叫んだ。
「大変! ディモルフォセカの熱がどんどん上がっとる!」
それを聞いた医者は急いでディモルフォセカの熱を測り始めた。
医者は心底驚いた顔をしていたため、それを見たケイ達は嫌な予感がした。
「ディモルフォセカ⁉ ディモルフォセカしっかりして!」
「さっきよりも熱が上がってる。このままでは危険だ!」
それを聞いたケイ達はディモルフォセカが危ないと知ると、医者にどうすれば助ける事ができるかを聞いた。
「どうすればいいんですか⁉」
「解熱剤を飲ませないといけないんだが、薬がないんだ」
「「「薬がないーっ⁉」」」
「なんで病院なのに肝心の薬がないんよ⁉」
それを聞いたカトレアは興奮して医者の首元を掴み、何故薬がないのかと問い詰め始めたため、ラヴァーズは慌ててカトレアを落ち着かせる。
医者は何故、薬がないのかという理由を話し始めた。
原因はヘルシャフトの襲撃によってほとんどの薬が使えない状態になってしまったらしく、いつ薬が届くかわからない状況らしい。
ケイも手持ちに解熱効果のある薬草が残っていないか確認したが、ボルから聞いた町に着く前に立ち寄った村で熱を出した子供のために調合し、今必要な薬草を切らしていた。
するとケイは医者にあることを尋ねた。
「おっさん、この町には薬草売ってる場所とかはないの?」
「町外れにあったと思うが、確かあそこはからくり好きの中年男が用意したゲームに勝たないといけなかったような…」
「ペンと紙、借りるね!」
それを聞いたケイは診察室にあるペンとメモ帳を手に取ると、メモ帳に何かを書き始め、書いたメモをヒバリとニヤト渡すとある頼み事をした。
それはその場にいた全員を驚かせる一言だった。
「ヒバリ、ニヤト。その町外れにある薬草売ってる場所に行って、ここに書かれた薬草を貰ってきてくれるか?」
「え? なんでやケイ?」
「その薬草を使って解熱剤を作るんだ!」
「「「解熱剤を作る⁉」」」
それを聞いた全員が驚いたが、ヒバリはある事を思い出した。
それはケイが薬屋の息子である事。しかもそれは手作りの薬、つまりケイは材料となる薬草さえあれば薬を作る事ができるという事である。
「そうか! ケイは手作りの薬を売る薬屋の息子! 材料があれば…」
「あぁ、解熱剤を作る事ができる。他の皆にも協力してほしいんだ!」
ケイがそう言うと全員が答えた。
「もちろんや!」
「ディモルフォセカを助けるためならなんだってやるわ!」
「ぼくもがんばっておてつだいします!」
「仲間を救う、それもセッシャらの勤め!」
「皆でディルカを助けるんだ!」
こうしてショックのあまりに命の危険に晒す熱を出してしまったディモルフォセカを救うために、ケイ達は薬を作るために立ち上がる事となったのだった。




