第16話 氷の暗殺者
残酷な描写があります。
苦手な方はブラウザバックをお勧めします。
自分の謎とケイとマリを探し、仲間達と旅を続けるヨキ。
ヨキ達は今、大賢者マーダと呼ばれる人物の住むラティアを目指していた。
リースがマーダならヘルシャフトやスピリットシャーマンの事を知っているのではないかと思い、急遽進路を変えて向かう事にした。
バンとリースの話によると、その知識は確かなのだが、あまり尊敬できるほど性格は良くないらしい。
それを聞いたヨキとキールは心配になっていた。
ただでさえ堕天のヘルシャフトのリルがいるし、リルが放棄背いたというヘルシャフトの王の命令というのも気になる。
しかもその命令には何故かバンが関わっているため、キールは下手に聞く訳にはいかず、ヨキ達には黙っていた。
日が暮れてきた頃、目的地であるラティアの町が見えてきた。
「あ! ラティアが見えてきましたよ」
「うわぁ、小さな町なんだね~」
「変ね、確かラティアは既に制圧したって聞いてたけど、警備が全然なってない」
「そうなのか?」
「兎に角一度町に入らねぇとマーダ様の家にはいけないんだ。早いとこ行こうぜ」
リルがラティアの警備が可笑しい事を指摘したため、ヨキ達は急ぎ足でラティアに向かった。
ラティアはとても静かだった。
とてもヘルシャフトがいるとは思えないほど平穏である。
「ここがラティアか」
「ヘルシャフトに制圧されたせいか、凄く静かだね」
ラティアに足を踏み入れて様子を見ていたヨキとキールは、ヘルシャフトに制圧されたせいか現在の時間が夜にしては静かすぎる程、人の気配を感じさせなかった。
するとバンがリルの様子が可笑しい事に気付いた。
「どうしたんだリル? そんなに周り見て」
「やっぱり変だわ。ヘルシャフトが一人もいないの」
「え? それがどうかしたのか?」
「どうしたの二人とも。何かあったの?」
「そうですよ兄さんリルさん。早くマーダ様のところに言って色々と聞かないと」
「早く案内しろよ」
「それが、リルがヘルシャフトが一人もいないのが可笑しいって言うんだ」
バンからリルがヘルシャフトの姿が一人もいないと聞いた三人は、慌てて町の周りを見回した。
確かにヘルシャフトが一人もいない。その事に三人は不自然に思った。
「確かに一人もいない!」
「明らかに可笑しいな」
「なんだよ皆して可笑しい可笑しいって、そんなに可笑しいのかよヘルシャフトがいないのが?」
バンは全く持って不自然に思っていないらしく、それを見たヨキ達は呆れてしまう程だった。
バンの様子を見て呆れたリースが、ヘルシャフトが一人もいない事が何故おかしいのかという理由を説明し始めた。
「兄さん、今までの事を思い出して下さい。これまで僕達はヘルシャフトと揉め事を起こしてるんですよ?」
「確かにそうだけど、それがどうかしたのか?」
バンはこれまでの旅でヘルシャフトと戦ってきた事にあまり問題を感じていなかったらしく、そんなバンの様子を見たリースは思わずため息をついた。
「つまり僕たちの事はすでにヘルシャフトに知られているため、僕たちはほぼおたずね者じょうたいという事です」
「リース君が言いたいのは、ヘルシャフトが僕達を見つけるには沢山いないといけない筈なのに一人もいないのが可笑しいって事だよ」
リースの説明を聞いてようやくこの不自然感に気付いたバンに更に呆れるヨキ達。
だがその事に全く気付いていないバンは、何故ヨキ達がため息をついているのかが分からなかった。
これ以上話していても埒が明かないと判断したキールは、今はマーダの元に向かうべきである事をヨキ達に告げる。
「兎に角、急いでマーダとかいうお偉いさんとこに行こうぜ」
「そっそうだね。急ごう!」
ヘルシャフトが一人もいないという異様な状況を再確認したヨキ達は、急いでマーダに会うために走り出した。
それからしばらくしてリルが水溜まりで足を滑らせた。
「きゃっ」
「危ない! 大丈夫かリル?」
「ゴッごめん、水溜まりで足が滑って…」
バンがとっさに支えたおかげでリルは転ばずに済んだが、二人がある事に気付く。
雨が降っている訳でもないのに水溜まりがあるのは可笑しいのだ。
「どうしたの二人と、わぁー⁉」
二人が遅いので戻ってきたヨキが突然二人の目の前で転び、そのままリルが足を滑らせた水溜りに顔を突っ込んだ。
「ヨキ⁉」
「大丈夫……⁉」
「ふぇ~、なんか急に転んじゃったよ~…ってどうしたの二人とも? そんなに驚いた顔して」
ヨキの言う通り、二人は何故か顔色を変えて驚いた顔をしていた。しかもその声は震えていた。
「よよよよヨキ、オオオオ前かか顔」
「えっ顔がどうかし……わあぁぁ⁈」
ヨキは顔に何か付いているのかと思い、顔に触れると手があっという間に真っ赤になっていた。
それだけでなく、恵みの村にいた頃に流れ星で怪我の手当ての手伝いを何度かしていたため、その赤い物が血である事に気付き、ヨキは自分の手に付いた血を見て驚いていた。
更になぜ自分の顔に血がついているのかと混乱した。
「血⁉ なんで⁉ ぼっ僕転んだだけなのに…!」
「マッまさか…」
リルは慌てて自分の足を見た。リルの足までもが血によって真っ赤に染まっていたのを見たリルは、恐る恐る自分が足を滑らせた水溜まりに触れる。
そして触れた手を顔に近づけて確認してみると、指先は真っ赤に染まっていた。
「こっこの水溜まり、血だわ…。しかもヘルシャフトの血よ」
「「え⁉」」
ヨキとバンはリルの言葉を聞いて驚いた。
しかもそれがヘルシャフトの血だと聞いて更に驚く。
ヘルシャフトの強さを身をもって知っているヨキとバンは、ヘルシャフトがそう簡単に死ぬ筈がないと分かっていた。
するとバンは、ヨキが何に躓いて転んだのかが気になり、ヨキに声を掛けた。
「そういやヨキ、お前なんでこけたんだ?」
「それが何かに躓いて…何に躓いたんだろ?」
ヨキもそこまで気が回っていなかったため、ヨキ達三人は躓いた物が何かを確かめるべくヨキの足の方を見た。
そこにあったのは……、血まみれになっているヘルシャフトの死体だった。
それを見た三人は思わず大声で叫んだ。
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ‼」」」
*****
キールとリースは三人がいない事に気付き、急いで元来た道を戻っていたのだが、突然三人の叫び声が聞こえてきたため何事かと思った。
「なんだ⁉」
「兄さんたちの声です! まさかヘルシャフトにおそわれたんじゃ…」
三人の叫び声を聞いたキールとリースは、自分達がいない所でヘルシャフトに襲われているのではないかという不安が頭の中を過った。
するとキールとリースの上から何かが降ってきた。
それは傷だらけになったヘルシャフトだった。
「うわぁーっ! ヘルシャフトのが降ってきたーっ⁉」
突然ヘルシャフトが上から降ってきた事にキールはとても驚いていたが、リースは何の反応も示さないヘルシャフトの様子に違和感を覚え、冷静になってヘルシャフトの体に触れて確かめた。
「…いきを引き取られてます」
「お前よく死体に触れるな、オイラこういうの苦手なんだぞ。
あぁ~、前世の記憶がぁ」
「けど、どうしてヘルシャフトの死体がふってきたんでしょうか…?」
リースがヘルシャフトの死体に触れたのを見たキールは、前世の出来事を思い出したようで顔色を悪くしながらそう答える。
リースは一人冷静に、何故空からヘルシャフトの死体が降ってきたのか疑問に思っていた。
するとすぐ傍の茂みから物音が聞こえてきた。
キールとリースは、もしかするとヘルシャフトを殺した犯人が隠れているかもしれないと考え、慎重に近づいて茂みの中を確認した。
茂みに隠れていたのは十代後半か二十代前半くらいのヘルシャフトの娘だった。
「ヘルシャフトの女? まさかコイツが⁉」
「まって下さいキール君、決めつけるのはまだ早いですよ。
今はこの人から何があったのか話を聞きましょう」
茂みの中に隠れていたヘルシャフトの娘を見たキールは、ヘルシャフトの娘がヘルシャフト殺しの犯人ではないかと考えたが、リースは冷静にヘルシャフトの女に話しを聞くべきだと主張した。
だがキールの腕を見てスピリットシャーマンだと気付いたヘルシャフトの娘は、剣を取り出して二人を襲った。
その事に気付き、とっさにキールが槍で剣撃を受け止めたため事なきを得た。
「ダイジョウブです! 何があったのかを聞くだけでいのちをうばうようなことはしません。
だから何があったのかおしえて下さい‼」
突然攻撃してきたヘルシャフトの娘に、自分達は敵ではない事を伝え落ち着かせようとするリース。
リースの言葉を聞いたヘルシャフトの娘は、リースの言葉に嘘がないと分かったのか、その場に座り込み、顔を俯かせて答え始めた。
「…氷」
「「?」」
「氷の暗殺者に襲われた。私以外全員死んだ。しかも、たった一人を相手に」
「一人⁉ 相手は一人なんですか⁉」
(氷の暗殺者? 氷と言えばあの一族だが、確かウィンドウセイジとアクアシーフ同様に滅んだ筈…。
もしかすると、オイラと同じように…)
ヘルシャフトの娘から犯人は氷の暗殺者と呼ばれる相手であり、たった一人を相手に目の前にいるヘルシャフトの娘以外、全員が殺されたと聞いたリースは驚いた。
氷の暗殺者というう言葉をキールは、心当たりがあったのか、一人考え込んでいた。
ヘルシャフトの娘から話を聞いたリースは、自分達の予想以上に深刻な状況である可能性が高いと考え、一刻も早くヨキ達と合流しなければならないと思い至り、キールにヨキ達との合流を進言した。
「兄さんたちのところに行きましょう!
もしかしたら兄さん達もヘルシャフトの死体を見てるかもしれません」
「そっそうだな」
キールは念のために氷の暗殺者と呼ばれた犯人に襲われた時に対応できるよう、槍を包んでいる布を外した。
その傍らでリースがヘルシャフトの娘を立たせていた。
「おい何やってんだよ! ソイツはあとでオイラが封印しとくからほっとけよ!」
「ダメですよキール君! フウインするならまだしも相手は命をうばうような人なんですよ?
ほおっておけばこの人も命をうばわれる事になります!」
「あーもう解ったよすきにしろよ! オイラ知らないかんな!」
そんな二人のやり取りを見てヘルシャフトの娘は驚いていた。
その理由は、ヘルシャフトである自分をリースが助けようとしたからなのだ。
「お前、何故ヘルシャフトである私を…」
「今はそんなことを言っているばあいじゃありません。
ここもあんぜんではないはずですから、はやく行きましょう」
リースはヘルシャフトの娘の手を取り、キールとリースは走り出した。
*****
生き延びたヘルシャフトの娘を連れ、ようやくヨキ達三人のいる場所についたキールとリースは三人に声をかけた。
キールとリースの姿を見た三人は、リースがヘルシャフトの娘の手を掴んでいる事に驚いた。
「リース! なんでお前ヘルシャフトを⁉」
「だーっ! ここにも死体がー⁉」
キールは三人の傍にあるヘルシャフトの死体を見ると、そのまま気絶してしまった。
そしてリースは自分の憶測が当たっていた事に対し、やはり自分が思った以上に深刻な状況になっている事を確信した。
「やはり、兄さんたちもヘルシャフトの死体を見つけていたんですね」
「俺達持って、もしかしてリースも⁉」
「アイツだ! 氷の暗殺者が私達を!」
三人の傍にある同法の死体を見たヘルシャフトの娘は、自分達を襲った氷の暗殺者の仕業と騒ぎだした。
錯乱するヘルシャフトの娘を見たリースは、この場にいるのは危険だと判断し一刻も早くマーダの元へ行く事を進言する。
「いそいでマーダ様のところに行きましょう!
何かわかるかもしれません」
「そっそうだな! キール起きろ、キール!」
リースに進言されたバンは気絶したキールを叩き起こし、キールが目を覚ましたその時だった。
偶然にもヨキ達は上を見てヘルシャフトが殺される所を見た。
そして氷の暗殺者の姿も。
その正体は素顔をカーキ色のキャスケットを深くかぶり、カーキ色のマフラーで鼻まで隠している着物の特徴を取り入れた、紺色のカシュクール・ワンピースを身に纏う一人の少女だった。
氷の暗殺者は赤く染まった氷柱を手にそのまま闇の中に姿を消した。
ヨキ達はその姿を見届け、そしてそのまま運良く生き残ったヘルシャフトの娘を連れてマーダのもとへ向かった。
そしてマーダの家に辿り着いたヨキ達は、氷の暗殺者と呼ばれる少女がいないか確かめてから戸を叩いた。
「マーダ様おられますか? マーダ様」
リースが声を掛けながら戸を叩くが、返事がない。
リルは翼を出してマーダの自宅周辺を確認したが、誰もいないらしく、よく見たら電気もついていない、その事に気付いたヨキ達に不安がよぎった。
「返事がない…それどころか電気がついてない⁉」
「まさか氷の暗殺者にやられたんじゃ!」
「マーダ様だいじょうぶですかー⁉」
「無事なら返事をしてくれー‼」
もしかすると氷の暗殺者に襲われたのではないかと思ったヨキ達はパニックになりかけた。
すると突然とが開き、中から獣人と呼ばれる種族と思われる、猫の耳と尻尾を生やした老人が出て来た。
「誰じゃ、こんな夜中に人ん家のドアを荒々しく叩くのは!」
「「マーダ様!」」
バンとリースはその猫族をマーダと呼んだ。
どやらこの猫族が大賢者マーダらしい。
初めて獣人を見たヨキはしばし動揺したが、無事である姿を見て安心した。
「「よッよかった~」」
「なんじゃバンとリースか。ところでこの者達はお主達の知り合いか?」
するとアルマーダはリルとヘルシャフトの娘に翼がある事に気付いた。
「この娘達はもしやヘルシャフト⁉ バン、リース、これはどういう事じゃ!」
「リルはウィンディアで怪我してたのを助けて一緒に旅をしてるんだ」
「こちらのじょせいは、こおりのアンサツシャにおそわれて、うんよくたすかったところをいっしょに来てもらったんです」
バンとリースが二人と行動を共にする事になった理由を簡単に説明すると、マーダは困り果ててしまった。
「桜色の髪をしている娘は堕天じゃが、こっちの娘は堕天ではないぞ!
町で何があったんじゃ⁉ 氷の暗殺者とはなんじゃ⁉」
「兎に角詳しい説明はあと! 中に入れてくれよ!」
「そっそうじゃな。早く全員中にはいるんじゃ‼」
マーダは慌ててヨキ達を中に入れ、詳しい話をバンとリースから聞いた。
バンとリースのレイフォン兄弟からこれまでの経緯を聞いたマーダは、しばらく考え込んででいたが、答え合わせをするように確認した。
「成程、つまりこのヨキという少年の記憶と幼馴染達を探して旅をしている内に、スピリットシャーマンの子孫とヘルシャフの娘達に出会ったんじゃな?」
「あぁ、そうだ」
「ここまで来る途中、こちらのじょせいがさきほどはなしたこおりのアンサツシャというじょせいにおそわれて、一人うんよくたすかったんです」
「なんじゃと⁉ ヘルシャフトを襲った相手は女なのか⁉」
それを聞いたマーダはとても驚いていた。
強い力を持つヘルシャフトを襲っていたのが女だとは思ってもみなかったらしい。
そしてヨキが氷の暗殺者と呼ばれる少女の特徴をマーダに伝えた。
「偶然ヘルシャフトを殺す所を見て、顔は見えなかったけど間違いなく女の子でした。
しかも僕達と歳はあまり離れてないんです。
それから、氷柱みたいなものを持っていました」
それを聞いたマーダは更に驚く。
子供だとも思っていなかったらしい。
それらしばらくして何かを思い出したらしく、マーダは氷の暗殺者について喋り始めた。
「まさかとは思うが、その娘はアイスアサシンの血を受け継ぐものやもしれん」
「アイスアサシン? 確か六百年前に復活した私の祖先達が滅ぼしたという、あの暗殺者の一族の事か?」
ヘルシャフトの娘は氷の暗殺者の正体がアイスアサシンと呼ばれる種族で間違いないのかをマーダに聞く。
するとヨキがそれを聞き、キールに訪ねた。
「キール君、その人達って…確か」
「あぁ、オイラと同じスピリットシャーマンだが、唯一ヘルシャフトを殺す事ができる奴らさ」
キールはやはりといった様子で、アイスアサシンについて説明した。
それ聞いたリルとヘルシャフトの娘は身震いを起こした。
それ程アイスアサシンは恐ろしい存在らしく、それを見かねたリースは本来の目的を思い出してマーダに訪ねた。
「それでマーダ様なら何か知っているのではと思いたずねて来たのですが、何かわかりませんか?」
「儂もそう詳しくはないが、スピリットシャーマン達がヘルシャフトから奪い取ったという礎の事なら知っておる」
それを聞いたヘルシャフトの娘は、突然表情を歪めて話し始めた。
「もとはと言えばそれは私達ヘルシャフトの宝。それをスピリットシャーマンは奪い取ったのだ!」
「いや、そんなに嫌そうに話さなくても」
憎たらしそうにヘルシャフトの娘が礎について話をしていると、リルが不思議な事を言い始めた。
「でもスピリットシャーマンが礎に触れたら、ご先祖様の時とは違って形を変えたそうよ」
「それ本当なのかよリル!」
「リルの言ってるのは事実だぜ」
キールが言ったその一言に全員が驚いた。そしてキールは話を続ける。
「礎は元々同じ核となる水晶からできてるんだ。
その水晶はかなり特殊でな、どういう訳か水晶がヘルシャフトを拒絶して、礎の持ち主を強制的にオイラ達にしたんだ
どうしてそうなったかは思い出せないが、それは間違いない」
それを聞いたヘルシャフトの娘は怒鳴り声でキールに言った。
「何故そうなる⁉ 礎は私達の物ではないというのか⁉」
キールに怒鳴り散らすヘルシャフトの娘に対し、ヨキ達は慌ててヘルシャフトの娘を落ち着かせた。
「大声出すなよ! まだ氷の暗殺者がいるかもしれないんだぞ!」
「それにキール君は二千年前に戦ったナチュラルトレジャーの生まれ変わりなんです」
それを聞いたヘルシャフトの娘はそれを聞いて驚いた。
目の前にいるキールがナチュラルトレジャーの子孫であると同時に、その生まれ変わりであるなどと予想もしていなかったのだ。
「けど俺はその時死んじまったから後の事は分からないんだ。
俺は礎の核となった水晶、『精霊の意志』がどうなったのかも知らないんだ」
「精霊の意志はもう使い物にならない、お前達が精霊の意志を破壊した!」
それを聞いたヨキ達はとても驚き、キールも精霊の意志と呼ばれる水晶が使い物にならなくなっていたと聞かされ信じられないという顔をし、リルはただ一人動揺した。
ヘルシャフトの娘は話を続ける。
「私の祖先達が見つけた時にはもう、精霊の意志は死んでいた。
どんな方法でもその力は生き返らなかった。
祖先達はすぐにスピリットシャーマンの仕業だと考え…」
「いや、精霊の意志は死んではいない、お前さんの祖先達がそう思い込んだのやもしれぬ」
精霊の意志と呼ばれる水晶が生きていると答えたマーダの言葉を聞き、ヨキ達は大声で叫んだ。
精霊の意志がまだ生きていると聞いたヨキ達はマーダに聞き始めた。
「それは本当か⁉」
「フム、当時のスピリットシャーマン達はヘルシャフトとの戦いが終わった後、ヘルシャフトが復活した時のために精霊の意志を二つの姿に分けたのじゃ。
一つは水晶はそのままの姿で、もう一つはその力を人の姿に作り替えたらしい」
「「「力を人の姿に⁉」」」
「そんな事、可能なのか?」
精霊の意志と呼ばれる水晶の力を人の姿に作り替えたと聞いた丁度その時、外の方で謎の光が輝いた。その光にヨキ達は気付いた。
「なんだ? 今の光」
「行ってみよう!」
ヨキ達はその光の正体を探るべくリルとヘルシャフトの娘をマーダに預けて外に出た。
そこには氷の暗殺者と呼ばれる少女がいた。
「氷の暗殺者⁉ どうしてここに⁉」
氷の暗殺者がいる事に動揺するキール達だったが、改めて姿をよく見るとマリと同じで髪は紫がかった白銀で、瞳はルビーのように赤い事にヨキは気付いた。
その手にはヨキが見た氷柱があり、すぐ近くで胸に氷柱を突き刺されたヘルシャフトの男の姿があった。
氷の暗殺者との戦いの末、胸に氷柱を刺され息絶えたのだろう。
氷の暗殺者の姿を見たキールは槍を構えた状態で、氷の暗殺者に対して何者なのかを問掛けた。
「お前、何者だ?」
「我が名はトューランドット。誇り高き、アイスアサシンの血を受け継ぐもの」
それを聞いたヨキ達は驚いた。
マーダが考えた通り、既に滅んだ筈のアイスアサシンがまだ滅んでいなかったという仮説が成立し、そしてそのアイスアサシンの血を受け継ぐ物が目の前にいたのだ。
トューランドットは話を続ける。
「我が一族の無念を晴らすべく、私はヘルシャフトを討つ。今回はその女は見逃そう。
だが今度会う時、その命、無きものと思え」
そう言ってトューランドットは冷たい眼差しでヨキ達を睨み、闇の中へと去っていった。
翌日、ヨキ達はヘルシャフトの娘をマーダに預け、次なる目的地、トューン・トューンの古の図書館へと向かった。
そこにある『アーカイブ』と呼ばれる本があり、そこに刻まれているスピリットシャーマンの歴史の中に何か手掛かりがあるのではないかとマーダの提案だ。
キールはマーダから聞いた精霊の意志について考えていた。
バンとリルが背いた任務に、人の姿となった精霊の意志の力が関わっている可能性があるからだ。
その事がどのような結果を生むのかはまだ分からないまま、謎は増えて行った。




