第104話 ヘルシャフトの内情
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バーナードキャラバン全体の様子をヨキとバンから聞いたキールは、その情報をヘルシャフトに狙われる理由を把握している一部の冒険者達と商人達に伝えた。
キールとしては現在の状況に不自然さに気付き始めた者達がいたことに対し想定外であり、今後の移動になにか影響はないかと心配していた。
「……以上がさっき受けた報告内容だ。
情報規制をしているとはいえ、やはり違和感を感じてる連中はいるみたいだ」
「そうか、少なくとも仙具が仕掛けられている範囲が絞れただけでも儲けものだ。
今の話を聞いて何か報告することがあるものはいないか?」
「僭越ながら私から。私は現在後方の回復役として配置されているのですが、こちらに来るまでに様子を伺っていたところ、前衛ほどではないと思うのですが、数名ほど今の状況に違和感を覚えている方がおられました。
その中には先程報告して下さったお二人が現在所属しているパーティも含まれております」
「鷹獅子の西風か、あそこは確か黄階級の冒険者パーティだったか?」
「いや、黃緑階級だ。
今回の護衛依頼は緑階級への昇格試験も兼ねていたんだが、今の状況ではそれどころではないな……」
「いてくれるだけでもありがたいが、貴重なチャンスをダメにしたみたいでなんか気が引けるぜ……」
鷹獅子の西風が昇級試験中だったと聞いたキールは、今回の依頼がヘルシャフト絡みの事件に発展したために折角のチャンスを台無しにしてしまったとため息を吐いた。
物理的、精神的以外の被害まででてきたものだから落ち込むなということの方が無理だ。
「話を続けても良いなら、俺からも報告させてくれ。
俺は中衛右翼よりの前衛に配置されてるんだが、中衛付近にいる能力者も少なからず影響を受けているように見える。
ただ、中衛に配置されてる連中よりか症状はマシな気がするんだ」
「具体的には?」
「一度中衛付近から離れれば、比較的に落ち着きを取り戻すみたいなんだ。
それもあってか配置換えの希望者も何人かでてきてるようだ」
「確かにそうだな。訳も分からずイライラしてストレスになるから、配置を変えてくれと俺の所に報告が上がってる。
おそらくそれも相まって、前衛と後衛の冒険者達が違和感に気づき始めたのだろう」
配置換えの希望が複数に出てきたことで、現在の状況に違和感を感じる者達がでてきてしまったとアンガスは断言する。
一見問題が増えたかのように思えるが、吉報もあったのも事実だ。
先程の報告では中衛付近に配置されている能力者系統のスキル保持者は、精神異常の仙具が仕掛けられている中衛から距離を置くことで、その影響下から外れ正気を取り戻せることが判明した。
この点を考えれば今の状況から一歩前進下も同然だ。
「他に何か報告がある者はいないか?
翡翠の渡り鳥が極秘裏に仙具を回収してくれているため、なにか変化があると思うのだが……」
「こちらは特に変化はないかな?」
「我々の配置場所も以前と変わりないな」
「ワタクシが配置されている場所は、以前より若干落ち着いたように思えます。
ただ確信がないため、断言はできません」
申し訳ございませんと、報告を上げたサブリナは頭を下げた。
若干の変化は感じられるが、確たる証拠がなく証明できないため吉報とは呼べないと考えたようだ。
「今もケイ達に仙具の探してもらってはいるが、オリソンティエラにつくまでに全部は無理だろうな……」
「こちらも発見された仙具を見せてもらったが、すでに荷馬車一台分はあったぞ?」
「改めて思ったけど、とんでもない量だよな……。
荷馬車一台分見つけたのに、それ以上の量がまだ未発見のままってことだろう?」
「それ以上に恐ろしいのは、一夜にしてそれだけの量を仕込まれたってことだ」
これまでの報告を聞いたキールは、見つけ出しきれない量の平行線の瞳とヘルシャフトが開発した精神異常の仙具を仕掛けたと思われるフォルシュトレッカーに戦慄していた。
ヘルシャフトに対する忠誠心が高いフォルシュトレッカーの実力ならば、そう難しくないことなのだろう。
いずれにせよ、この状況下で今は現状を維持することしかできない。
「仙具の方はこのまま翡翠の渡り鳥に任せるしかないな、我々はいつ来るかわからないヘルシャフトに警戒すべきだろう」
「せめてどのタイミングで襲撃してくるかわかれば良いんだけどなぁ」
「襲撃のタイミングか……」
ヘルシャフトの襲撃に対しどのような対策を取るべきかと周囲の冒険者や商人達が話し合っている中、襲撃のタイミングと聞いたキールは、そのままだんまりと考え始めた。
そんなキールの様子に気付いたサブリナは、心配そうに声を掛ける。
「どうされましたか? キールさん」
「あぁ、さっきヨキとバンから報告を受けた時にバンが言ってた事が気になってな」
「気になることとは?」
「どういう訳かキャラバンに参加してからのヘルシャフト関連の襲撃が引っかかるらしい。
オイラ自身さほど気にしてなかったが、襲撃のタイミングと聞いていくつか気になることができたんだ。
サブリナ、オイラ達がキャラバンに合流する前まではどんな様子だったか覚えてるか?」
キール達がバーナード・キャラバンに合流する前までの、ヘルシャフトによる襲撃時の様子を聞かれたサブリナは、顎に人差し指を当てながら当時の様子を思い出し、キールに伝え始めた。
「確か、最初の襲撃は、一番最初の出発地点から一ノ週が経った頃です。
その時は冒険者総動員で攻撃を仕掛けて追い払うことに成功し、事なきを得ました。
それからヘルシャフトによる襲撃を何度も受けるようになりましたね。
我々の攻撃が効きづらいというのもありますが、襲撃される度に相手の人数が増えて、逆にこちら側から離脱する者達が出てき始めました」
「オイラ達の方も似たような感じだ。
キャラバンに拾われる前は、二百なんて数のヘルシャフトに襲われてえらい目にあったからな。
聞いた感じじゃあ、特に違いはなさそうだな……」
サブリナから合流する前の様子を聞いたキールは、自分達が襲撃された時と対して差はない様子だったため気にし過ぎかと考えたが、次のサブリナの発言で根本的な違いに気付いた。
「あ、でも……」
「ん? なんかあったのか?」
「いえ、同じようにヘルシャフトによる襲撃時の話なのですが、最初の襲撃の時は確か、罠を張られていたなぁと思いまして……」
「何、罠が張られていただと!?」
最初の襲撃の際に罠を張られていたと聞いたキールは、大声を上げる。
突然のキールの反応に驚いた周囲の冒険者や商人達は、何事かとキールとサブリナの方に視線を向ける。
そして先程のサブリナの証言を聞いたキールは、自分の近くにいる冒険者達に確認を取り始めた。
「おい、最初にヘルシャフトの襲撃を受けた時に罠を張られたと聞いたが、具体的にどんな感じだった?
それ以外でも罠を張られたことは??」
「え? 確か最初の時は通り道に巨大な落とし穴があったな。
しかも質が悪いことに調べてわかったことだが、荷馬車が通る頃に落とし穴の蓋が落ちるような仕組みだったな」
「それ以外となると、何本もの竹を茂みに仕込んで仕掛けにかかった瞬間スネに直撃して数十人がすぐ戦闘に参加できなかったり、上からマキビシと目潰しの粉だったかな?
同時に降ってきてかなり酷い目にあったよ」
「あとは酸性の液体が入った瓶が飛んできたこともあったな。
中身自体は薄くなっていて死人こそでなかったものの、被害にあった連中の中にはすぐにでも病院に行く必要がある状態になった奴もいたよ」
「一番大打撃を受けたのは橋を落とされた時だな。
元々渡る予定だった橋を目の前で破壊され、大幅なルート変更を余儀なくされたんだ」
冒険者達から確認を取ったキールは、仕掛けられた罠の内容から自分が知っているヘルシャフトの想像図とだいぶん違いことを知り、嫌な胸騒ぎを覚えた。。
キールの経験上、ヘルシャフトは基本、自分達以外の他種族、おもに人間を見下す傾向にあり、そのため実力行使に出ることが多い。
そのため罠といった小賢しいことを仕掛けてくることは全くといって良いほどないのだ。
だというのに、そのヘルシャフトがバーナードキャラバンに対して罠を仕掛けているというではないか。
今までの経験や前世での経験から想像できない事態が発生していることに、キールは驚きを隠せないでた。
「どれもありえねぇ、連中の性格を考えれば、どれもこれも仕掛けるような内容じゃねぇ」
「どういうことだ? 我々にもわかるように説明してくれ」
「基本ヘルシャフトってのは自分達が一番強いと過信して、他種族を見下す傾向にある。
その過信から罠を張るなんて戦法、一度も使ってくるなんてなかったんだ。
だが今言いた限りでは二パターン、オイラが知ってる数と力でゴリ押してくる襲撃と罠を仕掛けたうえでの襲撃に別れてるんだ」
「言われてみると、ヘルシャフトの襲撃を受けた時に罠がある時とない時があったな。
だが、気にし過ぎじゃないか?」
「いや、、そうとも限らないぞ」
これまでにないヘルシャフトの襲撃パターンに対し、キールが困惑していると、ラピスが遅れてやってきた。
先程の会話の一部を聞いていたらしく、ラピスも神妙な表情をしていた。
「遅いぞラピス、何か心当たりでもあるのか?」
「済まない、私もここに来る途中で似たような話を聞いて確認を取っていたんだ。
襲撃が二パターンあるという話だが、あながち間違いではないだろう。
罠を仕掛けて襲撃という手は、私がかつていた派閥がよく使うやり方だ」
「派閥? ヘルシャフト内でも派閥があるのか?」
「派閥と言っても二つしか存在していないがな。
一つは『王党派』、その名の通り王族を主軸としており自分達の力を過信し、武力行使と大昔からの独裁政権のもと政治を行っている。
文字通りヘルシャフト主義でそれ以外の種族やスズのような“色付き”を格下とし奴隷のごとく扱う絶対君主制の派閥だ。
もう一つは『改革派』、先程も言ったように私がかつて所属していた場所で昔ながらの政治を行っているものの、王党派との違いは昔ながらのやり方ではなく、自分達の手で作戦を練り技術の開発を行っている。
極めつけは他種族と“色付き”を重宝しているということだ」
ラピスの口から『改革派』が他種族“色付き”のヘルシャフトを重宝していると聞かされたキールは、信じられないという様子だ。
それはこの場にいる冒険者や商人達も同じらしく、かなりざわついている。
「具体的に、その改革派というのは他種族と“色付きをどう扱っているんだ?」
「情報収集や物資集め、極めつけは潜入だ。
先程も言ったが『王党派』のヘルシャフト達は武力行使の政権で支配下にいる者達を従わせ逆らえないようにしており、強制的に働かせ物資や税金など献上させているが、必ずしも目的の物が献上されるとは限らないんだ。
それに一度支配してしまえば情報を集める必要もさほどない、だから王党派は各地を襲撃して領土を広げているんだ」
「元々関係があった周囲との交流を絶たれたうえで、そこでは取れないものをよこせと言われても用意できないからな」
「ヘルシャフトの支配下に置かれた地域は老若男女、子供問わず共背的に働かせられ、指定されたものを用意できなければ問答無用で罰せられ、理不尽な扱いを受けている、そんな話を聞いたことがある」
『王党派』のやり方を聞いた冒険者と商人達は、自分達がこれまで耳にしたヘルシャフトの情報を一致していたため納得している様子だ。
『王党派』のやり方を改めて聞いたアノンは、『改革派』のとあるメリットに気付き、ラピスに尋ねた。
「もしや、改革派ではそのデメリットがないのか?」
「正確に言うなら、納められる可能性が上がるだけだな」
「どういうことですか?」
「そうか! 他種族を使って支配下に置かれてない地域に赴いて情報収集を行っても不審がられることもなければ、その時必要な物資も確実でないにしろ手に入れられる!
加えて“色付き”の連中も使えば特定の生き物や人物を見つけるのだって容易だ!」
「加えて潜入ともなれば一定の組織情報や技術情報の入手に情報操作も可能、場合によっては要人の“暗殺”もでき混乱させて弱体化も図れる。
とんでもない派閥だな」
キールとアンガスが気付いた『王党派』とは違い他種族や“色付き”を使うことで貴重な物資の確保や情報収集を可能としている『改革派』のやり方を知り、その場にいる全員が動揺を隠せなかった。
ヘルシャフトは一目見ればわかる容姿をしているため、襲われてもすぐに対応できる。
だが、それ以外の種族と“色付き”ともなれば話は別だ。
当たり前のようにいる種族であれば、その場で何をしても不審に思うことはなく、何かしらの工作をしているとは思わない。
“色付き”に至ってはヘルシャフト特有の白髪ではないため、翼を隠してしまえば人間と変わらない容姿をしているため見分けがつかない。
そんな戦力を保有している『改革派』の存在に、身の毛がよだつのがわかる。
そして、一番の問題であるバーナード・キャラバンの襲撃方法に対し、キールが切込みを入れた。
「つまり、これまでの襲撃方法に違いがあったのは“別々の派閥が、別々に襲撃していたから”か」
「お待ち下さい、それでは“二つの派閥が争っている”ように見受けられます。
実際はどうなのでしょうか?」
「確かにサブリナさんの言う事にも一理ある。
情報規制されていたとしても、そういった噂は、我々商人でも聞いた覚えがない」
「ラピス、実際の所『王党派』と『改革派』の関係はどうだったんだ?」
襲撃方法の違いから、『王党派』と『改革派』の関係がどういうものなのか気になったキールは、『改革派』にいたというラピスにその関係を尋ねた。
ラピス本人はというと腕を組みながら何処か気難しそうな表情をし、しばらく考え込んだあとその関係性について答えた。
「離反した後のことはわかりかねるが、私がいた頃は表立った衝突はなかったが、やはり方針の違いから小さな小競り合いは起きていた。
『王党派』からすれば、『改革派』の方針は気に触ったのだろう」
「襲撃方法が違いのは方針の問題だったのか」
「そうなると、ラピスが離反した後に関係が悪化したという線もあり得るな……」
「『ヘルシャフトの誓い』のこともある、対立こそしてないだろうがアンガスが言うように関係は悪化している可能性もあるだろう」
『王党派』と『改革派』の関係が悪化している、離反したラピスにとって最早意味がないものだ。
だが、意図したことでないにしろ、その二つの派閥と再び関わり合うことになるとは思っても見なかったためラピスとしては想定外だ。
関係が悪化していたにしろ、二つの派閥が封印箱の中に封じられている厄災の種を狙っていることは明白である以上必ず守り抜く必要があった。
そんな時、突然キールが抱えていた槍に巻かれた布を外し警戒態勢に入った。
「誰だ!?」
「どうしたんだキール?! いきなり身構えて……」
「……いや、一瞬鋭いさっきみたいなのを感じたんだが、気のせいだったか?」
自分の勘違いだったのかと感じたキールは警戒態勢を解き、あたりを見回した。
そこへ、ミザールの護衛に回っていた筈のカプリースが慌てた様子でやって来た。
「チミっ子、アンガスさん! ここにいたのか!」
「カプリースさん、そんなに慌ててどうしたんです?」
「その様子だと何かあったのか? また暴動か?」
「違う、暴動じゃない……。ミザールが襲撃されてるぞ!」
カプリースから内容を聞く前に、ラピスの口からミザールが襲撃されているという衝撃の内容がでてきたためその場にいた全員が驚きを隠せなかった。
「何だと!? ラピスが言ったことに間違いないかカプリース!?」
「あぁ、本当だ! 砦の責任者と滞在している間のことについて話し合っていたら、突然周りの兵士達が襲ってきたんだ!
クレアとオリゴーニョが対応しているが、場所が狭いせいで思うように動けないらしい!」
「クソッ着いたばかりだというのに最悪だ!
小回りがきく者はカプリースさんと一緒にミザールさんの救出に向かってくれ!
私とラピスはそれ以外で同じ事が起きてないか確認頼む、大至急だ!」
深刻な事態であると判断したアンガスは、その場にいた者達に指示を出して行動に出る。
その指示に従い、キール達はすぐさま二手に分かれて行動を開始するが、今回ばかりは最悪の展開だった。
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