第103話 被害の中で見えてくるもの【ヨキside】
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最後に訪れたバーナード・キャラバン前衛の方では、カトレアと鬼神の慈愛によるラヴァーズとヒールスライムの攻防戦が行われていた。
「アンタ達、そがいな物騒な顔してアタシの弟に近付くのやめてもらえる?
アンタ達のせいでぶち怯えとるのよ!」
「そうよ、こんなに小さい子に寄って集って恥ずかしくないのかいアンタ達!?」
「そうは言うけどよぉ、コッチは癒やしが足りねぇんだよぉ」
「おチビちゃんがダメならおチビちゃんが抱えてるスライムだけでも触らせて!
その子に触るだけでも癒し効果があると思うのよ!」
「そんなのダメに決まってるでしょう!」
「一度もみくちゃにされたせいでヒールスライムの方も怯えてるでしょうが!」
「かばちたれんでしゃんしゃん砦の中に入って身なりを整えるなりしんさいこのスカポンタン!」
カトレアと鬼神の慈愛のメンバーに凄まじい迫力で睨まれた冒険者達は、引腰になりラヴァーズとヒールスライムを愛でる事を諦めてそのまま去っていった。
一部始終を少し離れた所で見ていたヨキとバンは、あまりの迫力に物怖じしていた。
「アハハ、やっぱラヴァーズか絡むとめちゃくちゃ怖ぇなカトレアは……」
「カトレアさんと鬼神の慈愛の人達怖い……」
バンは笑いながらも顔を引き攣らせ、ヨキはかなり動揺しているらしく、少しでも落ち着こうとホーンラビットを抱きしめる腕を強くした。
「あら、ヨキとバンじゃない。こっちに来てたの?」
「あぁ、全体の様子を見にな。そっちの方は意外と大丈夫そうだな」
「しゃーなーもんか! 所構わず周りの連中がラヴァーズを狙うてくるもんだけぇ安心できやせんわ」
「カトレアちゃん、アレは人じゃないわ。
人の姿をしたショタコンという名の変態よ」
「只々関わらせたくないヤバい生き物ね」
ヨキとバンが来るまでの間にラヴァーズに癒やしを求めてきた冒険者の数は相当なものだったらしく、 カトレア達はもはや危険生物として扱っているようだ。
そんなカトレア達の様子を目の当たりにしたヨキとバンは、また違った意味で問題が発生しているとなんとなく悟った。
「姉さん、もうそろそろバシャから出ても良い?」
「ミィ〜」
「アレ? ラヴァーズそんな所にいたのか」
「ずっと乗合馬車の中にいたの?」
ふと近くの乗合馬車からラヴァーズが顔を出したため、ヨキとバンは少々驚いた。
先程から姿が見えなかったが、冒険者達がいなくなるまでヒールスライムとともに隠れていたら垂らしい。
「はい、あぶない人達が来るからここにかくれてないって」
「ミィミィ」
「それでヒールスライムと一緒に馬車の中に隠れてたのか」
「ところで、その角が生えたうさぎさんはどうしたんですか?」
「さっきフィービィーさんが捕まえてきてくれたんだよ。
モフモフしてて気持ち良いんだ」
「プゥ!」
「ミィ! ミミミミィ……」
ヨキはホーンラビットに興味を示したラヴァーズに事の経緯を話すと、気持ち良さそうにホーンラッビットの頭を撫でる。
ヨキに抱えられているホーンラビットは反抗するように鳴き声を上げると、 ヒールスライムが驚いてしまいそのまま乗合馬車の中に引っ込んでしまった。
「あ、まって、かってに動いたらおこられちゃうよ!」
「ホーンラビットにめちゃくちゃビビってんなぁ」
「まぁ、スライムだからね。
おまけに一番弱いからホーンラビット相手でもビビらずにはいられないのよ」
「その分大人しいもんだから、さっきの変態どもの標的にされちまってるんだよ。
可哀想に……」
リノア砦につくまでの間に散々冒険者達に狙われている事を知っている鬼神の慈愛メンバーは、すっかり怯えたヒールスライムを哀れに思った。
ホーンラビットが軽く鳴き声を上げただけで乗合馬車の中に逃げてしまう程に臆病なヒールスライムを見て、まるで初対面の頃のヨキを見ているようだとバンは思った。
「ところでディルカとスズは? 一緒じゃないのか?」
「二人なら姫紫君子蘭の壁の人たちと一緒にいるわ。
なんやかんやで前の方がさほど被害を被ってないからね、用があるんだったらココから真っすぐ進んだ先にいる筈よ」
「この先にいるんだな、わかった。
ありがとうカトレア」
「また砦内で。ラヴァーズくんも後でね」
ディモルフォセカとスズの場所を聞いたヨキとバンは、そのままカトレアと鬼神の慈愛と別れ、教えられた場所へと向かった。
「それにしても意外だったよね。
前衛の方が一番大変だと思ったのに」
「荷物があるのは中心だからな、正面から狙うより中心を直接狙った方が良いってなると実際に一番大変なのは中衛に配置されてる冒険者かもな」
「言われてみればそうかも?
現に暴動が起きた時も中衛から広がっていったし……」
「そうなるとキールが言ってた仙具も中衛付近に仕掛けられてる可能性が一番高いって事か」
移動しながら、ヨキとバンは暴動が起きた時の様子を落ち着いて思い出していく。
二人が言った通り、実際に暴動が起きたのは中衛に配置された冒険者達だ。
そこから波紋を生むように被害が広がっていった事を考えれば、バンが言った事はあながち間違ってはいないだろう。
「おーい、ヨキとバーン!」
「スズ君、それにディルカさんも」
「どうしたのよそのホーンラビット?」
「フィービィーが捕まえてきたのをそのままヨキが気に入って連れ歩いてるんだ。
さっきカトレアからは話を聞いたんだけど、コッチは被害が出てないんだって?」
「えぇ、そうなのよ。
普通前衛にプレッシャーが集中するものらしいけど不思議と後方より被害が少なくて、不思議に思って確認してた所なの」
「これまで何度か護衛の依頼を受けてきたけど、ココまでプレッシャーのかかり方が違うのは初めてさね」
「それは俺も感じた。初刻のような盗賊の襲撃はいつも通りだったが、それ以降の展開が可笑しい。」
「むしろ不自然、って言った方が良いですよね。
他のパーティの様子もちらっと確認してみたんですけど、アタシらと似たような反応だったんですよ」
姫紫君子蘭の壁メンバーであるベレッカ、ブレン、フィレイの三人も現在の状況を不審に思っていたらしく、他のパーティも不自然な部分がある事に気付いていたようで状況の確認をしていたようだ。
「カトレアさんが言った通りだね。
むしろ今の状況を不自然に感じてるっぽいよ?」
「やっぱり仙具は中衛をメインに仕掛けられてそうだな、あとでキールの所に行って伝えよう」
「おう、お前さんら確か鷹獅子の西風ん所にいる坊主達じゃねぇか」
ヨキ達が話をしていると、同じ前衛に配置された冒険者パーティの様子を確認しに行っていたと思われる姫紫君子蘭の壁のパーティリーダー、アノンがやって来た。
「えっと、貴方、は、確か……」
「姫紫君子蘭の壁パーティリーダーのアノンだ。
そんな緊張しなくても良いぞ?」
「すみません、僕、その、元々、人見知りで……」
「そんな事よりもヨキ、ホーンラビット絞めてるぞ?」
「え? あぁ! ゴメンね、苦しかった⁉」
突然のアノンとの邂逅で緊張状態になったヨキは、無意識の内にホーンラビットを抱える腕に力を込めてしまい締め上げていたらしく、バンに指摘されるまで気が付かなかった。
慌てて腕の力を緩めてホーンラビットの状態を確認するが、ホーンラビットとしては不服しかなかったのか自分を抱えるヨキの手を前足でテシテシと叩いた。
「うわぁ、すごく怒った顔してる……」
「悪気はなかったとはいえ絞められたのに変わりないからなぁ」
「魔物だけど可愛いね~、抱っこさぁせて?」
不機嫌なホーンラビットの様子が気に入ったのか、マチルダは抱っこさせて欲しいとヨキに頼んだ。
先程締め上げてしまったのもあってホーンラビットの機嫌が悪いため、ヨキはホーンラビットをマチルダに手渡すが、名残惜しそうな表情をしていた。
「モフモフ……」
「そんなあからさまに落込むなよヨキ、逃げられた訳じゃないんだしさ」
「でも、モフモフ……」
「ンフフフフ、モフモフだ~」
「プゥ~♪」
ヨキからマチルダに抱きかかえられたホーンラビットは、マチルダに撫でられて機嫌が治ったようだ。
あからさまに自分とマチルダとで態度が違うため、その様子を目の当たりにしたヨキはかなり落込んだ。
一方でマチルダはホーンラビットを撫でる事ができてご満悦だ。
「ところでリーダー、他のパーティの様子はどうでしたか?」
「あぁ、やはり後方と見比べてこちらはかなり落ち着いてる様子だった。
後方に進むにつれて空気が悪かったんだが、一番後方に進むとマシなように感じたんだ」
「って事は基本ギクシャクしてるのは中衛だけって事かい?」
「それはそれで不自然すぎません?
アタシでも分かるくらい不自然すぎますよ」
「スズ、前に精神攻撃を受けてるって言ってなかった?」
「うーん、あれから結構時間も経ってるしなぁ~」
ディモルフォセカは盗賊脱走事件の際に受けたという精神攻撃についてスズに尋ねたが、スズはは事件から刻数をまたいでいる事から、仮に受けていたとしても効果はかなり薄くなっていると見ているらしい。
どちらにしても、中衛の冒険者達だけギスギスしている事に違和感を感じているようだ。
「不自然ではあるが、今はしっかりと休んで英気を養おう。
リノア砦から最後の休憩地点であるラディルタ砦に向けていつ出発するかわからないからな」
「リーダーの言う通りさね、今回の依頼はトラブルが多いし精神面で疲れちまうよ」
「それじゃあ俺達もキールの所に寄って戻るとするか」
「そうだね。あの、マチルダ、さん……。
そろそろ、そのぉ、ホーンラビット……」
「ん? あぁ、ごめんね〜。
モフモフ堪能させてくれてありがとう♪」
バーナードキャラバンの全体的な被害状況を確認する事ができたため、ヨキとバンは後衛の方に戻る事した。
その際、ヨキはマチルダからホーンラビットを再度受け取り抱きかかえるが、先程締め上げられた事を根に持っているのかヨキの腕の中でジタバタと暴れる。
「わっわっ?! 落ち着いて!」
「あ〜、コレはさっきの事根に持ってるな〜」
「ごめんね、次からは気をつけるから、良い子にしてね」
ヨキは謝罪の意を込めてホーンラビットの喉元を優しく撫でる。
それが気持ち良かったのか、暴れていたホーンラビットは落ち着きを取り戻し大人しくなった。
「それじゃあ俺達は後衛の方に戻るよ」
「わかったわ、また何かわかったら連絡するわね」
「また後でな」
「はい、ディルカさん達もまた後で」
ディモルフォセカ達と別れたヨキとバンは、そのまま後衛に向かいながら中衛の様子を観察する。
アノンが言った通り、中衛に配置されている冒険者達の関係はギクシャクしているようだ。
「さっきの前衛と違って、空気が重いね」
「やっぱり仙具は荷馬車がある中衛を中心に仕掛けられてそうだな……。
ヨキ、早めにキールの所に行ってこの事を伝えようぜ」
「うん、場所の事もそうだけど、さっきの事もキールくんに伝えておいた方が良いかもしれないね」
中衛の様子を観察していたバンは、後衛に戻る前に荷馬車の護衛に就いているキールにこれまで見たバーナードキャラバンの様子を伝える事にした。
ヨキもその考えに賛同し、その足を荷馬車にいるキールの下へと向ける。
「今までの事を踏まえて考えると、キャラバンで起こってる疑心暗鬼ってヘルシャフトのせい、何だよね?」
「そうだな、こっちの連携を乱してまで襲ってくる理由がなんなのかも気になるけど……」
現在自分達が置かれている状況はヘルシャフトが原因だと決定づけるヨキに対し、バンは肯定しながらも難しそうな表情をしていた。
ヘルシャフトが原因であるとわかっているのに、何か納得がいかないという様子だ。
「どうしたの? なんか難しそうな顔をして」
「いや、これまでのヘルシャフト関連の襲撃について考えてたんだけど、なんか引っかかるんだよなぁ……」
「引っかかるって?」
「自分で言ってアレだけど、何かが引っかかってるんだよ。
なんかわからないか?」
「バンがわからないなら僕にもわからないよ……」
「だよなぁ〜。ん〜、なんだろうこの違和感?」
バンは自分の中で渦巻く違和感の正体がわからず、歩きながら考え込んでしまった。
そんなバンの様子をヨキは不思議そうに見ながら歩いていると、荷馬車付近で冒険者達が集まる姿が目に入った。
「アレ? バン、あそこ。荷馬車に人が集まってるよ」
「本当だ、またトラブルでもあったのか?」
「どうする? 一旦リース君とラピスさんの所に戻る?」
「ん〜、しばらく様子を見てみようぜ。
俺達みたく現状報告してるだけって可能性もある訳だし」
「プゥ! プゥ!」
「わ、わっ! どうしたの?!」
冒険者達が集まっているのを見てしばらく様子を見る事になったが、ホーンラビットが突然暴れ出したため、ヨキは慌ててホーンラビットを宥めながら抱え直しす。
慌てるヨキの声が届いたのか、荷馬車に集まっていた冒険者達がヨキとバンの方に視線を向ける。
その中にはキールの姿もあり、ホーンラビットを抱えるヨキの姿を目の当たりにしてギョッとなり、慌てて駆け寄ってきた。
「おいコラ! さっきから騒がしいと思ったが何連れ込んでやがる!」
「キール! なんだすぐ近くにいたんじゃないか。
探す手間が省けたぜ」
「んな事よりもソイツをどっから連れ込んできやがったんだ!?」
そう言いながらキールはヨキがかかるホーンラビットを指差す。
キールは突然のホーンラビットの登場に驚いたらしく、少々怒っていた。
それに対し、ホーンラビットを宥めていたヨキは事の経緯を話した。
「フィービィーさんが捕まえてきたんだよ!
元々食べるつもりで捕まえたホーンラビットをフィービィーさんから受けとったんだ!」
「砦の外に大量にいたらしいから、俺が捕まえれるだけ捕まえて中衛右側で荒れてる冒険者達に癒やしとして提供してるぞ」
「何勝手な事やってんだよお前ら……」
「だってモフモフだったんだもん」
「そうは言うけど、ニヤトとタメゴローがモフられまくってたんだ。
ほっとく訳にはいかないだろう」
自分の預かり知らぬ所で勝手な事をしているヨキ達の行動に、呆れるキールだったが、前回の暴動の事を考えればなんとも言えないのも事実だ。
かといって、勝手な事をされても困るのも事実だ。
「ハァ、まぁ状況が状況だからわからんでもねぇが、そこはミザールに確認取ってからにしろよ。
いくらホーンラビットが弱いとはいえ魔物だぞ、おまけにここは砦の中になるんだから駐在してる兵士に注意されるだろう」
「あ、確かにそうかも……」
「でも、ニヤト君とタメゴローをモフモフしてた冒険者さん達、喜んでたよ?」
「ハァ、ホーンラビットの件はオイラが伝えとくから、後でちゃんと謝っとけよ」
「お、サンキュー」
「そうだキール君、僕達一通りキャラバン全体の様子を見てきたんだけど……」
ヨキは先ほどまで見てきたバーナードキャラバン全体の様子を、キールに細かく説明した。
特に前衛に配置されている冒険者達の一部が、中衛に配置された冒険者達の苛立ち具合が不自然である事に気付き始めている事や、精神異常を悪化させる仙具が配置されているであろう予測範囲重点的に伝える。
「以上が僕達の考えなんだけど、どうかな?
範囲は絞れそう?」
「なるほどな、それは盲点だった。
わかった、その件もオイラからケイ達に報告しておく。
お前ら一旦、後衛に戻って休んでろ」
「うん、そうするね」
「俺からも一つ良いか?
キャラバンに参加してからのヘルシャフト関連の襲撃についてなんか引っかかるんだけど、キールは何か引っかからないか?」
「引っかかる事だぁ? 特にはないな」
「そうなのか? 変だな、俺の気のせいか?」
特に気になる点はないとキールが言うため、バンは頭をかしげる。
キールが言うのであればそうかも知れないが、バン個人としてはどうにも納得がいかなかった、というよりできなかった。
どちらにしろ違和感の正体が掴めない以上、あれこれ言う事はできない。
「それじゃあ僕達はリース君達の所に戻るね」
「キール、昼飯の時にまた会えるか?」
「いや、会議が長引きそうだから昼は無理だな。
晩飯の時で良いか?」
「あぁ、それで頼む。それじゃあまたな」
バンはキールと夕食の時にもう一度会う約束を取り付け、ヨキの後を追う形でその場をあとにする。
会議の内容を聞けば、違和感の正体がわかるかもしれないと考えたのだ。
「キール君、結構大変そうだったね」
「あぁ、ヘルシャフトについて詳しいから他の冒険者も少しでも情報をもらって対抗策を考えたいんだろうな」
「有効打になるのが僕達だけっていうのも問題だよね……」
「プゥ?」
「良かった、やっと落ち着いてくれた。
でもなんで急に暴れ出したんだろう? 移動中は大人しかったのに……」
ようやく落ち着きを取り戻したホーンラビットを撫でながら、暴れ出したことを不思議に思うヨキ。
だが、ホーンラビットを撫でている内にそんな些細な事も忘れてしまい、特に考える事はなかった。
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