第102話 被害状況【ヨキside】
精神異常を起こす仙具の影響で一部の冒険者達による小規模な喧嘩がバーナードキャラバン全体で起こり、その一部が暴徒化するというアクシデントに見舞われた。
暴徒化した冒険者達に対しヨキ達を含む冒険者と護衛達が対応し、後から駆け付けたケイとキールのおかげで騒動は鎮静化した。
が、今回の騒動による被害は大きく、被害状況の確認や体制を立て直すのも時間が掛かってしまった。
出発するまでに三刻かかり、次の休憩地点であるリノア砦に到着したのは四刻後になってしまい、当初の予定より大幅な遅れとなった。
「や、やっと着いた~」
「ここが次の休憩地点になるリノア砦か、フェム、この後の予定はどうなっている?」
「本来なら二刻間滞在する予定だが、一重週の聞き取りもある事を考えると滞在期間が延びる可能性が高いな」
「今頃雪待月の二四刻に着いてる筈が、実際は出発予定日過ぎて二七刻に着きやしたからね。
滞在期間にもよりやすが、かなり遅れていやすよ」
暴徒化した冒険者達の対応にかなり気力を持って行かれたヨキは着いた途端にその場に座り込んだが、ラピスは鷹獅子の西風のメンバーと進捗具合を確認していた。
ゴンスケが言ったように、暴動の影響での遅れが響いているのは確かだ。
次の休憩視点であるラディルタ砦に出発するまでにバーナードキャラバンの状態を立て直すにしても、そちらも時間が掛かるだろう。
「でも本当に驚いたわよね、いきなり暴動が起こったんだから」
「無理もない、これまで溜まってたストレスが爆発したようなものだ」
「それにしては少し不自然な気がするのだけど……」
「確かにあの状況、僕から見ても不自然でした。
ストレスがバクハツしたにしては、かなり激しすぎます」
リース達が暴動時の不自然さについて話し合っている中、ヨキとバンの二人は互いに顔を見合わせながら、キールから聞いた話を思い出していた。
*****
『『平行線の瞳以外の仙具だって⁉』』
『あぁ、その証拠にキャラバンのあちこちからコイツらが出て来やがった』
そう言いながらキールは後方に置いてある木箱の蓋を開け、二人に中身を見せた。
木箱の中に入っていたのは、馬車のパーツや木材、机の脚といった物が入れられていた。
『なんだコレ?』
『キール君、コレって一体……』
『さっき言ってた仙具だよ』
二人が木箱の中身を見て首を傾げていると、キールは木箱の中に入れられていた木材の一つを手に持ち、木端部分に力を入れる。
すると木材が二つに割れ、中から消属性の精霊石の欠片と術式に囲まれた魔属性の精霊石が姿を現した。
『それ、確かリルさんに着けられたのと同じ精霊石⁉』
『この術式、不和を起こさせる奴だ。
と言う事はコレがもう一つの仙具なのか⁉』
『あぁ、ケイと翡翠の渡り鳥の連中が苦労して発見してくれたんだが、この通り形が全部バラバラで一つ見つけるのにかなり苦労してるみたいなんだ』
『全部バラバラって、この箱に入ってる奴全部仙具なの⁉』
キールの話から木箱の中身が全て不和を起こす精神異常の仙具だと聞いたヨキは、その量に目を見張った。
ケイ達が集めたという仙具は木箱一杯に入っており、にも関わらずまだ同じ仙具が仕掛けられていると言うのだから驚かずにはいられない。
『ここにあるのはまだ機能してるのか?』
『いや、この箱に入ってるのは全部オイラが∮チェック・ダ・ロック∮を掛けたから停止してるから問題ない。
それでもさっきみたいな暴動が起きた事を考えると、まだ仙具があるとみて良いだろう』
『全然問題なくないよぉ! 早く見つけないとまた暴動が起きちゃうよ!』
まだ不和を起こす精神異常仙具が仕掛けられている可能性があるというキールの発言を聞いたヨキは、涙目になりながら仙具を探すべきだと強く訴えた。
止める側だったとはいえ、ヨキからすればかなりの恐怖だったようだ。
ヨキの涙ながらの訴えに対し、キールは困り果てた様子で答えた。
『そうしてぇのは山々だが、大人数で仙具を探そうものなら、周りが仙具の影響を受けて今度はオイラ達が一方的にヘイトを向けられて立場が危うくなる。
それにさっきも言った通り、ケイと翡翠の渡り鳥が探すのに苦労してるんだ。
そう簡単に見つけられるならとっくに解決してる』
『キールのいう事は一理あるな。
まだ慣れてないってのもあるだろうけど、見つける事に特化しているアクアシーフのケイがここまで苦戦してるとなるとかなり厄介だ』
『それってつまり……』
『しばらくは現状を維持しながら、慎重に仙具を探して貰うしかないって事だな』
俺達じゃ皆目見当も付かないし、と言いながらキールは大きなため息をついた。
すぐに解決する事が出来ないと嫌でも理解したヨキは、ショックのあまりその場に座り込んでしまう。
『兎に角、仙具の捜索はケイ達に任せておくしかねぇ。
何かあるまでお前らは仙具の影響で起こるいざこざを可能中限止めてくれ。
仙具の件は他の連中には言うんじゃねぇぞ!』
*****
「あれから一重週経ったけど、キール君からは何も連絡ないね……」
「多分、仙具を見つけられないってのもあるけど根本的な解決方法が見つかってないんだ。
アレだけ形が統一されてないとなると、オリソンティエラ到着までに仙具全部の回収ってのは無理があるぜ」
「ケイ達を手伝いたいけど、キールくんに釘を差されちゃったからね。
また一重週まえみたいな事が起こるんじゃないかと思うと気が気じゃないよ」
顔を俯かせながら、ヨキは胸の内をバンに明かした。
少しでも状況を改善させるには不和を起こす精神異常の仙具とその効果を維持させている平行線の瞳を全て回収し、停止させる必要がある。
だがいくつ仕掛けられているのかわからないうえ、全て巧妙に隠されている以上ケイや自分たちよりも先に事情を把握している翡翠の渡り鳥のように探し出すのは困難を極める。
何より下手に動いて周りを刺激すれば、元も子もない。
「兎に角、他の皆の様子も確認しに行こう。
一度落ち着いたとはいえまだ安心できる訳じゃないんだ」
「うん、そんなすぐに問題が起こらなければ良いけど……」
リノア砦に着いてからの様子を確認するためにヨキとバンは、各配置場所にいる仲間達の元を訪ねる事にした。
まず最初に中衛左翼に配置されているケイとヒバリと翡翠の渡り鳥の元を訪ねた。
「ケイ、ヒバリ君」
「あ、ヨキにバン。調子はどうだ?」
「ある意味殿を任されているようなもんだから結構疲れるよ。
そっちの方はどうだ?」
「セッシャ達の方は少々、いやかなり参ってるでごじゃる。
先週の件に踏まえてこの空気の悪さ、とても改善しているとは思えないでごじゃるよ」
「おまけに薬の減り具合も想定より早いから、作り足さなくちゃいけないんだ。
この様子だと買い込んだ薬草を使い果たしそうなんだよなぁ」
「僕の方も同じ。
ケイがギョルシル村で持たせてくれた薬も、結構使っちゃったから」
仙具の回収担当となっているケイ達は、一重週前に起きた暴動の事を思い出しながら、状況が未だに改善されない事に頭を悩ませていた。
ケイに至ってはギョルシル村で作り込んだ薬をあっという間に消費したため、万が一に備えて取っておいた薬草も使い果たすかもしれないと嘆いていた。
「今の状況を考えると、とても私達だけじゃ見つけ出せないわね。
仙具の回収に対して人員を増やす事ができたら楽なんだけど……」
「そんな事したら周りがパニックになっちゃうよ。
忘れちゃったのセレン?」
「そんな事わかってるわよシファ。
ラファ、何か良い案はないの?」
「残念ながら、思い浮かばないですね。
ただでさえ見付け出せている事に感しても、ある意味運が良いとしかいえないし」
セレン、ラファ、シファの三人は、仙具探しに非土手が欲しいが状況が状況なので増やせない事を落ち込んでいた。
やはり三人もこの状況はかなり厳しいらしい。
「どっちにしてもおっさんが戻って来るまで休んでようと思うんだ」
「そっか、僕達は他の皆の所を回って様子を確認しようって考えてるんだ」
「そっかぁ、二人は見回りかぁ」
「何かあったらすぐに呼んでちょうだい、すぐ駆けつけるから」
「ありがとうございます。それじゃあまた後で」
ケイ達から一通りの話を聞き終えたヨキとバンは、次に中央の方にいるマリとヒエン、レイアの元を訪れた。
マリとレイアは馬車から既に出ており、マリは御者の手当をしていた。
「マリ、その人どうしたの?」
「ヨキ、それが一重週前の暴動の際に飛んできた石が当たっちゃったみたいで、手首を痛めたそうなのよ。
当たったとはいえ擦程度だったみたいだけど、結構な勢いで飛んできたみたいで擦りむいちゃったみたいなの」
「あの時の暴動に巻き込まれたのか」
「確かに、僕達がいた場所以外でも喧嘩とかが起きてたんだっけ……」
マリから御者が怪我をした理由を聞いたヨキとバンは、一原因を知り頭を悩ませた。
その間にもマリは御者の手当を続ける。
包帯を外し手の甲に着いている綿紗を外すと、水で傷口を洗い流し清潔な布で丁寧に拭き取る。
「イテテッ! 痛い痛い!」
「少しの間我慢して下さいね……」
「うわ~、かすったとはいえハンイが広いから、見てるこっちが痛いよ」
「ずっと同じ綿紗を着けてるのは逆に衛生面上悪いからね、定期的に着け変える必要があるから」
「そういえばヒエンの奴は何処いるんだ?」
「ヒエンはこの乗合馬車の後方にいるわ」
ヒエンが乗合馬車の後方にいるとマリから聞いたヨキとバンは、そのまま乗合馬車の後方に移動する。
後方に移動するとまりが言った通りヒエンがいたが、愛用している洋弓銃を険しい表情で睨みつけていた。
「……ねぇ、なんだかヒエン君、凄く怖い顔してるんだけど⁈」
「随分と不機嫌そうなだな……。
おーいヒエン、少し話を聞きたいんだけどちょっと良いか?」
「あ゛ぁ? 一体なんのようだ?」
「この前の暴動から時間が経っただろう?
なんか変わった事ないか?」
「特に変化はねぇ、強いて言うならアレから落ち着いていた空気がまたピリピリしだしたくらいだ」
そう言いながらヒエンは自分から見た中央の様子をバンに教えた。
二人は横目で顔を見合わせながら、ヒエンの報告からまた仙具が起動し始めたと悟った。
そんな中、バンはヒエンが不機嫌な理由を本人に尋ねた。
「ところでなんでそんなに不機嫌そうな顔してるんだ?
おまけに洋弓銃睨みつけてるし」
「洋弓銃のガタが思ったより早く来てるからだよ」
「あ、レイア君」
「洋弓銃の調子悪いのか?」
ヒエンが答える前に、乗合馬車の中を通って後方にやってきたレイアが代わりに答えた。
レイアの話によれば、ここ最近の戦いが激化した事で洋弓銃を酷使してしまい、その結果思ったよりも耐久値を消費してしまったそうなのだ。
時間の合間をぬって自分で点検していたようだが、これ以上自力で点検することができないらしく、そのせいで洋弓銃を手に持ったまま睨みつけていたそうなのだ
「そういえばヒエン君、洋弓銃で直接殴ってたりもしてたような……」
「それだけ荒々しく使ったからタイキュウ値が大幅に下がるに決まってるよ」
「ようはこのままだとオリソンティエラに付く前に洋弓銃が壊れそうになってるのが不満って事か。
そうと分かったら、ちょっと貸してみろ」
そう言いながらもヒエンからの返事を待たずに洋弓銃を手に取ったバンは、そのまま錬金術を発動させた。
すると全体的に痛んでいた洋弓銃が光ったかと思いきや、特に変化は見られなかった。
「……特に変化はなさそうだな」
「一先ず錬金術でヒビ入ってる部分を塞いでおいたぜ」
「錬金術ってそんな事出来るの⁉」
「そうは言っても鉄を延ばす形で補強してるだけだからな、コレまでみたいに直接殴るみたいな感じで酷使しない限りはオリソンティエラまでは持つ筈だけど……」
「いや、それだけでも充分すごいって!」
バンが錬金術でヒエンの洋弓銃を補強したと聞いたヨキとレイアはその技術力に驚いていた。
一方でヒエンはというと、補強された自身の洋弓銃を無言で見つめていたが、内心困惑していた。
(補強したなんていうが、十分すぎるほど修復されてやがる。
ヒビの方も伸ばしたというより完全に埋まってるといって良い状態じゃねぇか)
「どうした? なんか問題でもあったか?」
「……何もねぇよ(どうなってやがるんだ、コイツの感性は?)」
「おいコラ! 礼の一つくらい言えよ!」
そう答えるとヒエンは洋弓銃を腰に携え、その場から離れていってしまった。
そのままヒエンを見送ったバンは、不機嫌そうな様子になった。
「チェッ! せっかく補強してやったのに、礼の一つくらい言えるようになりやがれってんだよ」
「まぁまぁ、そうカッカッしない。
そろそろ次の場所の様子を見に行こうよ」
「なんだ、もう行くのか?」
「少しでも様子を確認して備えておかないといけないから」
「情報共有は大事だからな、それじゃあ行くか」
「それなら、中衛右翼の方に行ってあげてくれない?」
ヨキとバンが次の配置場所に移動する直前、御者の手当を終えたマリが二人に場所を指定してきた。
不思議に思ったヨキは、その理由をマリに尋ねる。
「別に良いけど、なんで中衛右翼なの?」
「さっき聞いたんだけど、中衛右翼にいる人達がストレスが溜まる影響でもの凄い癒やしを求めてるみたいなのよ。
それでその被害にあってるのが……」
「あぁ……」
「なんとなくだけど察したぜ……。
わかった、次は中衛右翼の様子を見に行ってみるよ」
「ありがとう、ついでに何か甘い物とかニボシでも渡してあげて。
きっと精神的に疲れてるだろうから……」
中衛右翼の様子を説明しながら途中で口ごもらせたマリの様子から、誰が最も被害を受けているのかを察したヨキとバンは、被害者の様子を想像しながら哀れに思った。
マリも同じ事を考えていたらしく被害者を労わるよう頼み込む。
そのまま二人は中衛右翼を見に向かう事になったが、その途中に中央を通りがかったため、様子を確認する。
「中央の方は、比較的落ち着いてる感じだね」
「真ん中は基本的に荷物や非戦闘員しかいないからな。
襲われるかもって不安はあるけど、トリッククロウみたいな魔物でもない限り直接戦う事はないからその分岐が楽なのかもな。
っと、そろそろ右翼に着くぜ」
中央は特に問題はないと感じていると、いつの間にか中衛右翼の方に辿り着いた。
すると目の前に人だかりができており、その中心から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ゛ーっ! やめろや、やめぇや自分らーっ!」
「やめない! 絶対にやめないから!」
「こちとらモフモフ成分が足りてないんだよーっ!」
「モフモフモフモフモフモフモフモフ」
「あ〜、黒にゃんこ可愛すぎる〜」
「次は俺、俺な⁉」
「その次は私よ!」
「「う、うわ〜、予想はしていたけど予想以上に大変な事になってる……」」
中衛右翼では少しでもストレスを発散しようとしている冒険者達が、獣人であるニヤトとその相棒である黒猫のタメゴローに群がっていた。
獣人は耳と尻尾は自身の伴侶、もしくは伴侶となる相手以外に触らせないという習慣がある。
それは世の常識と化しており、よほどの馬鹿でもない限り触れられる事はない。
だがしかし、中衛右翼に配置された冒険者の多くは獣人以外の種族で、触り心地の良い生物を好んでいる者達が多いようだ。
その結果、その矛先が触り心地の良さそうな猫族であるニヤトと黒猫のタメゴローに向いたらしく、世の常識を破って撫で回しているようだった。
多少予想は付いていたヨキとバンだったが、実際は予想を遥かに上回っていたためかなりドン引きでいた。
「ここで被害にあってるのって、やっぱりニヤト君とタメゴローだったんだね……」
「予想以上にモフられてるな……」
「あぁっ! バンにヨキやないか!
頼む、助けてくれーっ!」
「ナァ〜ォ」
冒険者達に撫で回される中、様子を見に来たヨキとバンに気が付いたニヤトは二人に助けを求めた。
タメゴローも同様に助けの鳴き声を上げたため、このまま放置という訳にはいかないのだが、いかんせん冒険者達の様子からそう簡単ではない事はわかっていた。
「助けたいのは山々だけど、どうしようバン、周りの人達の勢いが強すぎて近付きたくないよ……」
「仮に助け出せてもこの様子じゃあ俺達にとばっちり来そうで怖いな、どうしたものか……」
ニヤトとタメゴローを撫で回す冒険者達の様子が尋常ではない事をわかっていったヨキとバンは、下手に手が出せずどうしたものかと悩んだ。
するとそこに、角が生えた兎を抱きかかえたフィービィーが通りかかった。
「うわぁ〜、ニヤトとタメゴローが大変な事になってるね〜」
「フィービィーさん! あれ? その兎どうしたんですか?」
「兎じゃなくてホーン・ラビットっていう赤階級の魔物だよ。
アタシ達が来る前に壁が崩れちゃうトラブルがあったみたいで、そこから入って来た所を見つけたんだ。
他にも何匹か入ってるっぽいからリノア砦の管理者さんに報告して捕まえてもらおうと思ってね」
ホーン・ラビットのお肉は柔らかくて美味しいしね、フィービィーは笑顔でそう答えた。
フィービィーに抱えられたホーン・ラビットは逃げ出すためにジタバタと暴れているが、逃げる事ができないでいた。
そんなホーン・ラビットを見ていたヨキは、何処か残念そうな目で見ていた。
「モフモフだけど、食べちゃうんだ……」
「モフモフだけどそうだな。……ん? モフモフ?」
「どうしたのバン?」
「そうだコレだ! フィービィー、崩れた壁って何処だ?」
「それならアッチの方だよ」
「サンキュー! そのホーン・ラビット食べるのちょっと待っててくれ!」
「え? ちょっ何処行くのバン⁉」
何を思いついたのか、バンはフィービィーからホーン・ラビットを見つけた場所を聞くとそのまま走り去ってしまった。
あまりにも突然の事過ぎたため、ヨキはその場で動けず呆然としていた。
「い、行っちゃった……。一体どうしたんだろう?」
「本当にねぇ。ところでヨキはなんでココにいるの?」
「え、っと全体の様子の確認と他の配置場所にいる皆と情報共有しようと思って、さっきまで中央の方にいたんです」
「成る程〜、それだったらココは見ての通りだね。
またストレスが溜まってきたみたいで、モフモフなニヤトとタメゴローが犠牲になってるよ。
そのおかげか喧嘩とかは起きてないんだ」
「みたいですね……」
フィービィーから中衛右翼の様子を聞いたヨキは、フィービィーが抱きかかえているホーン・ラビットをジッと見つめた。
ホーン・ラビットは逃げられないと諦めたのか、フィービィーの腕の中で大人しくしていた。
こうして大人しくしていれば、普通の兎と何ら変わりがなく、良く見れば可愛らしい外見をしていた。
羨ましそうにホーン・ラビットを見つめていると、それに気付いたフィービィーがこんな提案をしてきた。
「試しに抱っこしてみる?」
「え、良いんですか⁉」
「めちゃめちゃ弱いから大丈夫だって。
頭の角に気をつけていれば、普通に抱っこしても問題ないもん。
ホラッ!」
「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて……。うわぁ……っ!」
フィービィーからホーン・ラビットを受け取ったヨキは、触り心地の良い柔らかさに声を上げた。
普通の兎と同じようにその毛並みは柔らかく、なおかつフワフワな感触だった。
コレにはヨキもかなり満足していた。
「凄い、フワフワで滑らか、本物の兎と変わらない……」
「兎ベースの魔物だからね、触り心地はそんな変わんないんじゃないかな?」
「おーいお待たせーっ!」
「バン、おかえr……ってどういう状況それ⁉」
ホーン・ラビットの毛並みを堪能しているとその場を離れたバンが戻ってきたため、声をかけたが、その光景に思わず驚きの声を上げた。
何故なら、バンの両手には大型のバスケットに詰め込まれた大量のホーン・ラビットがいたからだ。
「いやぁ、思ったよりホーン・ラビット捕まえるのに手間取ってさ。
なんとか連れて帰ってこれたぜ」
「イヤイヤイヤイヤッ!
僕が聞いてるのはそういう事じゃないよ⁈」
「もしかしてさっき言ってた場所で捕まえてきたの⁉」
「あぁ、一応駐在の兵士には許可もらってあるから心配ないぜ」
そう言ってホーン・ラビット達が入った大型のバスケットを前に置くと、バンは地面に膝と両手を着け、錬金術を発動させる。
するとバンの目の前に半径10kmの柵が出来上がり、バンはその中にバスケットの中にいるホーン・ラビット達を柵の中に放った。
「コレぐらいなら良いかな? おーいコッチに注目!
大量のモフモフなホーン・ラビットを捕まえてきたから、今後はこっちをモフモフしてくれ!」
「モフモフ?」
「モフモフだと?」
「モフモフですって⁈」
「本当だ、大量のモフモフがいるぞ!」
バンの呼びかけに反応した冒険者達の視界に、先程捕まえたホーン・ラビット達の姿が映る。
ホーン・ラビット達に気付いた冒険者達は、ニヤトとタメゴローから手を放すとそのままホーン・ラビット達がいる柵に集まり始めた。
「キャーッ! モフモフよーっ!」
「猫以外のモフモフを堪能できるなんて……、ありがたすぎる!」
「可愛い、可愛すぎるわーっ!」
冒険者達はホーン・ラビットを撫で回しながら、喜びの声を上げる。
一方でホーン・ラビット達はあまりにも突然の事に動揺し、ヨキが抱きかかえている個体を除き逃げようとするが一匹として逃げる事は叶わなかった。
その隙にバンは地面に倒れ伏しているニヤトとタメゴローをその場から避難させる。
「大丈夫かニヤト、タメゴロー? とんだ災難だったな」
「あぁ、ほんまやで……。ワイをなんやと思ってるんやアイツラ」
「ンニャ〜オ」
「成る程、大量のホーン・ラビットにモフられ役を押し付けて、その隙に救出って訳か」
「だからあんなに沢山連れてきたんだねぇ」
バンの意図を察したヨキとフィービィーは、バンの作戦に感服していた。
無事救出されたニヤトとタメゴローは、撫で回されすぎたせいか疲労困憊になっており、いつもの元気の良さは何処かに飛んでいっていた。
「とりあえずホーン・ラビット達がモフられ役を引き受けてくれてるから、今の内に砦内に入って休んでこいよ」
「お言葉に甘えてそうさせてもらうわ、サンキューなバン。
早よ逃げるで、タメゴロー」
「ンニャオ」
冒険者達がホーン・ラビットに夢中になっている内に、ニヤトはタメゴローを連れて砦内に逃げていった。
その様子を見届けたヨキとバンは、思わずため息を付いた。
「この調子だとラヴァーズの方もかなり心配だな」
「だね、おまけにヒールスライムを抱えてるからニヤト君みたいな事になってるかも……」
「それはないよ、だって鬼神の慈愛が徹底防御固めてるもん」
「最強のセキュリティに守られてるようなもんだからな……」
フィービィーからラヴァーズとヒールスライムの様子を聞いたバンは、複雑ながらも妙に納得した様子だった。
「あとは前衛と荷馬車の方だな、キールにも話を聞いとかねぇと…」
「キールならジェイコブさんに呼ばれてどっか行ったから、荷馬車の方にはいないよ?」
「そうなると、後は前衛にいるディルカさん達だけって事だね」
「だな、ひとまずディルカ達にも確認してみるか。
ありがとうなフィービィー」
「またあとでね〜」
ヨキとバンはフィービィーと別れ、前衛にいるディモルフォセカ達の様子の確認に向かった。




