第10話 前世の記憶を持つ少年
バンとリースのレイフォン兄弟と旅に出て早一週間半、ヨキは恵みの村や離れ離れになったケイとマリの事を考えていた。
恵の村はどうなっているのか、ケイの家族は無事なのか、何よりもヨキは竜巻によって引き離されたケイとマリが今どうしてるかを考えていた。
自分の事もあるが、やはり二人が今どうしているのかすらわからない以上、無事を祈るしかなかった。
不意にバンがヨキに声をかけた。
「どうしたヨキ?」
「え? うっうん、ケイとマリの二人がどうしてるかなぁって」
「ヨキさんは本当に思いやりがあって優しいですね」
ヨキは少し照れながらリースの言葉に温かさを感じた。
恵みの村がヘルシャフトに襲われ、謎の竜巻によってケイとマリの二人と引き離されてから色々な事があり、それなりに時間が立っていたため不安に思っていたが、バンとリースに励まされながらヨキは旅を続けていた。
すると目の前に森が見えた。
その森は数百メートルも広い、深い深い森のようだった。
実りの街でも何度か森に入った事はあったが、今目の前に見える森のように広くはなかったため、ヨキ達は森の入り口で立ち往生していた。
「うわぁ、凄く広そうな森に来ちゃったね」
「下手に動いたらすぐに方向を見失ってソウナンしそうですね……気をつけないと」
「あぁ大丈夫大丈夫。ようは離れなきゃいいだけの話だろ? だったら行こうぜ」
「まって下さいよ兄さん。かってなこうどうはつつしんで下さい!」
「バン、一人で森に入ったら危ないよ!」
森に入ってからの行動を考えていたヨキとリースと違い、バンはそう言ってそのまま森に入って行った。
バンの顔は面白さで溢れており、ヨキとリースもバンの後を追って森に入って行くと、その森は何か神秘に満ちた雰囲気を漂わせていた。
ヨキもリースもその雰囲気に気付き、その雰囲気に呑まれていたが、ただ一人、バンは違っていた。
バンは森に漂う神秘に満ちた雰囲気に呑まれる事なく、どんどん先に進んで行ってしまうため、ヨキとリースは慌ててバンの後を追う。
どちらかと言うと、バンは面白そうだから勝手に一人で行動してしまう事があるらしく、リースの話によれば前にも似たような事が何度かあったらしく、仲間達と探す羽目になり見つかったのは黒申時だったらしい。
それにバンは好奇心旺盛ため、目を離すとすぐどこかに行ってしまうそうだ。
弟であるリースでもバンを探すのは一苦労し、バンはいわゆるトラブルメーカーに近い存在なのだ。
「リース君も大変だね、バンってまるで小さい子供みたい」
「昔からそうなんです。人一倍強いコウキシンのせいで、何かとトラブルを起こしては周りの人を困らせていますし」
「ほっ本当に大変なんだね」
バンの昔話をしているリース本人が疲れた様子で話していたため、思い出しただけで疲れるような事が起きていたのかと思うと、話を聞いていたヨキはバンがこれまで何をしでかしたのかと不安になった。
しばらくして広い場所に出て、ヨキ達はそこで休憩を取る事にした。
ヨキもリースも疲れているのに対し、バンは疲れを見せるどころかまだまだ元気そうなそぶりを見せていたため、その姿を見たヨキは呆然としていた。
(なんでバンってあんなに元気なんだろ?)
ヨキは森の中をかなり歩いたにも関わらず、どうしてバンが元気に動き回れるのかを不思議がっていた。
山の中にある恵みの村で過ごしてきたため体力はそれなりに自信があったのだが、やはり山と森とでは違いがあり、リース同様に疲れていた。
バンはヨキとリースの二人と同じ距離を歩いていたにも関わらず、一人で拳法の練習を始める程元気だった。
何か秘訣でもあるのかと考えていたその時だった。
「へむぎゅっ⁉」
バンが拳法の練習をしていると、なんとバンの右手の拳がヨキの顔面に直撃したのだ。
自分の拳がヨキの顔面に直撃したのを見たバンは、練習中にヨキに当たるとは思っていなかったようだ。
威力はさほどなかったのか、ヨキは後ろに吹っ飛ぶ事はなかったがバンの拳は、ヨキの顔から離れないままだった。
「ヨキ⁉」
「ヨキさん⁉ 兄さん何やってるんですか!?」
バンの拳がヨキの顔面に直撃したのを見たリースは、慌ててヨキの顔からバンの拳をどけた。
バンの拳が顔から離れたヨキは、最初こそ驚いて呆然としていたが、やはり痛い物は痛いらしく、次第に涙目になっていった。
ヨキの顔にはバンの拳跡がしっかりと残っており、赤く腫れあがってもいた。
「ひ、酷いよバン~」
「本当に大丈夫ですかヨキさん⁉ 兄さん、周りには注意してくださいと何度も言ってるじゃありませんか!」
「わっワリィワリィ。俺向こうの方で練習してくる」
腫れあがっているヨキの顔を見たリースは、バンに注意しながら苦情を言いながらヨキの顔を濡れたタオルで冷やし始めた。
リースに注意されたバンは二人から距離を取り、蹴り技の練習をするために反対側の木を蹴り始めたが、そこでまたしても事件は起きた。
バンが蹴った木の上から何かが落ちてきたのだ。
「「うわぁっ⁉」」
「バン?」
「兄さんこんどは…」
ヨキとリースは、自分達の見ていないところで場がまた何かしでかしたのだと思い視線をバンに向けると、ヨキとリースは思わず目を疑った。
「「…え?」」
ヨキとリースが見たのは、バンの上に乗っているリースと年が近そうな、服の丈が葉の先端を重ねたような形をした黄緑色の半袖を着たライトグリーンの髪をした少年だった。
どうやらバンが蹴った木の上から落ちてきたのは、この少年らしく、その少年を見たヨキとリースは何が起きたのかさっぱり解らなかったのだ。
バンは起き上がろうとすると上に何かが乗っている感覚に気付き、後ろを向くと自分の上に少年がいたので思わず大声で叫んでしまった。
「えぇ⁉ 人間~⁉」
「うるさっ! ってか誰だテメェ⁉」
自分を見て驚きの声を上げたバンの声に、少年はエメラルドグリーンの目を見開きながら状況を確認し始めた。
その結果自分がバンの上に載っている事に気付き、何者であるかをバンに尋ねた。
「だっ大丈夫バン⁉」
「それよりなんでこんな所に人がいるんですか⁉」
「うわ! 人形が喋った⁉」
「なっ人形って…………」
暫く呆然としていたヨキとリースだったが、バンの上に乗っている少年が喋り出した事でようやく我に返り、バンと少年に駆け寄ったのだが、少年に人形呼ばわりされたリースはしばらく黙りこんでしまった。
リースは瞳が大きいが故に昔から女の子に間違えられる事が多いらしく、今でもよく間違えられるらしいが、人形と間違えられたのは今回が初めてだったらしく酷くショックを受けた。
それからしばらくして、落ち着きを取り戻したヨキ達は少年の話を聞き始めた。
「君、名前はなんていうの?」
「オイラはキール! キール・ロワイヤル!」
「キール、なんでお前みたいなちっこい奴がこんな森にいるんだ?」
「ちっこいは余計だ! オイラはこの森で宝を探してるんだ」
「「「宝?」」」
キール・ロワイヤルと名乗った、幼い見た目からは想像できない大人びた喋り方をする少年から宝を探していると聞いたヨキ達は、声を揃えて同じ言葉をいった。
そんなヨキ達の反応は無視してキールは話を続けた。
「そっ、宝。ヘルシャフトに対抗するには、その宝を見つけてパワーアップしなきゃいけないんだ。
それがオイラの生まれた時からの使命なんだ」
「ヘルシャフトと⁉」
「生まれたときからですか?」
キールの口からヘルシャフトに対抗するという言葉を聞いたヨキ達は、自分達以外のもヘルシャフトに対抗する人物がいた事に驚いていた。
リースに至っては、生まれた時からヘルシャフトと戦う事が使命だというキールの発言に、疑問を抱いていた。
「おう、オイラじゃないといけないんだ。この右腕の痣がその証拠さ」
そう言うとキールはヨキ達に右腕を見せた。だがヨキ達はキールの右腕を見て驚いた。
キールの口からヘルシャフトが出て来た事にも驚いていたが、それ以上にキールの右腕の痣は、色と模様は違うがヨキの右腕にある痣に似た雰囲気をしていたため、更に驚いたのだ。
「どうしたんだよ、そんなに驚いて」
「その痣、僕の痣に似てる! でも、色と模様が違う…」
そう言ってヨキは右腕の袖をめくってキールに見せた。
ヨキの右腕の痣を見たキールは、その痣を見て心当たりがあるらしくヨキにある事を尋ねた。
「この痣、『聖痣』か? って事は、お前、オイラと同じスピリットシャーマン?
いや、にしても色が違うし…」
「スピリットシャーマン? それって何? キール君、教えて!」
キールの口からスピリットシャーマンという言葉が出て来たため、ヨキは実りの街にいる時にヘルシャフトに言われた、シャーマンの生き残りという言葉と何か関係があるのではないかと考え、キールにスピリットシャーマンというのか何なのかを尋ねた。
スピリットシャーマンというのが何なのか、それがわかれば自分が何者なのかわかるのではないかと考えたのだ。
ヨキにスピリットシャーマンの事を聞かれたキールは、快くスピリットシャーマンについて話してくれた。
「いいぜ。オイラの先祖はスピリットシャーマンっていう、ちょいと特殊な一族なんだ」
「トクシュって、ぐたいてきには?」
「スピリットシャーマンは全員神の加護を持ち、その加護の影響で普通の法術士が使う法術よりも強力な法術を使う事ができるんだ。
加護の影響でスピリットシャーマンが使う法術はヘルシャフトや一定の敵に対して有効なんだよ。
オイラ達の法術が有効打になるのと、ヘルシャフト達が暴れまわってたのもあってオイラ達は必然的に敵対した。
その対立は簡単には終わらず、ヘルシャフトは質の悪い連中と手を組んで、他の種族も巻き込んで、三千年前にどう言い表せばいいかわからない酷い戦争に発展したんだ。
その戦争でオイラ達は世界を守るために戦ったんだ。
当時のオイラ達も色んな奴らと協力して、多くの犠牲を払いながらヘルシャフトと戦って、やっとの思いで封印する事に成功したんだ」
キールは真剣な表情でスピリットシャーマンについて説明し、スピリットシャーマンとヘルシャフトの因縁がいかに深い物かを語った。
その戦いは本当に酷かったのだろう、キールの表情は暗かった。
すると、話を聞いていたバンがキールにある事を訊ねた。
「なぁ、さっきから聞いてて気になったんだけど、なんか実際に体験したみたいな話し方だぞ?」
「言われてみればそうですね…」
「それなら簡単だ、オイラはその子孫であると同時に生まれ変わりなんだよ」
「生まれ変わりって事は、生まれ変わる前の記憶があるのか?」
「あるぞ。って言っても、所々抜け落ちてるし、個人的にあまり思い出したくない事もあるんだよな」
前世の記憶があると聞いたバンは興味津々でキールに聞いたが、どうやら全て覚えているという訳ではないらしく、キール自身あまり思いだしたくない事もあるようだ。
それからキールの話から昔のスピリットシャーマンとヘルシャフトとの戦いの話を聞き、ヘルシャフトとの戦いがいかに過酷かを知った。
ヨキはスピリットシャーマンの中で、『ウィンドウセイジ』という一族が気になった。
「どうだヨキ? 何か思い出したか?」
「ううん、何も。けどウィンドウセイジっていう人達の事が気になるんだ」
「キール、お前の話に出て来たウィンドウセイジってどんな一族なんだ?」
「ウィンドウセイジっていうのは風の法術を使う連中なんだ。
人数こそ少なかったけど風を操れるし、スピリットシャーマンの中では一番力を持っていたにも関わらず、情報伝達も請け負ってくれたから、ヘルシャフトとの戦いでは戦力の要みたいな役割を担ってたんだ」
キールからウィンドウセイジの事を聞いたヨキは、風を操るという点が気になった。
風を操る、という点に関してはヨキが初めてヘルシャフトと戦った際に、スマッシュ・スマッシュを唱えた直後に発生した風の衝撃波の事もあり、記憶を失う前の自分がウィンドウセイジと関りがあったのではないかと考えていた。
念のためにヨキはその事をキールに話すと、キールはヨキがウィンドウセイジの生まれ変わりではないかと指摘したのだが、ヨキの右腕にある痣が自分の知っている色と違うため断言できないと答えた。
それを聞いたヨキは自分が何者なのかわかるかもしれないと期待していた分、少し落ち込んでしまった。
するとリースがキールにある質問をした。
「それでキール君、このもりにある宝ってなんですか?」
リースはキールが言っていた自分達が今いる森に宝を探しに来たと聞き、その宝がどんな物なのか気になっていたためキールに尋ねた。
最初にその宝がヘルシャフトと戦うために必要なものと聞いていたため、気になっていたようだ。
リースに尋ねられたキールは、真剣な様子でその宝について話し始めた。
「その宝は、前世のオイラがヘルシャフトと戦っていた時に奴らから奪い取った物、その宝のおかげでオイラ達はヘルシャフトと対等に戦う事ができた。
この森に前世のオイラの仲間が残した遺跡があって、そこに宝があるんだよ。
だから行かなくちゃいけないんだ」
「一応お前以外にもナチュラルトレジャーはいるんだろう?
大人に持って来てもらうって事は出来なかったのかよ?」
「無理だな。その宝は聖痕を持つオイラしか触れられないようになっていて、それ以外の奴は触れられない。
それ以前に、聖痕を持つという事は、オイラ達ナチュラルトレジャーを守護する神に期待されているという事だ。
だから他に誰かに任せるなんて、オイラにはできねぇ」
キールは聖痕を見つめながらヘルシャフトと戦うために、前世の仲間達が残した宝を手に入れなければならないというその姿は、まるで大人。
キールには前世の記憶があるという事もあり、その事もあって通常の子供よりも大人びて見える。何よりその宝が聖痕を持つキールにしか触れられない物らしく、その分余計にプレッシャーになっているのだろう。
するとヨキが、キールにある事を尋ねた。
「その遺跡に僕達も行っていい? そこに行ったら、何かわかる気がするんだ。そしたら何か思い出せる気がして」
ヨキはキールの話に出て来た宝があるとされているという遺跡が気になっていた。
その遺跡に行けば何かを思い出すかもしれないと思ったヨキは、遺跡の場所を知っているキールに同行しても問題ないかを尋ねたのだ。
「ヨキさん、キール君の事も考えないと…」
「いいぞ。ヘルシャフトと戦う戦力は多いに越した事はないからな」
「はっ早いですよキール君」
キールの話から大変な事かもしれないと思ったリースは、自分達がついて行く事でキールの負担になるかもしれないと考えヨキを止めたのだが、早すぎるキールの返事に驚いた。
いくらなんでも早すぎるからだ。
キールにとって、その宝を手に入れるという事はとても大切な事の筈なのに、当の本人は気にしている様子はなく、あまりにも早すぎる返事を聞いたリースはどのように反応するべきか困ってしまった。
同行しても問題ないと聞いて真っ先に反応したのは、同行していいかを尋ねたヨキではなく話を聞いていたバンだった。
「よし! そうと決まれば早速行こうぜ!」
バンはキールが目指している遺跡とその遺跡にあるという宝に興味を示したのか、切り株から立ち上がると誰よりも先に走り出した。
「あっ! 待ってよバン! 僕達遺跡の場所知らないよ⁉」
「抜け駆けすんなよおい! それ以前に遺跡のある方向はそっちじゃないぞ!」
「また兄さんのわるいクセがはじまった…」
キールの早すぎる返事と同様に、あまりのも早すぎるバンの行動に呆然としていたヨキ達だったが、バンが遺跡の場所を知らない事を思い出し、三人は慌ててバンの後をを追った。
ヨキとリースに至ってはバンがまた何かしらのトラブルを起こす危険がある事を理解していたため、バンが何かをしでかす前に止めようと必死だ。
そんな中でヨキはキールの言う遺跡に自分の過去を知る希望を託して、その先に待つものは何かを考えていたのだった。




