第98話 従魔契約【ヨキside】
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バーナードキャラバンは次の休憩地点に向かい途中、トリッククロウの群れの襲撃を受けた。
幸い荷馬車に積まれたエナジーフルーツは無事だったが、トリッククロウが乗合馬車に侵入するという想定外な事があったため人的被害が思った以上に出てしまった。
「イテテテテッ! もう少し優しくしてくれよぉ」
「文句言わないの!
これだけで済んだだけでも運が良いんだから!」
「トリッククロウの被害に遭われた人は、こちらに集まって下さーい!
傷の状況を確認して治療させていただきます。
ただし、命に関わる傷や余程の事がない限りスキルによる治療は施さないので、その点はご協力お願いしまーす!」
「被害は人的なものだけで積み荷からは物的被害は出ていない、この認識で間違いないな?」
「はい、エナジーフルーツが入れられている箱も損傷はなくちゃんと機能しています。
ただ、荷馬車を引く馬達も何頭か怪我したようで、そちらの確認が終わるまでは移動を控えさせていただきたい所存です」
思った以上に積み荷以外の被害が多く、そちらの確認が終わるまで移動を再開するのは難しいという結果、そのまま野営の準備に入る事となった。
そしてヨキ達も一度集り、お互いの安否確認をしていた。
「ラヴァーズ大丈夫?
ラヴァーズが乗ってた乗合馬車にもトリッククロウが侵入したって聞いたわよ⁉」
「うん。トリッククロウが入ってきた時はビックリしたけど、鬼神の慈愛のみなさんがすぐに来ておい出してくれたから平気だよ」
「そう、それは良かったわ!」
「いや、馬車の幌が大変な事になってるから大丈夫とは言いがたい気がするんだけど……」
「見事なまでにボロボロやなぁ。
骨組みが折れてへんだけでも奇跡や」
他の非戦闘員同様にトリッククロウの被害に遭ったラヴァーズが無傷だったため、問題なしと一方的に判断するカトレア。
それに対し鬼神の慈愛が暴れた事で、ラヴァーズが乗っていた乗合馬車の幌が所々破けており、ディモルフォセカは半ば呆れ、ニヤトは目の前にある乗合馬車の惨状に困惑していた。
「そんな事よりもこっちの方が問題だ。
なんだってトリッククロウを捕獲してんだお前は!
それ以前にどうやって捕獲した⁉」
そう言いながらヒエンはマリに詰め寄った。
マリの手元には顔だけ袋から出ている状態のトリッククロウがいた。
乗合馬車の幌がボロボロになった事以上に、マリがトリッククロウを捕獲した事の方が衝撃的だったようだ。
「えーっと、トリッククロウの群れがはなれた直後に僕達が乗ってた乗合馬車のほねぐみにはさまっている所をマリが見つけて、包帯で動きを固定してる間に僕が持ってるマグマ唐辛子の粉を口の中に突っ込んで大人しくさせたんだ……」
「うげっ! マグマ唐辛子を突っ込んだって本当かよ⁉」
「えぇ、あのまま放置したら包帯を解いて暴れ出しちゃうから大人しくさせるためにね。
お陰で袋に入れて大人しくさせられてるわ」
「完全に戦意をそうしつしてますね……」
「カァ……」
袋に入れられ、尚且つ暴れる気配がないトリッククロウの様子から完全に戦意喪失しているのが見て取れたが、それはそれで反応に困るヨキ達。
トリッククロウを捕獲するに至った経緯を説明したレイアも、未だに困惑している様子だった。
「それよりそのトリッククロウどうするんだよ?
このまま逃がす訳にもいかないし、そのまま連れて行くなんて無理だぞ」
「とりあえず誰かペットに欲しい人いないか聞いてみようかなぁって思ってるんだけど、誰かいるかしら?」
「いや誰もおらんやろう!」
「まぁ確かにペットにしたい奴はいないだろうが、使い魔とか式神にしたいって奴くらいはいるだろう」
「ツカイマとシキガミってなんですか?」
「自分の仲間にした魔物とかの事だよ。
スキルの系統とかで呼び方は違ったりするけど、基本的には同じだね。
せっかくだからリースの式神にしちゃえば?」
使い魔と式神について軽く説明したフィービィーは、その流れでトリッククロウをリースの式神にしてはどうかという提案を出した。
提案されたリース本人はしばらくトリッククロウを見つめたが、首を横に振った。
「残念ですけど、僕とは相性が良くなさそうです」
「ありゃりゃ、それは残念」
「もういっその事剥製にして売った方が手っ取り早そうだな」
「カァ〜……」
「それは流石に可愛そうだよ、キール君」
キールの口から剥製にした方が早いと出てきたため、トリッククロウは涙目になりながら悲壮感を漂わせておりその様子を目の当たりにしたヨキはトリッククロウが哀れに思った。
トリッククロウの運命ここに尽きたから思われたが、そこに鷹獅子の西風の槍士メルビィがやって来た。
「いたいた、四人共探したわよ。
何かあったみたいだけど、どうかしたの?」
「すまん、連れの一人が逃げ遅れたトリッククロウを捕まえてどう扱うかで話していたんだ」
「誰か、使い魔に欲しい人がいないと、剥製にされちゃうんです……」
自分達を探しに来たメルビィに事のあらましとトリッククロウの末路を話したヨキとラピスは、申し訳無さそうにしていた。
トリッククロウと聞いたメルビィは、マリの手元にいるトリッククロウを確認した。
「随分大人しいわね、どうやって捕まえたの?」
「包帯で羽ばたかないようにしてマグマ唐辛子の粉を舐めさせました」
「それは大人しくなるわね。
良かったらウチで引き取ろうか?」
思わぬメルビィの提案に面食らったヨキ達は、視線をメルビィに向けた。
トリッククロウも驚いてヨキたちと同じ行動を取る程だ。
「良いんですか?」
「正確にはリンダに引き取ってもらう形になるわね。
ウチのパーティって斥候がいないから偵察とか困ってたのよ」
「そういえばリンダさんは魔法士でしたね。
それでしたら問題なさそうです」
「それじゃあ決まりだな。
マリ、トリッククロウを渡してやれ」
「それじゃあこのままお渡ししますね。
トリッククロウは丸洗いしているので、匂いとかは気にならないと思います」
「トリッククロウを丸洗いしたの⁉」
「トリッククロウを丸荒しているのを見た時は驚いたなぁ〜」
そう言いながらバンは遠い目で空を見上げた。
自分の知る限りでは魔物を洗う際はスキルで済ませる事が基本だが、マリのように物理的に洗うのはあまりないようだ。
マリからトリッククロウを受け取ろうとしたメルビィも思わず驚き、思わず手を引っ込める形で反応してしまう。
その拍子にトリッククロウを受け取りそこね、マリとメルビィの手から転げ落ちヨキが慌てて受け止めた。
「あぶっあぶっ! 気をつけて⁉」
「カァ〜」
「あ~ゴメン、驚いてつい」
「じゃあ改めて、トリッククロウの引取お願いしますね」
ヨキからトリッククロウを受け取り、改めてメルビィに袋に入れられたトリッククロウを手渡すマリ。
メルビィも今回はしっかりとトリッククロウを受け取った。
「OK、今度はしっかり受け取ったわ。
それじゃあフェム達の所に戻りましょう」
「そういえば僕達、呼ばれてたんだっけ?」
「すまない、私達はここで離脱する。
また野宿の際に集まって情報交換を頼む」
「おう、そっちもトリッククロウの後処理は任せたぞ」
鷹獅子の西風のリーダーであるフェムから呼ばれていると聞いたヨキ達は、その場に残るキール達に別れを告げ、メルビィと共に他のメンバーが居る場所に向かった。
「ただいま〜、リーダー戻ったよ」
「すみません、遅くなっちゃいました」
「それで要件ってのは?」
「あぁ。ヘルシャフトの退治方法についてだ。
他の高位階級の魔物ならまだなんとかなるが、ヘルシャフトに関しては君達以外で何も無い状況なんだ」
「何か方法はないか相談したかった所なんですよ。
なにか良い案はありやせんかね?」
「スピリットシャーマン以外となると、今の所はラピスとスズのウィアグラウツの攻撃だけだな。
ここにいる全員でってなるとかなり難しいぞ」
フェムが自分達を呼んだ理由が、スピリットシャーマンの法術以外でヘルシャフトにダメージを与える方法はないかを聞く事だと理解したバンは、現段階では無理だと宣言した。
「それよりもリンダに頼まれてほしい事がある」
「私に頼みたい事?」
「ヨキ達の仲間が捕まえたトリッククロウを引き取って欲しいんだって、この子がそうだよ」
「カァー」
メルビィはトリッククロウが入った袋をフェム達に突き出しながら、事情を説明した。
「トリッククロウ!
あの時全部逃げちゃった筈なのに残ってたの⁉」
「良くもまぁ捕まえられやしたね」
「僕の幼馴染が、乗合馬車から逃げ遅れているのを見つけて、捕まえたそうです。
あと、洗ってあるから、汚くはないらしいです」
「……トリッククロウを洗ったのか?」
トリッククロウが洗われていると聞いたソーンは、信じられないという様子でヨキ達を見た。
やはり捕まえた魔物を生きたまま洗うのは、一般的ではないようだ。
「はい、つかまえた本人が気をつけながら石けんを使って洗っていました」
「わざわざ石鹸を使ったんですかい?」
「妙にフワフワしているように見えたのはそういう事だったのか」
「トリッククロウを洗ったのか……」
メルビィの手元にいるトリッククロウが洗われていると聞いたフェム達は、マジマジとトリッククロウを観察した。
一方で観察対象になっているトリッククロウは、何処となく居心地が悪そうで大人しくしていた。
「なんか、居心地悪そうにしてるね」
「まぁ、自分より強い男三人に囲まれてたらあぁなるわな」
「まぁまぁ、丸洗いされた事は置いといて…」
「置いておくんですね……」
「この子くれるってんなら問題ないわ。
私自身もそろそろ従魔が欲しいって思ってた所なのよ。
何メニーで買い取ったら良い?」
「いや、金はいらない。
正直引き取ってくれるとこちらとしてもありがたい」
トリッククロウの引取が確定し、ラピスは安堵した。
もし鷹獅子の西風でも断られていれば、いよいよ扱いに困る所だったが、その心配も杞憂に終わった。
「それじゃあ準備に取り掛かるわ、ちょっと待ってて!」
「準備って、なんですか?」
「『従魔契約』の準備よ!」
そう言うとリンダは近くに落ちていた木の棒を拾い、地面に何かを描き始めた。
最初に円を描いたかと思うと、内側の縁に沿うように魔術文字を記入していく。
その様を見ていたヨキは、不思議そうに見ていた。
「リンダさんは、今何をしているのかな?」
「さっき言ってた従魔契約の準備だな。
トリッククロウを獣魔にするために必要な『契約陣』を描いてるんだよ」
「契約陣って?」
「魔法使いが使う魔法陣の一種で、魔物を従魔にする際に必要なんだ」
「マモノを使役するとなると、どのスキル持ちでも必ずケイヤクする必要があるんです。
そのケイヤクをするにしても、何かしらの“バイタイ”がないとできないんですが……」
「リンダさんの場合は、契約陣が必要って事なんだね」
レイフォン兄弟から従魔契約の説明を聞いたヨキは、不思議そうにリンダの様子を観察する。
そうこうしている内に、従魔契約の準備が完了したようだ。
「でーきたっと!
メルビィ、トリッククロウを私の眼の前の円陣に置いて」
「わかった。袋からは出さなくて良いわよね」
メルビィはリンダに指定された小型の円陣にトリッククロウを置いた。
リンダの目の前に置かれたトリッククロウは、不安そうにリンダを見上げていた。
「カァ〜」
「それじゃあ、始めるわよ。皆下がって」
ヨキ達が契約陣から離れた事を確認すると、リンダは集中し始めた。
すると足元の契約陣が光り始めたため、それを見たヨキは驚いた様子だった。
「わっわっ! 契約陣が光ったよ⁉」
「契約陣に魔力を流し込んでるんだ。
魔力を流し込まないと契約陣は起動しないんだよ」
「ケイヤク陣を通して自分のマナと対象のマモノのマナを結びつける事で、初めてケイヤクできるんです」
「〝魔導の系譜に記されし法律の下、赤金の荒野のリンダが宣言する。
主君の円環に立つ我を主とし、家臣の円環に立ちしトリッククロウを我が従者とする契約を今ここで結ぶ。
家臣の円環に立つ従者よ、主タル我を受け入れよ。テイム〟!」
リンダが従魔契約の詠唱を唱えると、トリッククロウを中心に契約陣が一気に縮小した。
縮小された契約陣がいっそう強い光を放ち、落ち着く頃には契約陣は消滅していた。
「あれ? 魔法陣消えちゃったよ?」
「従魔契約が成立した証拠だ。
失敗していれば光を弾かれている筈だからな」
「リンダ、トリッククロウを出すか?」
「そうね、従魔契約は成功した筈だし出してみましょう」
「え゛っ⁉ 袋から出して大丈夫なのかな……?」
契約陣が消えた事でトリッククロウを袋から出す事になったが、袋から出した瞬間、逃げ出すか襲いかかってこないかとヨキは不安になった。
そんなヨキの心配とは裏腹に、リンダはトリッククロウを袋から出した。
袋から出されたトリッククロウは逃げる様子を見せず、リンダの方を見上げていた。
「カァー」
「あれ、全然動かかない……?」
「ちゃんとジュウマケイヤクが成立したしょうこです。
それ以前に失敗したらケイヤク陣が途中で壊れたはずですから」
「よしよし、ちゃんと契約できてるわね。
ほら、こっちおいで」
従魔契約が成立していると確信したリンダは、トリッククロウを自分の元に招き寄せる。
トリッククロウはなんの疑問もなく、リンダに右肩に乗った。
「カァ」
「す、凄い、リンダさんの肩に乗ったよ!」
「良い子ね、それじゃあアンタの名前を決めなくちゃね」
「名前?」
「トリッククロウはあくまで名称だからな。
ちゃんと名前をつけてやらないと、同じ魔物と遭遇した際見分けがつかなくなってうっかり攻撃なんて事もあり得るんだよ」
自分の肩に乗ったトリッククロウを見つめながらしばらく考え込んだあと、リンダは何か思いついたような表情になった。
「決めた、ノーティにしましょう。
アンタにはピッタリな名前だと思うわ」
「悪戯っ子か、トリッククロウのイメージとしては当てはまるな」
「カァーッ!」
リンダにノーティと名付けられたトリッククロウは、呼応するように翼を広げた。
どうやらノーティという名前を気に入ったようだ。
「これからよろしくね、ノーティ」
「カァッ!」
「それにしても、凄く触り心地が良いわね」
「結構モフモフしてるわね」
「そういえば、丸洗いされたのだったな」
ノーティを気持ちよさそうに撫でているリンダとメルビィの様子を見ていたソーンは、ノーティが丸洗いされていた事を思い出した。
今となってはさほど気にする必要はなくなったので、その事実は頭の隅に置いておく事にした。
一方でノーティを撫でているリンダとメルビィの様子を見ていたヨキは、何処となく羨ましそうにしていた。
「……キール君に相談したら許可してくれるかな」
「お前の場合式神よりも先に強くなるのが先だ」
「当分はタメゴローで我慢しましょう」
「ショボンです」
ラピスから式神を使役するよりも先に強くなる事が先だと言われたヨキは、目に見えて落ち込んだ。
その後タメゴローを撫でに行ったが、タメゴローは他の冒険者の相手をしていたため更に落ち込むだけになった。
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