第97話 固有能力の活用法【マリside】
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バーナードキャラバンがルテラ砦から出発して二刻は経過していたが、その歩みは順調なものとは言えなかった。
襲撃してきたヘルシャフトにこれまでのストレスをぶつける形で戦った事により、冒険者達は一時的に落ち着きを取り戻したかのように見えた。
だが、時間が経つごとにキャラバン全体の空気が重くなって行き、次第にアチコチで言い争いや喧嘩が起こり始めていた。
その度に比較的に落ち着いている者、余裕がある者が止めに入っているのだが進行状況に影響が出ているのは事実だ。
中央の乗合馬車に乗車しているマリもその様子を肌で感じており、現在の状況がかなり不都合な事になっている事を自分なりに悟っていた。
(外の様子、昨日よりもピリピリしてるわね。
私が乗ってる馬車は比較的落ち着いてるけど、他の馬車の中はどうなってるのかしら?)
マリが自分が乗車している乗合馬車内の様子を確認していると、外の方から騒ぎ声が聞こえて来た。
「おい、どうしたんだ⁉」
「助けて下さい! 中で喧嘩が始まってしまって……」
「おいおい嘘だろう、喧嘩は外の連中だけで勘弁してくれよ」
「……馬車の中でもトラブルが起こってる」
どうやら隣の乗合馬車で喧嘩が発生したらしく、その乗合馬車の護衛に割り当てられた冒険者は喧嘩を止めるため乗合馬車に乗り込んでいった。
その様子を窓越しからこっそりと見ていたマリは、乗合馬車内にまでトラブルが発生する状況になってしまうほど、キャラバン全体の空気が悪い事を心配していた。
(あの夜からキャラバンの空気が悪くなる一方だわ。
キールはケイ達が可能な限り仙具を回収してくれたから心配するなと入ったけど、この状況を目の当たりにすると心配せずにはいられないわよ)
「隣の馬車、なんか騒がしくない?」
「何かあったのかしら?」
「隣の乗合馬車に虫が入っちゃったみたいですよ。
それで騒ぎになったみたいで、さっき冒険者の人が乗り込んだからすぐ落ち着くと思います」
「あらそうなの、教えてくれてありがとう」
隣の乗合馬車が騒がしいため何事だろうと同乗者達は不安になるが、マリは機転を利かせて中で喧嘩が起きている事をうまく隠した。
だが隠したからといってどうにかなる訳ではない。
現状が悪くなっているのは変わらないため、すぐにでも対策を練らなければ大変のなのだ。
現にキャラバン全体の空気が悪くなった事で、次のリトア砦までの日程に影響が出ているのだ。
「なぁ、ちょっと進むの遅くないか?」
「言い争いがあっちこっちで起こってるからな。
前方でも喧嘩があるらしく、仲介に入る度にキャラバンの動きも止まるもんだから予定通り遅いんだよ。
現に一刻くらい遅いらしいぜ」
「それは大変だな……」
「また移動中に喧嘩する冒険者がいる、困難でオリソンティアラにつくのかしら?」
「大丈夫、コレまでだって上手く行ったんだから心配する事ないよ」
少なからず平行線の瞳の影響を受けていない者もいるらしく、現在の進捗具合を不審がる者もいれば、現状を嘆く者もいた。
「なんだか空気が思いな」
「そうね、レイアの方はなんともない?
イライラするとか怖いとか……」
「今の所、そんな感じはないな。
まだまだよゆうだ」
マリに付き添う形で乗合馬車に乗車しているレイアは、そう証言した。
とは言うものの、先程の隣の乗合馬車内のこともあるため少し警戒はしているようだ。
マリは窓から身を乗り出し、自分とレイアが乗車する乗合馬車の護衛を務めるヒエンに声をかけた。
「ヒエン、調子はどう? 特に問題ない?」
「問題ねぇよ、それより馬車から身を乗り出すんじゃねぇ。
移動中だぞ」
「ごめんごめん、でもヒエンだけ特に喋ってないみたいだからちょっと心配になったの」
「お前の方こそ平気なのか?」
「……おかげさまで、だいぶん余裕はできたよ」
ヒエンの問いに対し、少し間を置きながらマリはそう答えた。
無自覚といえど初めてトゥーランドット以外で人を殺めた時の事は、かなり堪えていたが、サブリナと話して以降少しだけ余裕ができた。
気にしていないと言ったら嘘になるが、今は無事にオリソンティエラに着く事が最優先事項。
先の件に関しても正当防衛が認められる可能性が高いという事で、お咎めはない分安心している。
未だに攻撃系の法術は使えないままだが、ルテラ砦に着いた頃より元気を取り戻していた。
そのためマリは、今の自分ができる範囲でやれる事を実行しようとも考えていた。
「今の私にできる事って本当に少ないけど、その分別の事で力になるわ」
「はぁ、勝手にしろ」
半分呆れ返りながらも、マリの話し相手になるヒエンは何処か安心した様子だった。
そんな時、不意にマリが視線を上に向けた。
「どうしたマリ?」
「……来る」
そう言いながらマリは視線を上に向けたままだ。
マリの様子から敵の襲撃を感知したと悟ったヒエンは、詳しい内容をマリに尋ねる。
「ヘルシャフトか⁉」
「ううん、炭酸水に触れたような感じだから多分魔物。
ヘルシャフトなら殺意が込められてる筈だし」
「待て、その炭酸水に触れたようなってのはどういう感情だ?」
「喜びの感情ね、上から感じたから鳥系統の魔物だと思う。
羽音も虫っぽくないし」
「上空から鳥系統の魔物が襲ってくるぞ!
遠距離攻撃できる奴は狙撃して撃ち落とせ!」
マリの証言から鳥系統の魔物が襲撃してくるを周囲に知らせ、ヒエンはすぐさま洋弓銃で迎撃体勢に入る。
周囲にいた冒険者達もヒエンの掛け声につられて上空に目線を向け追撃体勢に入った。
そしてマリが言ったように、上空には烏に似た鳥系統の魔物がキャラバンの真上を飛んでいた。
「トリッククロウの群れだ!
地属性のスキル持ちは積極的に攻撃するんだ!」
「〝アース・バレット!〟」
「【砂操作:砂嵐】!」
「∫土法:泥玉∫!」
アンガスが烏型の魔物の群れの名前を告げ、弱点となる属性持ちに呼びかけ攻撃を開始した。
地属性スキル持ちの人数は思いの外多く、遠距離攻撃もできるようで次々にトリッククロウを撃ち落としていく。
(マリが言った通り上空から鳥系統の魔物が攻めてきやがった!
トリッククロウなのは少し想定外だったが……)
「ヒエン、大丈夫⁉
あの魔物の群れ、かなりの量がいるけど追い返せるの⁉」
「馬鹿野郎! 馬車から出るんじゃねぇ!」
「マリ、顔出したらケガするから中に戻れ!」
トリッククロウの群れを目の当たりにしてヒエンが心配になったマリは、乗合馬車から身を乗り出してヒエンの安否を確認する。
だがそれはマリ自身を危険に晒す事になるため、レイアが慌ててマリを乗合馬車の中に引っ込め、窓を締めた。
「トリッククロウってそんなに危ない魔物なの?」
「こうげき力は橙階級だからそんなに強くないんだ。
ただちょっとやっかいな所があって……」
「厄介な所?」
トリッククロウ自体攻撃力は下から三番目の橙階級であるためそれほど強くないというレイアだったが、その様子から何やら面倒な特徴を持っているようだ。
レイアの代わりに、同じ乗合馬車に乗車していた同乗者達がトリッククロウの厄介性について答えた。
「それほど強くない代わりに、凄く頭が良いのよ。
畑全体に編みを張っても間を広げて入ってきたり、魔法を使える個体もいるから結界を張っても壊されてしまうの」
「群れで行動するから、連携して攻撃してくるの。
そのせいで危険度自体は黄緑階級に認定されているのよ」
「かなりかしこい個体もいるから、建物の中に入ってきたりもするんだよなぁ」
「じゃあ、馬車の場合はこんな感じで入ってくる事もあるの?」
レイア達からトリッククロウの特徴を聞いていたマリは、先程までヒエンと会話する際に使っていた窓を指さしながら言った。
マリが指さした先には、閉められた窓の隙間から強引に入ってこようとする一匹のトリッククロウが挟まっていた。
「そうそう、丁度こんな感じってトリッククロウ⁉」
「キャアーッ!」
「トリッククロウよ!」
「さっきからこんな感じで中に入ってこようとしてるんだけど、このまま押し出して外に出した方が良いの?」
知らぬ間に一匹のトリッククロウが乗合馬車内に入ってこようとしており、気が付いたレイア達は驚きで混乱していたがマリはどうしたら良いかと悩んでいた。
「追い出した方が良いに決まってるだろうバカ!」
「追い出して追い出して追い出して追い出して!」
「絶対中に入れないでちょうだい!」
「っという訳だから、外に帰ってね〜」
「クワァーッ⁉」
混乱しながらトリッククロウを追い出すべきだというレイア達の発言を聞いたマリは、一人冷静に窓の隙間に挟まって侵入してこようとしているトリッククロウを押し込む形で外に追い出した。
これにはトリッククロウも驚いたらしく、間抜けな鳴き声を上げながら外に追い出され、キャラバンの後方の方へと流れていった。
「コレで良しっと。今みたいな感じで良かった?」
「「「冷静すぎるにも程があるでしょう!」」」
「なんでこういう所で自分のペースはっきするかなぁ?」
乗合馬車に侵入しようとしたトリッククロウを追い出したマリだったが、既に混乱している同乗者達は冷静過ぎるマリの対応に更に困惑し、レイアはいつもの如くマリの行動に呆れていた。
マリ本人は何を驚いたり呆れているのかあまり理解してはいなかったが、大して問題はないと考えていた。
だが外では他のトリッククロウとの戦闘が続いているらしく、冒険者達の怒声が飛び交っていた。
そしてマリ達が乗る乗合馬車にトリッククロウが侵入しようとしていたのを視界の端に捕らえたと同時に、何故か中に入る前にバランスを崩し後方へ流れていくトリッククロウを目撃したヒエンは、焦った様子で乗合馬車にいるマリとレイアの安否を確認した。
「マリ、レイア、大丈夫か⁉
今そっちに侵入しようとしたトリッククロウが飛び出したように見えたが⁉」
「大丈夫! 中に入ろうとしたトリッククロウを押し出しただけだから!」
「押し出した⁉ 素手で触ったのか⁉」
「そうだけど、毒とかそういう心配はなさそうだったし反撃されなかったから心配しないで!」
「どうしたら素手で追い出すなんて行動できるんだ⁉」
洋弓銃で上空にいるトリッククロウを打ち落としながらも、マリの乗合馬車内での行動を聞いたヒエンは困惑した。
だが動揺している間にも他のトリッククロウが他の馬車に攻撃を仕掛けており、マリ達が乗車している馬車と同じ乗合馬車に至っては大騒ぎだ。
「キャーッ!」
「トリッククロウが入ってきたぞ!」
「助けてーっ!」
「痛い痛い! やめてーっ!」
「うわーっ! こっちに来たっ!」
乗合馬車に侵入したトリッククロウに襲われ、各乗合馬車に乗車している使用人達は混乱していた。
トリッククロウが乗合馬車に侵入した事に気付いた冒険者の一部は、侵入したトリッククロウの討伐のために乗合馬車に乗り込んだ。
「何してやがるこの害鳥が!」
「皆さん落ち着いて!」
「ラヴァーズ君危ない、しゃがんで!」
「小さな子供相手に何すんのよ!」
「私らの癒やしに手を出すんじゃないよこのスカポンタン!」
比較的小回りが効く冒険者が乗合馬車に乗り込み、侵入したトリッククロウの排除を試みるが乗車している使用人達が混乱して中を動き回っているため、彼らに当たらないようにも配慮しなければならず上手く進まない。
そしてラヴァーズが乗り込んでいる乗合馬車にもトリッククロウが侵入したらしく、預け先となっている鬼神の慈愛が乗り込んで対処していた。
相当ラヴァーズを可愛がっているようで、他の乗合馬車よりも荒れていた。
「なんでだろう、ラヴァーズの所が一番そうぞうしい気がする」
「まぁ、女性陣の間では癒やし担当になってるみたいだからね。
大切にされてるのよ。
それにしても結構中に入ってこようとするわね」
マリはレイアと会話しながら、自然な流れで自分が乗る乗合馬車に侵入しようとするトリッククロウを追い出していた。
マリが何度も追い返してはいるものの、何度も窓や幌の隙間からトリッククロウが侵入しよう措置手来るため、しつこさを感じていた。
「キャアッ! こっちからまた入ってこようとしてるわ!」
「こっちの窓からもよ!」
「後ろの方からも来てるぞ! みんな下がって!」
マリとレイアが乗る乗合馬車のあちこちからトリッククロウが侵入してこようとしているため、次第に同乗者の使用人達も周囲の乗合馬車と同じように騒ぎ始めた。
レイアも侵入しようとしてくるトリッククロウを対処しようと投擲ナイフを構えるが、その前にマリがトリッククロウの方に駆け寄り、外に追い出して対応した。
「よいしょ、よいしょ、よいしょ!
ふぅ、こう何度も入ってこようとしてるのを押し出してるけどきりがないわね」
「そうは言うけどふつうに対処してるマリの方がすごいよ」
「えぇ、貴女のお陰で他の乗合馬車より落ち着いていると思うわ」
「確かにそうかもだけど、何かしらの方法で追い払わないとキリがないわ」
マリが何度もトリッククロウが侵入する前に追い出して入るが、その回数が多いとなるとキリが無いのは事実だ。
かといって外にいる冒険者達も必死に対応している事を考えると、彼らに頼るのは不可能に近しい。
何か良い方法はないかと考えていると、再び窓の隙間から一体のトリッククロウが侵入してこようとしていた。
すぐ近くにいたレイアが対処しようとしたが、乗合馬車が大きく揺れて転倒。
その拍子にレイアのポーチから激辛香辛料入りの煙玉が一つ飛び出してしまった。
そのまま侵入してこようとするトリッククロウにぶつかり、あわや大惨事かと思われたが、その前にマリが煙玉をキャッチして事なきを得た。
「よっと! ふぅ、危なかったぁ」
「ナイスマリ! おかげで馬車の中がゲキカラのけむりでじゅうまんせずに済んだよ!」
「そんな危ないものだったの⁉」
「うわぁ、凄く辛そう……」
激辛香辛料入りの煙玉がはぜずに済んだことに安心していると、マリが侵入しようとしている筈のトリッククロウの動きが鈍い事に気が付いた。
「あら? このトリッククロウ、なんだか鈍いわね。
どうしたのかしら?」
「あれ? 本当だ。なんでだろう……?」
「カ、カァ、カァ……」
「なんだか、苦しそうな鳴き声のようだわ」
「え? 辛そうな鳴き声の間違いじゃない?」
動きだけでなく反応も鈍くなったトリッククロウを見て全員が不思議そうにしている中、マリは自分の手の中にある激辛香辛料入りの煙玉を見た。
「あ、わかったかも。
レイア、マグマ唐辛子の粉末が入った袋を貸して」
「良いけど、どうする気だよ?」
「ちょっと確認したい事があるの」
レイアからマグマ唐辛子の粉末が入っている袋を受け取ると、マリは袋の口を少しだけ緩めトリッククロウの顔に向ける。
するとどうだろうか、トリッククロウの表情がみるみる苦痛に変わったではないか。
「バギャーッ! バギャーッ!」
「トリッククロウが自分から逃げてった⁉ なんで⁉」
「やっぱり! 煙玉を目の前で受け止めた直後に鈍くなったからもしかしてと思ったのよ!
普通の烏みたいに辛い匂いや成分が苦手なんだわ!」
「鳥のキュウカクって、そんなにビンカンだったけ?」
窓枠から侵入しようとしたトリッククロウがマグマ唐辛子の粉末の匂いを嗅いで逃げ出した様子から、辛い匂いや成分も弱点である事を突き止めたマリは、急いで窓のロールカーテンを上げ、ヒエンに伝える。
「ヒエン、トリッククロウの群れを追い出す方法を見つけたわ!」
「その過程に至るまでに何しやがった⁉
そこから侵入しようとしたトリッククロウが一目散に逃げ出しやがったぞ!」
普通、襲ってくる相手を倒す、もしくは追い払う方法がわかれば喜ぶ所だが、ヒエンとしてはマリが乗合馬車の中で何をしたのかという方が気になった。
侵入しようとしたトリッククロウが自分から逃げ出したのを見れば、マリがなにかしたとしか思えなかったようだ。
「トリッククロウは辛い匂いや成分が苦手なの!
さっきマグマ唐辛子の粉末を嗅がせたから間違いないわ!」
「わかったからさっさとマグマ唐辛子の粉末をしまえ!
そんでもってレイアが持ってる煙玉を渡せ!」
「わかった! ちょっと待ってて!
レイア、煙玉をいくつか別の小袋に入れてくれる?」
「僕のケムリダマを使って追い払うんだな、効力も考えて渡すのは二つだけにしよう」
マグマ唐辛子の粉末が入った袋を返却されたレイアは、空の小袋に二つの激辛香辛料入りの煙玉を入れ、マリに手渡した。
小袋を受け取ったマリは再度窓際に立つ。
「ヒエン、受け取って!
二つしか入ってないから、使う時は気を付けて!」
「二つあれば十分だ!」
マリから激辛香辛料入りの煙玉が入った小袋を受け取ったヒエンは、一本のクォレルに小袋を括り付けトリッククロウの群れに射線を向ける。
そして地魔法を使える魔法使いが魔弾を放ったタイミングでクォレルを射る。
クォレルがトリッククロウの群れの中央に差し掛かったのに合わせ、地魔法の魔弾が小袋に直撃し、激辛香辛料入りの煙玉が爆ぜた。
「ガァーッ⁉」
「グワァーッグワァーッ⁉」
「ギャアギャアギャアッ!」
「バギャーッ!」
激辛香辛料の煙りに覆われ、トリッククロウの群れは大混乱だ。
マリの読みは的中し、辛み成分でもがき苦しんでいるようだ。
「トリッククロウの群れの統率が乱れてる、効果が出てる!」
「トリッククロウの群れが乱れた!
畳みかけろ!」
激辛香辛料入りの煙玉の効果が出ている事を目の当たりにし、ヒエンは周囲の冒険者に呼びかけトリッククロウの群れに向けてクォレルを射り込む。
ヒエンの攻撃に続いて、周囲にいる冒険者達も同じようにトリッククロウの群れに攻撃を仕掛ける。
冒険者達による総攻撃は次々とトリッククロウの群れに命中し、反撃もままならない。
「良いぞ、コッチのペースで攻撃できてる!」
「押せ押せ押せ押せ押せっ!」
「ガァーッ! ガァーッ!」
「バギャッバギャアッ!」
冒険者達の総攻撃を受けひとたまりもないと感じたトリッククロウの群れは、そのままきびすを返しバーナードキャラバンから離れていった。
「やった! トリッククロウの群れがにげていくぞ!」
「良かった、これでもう安心ね……」
「他の乗合馬車に入り込んだトリッククロウも排除できたみたいよ」
トリッククロウの群れが逃げていく様を見ていたレイア達は、ようやく危機は去ったと安心していた。
そんな中、マリは座席を足場に幌の天井をガサゴソと弄っていた。
「って、マリ、何やってるんだよ?」
「ん~、ちょっとね。レイア、悪いんだけどもう一回マグマ唐辛子の粉末貸してくれる?」
「なんでまた? トリッククロウの群れはもうにげてったぞ」
「それが一匹、逃遅れたトリッククロウがいたよ」
マリはそう言いながら、困った様子で一匹のトリッククロウをレイア達に見せた。
馬車内で飛び回れないよう、翼ごと胴体を包帯でぐるぐる巻きにされており、マリに捕まったトリッククロウは頭を必死に振り回していた。
「クワァーックワァーッ!」
「トリッククロウーッ⁉」
「上手い具合に幌と骨組みの間に挟まってたの。
大人しくさせたいから、マグマ唐辛子の粉末を使いたいのよ」
「わかった! 貸すからなるべく早くなんとかしてくれ!」
マリに捕まったトリッククロウを見たレイアは、マグマ唐辛子の粉末を差し出した。
マリは差し出されたマグマ唐辛子の粉末を指先に着け、トリッククロウの口の中に突っ込んだ。
マグマ唐辛子の粉末が着いた指先を突っ込まれたトリッククロウは、そのまま大人しくなってしまった。
「良し、大人しくなったわね」
「「「う、うわぁ……」」」
「それはエグい……」
「カ、カァ……」
トリッククロウを黙らせるためにマグマ唐辛子の粉末を舐めさせる、そのマリの行動を目の当たりにしたレイア達は思わず引き、トリッククロウに哀れみの目を向けた。
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