第96話 もう一つの仙具【ケイside】
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護衛依頼に参加した冒険者達の猛攻とフィービィー経由でヨキへ送られたキールからの指示により、ヘルシャフトの襲撃から逃れる事ができた。
だが、問題はその後だった。
「おいコラッ! さっきの攻撃はなんだ⁉」
「コッチまでまき込まれそうになったじゃねぇか!」
「ふぇっ⁉ えっえと、あの……」
「味方ごと攻撃するつもりだったのか⁉ あ゛ぁん⁉」
「そっそそそそんなつつつつもっつももももっ!」
一カ所に集められたヘルシャフトを、法術を付与した矢で吹っ飛ばしたまでは良かったものの、その威力のせいなのかヨキは一部の冒険者に絡まれていた。
自分に絡んでくる冒険者達の気迫と元々の性格が災いし、ヨキは挙動不審でまともに受け答えが出来ていなかった。
「なんとか言えやゴルァッ⁉」
「ごごごごめんにゃしゃいーっ!」
「はいはい、そうカッカしない。
そんな調子じゃオリソンティエラに着くものも着かないよ」
「おい何しやがってクサッ!」
「邪魔してんじゃって大蒜クセェツ⁉」
ヨキが一人冒険者達に絡まれていると、そこに霧吹きを持ったケイが割って入り絡んでいた冒険者に向かって中身を吹きかけた。
霧吹きの中身を吹きかけられた冒険者達は、突然香った強烈な匂いに怯み悶絶した。
「これに懲りたら配置場所にさっさと戻る。
只でさえ遅れてるんだから」
「クックソッ! 覚えてろよ⁉」
霧吹きを吹きかけられた冒険者達は、たまらずその場から離れていった。
冒険者達が去っていくのを確認すると、ケイはヨキの方に振り返った。
「災難だったな、大丈夫か?」
「ありがとう〜、でも全然大丈夫じゃない〜。
凄く怖かったよ!」
「うん、だと思った」
ヨキは冒険者達から開放され、涙目でケイに訴えた。
襲撃してきたヘルシャフトを追い払うために射た自分の攻撃が原因で、冒険者に絡まれる事になるとは思わなかったのだろう。
不意にヨキは、先ほど冒険者達を追い払ったケイの手の中にある霧吹きの中身が気になった。
全員鼻を押さえていたため、かなり臭うのは明白だ。
「ところでケイ、その霧吹きの中身ってなんなの?
さっきの人達、かなり悶絶してたみたいだけど……」
「あぁコレ? 大蒜五〇個分すりおろして絞った特性大蒜スプレー。
原液をそのまま使ったから中々強烈だぞ?」
「絶対中身こぼさないでよ⁉ せめて水で薄めて⁉
マリに怒られるからね!」
霧吹きの中身の正体が大蒜五〇個分をすりおろし、絞り上げ作った大蒜汁の原液だと知ったヨキは、別な意味で怯える羽目になった。
「それよかバン達が探してたぞ?
早く戻ってやりな」
「うん、ありがとう!」
ヨキはそのままバン達がいる集合場所へと走っていった。
ヨキが去っていくのを確認すると、ケイはため息を吐きながら今の状況に落ち込んでいた。
「やっぱキールが言ってた通りになっちまったなぁ」
大蒜汁の原液が入った霧吹きを見つめ、ため息交じりでそう呟いた。
何故ヨキが先程の冒険者達に絡まれていたのか、その理由をルテラ砦から出発する前にキールから知らされていた。
*****
『平行線の瞳以外の仙具が仕掛けられてるってどういう事だよ⁉』
『今言った通りだ、平行線の瞳以外にも別の仙具、恐らくは精神異常を悪化させる類の物を仕掛けられてる』
『それだったら、俺達が二刻かけて荷馬車を調べ得ている時に見つけてる筈だ!
何かの間違いじゃないのか⁉』
キールから平行線の瞳以外にも仙具を、しかも精神異常を悪化させる類のものを仕掛けられた可能性があると知らされたケイは、信じられないという様子だった。
ケイはヒバリと共に翡翠の渡り鳥と協力してヘルシャフトが開発した秘匿の仙具に隠される形で、荷馬車に仕掛けられていた平行線の瞳を数十個回収していた。
その最中にそれらしい物は見当たらなかったため、何かの間違いではないかと疑ったのだ。
『オイラ自身もラピスの証言と昨日の騒動を見て確信したばかりだ。
昨日暴れていた冒険者は誰がどう見たって様子がおかしかっただろう?
恐らく精神異常を悪化させる仙具の影響を受けてる証拠だ。
それらを見つけられなかったのはケイが平行線の瞳ばかりに意識を向けてたせいで、アクアシーフの固有能力に引っかからなかったんだ』
『マジかよ、それだったらこの二刻間の苦労は何だったんだよ』
『少なくとも無駄にはなってねぇ。
現に平行線の瞳を取り除いた箇所の空気は昨日より緩和していた。
近い内にその辺りでのいざこざはなくなると見て良い。
問題はもう一つの仙具の方だ』
自分達がやった事が無駄だったのかと嘆くケイに対し無駄ではないと否定したキールは、もう一つの仙具の方を警戒していた。
現在の状況が悪化するような事が起きれば、不都合でしかないからだ。
『もう一つの仙具がどういう形をしているのか、どこに仕掛けられているのか、いつどのタイミングで発動するのかわかってない。
休憩中に発動するならまだ止められる、けど移動中に発動されたら厄介だ』
『魔物や盗賊、ヘルシャフトと対峙している時だと連携どころか命すら危ういな……。
この事、他の皆は知ってるのか?』
『ヨキ達には伝えてない。
知ってるのはミザールと今オイラが組んでる専属護衛の連中だけだ。
悪戯に情報をリークすれば疑心暗鬼になる奴が増えて、状況が悪化する。
最悪の場合仲間割れで全滅なんてのもあり得るくらいだ』
キールから最悪の展開を聞かされたケイは、平行線の瞳を探している最中にもう一つの仙具を見つけられなかった事を激しく後悔した。
これで本当に全滅なんて事になれば、一生後悔しても死にきれない。
なんとしてでも、もう一つの仙具を特定し、取り除く必要があった。
『∮チェック・ダ・ロック∮をキャラバン全体にかけて、停止させれらないのか?』
『そんな事したら仙具だけじゃなく炊事の際に使ってる魔道具や霊具まで停止しちまうだろう⁉
∮チェック・ダ・ロック∮を使うんだったら、目に見えてる状態で使った方が安全だ』
バーナードキャラバン全体に∮チェック・ダ・ロック∮を掛けるのはダメだとキールに否定され、ケイは顔を俯かせた。
キールもケイなりになんとかしようと考えていくれている事はわかっていたため、現段階で実行できる案を提示した。
『見つける方法がない訳じゃねぇ。
移動中に仙具が発動すれば、必ず影響を受ける奴らが出てくる。
その影響を受けた奴の配置場所を確認して、範囲を絞り込む事が出来れば探しやすくなる筈だ』
『でもそれだとトラブルが起こるんじゃあ?』
『分かってる、けど現段階で範囲を絞り込む方法はこれしかねぇ』
発動してからでは遅いのは分かっているが、もう一つの仙具を見つける方法としては仙具が発動し、その影響を受けた冒険者、もしくは商人の見つけ配置場所から絞り込む以外ない。
これはキールとしても苦肉の策なのだろう。
だが、現在の状況ともう一つの仙具の効果を考えれば、この方法しかないのは確かのようだ。
『少しでも様子が可笑しい連中を見かけたら、ソイツらの配置場所を探してみてくれ。
意識すれば固有能力に引っかかる筈だ』
*****
「とは言われたものの、最初の被害者がヨキなのは想定外すぎるよ」
そんな愚痴を呟きながら、ケイは先程までヨキに絡んでいた冒険者達が配置されている付近を目視で探していた。
ヨキに絡んでいた冒険者達は後ろ寄りの中衛に配置されているらしく、荷馬車に近い並びだった。
ケイは周りに注意しながら、意識を高め冒険者達の近くにあった荷馬車を観察し始めた。
平行線の瞳ともう一つの仙具を意識し荷馬車を見つめていると、荷馬車の車輪部分に一つの輝きが見えた。
(今回は車輪の方か、問題は平行線の瞳かキールの言ってた仙具のどっちがあるかだな……)
ケイは荷馬車の車輪に近付き、不自然な部分がないか確認する。
車輪自体に細工はされていないようだが、車輪を荷馬車本体に繋げている車軸部分一度外されたような形跡があった。
「(ここ最近外された形式があるな、車軸の中に仕込んだのか?)
ねぇ、ここのネジちょっと緩くなってるよ!」
「え、嘘だろう⁉ ちょっと待っててくれ!」
ケイは車輪と車軸をつなぐネジをわざと緩め、近くにいた使用人に声をかけた。
ネジが緩いと聞いた使用人は慌てて荷馬車の中に乗り込み、積んであった工具箱を手に持ち急いでケイの元に駆け寄った。
「お待たせ! 緩くなってるネジがどれか教えてくれるかい?」
「ここの車輪だよ。
ちょっと触ったらグラグラしたから、ひょっとしたら留め具が古いんじゃないかな?」
「それはまずいな、すぐに新しいものと交換するよ!」
そう言うと使用人は工具箱から道具を取り出し、荷馬車本体を支えるとネジを外した。
その間ケイは車軸部分を注意深く観察する。
(車軸部分の方は何か入ってる訳ではなさそうだな、となると怪しいのはさっきのネジか)
細工されたのは車軸ではなく、車輪と荷馬車本体を繋げる車輻の方にあると判断したケイは、使用人が新しい轂をはめている間に元々はめられていた轂をこっそりと回収した。
「コレで良しっと!
ありがとう、危うく事故を起こす所だったよ」
「どうって事ないって。
また緩んでる所とかあったらすぐ知らせるね」
「そうしてもらえるとありがたいよ、それじゃあまたね」
ネジの交換を終えた使用人は、工具箱を積んであった荷馬車に戻しその場を後にした。
使用人がいなくなった事を確認すると、ケイは誰かが来る前に荷馬車に乗り込み、回収したネジを確認した。
「……このネジ、光ってる。
やっぱりコレに細工されてたんだ」
ネジに細工がされていると考えたケイは鞄からナイフを取り出し、平行線の瞳が入れられていた箱の時と同様にネジの解体を試みた。
「ここに先を突き刺し……ん?
この宝石?のはまり方、ひょっとしてこのネジ、頭の所が回せるのか?」
頭部分が2つに割れ、中から数個の消属性の精霊石の欠片と赤黒い宝石が姿を現した。
だが赤黒い宝石の表面が真っ平らだったためネジの頭自体を外せる可能性に気が付いたケイは、ネジの頭を確認する。
すると頭の根元部分に僅かながら隙間ができている事に気付き、試しにナイフの先端を指して動かすが筈れないため、ナイフを鞄にしまい横に引っ張ったり軽くひねったりした。
軽くひねった直後、ネジの頭部分が動いたため、そのまま頭部分を回した結果、剣を鞘から抜くようにネジの頭部分が軸から外れ、ネジの軸部分をもした赤黒い宝石が露わになった。
それを目の当たりにしたケイは思わずギョッとなる。
(ネジの軸自体が宝石⁉
いや、コレは宝石じゃなくて精霊石、しかもこの色は話に聞いたリルを操ってるのと同じ魔属性!
ネジに偽装するために精霊石自体をネジの軸に加工して隠したのか!
手が込んでるにも程があるだろう⁉)
ネジの中から魔属性の精霊石が出て来たため、思わず驚きの声を上げそうになりながらも必死に抑えるケイ。
魔属性の精霊石の大きさは軽く三〇×十五㎝とかなりの大きさだったため、コレばかりは流石のケイでも驚きを隠せなかった。
(馬車の備品に仕込むなんて、こんなの俺じゃなかったら気付けないぞ⁉
待てよ、もしかしたら他の部品とか予備の中にも紛れ込ませてあるかも⁉
急いでこの事をキールに知らせないと……)
「ケイ、こんな所にいたでごじゃるか!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおっ⁉」
急ぎネジの事を知らせねばと考えていると、ヒバリが背後から話しかけて来たため思わず驚きの声を上げた。
ケイはとっさに振り返り、その流れで精神異常悪化の仙具を後ろでに隠した。
「ビックリした! ヒバリかよ⁉ ビックリ捺せんなよ⁉
マジでビックリしたじゃんか!」
「そこまで驚かなくてもよかろう、何をしていたでごじゃるか?」
「まぁちょっとな、うん。
それより俺を探してたみたいだけど、またトラブル?」
「そうであった! ケイ、コレを見て欲しいでごじゃるよ」
そう言うとヒバリはある物をケイに見せた。
ヒバリの手の中には、長方形状の板にはめられた魔属性の精霊石だった。
魔属性の精霊石を囲うように消属性の精霊石の欠片と術式が刻まれていたため、それが仙具だという事はすぐに分かった。
「ヒバリ、お前それ⁉」
「つい先程見つけたでごじゃる。
ラファ殿とシファ殿が訓練中にうっかり壊してしまった木箱から発見されたでごじゃるよ。
ラファ殿が片付けている最中に気が付き、こっそりとセッシャに預けてくれたでごじゃる」
ヒバリはそう言いながら深刻な様子で仙具を見つめていた。
思わぬ形で平行線の瞳以外の仙具を発見する事になるとは思っていなかったようで、かなり困惑していた。
「ラファ殿は今ガントゥ殿にこの事を知らせに行っているでごじゃる。
どのような効果があるかわからぬが、全ての木箱を調べて早急に回収する必要があるでごじゃるよ」
「あー、ヒバリ、残念だけど木箱を調べるだけじゃ意味ないと思う」
「何を言ってるでごじゃるか、このまま放置していれば大変な事になるでごじゃるぞ!」
「いや違う、そういう事じゃなくて、こういう事なんだ……」
ヒバリをなだめながら、ケイは後ろ手に隠し持っていた仙具をヒバリに見せた。
ケイが見せて来た仙具を目の当たりにしたヒバリは、最初こそポカンとしていたものの、しばらくして体を震わせながらケイに尋ねた。
「ケ、ケイ、それはもしや……」
「あぁ、察しの通りヒバリが今持ってるものと同じ仙具だ。
他の荷馬車の車輪のネジに紛れて仕込まれてるのを見つけた、使われてる精霊石と術式が同じな所を見ると同じ効果の物だ」
「な、なんという事じゃ……」
ケイからネジ型の仙具を見せつけられたヒバリは顔色を青くし、とんでもない事になっている事に気付かされた。
まさか違う形で同じ効果を持つ仙具が二つも発見されるとは思っても見なかったため、完全に想定外だったのだ。
「実は出発する直線にキールに存在だけは知らされて見つけたんだ。
まさか同じ効果の物を別の形で見つける事になるとは思っても見なかったけど」
「キール殿は気付いていたでごじゃるか⁉
何故気付いた時に知らせてくれなかったでごじゃる⁉」
「この仙具の効果は精神異常を悪化させるらしいんだ、今の状況で知らせても疑心暗鬼になる奴が増えるだけだから情報制限してるらしい」
「精神異常の悪化、確かに今の状況では最悪の効果でごじゃるな」
「問題なのはこの仙具の形が何種類作られて、何処に仕掛けられているかが問題なんだ。
一つの形に絞れないって事は、かなりの範囲で仕込まれてるかもしれないんだよ」
ケイが一番問題視している事、それは同じ効果の仙具が何種類の形を用意され、何処に何個仕掛けられているのかという事だ。
平行線の瞳を入れた秘匿の仙具は全て同じ形をしていた。
だが今回見つけた仙具はどちらも違う形をしていたため、ケイでも予測できず仕掛けられている場所を限定するのはかなり難しいのだ。
はっきりいって、全て見つけ出すのは至難の業と言える。
「そんな、それではどうしたら……」
「ひとまず、ヨキ達には内緒にしてキールに報告した方が良いと俺は思ってる。
そっちの仙具も俺が持って行くから、ヒバリはおっちゃん達にもこの事を伝えて来てくれ。
くれぐれも他の人にバレないように」
「わっわかったでごじゃる、そっちは任せたでごじゃるよ」
そう言いながら、ヒバリは動揺した状態で翡翠の渡り鳥に精神異常悪化の仙具の存在を知らせに向かった。
一人その場に残されたケイは、険しい表情で自分の手に収まる二つの仙具を見つめた。
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