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第91話 意図的なもの【キールside】

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 ルテラ砦に到着し、盗賊達が入れられた牢馬車が兵士達に引き渡され連行されていく様を封印箱が乗せられた荷馬車の(ほろ)の上から見届けたキール。

 コレで一安心、と言う訳にも行かなかった。


「(頭をやられた事で残りの盗賊共が大人しくなってくれたおかげで特に問題なく砦に着いた、あとはシャンテ国の法律に任せておけば良いだろう。)

 ……っつーか、周囲が騒がしすぎるな」


 幌の上にいる事もあってか、バーナードキャラバンにいる冒険者や商人達の話委声を聞き取る事が出来た。

 聞こえてくる内容としては、あまり良い内容という訳ではなかった。


「聞きましたかな? 昨晩の騒動の原因はあちらの彼が香草茶(ハーブティー)眠加密列(スリープカモミール)を混入させたのが原因だそうですぞ?」


「おや、私はあちらの冒険者が眠加密列を混入させたと聞きましたよ?」


「昨日盗賊達が脱走した原因、見張りに着いてた冒険者の職務怠慢だって」


「何それ、ちゃんと鍵が掛かってるか確認してなかったの?」


「鍵を閉め忘れたのって観測する三つ目(サードアイ)のパーティメンバーって話だよ?」


「マジか、高階級(ランク)の冒険者パーティでもミスするんだな……」


 冒険者や商人達のほとんどが、プロフィールが紛失し尚且つ所持品から眠加密列が発見された者達を疑うような発言をしていた。

 実際に疑われている者達は、居心地が悪そうな様子が窺える。

 幌の上から会話の内容を聞いていたキールは、この状況が芳しくないという事をすぐに自覚した。


(ミザール直々に注意勧告を出したにも関わらず、憶測だけで話が飛び交ってやがる。

 このまま出発してもまた道中で襲撃に遭ったら上手く連携が取れない……)


「お~いチミっ子、ちょっと良いか?」


「ん? カプリースか、何かあったか?」


 下からミザール専属の護衛であるカプリースが声を掛けて来たため、キールは幌の上から見下ろす形でカプリースの方を見た。


「さっきから周りがちょいと騒がして確認したいんだ、上から見た感じはどうだ?」


「あんまり良い雰囲気とは言えねぇ感じだ。

 昨日の事が完全に響いてやがる」


「マジか、できれば二刻(ふたこく)後に出発したいってミザールさんが言ってたけど、流石に難しいか?」


「少なくとも、二刻で落ち着きはしねぇな」


 キールから周囲の状況を聞いたカプリースは、ミザールにどう報告するべきかと悩み始めた。

 するとそこに同じ専属護衛であるクレアが報告に来た。


「何がなんでも二刻後には出発すると思うわ、後方でトラブルが発生したみたい」


「トラブル? 何が起きたんだ?」


「ラッド族と一組の冒険者パーティが衝突したみたい。

 幸い他の冒険者パーティがその場を収めてくれたみたいだけど」


「着いて早々トラブルって、マジかよ……」


 クレアから後方でトラブルが起きたという報告を受けたキールは、思わず天を仰いだ。

 それは冒険者同士の衝突が起きる程、バーナードキャラバン全体が疑心暗鬼に陥っているという証拠なのだ。


 更に砦という閉鎖空間に長時間いれば、余計に状況が悪化する可能性が高い。

 少しでも状況を改善するためにはなるべく早く準備を整え、オリソンティエラへ向かう必要がある。


「さっきのトラブルを皮切りに揉め事が起こりやすくなるかもしれねぇ、積み荷だけじゃなく周囲にも注意しねぇと」


「ミザールは今何してるんだ?」


「さっき兵士長と掛け合って遠文箱を借りれる事になったみたい。

 キャラバンの使用人と商人の分だけになるけど、明日中にはプロフィールが再発行できる筈よ」


「再発行できて情報確認ができれば疑われてる連中の一部は無罪放免になりそうだな。

 問題は冒険者の方だな」


 クレアからプロフィールの事を聞いたキールは、それでどこまで状況が改善するか気がかりだった。


 仮にバーナードキャラバンのメンバーのプロフィールを再発行できたとしても、ギルドとは別組織であるため冒険者のプロフィールを再発行する事はできない。


 つまり疑われている冒険者はオリソンティエラにつくまでの間、周囲から疑われた状態が続くという事なのだ。

 そこにラピスとゴンスケ、リンダを連れたオリゴーリョがやってきた。


「お~い坊主、お前さんに用があるって連中を連れてきたぞ」


「ん? ラピスじゃねぇか。

 鷹獅子(グリフォン)の西風の二人を連れてどうしたんだ?」


「キール、この二人を含めて話がしたいんだ。

 できればここにいる護衛も含めてだ」


「なんか深刻そうだな。ちょっと待ってろ」


 ラピスから話をしたいと聞いたキールは、ただ事ではないと感じ幌の上から飛び降りた。

 地面に着地した直後、すぐにラピス達の方に駆け寄った。


「ラピス、その様子じゃ何かあったみたいだな」


「あぁ、先程ソロ冒険者と冒険者パーティがトラブルを起こしたのを知ってるか?」


「あぁ、ついさっき聞いた所だ。

 もしかして、対応した冒険者パーティってのはお前らの所か?」


「お前の言う通りだ。

 ソロ冒険者が最重要容疑者で、冒険者パーティ側がいちゃもんを付けたようだ。

 だが……」


「原因は他にもあるみたいだな?」


 ラピスの良いずらそうな様子から、ソロ冒険者が最重要容疑者と言うだけではないという事を悟ったキール。

 ラピスの代わりに同行してきた魔法士(ソーサラー)のリンダが答えた。


「その際重要容疑者がラッド族のファナ=ニルヴァで、いちゃもんを付けた冒険者パーティにチャリティア族がいたのよ」


「はぁ⁉ 仲の悪いラッド族とチャリティア族が同じ場所にいるってのか⁉

 しかも同じ依頼(クエスト)を受けてる状態って事かよ⁉」


 昔から争いをする程中の悪いラッド族とチャリティア族が、同じ依頼を受けた事で同じ場所にいるという状況になっている事を知ったキールは、驚きを隠せなかった。

 二種族の仲の悪さはかなり有名だったため、とんでもない事になっていると知りとてつもなく焦った。


「間違いないでさぁ、オイラ達も目の当たりにしやしたし、リーダーが兄君と弟君から話を聞いていやした。

 幸いオイラ達よりも先にニヤト君と連れのニャンコが間に割って入ってくれていたおかげで、本気の戦闘は避けられたようですがね」


「きっかけとしては冒険者パーティがコソコソとニルヴァの悪口を言っていたのが原因なのだけど

種族間の問題ともなればチャリティア族の冒険者が周りに築かれないようわざと(・・・)問題が起きるようにした可能性があるから、否めないわね」


 ニルヴァと言い争っていた冒険者パーティの様子を観察していたリンダは、本当の原因はチャリティア族の冒険者が意図的にニルヴァを煽ったのではないかと疑っていた。


 昔から仲が悪い以上、可能性としてはそちらの方が高いのだ。

 加えてゴンスケはある事を懸念していた。


「そっちの心配もありやすが、アッシとしては昨晩ベストフレンド君が言っていた事の方が気がかりですけどねぇ」


「スズが感じたキャラバン全体への精神攻撃の事だな?」


「こうも異様なまでにピリピリしてるとなると、何か仕掛けられてるんじゃないかと疑わずにはいられなくてねぇ」


「その読み、あながち間違いではないかもしれないな。

 ここに来る道中、生命探査で確認した所影響が緩和された様子がないんだ」


 ラピスは苦い表情でゴンスケが言った事を肯定した。

 そもそもこの状況は、その第三者が招いたようなものなのだ。


 盗賊脱走事件の際に第三者から精神攻撃を受けているというスズの証言や、ジェイコブが異常耐性(アブノーマルレジスト)が付与された首飾り(ペンダント)を身に着けていなければ、その存在に気付く事も事件が混迷化した原因もわからぬままだっただろう。


「緩和されてないって事は、まだ精神攻撃を受けてるって事か?」


「いや、それはないだろう。

 精神攻撃されているとわかった直後、バーナード氏が持っているだけの異常耐性が付与された装飾品を護衛全員に配布していた。

 敵がそれに気付いていないとは思えん」


「確かにそうね、バーナードさんもかなり慌てた様子だったから、冒険者の何人かは知っている筈よ」


 そういいながらオリゴーリョは腕輪(ブレスレット)を装着している右手首を、クレアは指輪が人差し指にはまっている左手を差し出し、カプリースは前髪の一部を止めているヘアピンを指さした。


「速攻で自分の専属全員に精神攻撃対策をしてたのか、流石というべきか……」


「少なくとも、ここにいる者達も含めたミザールの護衛達は間違いなく正気である事はわかった。

 問題は未だ疑心暗鬼に陥っている原因だな」


「その事だけど、一つ思い浮かんだ事があるの。

 仮説でも良いなら説明させてくれないかしら?」


「頼む」


「もしかしてなんだけど、私達でも気付かないような道具を仕掛けられてるって考えられない?

 それも異常状態を維持するような物。

 その道具が作用して精神攻撃を受けた人達がまだ精神異常のままかもしれないわ」


 リンダが考えたのは、異常状態を維持できる道具を仕掛けられた可能性はないかという事だった。


 ルテラ砦に着いたにも関わずほとんどの者が疑心暗鬼のままなのは、昨晩受けた精神異常が解除されず維持されたままなのではないかと考えたのだ。


 盗賊脱走事件の際、かなりの者が精神攻撃を受けた可能性があり、それを助長する道具が仕掛けられた可能性があるというなら、この状況にも納得がいく。


「可能性としてはありだな。

 問題は、使われているのが魔道具、霊具、仙具のどれかだな。

 魔道具は魔力(マナ)、霊具は霊力(チャクラ)、仙具は理力(フォース)を原動力にしてる。

 それによって影響を受けてる連中も変わってくる、そこからある程度絞れるかもしれねぇが」


「それなら私に考えがあるわ。

 フィオルン、おいで」


 キールが道具の影響を受けている者達から種類を絞れないかと考えていると、クレアがフィオルンという名前を読んだ。

 するとそよ風が吹き、キールの目の前に透明な羽を生やした着せ替え人形が現れた。


「こいつ、風の中位精霊か」


「この子はフィオルン、私の契約精霊よ。

 以前立ち寄った町で偶然放浪してたこの子を見かけて、意気投合したの。

 フィオルン、さっきの話を聞いてたと思うけど少しキャラバンの人達を見て回って来てもらえる?」


《道具の影響を受けてるかもしれない人達を探せば良いんだよね?

 任せて!》


 そう言うとフィオルンはキール達の頭上まで飛び、キャラバン全体を見回りに行った。


「なるほど、精霊を認識できる奴は限られているし、風の精霊なら情報収拾に最適だな」


「おや? 精霊様がいらっしゃったんですかい?」


「良いなぁ、私でも契約できないのに」


 ゴンスケはフィオルンがいる事には気付いておらず、リンダは羨ましそうにフィオルンと契約しているクレアの方を見ていた。

 二人の態度にはちゃんと理由がある。


 精霊を認識する条件は、魂の波長が合うかどうかだ。

 一般的に魔力の量が多いか、霊力の質が上質かと言われているが、その認識は間違いだ。


 基本的に精霊は自由奔放で、人が作る道具やその行動に興味を示す事はあっても、一人の人に興味を示す事はないのだ。


「お嬢ちゃんこればっかりは精霊に気に入られるかどうかの問題だ。

 あんま落ち込まない方が良いぞ」


「俺がフィオルンと契約しようとした際盛大にふっとばされたんだよな……」


 精霊が見える者達は自身の魂の波長が合う事で認識し、更にその精霊が好む波長であれば、魔力、霊力、理力のいずれかを通し精霊に好かれる事で契約に至る事ができる。


 精霊には下位、中位、上位、高位、最高位、精霊王という階級があり、階級が上がるほど契約が困難になってくるのだ。

 そして契約する方法は、魂の波長が合い気に入られるかどうかの問題なのだ。


「様子から察するに、お前は風の精霊と相性が悪そうだな。

 クレアの波長は、風の精霊と相性が良いんだろう」


「風の精霊なら風のエレメンタルの恩恵にあやかれる。

 なるほど、前に言ってた策ってのはこの事か」


 精霊は『エレメンタル』と呼ばれる独自の力を持っており、魔力、霊力、理力問わず使用できるエレメンタルはその属性(ソウル)の精霊によって異なってくる。


 炎属性(ソウル・フレイム)であれば炎の、水属性(ソウル・ウォーター)であれば水のエレメンタルを使い操る事が出来る。

 加えて精霊と契約する事が出来れば、その精霊と同じ属性の力を少しだけ使えるようになるのだ。


(それにしても精霊との契約か、戦力アップとしてはその方法もありだな。

 オリソンティエラに着いたらサブリナに精霊がいそうな場所を聞いてみるか)


 キールが戦力アップのために精霊との契約を考えていると、キャラバン全体を見に行ったフィオルンが戻ってきた。


《ただいまー》


「おかえりフィオルン。

 それでどんな感じだった?」


《見た感じだと能力者(アビリア)が一番ピリピリしてる人数が多かったよ。

 魔法使い(メイジ)も何人かピリピリしてはいるけどそんなに酷くないし、霊術師(サイキッカー)は全員落ち着いてるっぽい》


「って事は仕掛けられてるのは仙具で間違いなさそうだな。

 そうと決まればミザールに話して取り除かねぇと」


 フィオルンの情報から、仕掛けられた異常状態を維持する道具は仙具だと断定したキール。

 その仙具を排除するべく、仕掛けられた仙具を探しに行こうとするが、そこでフィオルンから思わぬ情報が知らされた。


《でも、それっぽいもの見当たらなかったよ?》


「なんだと⁉」


「どういう事フィオルン?」


《仕掛けられたのが仙具だってわかったから戻る前に探したんだけど、それらしい仙具が見当たらなかったの。

 念のため魔導具や霊具もないか調べたけど、やっぱり見つからなかったよ?》


 そういいながらフィオルンは仙具が見当たらない事に対し不思議そうにしていた。

 情報を聞いたキール達は、仕掛けられている筈の仙具が見当たらないという事実に困惑していた。


「どういう事だ?

 状態異常を維持するには近くに仕掛けねぇと機能しない筈だぞ?」


「フィオルン、本当に何もなかったの?」


《わかんない、パパッと見ただけだから見逃してるかもだけど、それっぽい力を感じなかったの》


「探しものが得意な風の精霊が見つけられないって、どういう事だ?」


 風の精霊であるフィオルンが見つけられない仕掛けられている筈の仙具。

 だが異常状態を維持するために、仕掛けられているのは間違いない筈なのだ。

 全員が困惑する中、ラピスが手を上げた。


「一つだけ、心当たりがる」


「心当たり?」


「私が離反する前、ヘルシャフトの開発班が長年精霊にも通用する秘匿効果のある道具作りに力を入れていたのを思い出したんだ。

 もしかすると、それが完成した可能性がある」


「マジかよ」


 ラピスから報告を聞いたキールは、思わず頭を抱えた。

 まさか精霊にまで通用する道具を開発されているとは思っていなかったからだ。


 だがそれならばフィオルンが見つけられなかったの納得がいく。

 そしてここからの問題は、精霊でも見つけられない仙具をどう見つけ出すかだ。


「少なくとも、誰かが持ってるっていうのはないわよね?

 持ってたら流石に不自然だし」


「こうなったらもう一度キャラバン全体を確認するしかねぇか?」


「やめときやしょう。

 そんな事したら状況が悪化する危険がありやす」


「開発された道具と仙具は別々なのよね?

 それなら、仙具の方だけ今より強く機能させれば道具の効果を上回って見つけられる可能性はない?」


「完成したばかりなら、まだチャンスはありそうだな。

 だがどうやって仙具のみ機能を強める?」


 リンダが提案した方法でなら、発見できる可能性はばだあるだろうが仙具の機能のみをより強く発動させる方法の方が問題だった。

 仕掛けられているのはあくまで維持する仙具であって、増長させる仙具ではないからだ。


「……やむを得ねぇ、ピンポイントで仙具を機能させる方法は後で考える。

 一旦荷馬車の点検って理由で探すぞ」


「今はそれしかなさそうだな。

 それじゃあ俺はバーナードさんに事情を説明して頼んでくる」


「奥、頼んだぞ。

(精霊にまで通用する道具か、困った事になったぞ……)」


 ミザールにことの事情を説明しに行ったオリゴーリョを見送った後、キールは精霊にまで通用する道具に対し、どうやって対処するか頭を悩ませた。

 ご覧いただきありがとうございます。

 もしよろしければコメント、いいねお気軽にいただけたら幸いです。

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[一言]  こんばんは、御作を読みました。  この手の工作は疑心暗鬼を読んで、組織をズタズタにするから強力ですね(^◇^;)  それにしてもヘルシャフトの技術は凄いというか、割とトンデモアイテムとかト…
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