自重する(笑)な幼女
騒動を起こしてから更に2週間が過ぎた。わたしはあの日の後からも練習した。
……ただし、まったく違うことを練習していたのだが。
具体的に言うと、格闘術や体術に身体のあちこちから炎を噴射したり爆発させたりした動きを取り入れた三次元的な戦闘スタイルの練習だ。ただし、我流。
ただ、それだけだとなかなかに難しく、上手くいかないため新しいスキルをポイントで獲得した。思考加速と並列思考だ。
思考加速はまんま思考速度を上げるスキルで、副次効果で意識も加速され全てがまるでスローモーションのようになる。並列思考も分かるように複数同時に別々のことを思考出来るようになるスキルだ。
そしてたまに兵士の人やドルガさんに相手をしてもらっている。みんな最初は、かなり戸惑った顔してたし手を抜いていたけど、すぐに本気を出して相手をしてくれた。高いステータスのお陰なんだろう。
……幼女相手に真剣に戦闘訓練をする……。自分でお願いしておいてあれだけど、かなりシュールな光景だろうし、第三者の視点で見るとなかなか不味い光景に見えそうだけど。
まぁ、そんな感じで周りの人たちにも協力してもらったお陰でかなり様になった動きができるようになった。
そして更に朗報。格闘術と体術のスキルがいつの間にか生えていた。
どうやら、特定の行動を行い続けるとそれに関連するスキルを獲得するらしい。よほど向いていない限りある程度は獲得できるらしい。
また、そのスキルを使い込むことでスキルレベルも上がるという話も聞いた。もちろんレベルが高い程上がりにくくなるらしいが。スキルポイントでも上げられるが、皆そこまで余裕がないので大体はポイントを使わずに獲得できる物は頑張って自力で獲得するらしい。
「ハァッ!」
「ぬぉっ!まだまだ!」
更に2週間が過ぎた頃には、ドルガさんとかなりいい勝負ができるようにまでなった。ついでに軽業というスキルも獲得していた。
「うおっりゃあ!」
ダンッ!という音を立てながら地面に叩きつけられ目の前に木剣を突きつけられる。
「……参りました」
勝負がついたと判断したわたしは、降参した。
「ふぅ~、こんな短期間でよくこれだけやれるようになったなぁ、嬢ちゃん。途中からかなり本気出してたんだが、冷や汗が止まらなかったぞ」
「まぁ、もともとステータスが高かったというのもありますけど、この町に来てから朝から夕暮れまで自己錬していましたので」
少し肩で息をしながらそう言った。
なんでそんなに必死になっているのかと言うと、ただ単に冒険者になりたいって言うのともう1つ。
出来る限り自分が「勇者」の職業持ちであるのを隠すためでもある。勇者は、特別な儀式で召喚された存在でなければなれないものとされている。
その上その勇者という存在が密接に関わっている六然教という宗教がこの世界には強く根付いていて国教にもなっている。何が言いたいかというと、ばれたらかなり面倒なことになる未来が見えるから。
そんなことを考えていると、屋敷から使用人の人がやって来た。
「領主様、ドラト様とチェルン様がお帰りになりました」
「ああ、そうか、分かった。今からいく」
そう言うと、使用人の人は戻っていった。
「えっと、もしかして……」
「ああ、俺の息子と娘だ。今は王都の全寮制の学園に通っててな、丁度10日程前から長期休暇……つまりは春休みだ」
「それで、実家に帰ってきたと」
「そういうことだ。さ、出向かいにいくか。嬢ちゃんもついでに来な、紹介する」
「はい、今いきます」
そうして、ドルガさんの後をついていき、門までいくことにした。
門までいくと、そこにはティラーナさんとズラッと並ぶ使用人達という光景が、そこにはあった。……改めてここは、貴族の家なんだなぁと思った。
「ただいま、父ちゃん!」
「ただいま!」
そんな今更な感想を抱いていると2人の子供(自分も子供だが)がドルガさんに走り寄っていった。
「おう、お帰り。元気だったか?」
「もちろん!」
「なでなでして~」
「はは、分かったよ」
「えっと、ドルガさん、その2人が……?」
「ああ、息子のドラトと娘のチェルンだ」
「んー?父ちゃんだれなんだこいつ」
「だれ~?」
「色々あって拾って来たんだ。」
ちょっと待て。確かにそうだがその説明は雑すぎない?
「今は、父ちゃんのお客さんってところだ。名前は……」
「ルナって言うの。よろしく」
「ルナ……か。よろしく!」
「よろしく~!」
「なぁなぁ父ちゃん!この子と遊びにいっていいか!?」
「わたしも遊びたいっ!」
「それは明日にしとけ。慣れない長旅で疲れてるだろ」
「「え~~!?」」
「え~じゃない!そのかわり明日1日遊んできていいから」
「「分かった~!!」」
「息ピッタリですね」
苦笑いしながら2人を見た感想を言った。
「まぁな。嬢ちゃんも今日はもう休みな。明日1日振り回されるぞ?」
「はは……、そうします」
そして、その翌日の朝の食事が終わった後、早速町に遊びにいこうと腕を引っ張られながら強制連行された。
……そう言えば、町をよく見ていなかったっけ。ずっと練習に明け暮れてたし。噂になってたりするかな?
そんなことを考えていると、公園……と言うか空地のような場所で10人前後の同じ年くらいの子供達がいた。どうやらここが共通の遊び場のようだ。
「あ!ドラトとチェルンじゃん!帰ってきたの?」
「うん!しばらくこっちにいるから一緒に遊ぼ?」
「いいよ!……で、そっちの見かけない子は?」
「わたしはルナって言うの。よろしく」
「ルナちゃんか……。よろしく!」
「それじゃあ何して遊ぶ?」
「ルナちゃんは何がしたい?」
「えーっと、う~ん、……いつもは何して遊んでるの?」
「鬼ごっことかかくれんぼとか?」
「んー、じゃかくれんぼやろうか?」
「じゃあ鬼やる人~?」
……だれも手を挙げない。しょうがない、わたしがやろう。そう思い、すっと手を挙げた。
「え?鬼やるのルナちゃん?」
「別にいいよ。じゃあ、30秒数えてるから隠れてね」
そう言って、かくれんぼが始まった。
そして日が暮れてきたのでその日は終わった。
「くっそー、ルナちゃん強すぎ……」
はい、この言葉の通り全部勝ちました。かくれんぼでは必ず全員を見つけ、逆は鬼役の子が降参するまで隠れきり、鬼ごっこではぶっちぎりで逃げ回り、挙げ句の果てには増え鬼でも逃げ切った。
え?大人げないって?いいんです今は幼女だから。
ちなみに遊んでる間に町の人がわたしを見てこんなことを言ってた。
「あら?今の子見かけない子ね?」
「ああ、確か一月ぐらい前から領主さんが客人として屋敷に泊めてるって話だ」
「あんな小さい子が客人?どういうこと?」
「さてな?どこかの貴族の子供か、昔の冒険者仲間の子供でも預かってるんじゃないか?」
「あー、その話だがな。2週間くらい前にあの子供、領主さんの屋敷の一部を派手に壊したらしいぞ?」
「ええ?一体どうやって?」
「さぁ?それは知らん。うちの酒場で酔っ払ってた兵士さんが言ってたことだからな」
という具合である。
良くも悪くも謎の幼女という認識のようだ。まぁ、ろくな説明もされていなさそうだから仕方がないか。
ただ、もう二度と変な騒ぎになるようなことはやらかさない方がいいだろうなと、そんなことを思いながら。