マジカルポット
1
ある日、我が家の電気ポットが、魔法のポットになっていた。
異変に気づかずに飲んだからわかる。水をいれて沸かしたら、熱々のリンゴジュースが出てくる。果汁はそんなに多くない、甘味の強いジュースが出てくる。
蓋を開けても中身はお湯なのに、スイッチを押すと熱々のリンゴジュースしか出てこない。
ホットコーヒーが飲みたいときは手鍋でお湯を沸かすことになる、マジカルなポットだ。
このまえ購入したばかりの最新機器ではあるが、ファンシー機能が標準装備されるには時代が早すぎる。
メーカーに問い合わせても無駄だろう。故障と言い張るだけの度胸もない。
時間が解決することを期待したが、一日たっても元にはもどっていない。
今朝もまた、熱々のリンゴジュースを試飲している。
糖分が染み渡る。
なんとなく身体の調子がいいのは気のせいではないのかもしれない。
2
ほんとにすごい魔法のポットだが、いらないので売ることにした。
もちろん普通の電気ポットとして売ることにした。
便利な世の中だ。すぐに買い手がついた。
たとえ熱々のリンゴジュースしか出なかったとしても、こちらに文句はいえないだろう。
たとえクレームがあろうとも、
「そんなわけないでしょう?」
と、やさしい気持ちで堂々と対応してやろう。
手軽にお茶やコーヒーを飲みたいので、ふつうの電気ポットは欲しいところ。
せっかくなので、同じフリーなマーケットで探すことにした。
まったく便利な世の中だ。
いいものを安く購入することができた。
3
遠くへ旅立った魔法のポットは、呪われたアイテムなのかもしれない。
フリマで購入した電気ポットが届いたのだが、箱の中には送りだしたはずのポットが入っていた。
購入記録などを調べてみたが、あるはずの不備が確認できない。
電子データをいじるとは、なかなかのマジカルパワーをみせてくれる。
たまたまチラシが入っていたので無料回収業者に頼んでみたが、翌日には家の前に戻ってきていた。
ぽつんと置かれた電気ポットには、捨てられた犬のような哀愁が漂っていた。
4
魔法のポットは気前よく、熱々のリンゴジュースを出してくる。
ぶれることなくお湯を出さないため、今朝もまた、湯気のたつリンゴジュースを試飲しながら考えている。
呪いの電気ポット……字面をパッと見ただけでば、「お祝いで贈られた家電」としかおもえない。呪われた電気ポット(笑)がふさわしい表記だ。
そしてこの、呪いにまったく似つかわしくない甘味成分。
いったいどうすればリンゴジュースに恐怖を感じることができるのだろう。
どうすればホラー要素を取り入れられるのだろう。
死霊のリンゴジュースとか、恐怖成分は0パーセントだ。果汁未満だ。
今朝もまた、糖分が染み渡たる。
体調がよくなるあたり、愛されている気がしないでもない。
元にもどる可能性も捨てきれない。
処分については、しばらく保留にしておこうかとおもう。




