留置所のあなたは悪役令嬢
「お嬢ちゃん。君はどこから来たのかな?」
「わたくしはお嬢ちゃんではありませんわ!」
「うん、そーかそーか」
突然だが初めまして。
俺は今、俺の職場である留置所につれてこられたガキに質問をしている。
だが端から見れば、幼女をナンパするロリコン変質者か何かに見えるかもしれないが……。
って、誰がロリコンだ。
「じゃあチビちゃん。おとうさんとおかあさんはどうしたのかな?」
「チビじゃあありませんわ!」
うーん、参ったな。
見た目十代のガキは、二十代の俺にとって反抗的で実に扱い難い。
「何で君は八百屋さんのりんごを勝手に食べたのかな?」
「知りませんわ!」
グギュルギュルー。
部屋に、何かの鳴き声のような音が轟いた。
でかい虫でもいたようだ。
俺は思わず溜め息をついた。
「家出でもしたのかな?帰れば良いじゃないか」
「……わたくしに帰る家なんてないもの」
ガキは寂しそうに答えた。
「殿下だってあの女が良いって言うし……お父様はわたくしなんか勘当だって言うし……ッ!」
なんてことだ。
思っていたよりずっと面倒そうな話だった。
「国外追放だって言われて、よく分からない汚い街に放り出されたのよ。あのお店は、たくさん食べ物があったのだし、少しくらい良いじゃないッ!!」
「じゃあ、名字は言えるかな?」
「家名なんて剥奪されたましたわ」
怪しいことこの上ねぇな。
はぁ、俺は街の八百屋に通報されて留置所までしょっぴいてきただけなんだが。
何でこんなことになったのか。
まあ良いや。取り調べは俺の仕事じゃねぇし。
明日、引き渡す警官がたっぷり尋問することだろう。
……それにしても、このガキは本当にどこのどいつなんだろうか。