第2話:錬金術師は虐げられる
「ここが魔王様方のお部屋になります。今日はゆるりとお休みになってください」
そう言われて連れられたのは、だだっ広い洋室だった。
ベッドが人数分設置されている他にはランプが何台も設置されている。今は暖かいためついていないが、暖炉まで設置されていた。
騎士が恭しく敬礼し、部屋を去ると、菊池が部屋の中にずかずかと進んでいく。
「僕はこのベッドを使います。皆さんも自分のベッドを決めてはいかがでしょう」
「そうだな。じゃあ俺はここで」
「僕はここにします」
あっという間に三人が場所を決めてしまったので、俺は残ったベッドに自動的に決まった。
どのベッドも差異はない。ふかふかの暖かそうなベッドだ。
ベッドの場所を決めて一段落したところで、俺は気になっていたことを聞くことにした。
「な、なあ。俺たちってどういう状況なんだ? 女神とか魔王とかよくわからないんだが」
「本当に知らないのか?」
藤本が疑うように俺の顔をまじまじと見る。
他の二人も似たようなものだ。
「ああ、ラノベを読み終わって寝落ちして気づいたらあそこに立ってた」
「他の連中は知らんが、俺はトラックに跳ねられて死んだ後、女神様に異世界に転生するか日本で生まれ変わるかって条件を出されたんだよ」
「僕もそうです。死んだ理由は通り魔に刺されたからですが、その後は同じです」
菊池が驚く風でもなく答える。まるで当然じゃないかと言わんばかりに。
「僕は少し違って、ゲームをしながら寝落ちしたら女神様が夢に出てきたんですよ。それから転生するかどうかって話になりました」
星野の状態が俺に一番近いが、決定的に違うことがある。
それは女神に会ったのかそうではないのかということだ。
「女神に会って、どういう話をしたんだ?」
菊池が他の二人と目を合わせ、代表で答える。
「僕の場合は七つの中から好きな職業を選べと指示されました。魔王として異世界に転生し、勇者を倒しなさいと説明されたのを覚えています」
『魔王』が『勇者』を倒すとはな。
ゲームなんかでは普通『勇者』が『魔王』を倒すものだが、女神の考えはよくわからない。
普通ならそんな話を聞いても信じられないところだが、現に俺はよくわからない世界に来ているのだ。今はどんなことでも信じられるし、どんな情報でもいいから欲しい。
「『魔王』が『勇者』を倒すなんてワクワクしますよね。RPGとかと逆だし、僕はもともと魔王の方が好きでしたから」
「まったくだ。世界のためとか人類のためとかで命を張るのは馬鹿にすることだぜ。なにせ勇者を倒した暁には巨万の富と女が手に入るって話なんだからな」
巨万の富……女……?
「ん、佐藤はそれも知らねえのか。女神曰く、異世界で暴れる勇者を倒したら報酬を与えるんだってよ」
もちろん俺が知っているはずがない。
それにしても女神がそんな俗にまみれた報酬を用意するものなのか?
俺の中の『女神』がどんどん崩れていく気がする。
「明日からは『魔王』としての訓練が始まるって話しです。そろそろ眠るとしましょう」
「そうだな」
「賛成でーす」
まだ聞きたいことは山ほどある。それなのに、『魔王』たちは寝る気満々だ。
もたもたしている間に部屋に設置されているランプのほとんどが消されてしまって、残るは俺のベッドの隣のランプだけ。
仕方ない。明日から徐々に話を聞くことにしよう。
俺はランプを消してベッドに入ると、すぐに眠りにこけた。
◇
翌朝。
午前八時の朝食を終えてすぐに昨日召喚された部屋に案内された。
ここは王様が儀式に使う部屋になっているとのことだ。
「魔王諸君よ、今日は貴君らの実力を見せてもらうとしよう」
唐突に告げられた王様の命令を、他の三人は知っているようだった。
騎士が持ってきた丸太を、パラディンの菊池は剣で真っ二つに叩き切る。
同じ丸太をアーチャーの藤本は矢で貫通させ、まるでゲームのようなエフェクトで燃やした。
ビショップの星野は二人が壊した丸太をすぐに元の形に復元させてみせた。
そして俺。
何をどうして良いかわからない――。
それも当たり前のことだ。
俺は女神から何も知らされていない。異世界に来たからには何か力を使えるのだろう。でも、その力の使い方が何も分からない。
「早く何かせんか、佐藤俊」
どうすればいい?
俺には武器がない。じゃあ素手で丸太を殴ればいいのか?
周りの注目が痛い。そんな目で俺を見るな!
「うおおおおおおおおおおっっっ!」
俺は助走をつけて、持てる力の限りを使って丸太を殴る。
俺に力があれば壊せるはず……そのはずなんだ。
だが、丸太はびくともしない。それどころか――。
「うああああああああああ」
手から腕に強烈な痛みが襲う。
痛みに耐えきれず、叫んでしまう。俺を見て王様は顔を顰める。
「王よ、発言をお許しください」
「ふむ、パラディンの者だな。発言を許そう」
「彼、佐藤俊は七職業はおろか、聞いたこともないような職業……錬金術師なのです。申し上げにくいのですが、このような場を設けて笑いを誘われては、我々のお披露目が霞んでしまいます」
「ふははっ! そうじゃな、菊池裕也よ。しかしな、余興も時には必要なのじゃ」
愉快そうに嗤う王様の顔は歪んでいた。
一件俺を庇うような発言をした菊池も、嗜虐的な笑みを浮かべている。
菊池だけじゃない。藤本も、星野もだ。
俺は最初から期待されていなかった。
笑いのネタにされていたのだ。
それがわかると恥ずかしいさと怒りが同時にこみ上げてくる。
この構図を俺は知っている。
いじめだ。
どこまでも黒く腐った笑い声が、俺を殺そうとする。
「――さて、余興も終わりじゃな。残念じゃが、貴様には消えてもらうとしようかの」




