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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者を愛した愚かな魔王

作者: 湖月もか

勇者と魔王者が書いてみたくて書きました。

またまたド短編の話で、名前は出てきません。

※10/28誤字修正と一部改正。

「約束。必ず迎えに来るから、それまで辛くても何があっても頑張るって、待ってるって約束して。そしたら僕も頑張れるから」

ね?と左の小指を絡ませて微笑む男性に、不安を滲ませながらもそれを受け入れた彼女は漆黒の髪に深紅の瞳を持った魔族だ。


「待ってるわ。貴方が迎えに来てくれるのを、私この場所でずっと待ってる。だから、気を付けて行ってらっしゃい」

「……うん、行ってきます」

新婚のようなやり取りに頬を染めた男性はキリリと表情を引き締めて、傍らの剣を掴み名残惜しそうにしつつも旅に出た。


「……なにがあっても、待ってるから」

(だから元気な姿で、ちゃんと私の事を迎えに来てね。ずっと、ずっとここで。この思い出の場所で貴方を待ってるから)




しかし何年待とうとも旅に出た彼が戻ることは無かった。








「なあ、知ってるか?前勇者は闇に落ちて討伐すべき魔族に肩入れしたとかで処刑されたんだってよ」

「そうか……。あの勇者様は闇に染まってしまったのか。惜しい人を亡くしたな」


食材購入の為に入ったお店で偶然にも聞いてしまったとんでもない話に心が割れた音がした。


(ああ……あの人は国に尽くしたのに、国に裏切られたのね。私のせいで……。そもそも、あの人は精霊に護られてるから決して闇に染まるはずがないのよ)


嘆いたところで待ち人の彼はもう二度と彼女の元へ戻ることは無い。

既に遠いところへ旅立って行った。


「所詮魔族は悪、ってことね……」

(ならいいわ。貴方達人間の望み通り悪になってあげるわ……)



* * * * *



「お、おい!お前達女1人になに手こずってるんだ!さっさっと始末しろ!」

王座に座った肥えに肥えた男が吠えたて、一斉に兵士が彼女へ襲いかかるも魔術によって弾かれて近寄る事さえ出来ずにいる。

「ふふふ。無駄よ無駄。人間なんかが魔族の私に勝てるわけ、ないじゃない」


息を呑む声が辺りから聞こえた。


「何が目的だ!この国を征服しにきたのか!?」

「……はっ、こんな国要らないわよ。ただ、貴方達が私の大切な人を殺したから。あの人を裏切ったこの国なんて、こっちから願いげだわ。あの人を殺したこの国が(地図上から)亡くなればいいなと思っただけよ」

「なんの事だ!俺達は魔族なんて殺してない!知らないぞ!」

もちろん彼らが知るわけ無いのだ。

魔族の彼女が憤って、哀しんでいるのは前勇者である1人の人間が国に裏切られて独りでこの世を去ったことなのだから。



(ねえ、貴方。もう少しだから、待っててね。迎えを大人しく待ってられなかったけど、私が貴方を迎えに行くから。)










1つの国をたった一人で消滅させた魔族の女の噂は思ったよりもすぐに広まった。

当然人間は彼女を魔王と称して討伐隊を幾度も出した。……直ぐに全滅させられているが。

何度も何年も繰り返し、その結果とある国が彼女の元へと勇者を差し向けた。


「あら、貴方が勇者?せいぜい私を楽しませてね」

「魔王は女だったのか。だが国を滅ぼした罪は重い。覚悟しろ」

刺すような殺気を向ける鎧を纏った男の雰囲気は、似ても似つかないはずなのにどこか彼に似ていた。

(顔が見えないから……余計あの人に感じてしまう。でも、似てたとしても本物の彼はもう居ない。だから迎えに行かないといけないのよ)


「あの国は、あの人を裏切ったのよ。むしろ当然の報いだわ」

幾度、誰と剣を交えても消える事ないこの想いは既に昇華出来ない所まで来ている。


「っふざけるな!復讐は復讐を産むんだ!お前のせいで……!お前のせいで俺は……!」

目の前の勇者も彼女と同じく昇華しきれない想いを抱えてここまで来ている。

決して交わる事ない2つの想い。

それは重い斬撃と魔術となり互いに息の根を止めにかかる。


「……貴方、人間の割には……とても強いのね」

先に限界を迎えたのは彼女の方だった。対する勇者はまだ余裕そうにしている。

「うるさい!本気じゃないくせに何を言う。……これで、トドメだ」


勇者の剣が彼女の胸を貫く。

貫通した剣先を伝い夥しい量の血が床を染め上げる。


「……ふ、これで、やっと、貴方の元へ……いけるのね。長かった、わ……ふふ、約束とは、逆だけど……私が、貴方を迎えに、行くわ」

魔王はとても穏やかな顔をしている。

「迎え……?約束……?……っ!君、は!もしかして……!」

何かに気づいた勇者が鎧の兜を煩わしげにとる。そこには、彼女が懇願していた彼がいた。

「あ、ああ……いき、て……いたの?……ふふふ、最期に……貴方に会えるなんて、良かったわ。……約束、護れなくて、ごめんなさい」

「そ、そんな……!?俺は、君を刺したのか……!?嘘、だろ……」

「魔王は、滅びて……勇者、は幸せに。やく、そく……ね?」


ちゅ

手を伸ばし彼の顔を引き寄せて、頬へキスを落とした彼女は、最期の最期まで彼の幸せだけを祈って……綺麗に笑って逝った。


魔族は人間とは違う。

死んでも遺体は残らない。魔力の元となるマナへ還るのだ。



その日勇者を愛した魔王はこの世から消えた。



* * * * *


ねえ、貴方。

私がいなくても貴方なら大丈夫よ。

だから、幸せになってね。


でも、忘れる事だけは許さないわよ……?

偶にでいいからあの場所で貴方の話を聞かせてね。

幸せになった、貴方と貴方の家族の話を。



私は、魔王。

ただ1人勇者を愛し、勇者である貴方の幸せを祈った愚かな魔王よ。


私は、とても……とても幸せだったわ。


バットエンドですけれど、魔王の彼女にとってはハッピーエンドです。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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