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異世界でもアイプチで二重を作りたい!

作者: 真瀬

いつものように、髪を綺麗に結い上げてもらい、化粧水をつけてもらい肌を整え、唇にも保湿油をしてもらう中、いつもいつもなんだか足りない…そんな違和感を感じていた。

鏡の前でもっと何か、してた気がする。と。


ずっとそんな違和感があった私、クレア・ミルバーナは、王子の婚約者選びの為に開かれるパーティーだと暗黙の了解で知られる、王子の10歳の誕生日パーティーに参加するべく、生まれて初めて化粧を軽くしてもらったことから、突然、思い出したのだ。


あ、アイプチしてないから盛れないわ――と。



とどのつまり、転生者である。

前世の私は、たぶんそれなりの年齢の大人の女性だった、と思われる。日本在住のアイプチ愛用者だ。


おぼろげにここは前世と世界観が違うということ、よくある転生ものであること、そして、前世の私は今世の私と同じく――奥二重であったこと。それだけをぼんやりと思い出したのだ。


「クレア様。とても可憐ですわ」


侍女のミーニャが満足気にニコニコしながらうっすら瞼に色を乗せた私に、褒め言葉をくれる。


「ありがとう。ミーニャ…腫れぼったくはないかしら?」


アイプチの存在を思い出してしまった為に、ほぼ元の素材のままの顔に、ちょっと不安になる。


「大丈夫ですわ。すっきり見えるように淡い色は避け、濃いブラウンでさり気なく目を大きく見えるように施しましたから」


大きく見せようと、目尻に濃いブラウンを施してある。ほんの気持ち、子供がシャドウだけ、特別な日だからと許され化粧してもらった感じだ。


「そう。ありがとう」


確かに、10歳の女の子がガッツリ化粧もどうかと思うし、瞼全体にこれでもかとピンクの可愛らしい色をまんべんなく塗られでもしていたら、奥二重なのも相まって、殴られたのか?という目になっていたことだろう。日本の詐欺メイクの技術でないと、失敗するところだ。

物足りないけど。


侍女の腕を心配するような発言になっては申し訳ない。安心したように笑顔をミーニャに向けると、ミーニャもホッとしたように微笑んでくれた。



衝撃を受けた。


一人一人、王子と歳近い令嬢がいる家は、顔を覚えてもらおうと王子に挨拶に伺うのだが――。


「本日はお招き頂き、恐悦至極にございます、陛下。ルイド王子殿下のご生誕から十年、お祝い申し上げます。僭越ながら、今年は娘も王子のお誕生祝いをさせて頂きたく、共に馳せ参じました」


「お初にお目にかかります、陛下。ミルバーナ家長女、クレアと申します。本日は父と共に参列させて頂き、恐悦至極にございます。ルイド王子殿下につきましては、お誕生十年、おめでとうございます」


父が挨拶したことで、練習してた通りに王様に挨拶したのだけれど。顔を上げることを許されてから、初めて王子の顔を拝見させて頂いた時、衝撃が走った。



すっっごい、パッチリ二重――!!


見目麗しいのは当然のことながら、外国人の男の子特有の超くっきり二重の美形さんでしたよ。王子様って、お約束の如くイケメンよね。顔ちっさ!


前世でも、普段はそんなに化粧ガッツリじゃなかった。ただ、イベントの時なんかはアイプチ使って二重にして、カラコンで盛って、ガッツリつけまつ毛だったから、こういう特別な日にアイプチなしの顔でこんな美形の前で顔を晒すのが辛い。


よし――!アイプチの開発者になってやろうじゃない!!



アイプチ愛用者だった前世の感覚を思い出してしまったからには、奥二重の今の顔だと物足りない。お約束の前世の知識でチート人生目指してやろうと、大事な婚約者を決める舞台だったというのに、そんな決意をしたのだった。



――月日は流れ、15歳。やっぱりただ、利用してただけの使用者が、アイプチの成分とか全く知識がなく、わからない状態でチートできるはずもなく。あればいいのにだけの精神から開発は頓挫した。


ただ、挫折したものの諦めはしなかった!!


王子の婚約者候補になるだけあり、私は伯爵令嬢というそれなりの地位があった。しかも、貧乏とは無縁の伯爵の中でもお金持ち。有難いことにミルバーナ家のツテがあり、美容研究のスペシャリストに依頼することは、お金さえ積めばできる環境だった。


そう、発案者にはなれたのだ!


ただしかし、瞼にのりを塗って二重を作るなんてのは、とんでもない発想だったらしく、笑われてしまったものの…我儘令嬢が無理難題を押し付ける形で開発だけは依頼できた。できたが、今世ののりは皮膚が被れるという大問題があった。


そこで、開発は依頼だけしてぶん投げて、やっぱここは魔法でしょう!と、魔法でなんとか自然癒着できないかを私は研究し続けた。


そう、この世界、当然のようにファンタジー世界だ。王政であり、魔法が存在する世界。治癒魔法があり、失った手足とか繋げられるという。生やすことも最上級魔法になるとできてしまうとか。


それなら、癒着も可能でしょ?くっつけるんだから。治療魔法を極めよう!と、私はすぐに思い至った。


実は、王子に初めて会った時に衝撃を受けた私は、王子様に見初めてもらうイベントより、王妃教育という現実のことを思うと乗り気になれず、そう積極的に王子に気に入られようと近付かないでいたのだ。


それどころか、アイプチや二重プチ整形のことで頭がいっぱいだった私は、王子の友人の一人である、ユラン・マクナイン様のが気になった。


マクナイン家は、治癒院を拓く程に治癒魔法特化のお家なのだ!絶対仲良くなりたいと思った私は、王子そっちのけでマクナイン家次男のユラン様と仲良くなろうと、下心丸出しで近付いたのだ。


なんとか仲良くなり、お近付きになれたのだが、王子の友人な為に、彼に取り入って王子に近付く目的の令嬢がそれなりにいた中、私だけが王子ではなくユランに興味があったことから、まぁ婚約者を探していたのは王子だけではなかったということだ。そう、私はユランの婚約者になってしまっていた。



「クレア。まだそんなこと言ってるの?」


だが、しばらくはお肌ツルツルの髪サラサラのイケメン相手に、まぁ問題ないかと受け入れていたのだが――問題大ありだったのだ。


「癒着の何が悪いのかわからない」


「禁忌だと言ってるだろう?」


そうなんだよねー。治癒魔法の1つだと思っていた癒着させる魔法。なんと、禁忌指定されてる魔法だったというオチ!なんでだ。


「どうして?手足を失った人達が、腕を得ることが、歩ける足を得ることがどうして悪いのよ!」


「他人の手足だからだよ。生きた人から手足を強奪する輩が現れたら大変だし、死にかけだからと手足を奪うのは非情だ。死人の手足をくっつけてるなんて――嫌悪感しかない」


そう、癒着魔法は、不自然に繋げる魔法。治癒魔法は、元々の腕の復元、再生なのに対して、癒着とはくっつけてしまう魔法…他人との腕などを、だ。


義手の技術者みたいなものかしらね?ただし、使うのは本物の人間の手足。火傷の治療だって、他人の皮膚をもらう。切り取って脂肪を減らしてくっつける。痩身手術とかも癒着魔法になるね。胃袋ちっさくしたりとかもそう。まさかの、前世の整形が今世では禁忌だったのだ。


「手足を失って、また自由に動かせる手を、足を与えてもらえるなら、なんとしてでも欲しいでしょう?選択肢があったっていいじゃない…誰もが最上級の治癒魔法で自分の手足を生やしてもらえるわけじゃないでしょう?」


おそろしく、最上級の治癒魔法は治療費が高いのだ。何せ奇跡だ。施しで大魔法使いなる術者が、一瞬で治してくれることもあるのだが、この国の者ではない。この国にそこまでの高等技術がある魔法使いはいないのだ。数名で、数日がかりで手足が生えるまでひたすら最上級の魔法をかけ続ける。痛みを伴い失神することも叶わず、痛みを軽減する為に鎮痛の魔法も合間に組み立てなくてはならず、莫大な魔法陣で補助しなくてはならず、かなりの広さが必要となるのだ。


つまりは、超金持ちでないと治療してもらえない。


「だからと、他人の腕をくっつけるのか?誰の腕かもわからない腕が、自分にくっついてるなんて恐怖でしかないだろ?!切り落とした方がマシじゃないか…おぞましい」


「他人の腕を付けたくない。死人の腕なんて取り付けないでくれって、腕を失った当人が言うのならいいわ。大切なのはその人の主観だもの。だけど、他人の腕でもいい、そう渇望してる人がいて、自由に動かせる腕を求めただけで、悪魔と罵られて嫌悪感を持たれて非難されるなんて、あんまりだわ…」


「他人の手足を集めるコレクターだっているんだぞ?なんで君は癒着魔法にそんな固執するんだよ。…ジルが好きなのか?だから、癒着魔法を使うあいつを庇ってそんなことを言ってるんだろう?」


そう、治癒魔法を使う婚約者のユランは、なんと治癒魔法はできても、癒着魔法は毛嫌いしてる男だったのだ。私が狙わないといけなかったのは、国一のスラム街、領主であるスパイヤス家の息子、ジルの方だったのだ。


「違うわよ!必ずしも犯罪に繋がるとは限らないし、癒着魔法だってれっきとした治療じゃない!感謝してる患者さんだって多いのに…治療してもらった人も治療した者も罪人になるなんて、おかしいわ」


トントン拍子で婚約者になってしまったものの、癒着魔法にハマった私は、ジルのお手伝いをしていた。


でもまぁ、なんと嫌われ者の異端者だって言われる有り様でした。なんでだ。そりゃまぁ、健康なのに切ったりするのは外道なんだろう、この世界。



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