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梅雨

照る照る坊主

作者: 奥野鷹弘

 降りしきる雨の中を、ボクは忘れてきた傘の盾なんか棄てて走り出した。冷たい槍のように刺さる雨は、これでもかと言うぐらいに胸に問いかける。いったいボクが何をしたと言うのだろうか。こんな時期に傘を忘れるような奴なんていない、こんな時に傘を買わずにただひたすら走る奴なんていない。踏み出す一歩一歩の度に水しぶきがズボンを濡らしていく。車の排気ガス、無神経に散らかされたごみ屑、鳥の自然ごみ、ここにあるものすべてがボクのズボンに染み付いていく。

 『雨は涙だ』だと、誰かが口にしていた。『雨は、すべて洗い流してくれる』と、迷信があった。『雨は憂鬱な存在』だと、ある人たちが苦しんでいた。『雨は、命の輝き』だと、あがめられる日があった・・。


 どこか恋に似た感情を覚え始めた。ほろ苦いながらももどかしくて、息苦しくて切なくて、このまま沈んでしまいたくて。今渡っている横断歩道が赤信号であるならば、その恋が叶うのに、ボクはいくつになっても臆病で伝えられなくて、逃げてばかりで、ちゃんと告白することすらも出来てなかった。


 真横から照らされる無数のライトアップが、麻薬中毒のように気分をより高ぶらせていく。傘という名の銃を空を向けている彼らは、前という名の人生を必死に歩いている。ボクは、雨というキミをいい加減に向かいいれたくてもがいている。


 そうボクは傘を忘れたんじゃなくて、雨という名のキミに向かい合いたくて置いてきたのだった。

 『好き。』だと言って、このまま高熱にうなされてもいい。

 『好き。』だと言って、このまま、この流れる血とともに同化させてもいい。

 『好き。』だと言ったあとに、ようやく受けいれられるときに、雷で打たれてもいい。

 ボクはもう、キミといつ逢えるか判らないのなら早く一緒になりたい。



 小学校のときに晴れるようにとお願いした、照る照る坊主。作るのがうまくて顔がキュートに出来てしまって誉められた思い出なんて、今じゃ辛い思い出しかないから消してもいい。だから、お願い。これからはずっと傍にいて。楽しいときも悲しいときも、嬉しいときも、ボクの乾ききった涙をもう一度潤して。




 自分が自分のために、『照る照る坊主』化にしてしまうまえに・・



 どうか、雨よ。

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