異能力軍、戦前演説~9番隊の場合~
…もっと……もっと、ふざければよかった……っ!
夜の帳が落ちた。
常世は闇が支配し、その漆黒は月さえも呑み込んだ。
ある実業家の元へ、殺人組織【執行者】から殺害予告が届いたのが昨日。指定されていた時間は深夜、異能力軍は護衛と犯人確保に駆り出されたのだ。
日本特殊異能力部異能課、異能力軍は近所にあった片付け前のライブ会場に集合していた。
彼らは異様な空気を纏い、計算された歪な形で整列している。
何故かボロボロの制服に、端が破けたマントを羽織っている。そのマント、一人一人デザインが違うのが拘りらしい。
更に注目してほしい。
腕や脚に包帯を巻いていたり、意味の無さそうな程薄い指貫グローブを着けていたり、やたら長いベルトや、何も繋げていない鎖。顔には、様々な形のゴーグルや眼帯、傷のようなメイク、カラーコンタクトを着けている。
異能力軍には、コスプレする部隊があるのだが、それとはまた違う。
言うなれば、趣味と病気の違いだ。
ここ9番隊は、その病気を負っている人物の船着き場。格好良く流れ流されたいと思っていた人が飛ばされる、吹き溜まり。
ここで言う病気は、14才前後の少年少女に多く見られ、特に少年の割合が高いモノ。
数ヶ月から数年で自然治癒が可能で、命の危険は無い。ただし発症中の症状は、過剰な妄想、根拠の無い万能感、自分は選ばれた人間だ、等の精神に異常を及ぼす事で知られる。
また後遺症として、その症状の人間を見ると、胸が苦しくなる、動悸が激しくなる、心が痛くなる、の様な|心的外傷後ストレス障害《PDSD》を起こす事がしばしばある。
人により多少異なるが、とある手段を用いる事で強制的に病を治す方法もある。だがその場合、心に大きな傷を残してしまう恐れがあるため、推奨はしていない。
基本的に1度発症し完治すると、再発する事は無い。
しかしごく稀に、2度目の発症を起こす場合がある。そうなると病が変質し、再び治すのは困難で、自然治癒ではまず治る事はない。
同じくらいの確率で、発症からずっと治らない人間も居る。恐らくだが病気と相性が良く、そうなる環境も整っていたのだろう。
ここ9番隊。
病が治らなかった者、再び発症した者が揃っているのだ。
異能力軍9番隊。彼らはその病名から、こう呼ばれている。
『中二病』もしくは『厨二病』
コスプレ部隊のそれは趣味であり、わざとであり、ネタである。
それに対して9番隊。本気であり、性であり、本心からの行動である。
なので彼らに悪気は無い。どころか心からの行動である為、巫山戯てなど居ない。
真面目に本気で心から、格好良いと思って行動しているのだ。
そんな9番隊が、隊員しか居ない会場のステージの上で、楽器を掲げていた。
どうやら一曲終わった様だ。
設備の使用許可を事前に取っている辺り、変な所でまともである。
既に良い汗をかいているドラマーがマイクを握った。多少呼吸が乱れているが、キメ顔は忘れない。
ちなみにだが、ボーカルは護衛対象である。
「…良い夜だ……そうは思わないか?…
夜闇は好きだ。
俺の枷を、闇は緩めてくれる 」
突然、良く分からない事を話し出した。
しかし隊員達には伝わっている様で、一様にリアクションをしていた。
護衛対象も、然り然りと頷いている。
「…同胞達よ流石だな……
…今宵の戦は勝たねばならぬことを理解するか……
そうだ!
我等の友が危機に晒されている。
これを見過ごす訳にはいかない!
我々はこの命に代えてでも、友を護るのだ!」
クルッと軽やかにターンを決めた。格好良くマントが翻るように、端に重りが付いているのは当然の処置である。
そして彼が持っているマイクは、無線ではなく有線である。コードが足に絡まっているように見えるのは、きっと幻覚だろう。
「此度の作戦は我等が友の守護。
我々は約束を違えない!
それに友は、我等と契りを交わしたのだ…ならば作戦など必要ない。
力に成るのは当然の事……」
少し飽きてきたのか此処彼処から、フッとかハッとかが聞こえてくる。
他の隊員も、何かしらが封印された腕や脚や瞳が疼き出した様だ。まぁ、好きに抗っていれば良いと思う。
そうだ、全く名乗りもしない男性を紹介しておこう。
彼は9番隊隊長、岡田 貴雄。また、個人を差す二つ名で『神憑』とも呼ばれる。
異能力は外的身体強化系統と物質変換の間に位置するモノで、彼の実力は異能力軍で五指に入る程の者である。
その実力がモノを言い、この精神疾患患者だらけの9番隊の運営を任されている。
そして、木乃伊盗りが木乃伊になった人物だ。
だが、その症状はまだ軽度。例えるのなら、生乾きである。誰かが水を与えるか、そのまま乾くかは神のみぞ知る。
生乾き男は、よく分からないポーズをして話を続ける。
「今宵、我々の制約は解かれる……
この力は今日の為にあったのだと、そう思えてしまう。
この身を蝕む深淵の狂気が囁く。
オレを解放しろ
オレを受け入れろ
オレに身を委ねろ
…頭が割れそうだ……
だがこの程度で、俺の歩みは止められない。
我々は友の矛であり、盾だ。
決して折れない最強の剣で敵を凪ぎ払え!
決して破れない最強の盾で友を守護しろ!
我等は異能力軍最強の部隊。
友1人護れず何が最強だ!
今宵も、最強の名に恥じぬ行動を示せ!」
今まさに、恥を上塗りしている。と気付かないものだろうか。
たがまぁ…気付かないから、こんな発言が出てくるのだろう。
尚、異能力軍9番隊。
実は本当に、最強部隊である。
戦いであれば、攻めて良し守って良し、攻守ともに高水準のパフォーマンスで敵を翻弄する。
護衛であれば、対象の警護は勿論、完璧。さらに細やかな気配りを行い、業務外の作業も可能。
支援でも優秀だ。被災者の保護から流れる様に怪我人の手当て。瓦礫撤去に物資運搬、情報収集まで何でもこなす。
他にも、特殊な廃棄物の処理や人材育成だって、彼らに不可能はない。
1つ1つの部門では、得意としている部隊程でもないのだが、総合的に見たとき、9番隊は他の隊よりも優秀だ。
彼らはその能力の高さから、大人数の作戦では出来ないモノを任される事が多い。従って少数精鋭にならざるをえないし、同じチームになるのは顔見知りだ。自分の病気の進行に気付けなくなるのは、些細な誤差である。
「同胞達よ、我々は任務を続行する」
異能力軍9番隊、現在は任務の真っ只中である。
仕事中に、会場を借りて音楽を奏でていたのだ。
巫山戯ている。そう思うかもしれないが、これは護衛対象の発案で、彼らは思案し妥協を重ねて譲渡した結果がこれである。
止めきれなかった彼らにも非はあるかもしれないが、あまり責めないであげてほしい。
ただ、いざやってみると楽しくてノリノリになるのは仕方がないが、よろしくない。
きっと作戦終了後、彼らは怒られるだろう。
その後、きちんと護衛依頼は遂行した。
折角だから、と襲ってきた組織を返り討ちにし、本拠地を突き止め、4人の隊員で突入を仕掛け、構成員を捕縛し潰滅させた。
偉い人達は事後処理が忙しいらしく、9番隊が怒られることは無かった。
はい。読みやすさを重視しました。
いやね、個人的には、もっとこう…漢字の羅列に片仮名のルビを沢山入れて、英語をメインにあと2~3か国語をぐちゃぐちゃに混ぜたかったんですよ?
でも、決めちゃってたんですよ!
隊長は生乾きって!
しかも挨拶で、そんなルビは振れないです。
だって一応挨拶ですから。
あれでも、常識が無いわけじゃないんです。
あっでも普段なら、高次元多角観測領域からどうとか言ってますし、友じゃなくて資格を持つ者とか呼びますし、ダークなんたらがクリムゾンなんたらでパニッシュがどうって話してますからね。
それで伝わるのが9番隊の良いところ!
それと、自力で中二変換って心にきますね……
言葉が出てこないです……
1〜9までのシリーズです、良ければ覗いてやって下さい。