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第七十九話 ハイド・アンド・シーク



 転送される間、不思議と甲斐に緊張は無かった。



 これから人の命を奪うというのにまだ理解しきれていないのか、最初の任務がシルキーと一緒なんてきっとフルラの結婚式で持っていた幸運を吸い取られたのだといった考えが浮かび、やりきれない思いで胸を痛めた。



「俺達にかけられている魔法は一切無い。一々起動したり、選択している間に喉に刃が突き立てられるだろう。通信魔法も無いから状況を見て付いて来い。迎えに行ってやるほど俺は優しくないからな」

「地図のナビも無いのはね、それを頼りに動いているとまずい時もあるんだよ。だからちゃんと経験を積んで、自分で判断できるようになろうね」



 森の中は日差しが枝葉に遮られ、薄暗い。

 ひんやりとした澄んだ空気なのにべたつく湿気も目の前で偉そうに嫌味を話す先輩同様不愉快だった。



「俺は一番奥、裏側から向かう。ネオはその向かい、ここから真っ直ぐいった一番奥だ。地点は覚えているな?中央の出入り口を飛ばし、お前らは手前の入り口だ。駄犬は裏、飼い主は表だ」

「……あれ? あたしシルキーさんの事、誤解してたみたい……」

「シェアトです、よろしくお願いします……!」

「僕達は奥だけど、大体一キロ半だし十秒あれば着くからきっかり十秒後に二人は手前の入り口から入ってね。一斉に奇襲をかけるよ」


「ドアの部分って爆破していいの?」


 こっそりとシェアトに甲斐が尋ねたが、シルキーの耳にしっかりと届いていたようだ。


「だったらわざわざ入り口にスタンバイしなくてもいい……と本気で答えてみたが、冗談だよな?それも笑えない最低の」


 沈黙がその答えだった。

 どう罵倒してやろうか、いいネタが手に入ったと鼻で笑った時にネオが割って入る。

 

「この手袋で大抵の仕掛け扉は開けられるんだ。ただ余りにも高度な仕掛けや鍵は開かない。でも日常的に使っているだろう扉だし、そこまで厳重には作ってないと思うよ。だから扉に手を触れたら開錠するはず……ってわけ。開錠しなかったらその時はケースバイケースだから」

「チッ……。三人で楽しいお茶会でも開いたらどうだ?人っ子一人いやしないのは気に掛かるが、出払っているのか? ……まあいい、どっちにしろ皆殺しだ。誰一人、逃すなよ!」


 強く踏み込んだシルキーはその瞬間、姿が見えなくなった。

 追い掛けるネオは二人にウィンクを残し、消える。


「俺達も行くぞ、十秒後なんて間に合わなくなっちまう!」

「なんそれ~……あんな速い走り方あるなら教えて欲しいよねー」


 裏へ回り込まなければならないシェアトは脚力強化の魔法をかけ、姿勢を低くし、出来るだけ森の中を駆けた。

 甲斐も両足に強化魔法をかけたが森を出なければどうしても入り口には辿り着けない。

 そのまま飛び出して映像で見た入り口の場所までなんとか着いた。


 何秒経ったのか分からない。

 だが、このままここで突っ立っていては目立ってしまう。


 唸るような音と、硬い物に着弾する音が聞こえた。

 これが幕開けの合図だ。

 出遅れたが手を壁に当てると重い音と共に中へと壁の一部のように見える扉が開いた。

 甲斐は壁に背を付け、中へ入る前に少し頭を出して確認する。



「おお、だーれもいない。しめしめアタリかな?」



 中へ入り、扉を閉めるとネオのいるであろう左側を見るが距離が離れすぎているので何も見えない。

 それどころか静まり返っている。

 二階と地下へ続く階段があり、裏口から入って来たシェアトが警戒しつつ近付いて来る。


「クリアだよ。誰もいないけどほんとに出払ってんのかなあ」

「……監視記録を撮られてるかもしれねえな。こんなに無防備なのも怪しい、ネオ達と合流するぞ」


 するとリズミカルに階段を降りて来る足音が聞こえ、二人は死角になるように壁に背を付けて隠れる。

 左右を警戒するようにシェアトが手で指示を出し、甲斐が神経を張り詰める。





「……子供……?」





 姿を現したのはデニムのサロペットをオレンジの半袖Tシャツの上に来て、赤いスニーカーを履いている男の子だった。

 くしゃくしゃの癖毛は綺麗な茶色で、首から下げている乳白色のストーンペンダントを揺らしながら残り数段をジャンプして着地した。

 きょろきょろと周りを見渡すと、迷わずこちら側へ歩いて来てしまった。


「わっ、びっくりしたあ……。おにいちゃんたちだれ~?」

「……かくれんぼしてたんだ、見つかっちまったな。遊びに来てんだ、お前はこんなとこで何してんだ?」

「……ぼく、ここに住んでるんだ。かくれんぼ、だれとしてるの? ぼくも入れてくれる?」



 笑う口元は抜けた歯がまだ生えてきていない。

 外で遊ぶことが少ないのだろう、肌の白さがそれを物語っている。



「……うひゃあ、シルキーパイセンが見たらこの子ミンチにされそうだね」

「子供とお前を会わせると最悪な化学反応が起きるんだな、知らなかったぜ」

 

 小声でどうすべきか話していると、子供がもじもじと手を後ろにやり、体を横に揺らし始めた。



「ね~、あそぼうよ。おねえちゃんもかくれんぼしてたの?」



 子供の背に合わせて二人がその場にしゃがんだ。

 しかし何故か子供は顔を上げ、人の影が二人にかかる。





「……何故突入地点から動いていない? しかも戦闘中でもない上、死体の山だってここには無い。油田でも掘り当てたか? そうじゃないなら一体ここで何をしている?」




「で、出た……! わざわざ迎えに来てくれるとは……ここでデレを発揮するか……バッドタイミングフラグ……」

「も、申し訳ありません……! 突入から今に至るまでこの子供以外誰もおらず……」


 シルキーはおかしな事をぼやく甲斐も、素早く立ち上がって言い訳をするシェアトも見ていなかった。

 突然右手を二人に突き出し、手の平で攻撃魔法を溜めた、と二人が理解した瞬間にそれは放たれた。



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