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第七十八話 作戦会議



「……今回の作戦を説明する、各自頭に入れるように」



 机の中央部分に立体映像で男が映し出された。 

 それはあまりにも現実に近く、まるでこの場に召還された人間のように見えた。

 息遣いすら感じる胸の動き、そして瞬きもしている。


 トレーニングを重ねている隊員と同じような体格、そして体の半分に当然の様に刺青が黒一色で彫られている。

 それは悪魔のデザインで彼の体、顔に合わせてあり、まるで半分だけマスクを被っているように見える。

 触れてみようと甲斐が手を伸ばすのをシェアトが足を踏んで抑え込む。


「こいつが最近反政府勢力へと武器を流している犯人だ。我らはどの国にも所属しない。この一つの惑星を、秩序を守る為に身を賭して悪に向かうのだ。だからこそ、早い内に世界に反する者は制裁を与えられると見せしめの為にも生かしてはおけん」


 脅威は摘み取り、根から焼く。

 それがこの部隊の使命であり、鉄則だ。


「他にも身元や顔が分かっている者がいるが、お前達には必要ない情報だ。……これから向かう場所にいる人間は全て『的』だ」

「ねぇ、聞いてんの? ムズカシイお話だからちんぷんかんぷん?」

「中尉の話にピリオド付く度、大きい声で返事しましょうか?」

「大丈夫です、理解できております!」


 甲斐の声をかき消す様に声を張って返事をする。

 放っておくとこの後の任務に支障が出る気がしてならない。


「とにかく俺達は現場に行って、動くもの全てを殺せばいいんだよ。ママに似た女も、まだ色恋も知らなそうなウブな面したガキもみんなだ」


 そう言ったシルキーは最高のジョークを言ったとでもいうように笑ったが、誰一人愛想笑いさえもしていなかった。

 悪趣味な冗談を言うシルキーは、この外見のせいで汚い言葉など知らないように見える。



 彼を初めて見た人はきっととても綺麗な少年だと、気を許してしまうだろう。

 色素の薄い瞳も、白いブロンドの柔らかい髪の毛も、真っ白な肌も、そして聞き入ってしまうような可愛らしい声もその全てが魅力的だ。

 童顔にぴったりな低い身長は甲斐と同じ位か、それよりも小さいかもしれない。


 だが、中身がこれではどうしようもない。

 最初に挨拶をした時には一体どこの誰が無遠慮な暴言を吐き散らしているのかと、頭が理解するのに時間が掛かった。



「……そうだ、そして今回のリーダーはシルキーだ。作戦というほどのものではないが、お前達を転送させる場所はいつもの転送スポットだ。…地図を暗記しろ、地形もな。北がどこかも勿論覚えておくべきだ、それを頭が展開させて動けるようにしておけ。こんなに丁寧に説明してやるのは金輪際無い、初回限定サービスだ。普段はチームのリーダーが説明し、短い時間で地図を叩きこみ、必要な情報のみを確認して即出動してもらう。いいな」


 ダイナが右にずれると白い壁に漂っていたデータが道を開け、大きくマップが表示される。

 地形図の中に簡易的な魔方陣が表示されている。

 どうやら森の中に転送されるらしく、そこから一つ建物がある。

 新人二名は波打つ等高線と東西南北、目を走らせて目立つものや目印になるものを探す。


「この建物が武器庫になっているはずだ。縮尺を見ればこの大きさがどれほどのものか理解できるだろう」

「……相当大きいな……。戦車も入っているはずだ……、という事は侵入経路も多いんじゃないかなあ」


 ネオはそう言うと、片手で映像の建物を拡大させて取り出して手の上に乗せた。

 中央に浮いている男の映像を消し去ると、そこに投げ入れる。


 中央でゆっくりと回転している武器庫は灰色ベースに黒い汚れが付いている。

 どこにも入り口が無いように見えたが、一回転しない内に扉をかたどる様に赤い線が浮かび上がった。

 全部で六か所あるようだが、ネオの表情は渋い。


「どうした? もしかしてこれ、お前の実家か?」


 愉快そうに笑うシルキーにネオは曖昧な笑顔を返した。


「かと思ったけど勘違いの様だね。……中尉、他の出入り口は無いんですね? これは恐らくここに出入りする者達が使う一般のものです。……見張りもいるでしょう」

「出入り口はこれだけだ。抜け道も無い。それで? 何が言いたい?」

「……派手な戦闘となるでしょう。出入り口は六つ、今回の任務に動く我々は四名。一斉に奇襲をかけても二つは穴が空いてしまいます。中がもぬけの殻では無いでしょうし、すぐに連絡が回る。そして…新人もいます」

「新人がいようがマスコミがいようが、仕事に何の影響がある? 派手にやって構わん、そして今日は他にも案件がある。同じ武器を流した奴らに鉄槌を下すのだ。この任務は大きい、だからこそ四名も回した。これ以上隊員は増やさん。……他に言いたい事がある者は?」


 口笛を一吹きするとネオは目にかかる髪の毛を耳に掛けた。

 初任務がハードな予感がするが、恐らくこの予感は的中するだろう。


「あたし達はあたし達で全力で動くから、そんなに心配しないでだいじょ~ぶだよネオネオ!」

「……足手まといにはなりません」


 ネオよりも先に、シルキーが返事をした。


「今日がエイプリルフールじゃないって分かってる?ま、俺の邪魔をしないでくれるならそれでいいよ。草かんむりでも作って遊んでな」

「フォローするよ、みんなで無事に戻って来ようね」

「……戦闘配備に移れ。三分で支度を済ませろ」


 一斉に立ち上がり、更衣室へと駆け込んで行く。

 ラフな服を脱ぎ、灰色の迷彩服を纏う。

 体験学習で身に着けた以来だ。


 長袖のアンダーシャツは耐火魔法がかけられている。

 耐攻撃魔法がかけられたポケットの多いベスト、斬撃に強い足首まですっぽりと覆うパンツ。

 その裾は黒い革のブーツへと仕舞い込んでから編み上げの紐をきつく締める。

 防御魔法のかかった薄く伸縮性のある手袋をはめると、まるで素肌のように手に馴染んだ。



 ロッカーの鏡の前でビスタニアから貰った髪留めを使い、一つに髪を束ねると束になった部分をアンダーシャツの中へ仕舞い込んだ。

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