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第七十三話 未確認飛行物体


 押し合いながら前へ向かう女性達に圧倒されていると、その中にクリスがいたのは見間違いだろうか。


「……お前は行かないのか?」

「な、なにこれ?ウィンダム君はやっぱり渡さないわって集団?」

「何故そんな奴らを式に呼んだ。あれだろ、ブーケ」

「ああ、えー……行った方が良いの?だってどうせ力でねじ伏せたりしちゃダメでしょ?」

「そうだな、誰にも分からんようになら問題無いかもしれんが……」


 耐えきれずにシェアトが口を挟む。

 


「問題ねぇわきゃねーだろ!ほら、あの女も呼んでるぞ」



 見れば後ろでクリスがひょっこり頭を出して手招きをしている。

 仕方がないので人をかき分けて向かうが、どの女性も甲斐より年上で真剣さが違うようだ。


「……カイ早く! どうせならフルラのブーケ欲しいじゃない!」

「そっか……そうだね。何が何でも奪い取ってやろう!」


 甲斐が到着したのを確認するとフルラは後ろを向いて構えた。

 背の低い甲斐は不利かもしれないが、腕と足の長いクリスは有利だ。



 静まる中でフルラの手が上へと動く。



 その瞬間に甲斐は足に強化魔法を掛けて飛び上がった。


 ブーケが手を離れ、こちらに向かって飛んで来る。

 フルラは絶対に甲斐に取って欲しいと思っている。

 そして、甲斐なら取れるのだと信じている。


 目一杯伸ばされた手はもう、どれも甲斐には届かない。

 甲斐は思い切り腕を伸ばしてブーケを掴むと、砂浜に着地した。


 残念がる声が聞こえるが、フルラの隣で甲斐はブーケを肩に乗せるようにして不敵に笑った。


「おめでと~カイちゃん! 良かったぁ……絶対カイちゃんかクリスちゃんに取って欲しかったんだあ…!」

「おめでとうなのはフルラだよ、凄い綺麗。おかっぱカッパもおめでとう、うちのフルラをよろしくね」

「カイちゃんに僕まだ自己紹介してなかったかな?ウィンダムっていうんだ、あだ名をありがとう」


 ブーケを手にクリスの元へ戻ると、お手伝い天使達が一人一人の手を取って立ち上がる様に促した。

 魔法のようだと甲斐は言いそうになったが、魔法なのだ。


 今まで座っていた椅子は消え去り、代わりにレッドカーペットがあった場所に大きな背の高い円卓がずらりと並んだ。

 お手伝い天使が協力し合ってテーブルクロスを乗せると、出来立ての料理と沢山の皿がその上に現れた。


 どうやらこれから立食パーティが始まるようだ。

 新郎新婦はそれぞれの両親に挨拶をして談笑をした後、久しぶりに顔を合わせる親戚達と話をしに回っている。

 最初は祝いのシャンパンが全員に配られ、ウィンダムが声を上げた。



「本日お集まりいただきました皆様方、御足労頂き真にありがとうございます。家庭を持つ身となった自覚も正直な所ございませんが、妻と出会った時から彼女を守ろうと決めた覚悟は無くしておりません。……どうぞ、この先の僕達を暖かく見守って下さい」



 言葉の割に軽い調子ですらすらと話し終えると、グラスを上に上げた。

 それに合わせて皆がグラスを掲げ、飲み干すと二人は一度教会へと戻って行った。


「……なんだろ、ここらで一発ぶちかますのかな?」

「お前、最近あの駄犬のせいで悪い影響受けてないか……?着替えて来るんだろう。……そのブローチ、確か学校の制服にも付けていたな」


 甲斐のドレスに小さく輝いているピンブローチは、風ぐるまを花にしたような造形だった。

 八枚の花弁が重なり、シルバーのベースは光の反射と見る角度によって色が変化していく。

 中心には真紅の石がはめこまれており、炎の魔法が得意な甲斐のイメージに合っている。



「これ?最初のクリスマスにエルガから貰ったんだ。もし今日来てるなら、無くしてないぞって言おうと思ったんだけど……」



 その花は、サカサソウ。

 男性から女性に一輪で贈られる花だ。


 枯れる前に花全体が一回転してから落ちるのが特徴だ。

 右に回れば来世でまた出会い、結ばれる。

 左に回れば出会えるのはこれが最後。

 そんな言い伝えを信じ、この花を飾る場所は鏡の前に置く女性が多い。

 どちらに回っても、良い方の意味を取れるように。




 また来世も会えますように。

 せめて鏡の中の世界の二人だけでも。




 願いを込めて、愛しさを紡ぐ。

 二人の想いだけではどうにもならない恋人達の間で、よく贈られた花だ。


 花言葉は『君の為に生きたい』

 そんな意味も、この花を女性に贈る背景も甲斐は知らない。

 エルガも、説明をしなかったのだおる。


 どんな思いを込めて、このブローチを贈ったのか。

 この花の意味を今、甲斐に語ったとしてもそれを彼が望むとは思えない。



「……そうか。……きっと仕事が片付かなかったんだろう」

「そっかぁ、エリートって大変だね。……でも、みんなエルガがいないこのメンバーに違和感は無いのかな」



 否定をしてやりたいが、それはどうにも薄っぺらな気がした。 



「……それって、凄く寂しいよね。あたし達は九人でずっと一緒にいたんだから」

「馬鹿だな、大馬鹿だ」



 真剣な声に甲斐は首をかしげる。

 溜息をついて、苦笑いを浮かべたビスタニアははっきりと意思表示をした。



「……大切な友人の、記念すべき日に立ち会えないなんてあいつは大馬鹿だ。いくら勉強が出来ても、仕事が忙しくても……大切に出来んとは何事だ」

「……エルガのアホーー! マヌケーーー!」


 海に向かって砂を舞い上がらせながら走る甲斐を、ビスタニアが追い掛ける。

 ヒールが砂に埋まり、足を取られて転んだのを抱き起すとじゃれた甲斐に押し倒された。

 その真上を、何かが通過して行った。



 それは、それはとても大きな影だった。



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