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第七十話 クリスの怒りの理由

 目的であるドレス選びが終わり二人が会計を済ませている間、シェアトとルーカスは表情暗く店を出て来た。

ベンチに座り込み、もはや話す気力も無いようで朱色に染まった空と流れる雲を見上げている。


それもそのはず、二キロ先のドレスショップをくまなく見てから数着試着して上の階へと上がり、全てのドレスショップを網羅すると最上階も同じように見て回った。

途中で甲斐はこのハードなメニューに食らいついていく為にスニーカーを購入していた。


その時点でシェアトの口から彼女達のテンションを下げるような言葉が出そうになったのをルーカスがまた足を引っかけて転がし、黙らせることに成功した。


そして全ての店を見終わった時、二人は気が付いた。

どちらも何一つ買い物をしていない事に。




地獄の扉はまだ開いたばかりである。




 残り時間は何度も往復させられた。

 カフェにいる女性たちが羨ましかった。

 

 ルーカスの息が上がり、シェアトがスポーツドリンクとスタミナドリンクを飲み干した時にようやく今の店へと辿り着いたのだ。

その間に彼女達は雑貨屋や、結婚式には全く関係の無いスパイスショップへ足を踏み入れては余計な物を購入していた。

増えるのは足枷のように思い紙袋だった。



 シェアトは最初にクリスの荷物を持つと言い出したルーカスを恨んでいた。



 そうこうしている内に今度はフルラへのお祝いの品を買わなければならないと言い出した。

 何故今、しかも無計画のまま口にした事を実行しなければならないのか分からない。

 止めに入ろうとしたシェアトは見事に体力が満タン状態のクリスに返り討ちにされていた。


 結局写真立てを一つ、手を取り合っていつまでも踊り続けるティディベア二匹と、そのクマたちに着せる為の洋服のタキシードとウェディングドレスを買ったようだ。

 何故こんな布と綿の集大成に数万円もするのかシェアトには一生理解できないが、クリスの連名で渡そうという提案はここ数時間で一番まともな発言に思えた。


 ようやく良いドレスがあったという店に来ても、さっき手にしたドレスとは色も形も全く違う、別のドレスを手に取ると、彼女達は着てみると言い出した。

 その瞬間には流石のルーカスも目を見開き、シェアトは舌打ちが出てしまった。

 舌打ちの音の大きさコンテストがあれば確実に世界ランキングに入っただろう。








「お待たせ~い! これでばっちりだよ! あれ、二人共大丈夫?」

「……いやねえ、こんな所で寝たら目立つわよ」

「そうだな、さっきまで何度もこのモール内を往復してたんだ。ただえさえ目立っちまってるもんな!」

「おかえり……。どうする? 他もどこか見る?」


 ルーカスは屈伸をしてからクリスの顔を覗き込んだが、どこかを見ているような、またあの機嫌の悪そうな表情をしている。

 一体何を見ているのかと思い、視線を追えば甲斐と楽しそうに話すシェアトを睨んでいた。


「……そ、そんなに憎い……? 一応長い付き合いの友人なんだけど……」

「ちょっと行って来るわ……!」



 荷物をルーカスに押し付けると、足音荒く二人の元へ向かった。



「な、なんだよ……。俺別に何もしてねえだろ!」


 突然こちらへ怒りながら歩いてきたクリスにシェアトは全く訳が分からないといった顔をしている。


「してるわ! 今日一日ずーっっと! ルーカスは何も知らずに来たからいいのよ!」

「だーーっ! めんどくせえ! 俺が何をしたっていうんだよ!」

 

 何故かシェアトの反論に珍しく一旦怯んだ。

 クリスは一度甲斐を見ると、ばつが悪そうな表情をしてからシェアトを睨む。


「カイを独り占めしてるじゃない! 本当は私と二人で遊ぶ予定だったのに! 今日をどれほど楽しみにしてたか分かる!? あなたはいいわよね! 学生時代からカイと同じ組で授業も一緒で……! しかも職場も一緒なんて! でもね! 私は違うのよ!? カイとこうして会えるのも滅多に無いの! ダブルデート!? 別にいいわよ! だったらこんな姑息な真似しないで最初からちゃんと誘いなさいよ! 私みたいにね!」




 まくし立ててから、気付いた。

 シェアトはぽかんと口を開いたまま何も言い返してはこない。


 やってしまった。

 はっとして甲斐を見ればなんとも間の抜けた顔をしている。




 罪の無いルーカスを放っておくわけにもいかず、恋人なので隣を歩いていた。

 シェアトが誘っておきながらルーカスに話しかける事は少なくずっと甲斐の隣を歩いているせいだ。


 今日は恋人のいる者同士でフルラの新婚生活についてや、惚気を言ったり聞いたり、忙しい恋人を持つ者同士で不安を話したりしようと思っていた。

 彼女だってそう頻繁にビスタニアと会えている訳ではないだろう。

 励ましてもらったり、夜を乗り越える方法を聞いたり、沢山話したいことがあったのだ。 




 それなのに。



 そんな不満が口をついて出てしまった。




「クリス…… か~わ~い~い~!」




 ぷひっと変な笑いをしながら、甲斐は頭をクリスの腹部に押し当ててぐりぐりとドリルのように回してくる。

 これは彼女なりの照れ隠しなのだろうか。

 それにしても珍妙である。


「かっ、かわいくなんて……ないわよ……。シェアト! あなたはルーカスと遊びに行きなさいよ! 自分で誘ったんでしょ!? 荷物は私達、自分で持つわ! カイ! これからおいしいレストランに行きましょ!」

「ましょー! ってことでお二人さん、付き合ってくれてありがとね」


 そう言って二人はさっさと荷物を肩に掛けて行ってしまった。

 ルーカスは追い掛けようとするシェアトの襟首を掴んで引き寄せる。


「手を繋いで笑ってるあの二人は可愛いよね。追い掛けてどこまでも付いて行きたくなるくらいに。……でも、君には僕がいるでしょう? 何かご不満でも?」

「……べ、別にねぇよ! だからその目やめろ! 物騒だ! ……行くぞ!」

「どこ行くの? 勝負下着でも買いに行く?」

「笑えねえ冗談言うなよ……、寒気がする。飲みに行くんだよ! 男二人だし、別にどこだっていいだろ?」

「それはいいね! 二人で飲むなんて初めてだし。… …あ、甘いお酒の多いところが嬉しいんだけど分かる? それと、せっかくだし外がいいね。ああ、外で飲むなら夜景が見えるところがいいな」

「店選びのポイントが完全に女じゃねぇか……!」


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