第六十七話 ダブルデートだ買い物だ
「カイ! 久しぶり……一か月経ったかしら? あー、とにかく久しぶりね! 前は毎日一緒だったんですもの! ホームシックならぬカイシックになりかけたわ! 誰とも話さずに一人で何を食べてるのか分からなくなるような短時間で口に放り込んで飲み込むランチに慣れすぎて、最近はもう食べないほうがましなんじゃないかと思ってるのよ! ……やだ、ちょっと痩せたんじゃない!? あのバカと二人だから疲れるわよね!? 分かるわ! も~相変わらず可愛いわね! いつも制服だったからあなたの私服って凄く新鮮! モノトーンが好きなの?黒髪によく似合ってていいわね!」
「言われた事を今処理してるからちょっと待ってね……」
待ち合わせ場所はショッピングモールの外にある噴水の前だった。
テーマパーククラスの広さと、人の多さにクリスを探せるか不安だったが彼女の方から甲斐を見つけ、後ろから抱きしめてくれた。
まだ会ってから数秒だと言うのに振り向いた甲斐を再び抱きしめながらまくし立て始めたクリスは甲斐の反応が無いので、ようやく回していた腕を離した。
「誰かとこうして買い物に出かけるなんて卒業前にフルラと二人で行った以来よ! 何を着て行こうか夜中から迷ってたわ! そう! 眠れなかったの! 休日らしい休日も全然取れなくて……!」
肩につかないまでも、彼女の栗毛は少し伸びたようだ。
前回密林で遭遇した時と違い、大きな目を強調させるようなアイメイクや女性らしい色のグロスを塗った彼女は綺麗だった。
春なのでヌーディなパンプスと細身のジーンズ、そして背中に蝶をかたどったレースのキャミソールはふんわりと軽い生地で白地の中にラメが舞っている。
一方甲斐は黒のタイトスカートに、ノースリーブで春仕様のクリーム色のスプリングニットを合わせ、ゼブラ柄のストールを肩に掛けていた。
黒の太いヒールのパンプスはストラップが交差して金の金具がアクセントになっている。
「まだあたし全然話せてないんだけど……。 クリス、ラジオDJみたい……」
「ありがとう、話し上手で声が美しいって意味で受け取っておくわ……」
頭上の高い吹き抜けには虹がかかり、立体映像で小鳥の上には妖精が乗って空を羽ばたいている。
立ち並ぶ店は数キロにも及んでおり、どの店も区画が大きい。
店内マップの前で二人は顔を寄せ合ってドレスショップを比較していた。
「……で、どこから見る?」
「そうねえ……とりあえずピックアップは出来たし……、ウインドウショッピングも兼ねて色々見て行きましょうか? ……カイ?」
目の端で見える甲斐は、首を傾げて固まっているようだ。
「……クリスの適応能力の高さ異常じゃない……? もしかして呼んだの?」
一体何の事を言っているのかと地図から目を離して甲斐を見たクリスは、彼女の肩に腕を回しているシェアトに口が閉まらなくなった。
「一体ここで何をしてるの!? カイから手を離しなさい!」
「何って買い物だぜ? ここがショッピングモールだって知らねえのか?」
「シェアト重い。筋肉の塊みたいな腕が重くて切断しそう」
「どうしてすぐに問題を解決じゃなくて根から絶とうとするんだよ……!」
「あれ、もう気付かれたの? ……やあカイ、久しぶり」
二つのフレッシュジュースを片手に、ゆっくりとこちらへ歩いて来たのはルーカスだった。
優しい声と、甘い笑顔は学生時代から変わらない。
ミルクティ色の髪は伸びて毛先はやはり内へとカールしている。
白かった肌も、若干日に焼けたようだ。
細かった体には程良い肉付きがあり、しっかりした男性の印象になった。
「うへー、そのジュース何? なんかぼこぼこ言ってるけど……」
「……さあ、なんでしょう? 飲んでみる?」
「オサキニドウゾ」
差し出されたが、彼の甘党を知っているので受け取り拒否をしている甲斐の横でまたもクリスが口を大きく開けて驚いていた。
「ルーカス! どうしてあなたまで……!?」
「昨日突然誘われてね、どうしても休みを取れって言うから……。ダメ元で休暇申請したら通ったんだよ。フルラの式用にも一日申請してたから厳しいかと思ったんだけど…」
「おいおい、お前んとこブラック企業じゃねぇのか? 俺達なんて夏休みだぜ?な・つ・や・す・み! 生きるために働いてんのか、死ぬために働いてんのか分かったもんじゃねぇな」
「戦争がちゃんと夏と冬に長期休暇を取ってくれたら僕達も休めるんだけどね。……それにしても、なんで男二人でショッピングモールなのかと思ったらカイ目当てだったんだ」
相変わらず、といった意味を含む笑いにシェアトは大声で否定を始める。
「ばっ、ちげーよ! お前もクリスと会えるなら会った方がいいだろ!? むしろこれはお前達の為だ!」
「大きなお世話よ! それにルーカスに無理を言って休みを取らせるなんて! 恋人の私ですらそんなのした事ないのに!」
「やらぬ後悔ならやる後悔ってな! いいじゃねえか、結果的に俺のおかげでデート出来んだ。俺に何か言う事ねぇの?」
確かにその通りである。
無理に大人ぶって、仕事を優先させてほしいなんて口では言っていたが本心では会いたくて仕方が無かった。
夜にルーカスを思って泣いた日もある。
「……お膳立てをありがとう……! だから! もう! 帰って! いいわよ!」
ぐいぐいとシェアトの背中を押すが、街灯の柱を掴んで踏ん張っている。
「もう諦めて四人で回ろうよー。あたしは別に大勢でも楽しいよ」
「……はあ……。カイ、あなたのそういう甘さにこのストーカーはつけ上がってるのね……」
「ええ……? でも久しぶりだね。星組コンビと太陽コンビ」
フェダインではルーカスとクリスが医療に特化した星組、甲斐とシェアトが攻撃に特化している太陽組だった。
「そうだね……、つい最近の事だというのにとても懐かしいよ。二人は今日、何を買いに来たの?」
「結婚式用のドレスだよ。おっと……ごめん、二人共デートだもんね。あたし達に気を遣わないでイチャイチャしていいよ」
「ははは、そんな事したらクリスが歩けなくなっちゃうから」
「カイ、彼から離れて。そして気を遣わないで。ルーカス、少し……自粛して」
真っ赤になってしまっているクリスに、ルーカスが彼女の頬に触れる。
そして覗き込むような形でそっと囁いた。
「楽しい一日をお約束します」




