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第四十八話 絶体絶命・金色の

 ファーラとドッペルを置いて駆け出したが、シェアトは走れないので折り返して来た甲斐に横抱きにされている。

 恥ずかしいのか両手で顔を隠しているシェアトと鬼の形相で辺りを見回しながら走る甲斐の組み合わせは傍から見ても意味が分からない。


 結界の始まり、いわゆる見えない壁の部分にいた人々が一斉にこちらへ逃げ出して来た。

 人波に逆らって行くと、その外側にはエアライドと呼ばれる小型のサーフボードのような形の魔法機器に乗った男達がいた。

 十名ほどの男達は手に持っている銃や魔法武器でこの結界を破ろうとしていた。


『彼らは反政府勢力の一部です。武器はそれぞれSODOM製、開発時期は……』

「うおお、大集合じゃん! ガイドちゃん、こいつらなんて言ってんの? 攻撃がうるさすぎて何も聞こえないんだけど……」

『口元を拡大します。解析完了。『爆破は済んでる! 全員ぶち殺せ!』『この壁が壊せねぇ! どデカいのを持って来い!』『おい!こいつら見た事ねぇぞ! ポリの応援だ! クソ!』』


 どうやら状況は最悪らしい。

 反政府勢力を呼び寄せた町の人間がいるかもしれないが、もしかすると魔力の妨害機器の電源を落としたことによって異変に気が付いてしまったのかもしれない。


「厄介な事になって来たな……。応援が来るまでの間を持たせるのは出来るが……こいつらだけじゃねぇだろうし……。何よりマジで分が悪ぃ」

「結界解く訳にもいかないし……わわわわ!」


 振り返ると背後から武装した町の住民達が押し寄せていた。

 無事だった家から持って来たのか、女性は包丁を男性は大槌や角材、チェーンソーまで手にしている。

 先ほど逃げていったと思った町民は、皆武器を取りに戻っていったらしい。

 いつかこうなる事を予想していたのだろうか。

 

 耳鳴りがしたのは突如背後で轟音がしたからだ。

 もうもうと立ち上る白煙は先程まで無かったはずの鉄の塊、戦車から出ているものだった。

 横にも滑るように移動できる戦車はどうやら魔力を使用している型らしい。

 隊列を組みながら続々とやって来る戦車と組織の人数の多さに二人の顔は引きつる。


「……これは……ちょっとばかしあたしらだけじゃどうにもなんない気がするんだけど……。シェアトさんどう思います?」

「そうだな……俺も同感だ。どうにもなんない、ってのはアレの一斉砲撃に俺達の結界が耐えられねえってのも含まれてるよな?」



 じりじりと前から住民達に間合いを詰められていく。



 逮捕されるぐらいなら二人を倒して反政府勢力へ仲間入りして生き延びようとでもいうのだろうか。

 しかし壁の向こうに集まる武装集団は明らかに友好的な雰囲気ではない。

 それどころかこの町の住民もろとも口封じと証拠を残さぬように消し去ってしまおうとしているように見える。


 だが、それを説明している時間も無さそうだ。


 反政府勢力を助けてやってきたとでも思っているのだろう。

 利用されているだけだというのに、仲間にでもなった気でいるのだろう。



 だから彼らはそれこそ救いの手であるはずの民間警察にこうして牙を剥いているのだ。



 住民を気絶させても砲撃により結界が破られ、どの道危険に晒してしまう。

 重火器と戦車相手に戦っても、相手はこちらの命を狙っているがこちらは相手を捕縛するしか出来ないのだ。

 加えて住民の命を守りながら戦わなければならない。


「詰み、か……。おい、お前だけでも来たとこから逃げろ。このままじゃ二人共犬死にだ」

「忠犬シェアト! 歴史に残るね! でももう怪我までしてるし、役に立たなそうだからあたしがいないと」


 揉める時間も、もう無さそうだ。


「だーっ、お前この世界で死んだらダメだろ! マジで言ってんだ!? お前を守れずに俺も死んだら赤毛の恨みで毎晩召喚されては引き裂かれかねねぇ! 頼むから逃げろって!」

「やーだよーだ!」




 何かが、後ろで強く光った。




 巻き起こる爆風に押されて結界へ武器を持った男たちが張り付く。

 空から幾つもの戦車の残骸が降り注ぎ、運悪く残骸が直撃した男は動かなくなった。


「なに、なに、なに……!? 神様はあたし達を見ている……!?」

「よくこの状況でふざけた事を言えるよな……。今度は何だよ……!」


 二人は迫り来る住民たちを電撃で体の自由を奪ったり、突風で押し戻しながら結界の外側の様子を伺う。

 こちらに向かって来ていた戦車の多くが何かに襲われているようだ。

 激しく爆発して煙を上げている。

 その様子に気が付いた男達がこちらに背を向けて攻撃を仕掛ける。


 何か、素早い影がこちらへ近づいて来ている。


「おいおい……あれって幻覚じゃねぇよな……?」

「うーわうーわうわ。逃げよう! シェアト! あれどう見ても僕らのアイドルシルキーさんだ……!」



 何故ここに、と言う間もなく一人、また一人と首から血を噴き出しては崩れていく。

 足払いを掛け、落ちる男性の下に滑り込んで突き上げると地を蹴り上げて宙に舞う。


 目に見えぬ速さで男の頭を蹴ると卵の殻を割ったような音が鳴った。


 辛うじて息のある男の後ろに回り込むと首の辺りを持って、他の銃撃の盾にしながら移動して敵を殲滅していく。



 後方では見知った顔が集まって来る敵を迎撃している。

 あらかた結界付近の敵を片付けたシルキーは盾にしていた男から手を放してハンカチで手を拭き始めた。

 出撃用に支給されている灰色の服を着てヘルメットを着用しているシルキーは、動き辛さを微塵も感じさせない身のこなしだ。

 そして、誰一人として命の芽を千切り取る事に躊躇が無かった。

 そんな事に感情を揺さぶられることがないほどの芯が、彼らにはある。











「……それで……お前達は何をしてるんだ?」


 民衆を押し返しながら気づかれる前に場所を変えようとしていた二人を見ずに。シルキーは結界越しに話しかけて来た。


「あちゃー……やっぱ気付いてたか……。……どうもお久しぶりです……! 凄いいい天気ですよね! この町、今日お祭りらしくて……」

「そうか、その状況も祭りのイベントか?楽しんでるな、民警のダッサい制服もお似合いだ」


 人を見下す笑いを浮かべた後、シルキーの指先が結界に触れるとその部分にヒビが入り、指を離すと全ての結界が砕けて消えてしまった。

 甲斐が背中を結界に付けていたので、思い切り背中から地面に落ちる。


「酷いな、酷い。これは酷過ぎだ。結界なんて呼べない。こんな酷い出来なのに出られないというなら、それはきっとブタかそれ以下の生き物だ。祭りとやらを盛り上げてやろうか?」


 それだけ言うと中にいる民衆に向けて手をかざす。


「ダメだってば! いい加減にしなさいこのガキジジイ!」

「ハッピー! 俺はハッピー! ララララ! なんでもないです! この住民は民警で対処しますので! ……シルキーさん、お引き取りを……」


 甲斐の暴言に被せるように裏声で歌い、どうにか誤魔化そうとしたシェアトは畳みかけるようにシルキーに帰還を促す。

 結界を張り直さなくてはならないが、とにかくこの場をなんとかしなくてはならない。

 明らかに不愉快そうな表情をしているシルキーだが、撤退の指令が入ったようで一瞬動きが止まった。



「……民警って、ダルいだろ? 『俺達』ならこんなカス共、殺しちゃえば終わりなのにさ。ま、良い人ごっこ頑張れば? ……良い人ごっこにハマったら、最後までやりきれよ。ハンパ者はどこでもお断りだ」



 小さなつむじ風を起こしてシルキーは消えた。



 少し前から応援に到着した民間警察が逃げ惑う人々を捕らえるのに苦労しているのだが、全く気が付かなかった。

 何も分からずただ泣きわめく子供たちの保護にあたったり、暴れる者を半ば強制的に連行していく中を二人は歩いていたがまだファーラとドッペルの姿を見つけられずにいた。

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