第四十七話 花屋のファーラさん
一軒ずつ消火活動を行い、中の様子を映像として残していく。
二人が見た視界の映像が記録され、ブレインへと送られていった。
「ここで最後かあ。……あれ、これ花屋さんだね。……どんな花置いてたら爆発なんてするんだ」
「ここもか……。どうやらめでたく爆発してんのは、反政府勢力の武器やらなんやらを置いてるとこだけみてぇだな。証拠が残らねぇようにって事か」
「あのっ……!」
ドッペルと親し気だった女性が駆け寄って来る。
不安そうな瞳とハの字に下がった眉、それらが良く似合う、薄い顔立ち。
長い髪の良く似合う、女性らしい女性だった。
確か、ファーラとドッペルが呼んでいただろうか。
「あれ、さっきのお姉さん。危ないよ、この辺にいると」
「ここ、私の店なんですっ……。ここまで燃えてしまっているなら、もう復旧なんて出来ません。どうかこのまま、燃やして下さい」
悲しげに微笑む彼女からは強い意志を感じた。
何より、声に力がある。
「そう来たか! いやいや、悪いけど消火しないと。隣近所に燃え移ったらそれこそ大変でしょ。消防だって来れないんだし」
「……でもっ……!」
甲斐に食い下がる彼女に構っていると、本当に燃え尽きてしまう。
彼女の気持ちに応えてこの店だけは調査しない、という訳にはいかない。
「なんか、見られたくねぇもんでもあるのか? 例えばエロ本だとか……ポエム集……これもハズレか……。あと……クスリとかなあ」
一瞬、彼女の眉が動いたのを見逃さなかった。
適当に言っている訳では無い。
二人の音声ガイドはこの花屋を見た時に、この店の中にこの町の半径二百キロ圏内に蔓延している違法薬物があるはずだと言っていたのだ。
「んじゃ、薬中さんの感じから行くとマジで燃えちゃうっぽいから急ぎ消火するね」
「知ってたの……? 私を……私を捕まえに来たの!?」
「俺達から逃げてもいいけど、この町からは出られないぜ。その為の結界だ。まあ爆発した店以外にも住民全員何かしら加担してんだろうし、全員一旦逮捕だな」
今後を考えて怖くなったのか、自分のしてしまった事の大きさに今更気が付いてしまったのかファーラはその場で口を押さえたまま震えている。
小さな赤い屋根の花屋は見るも無残な状態だ。
灰色の煙が立ち込めている店内には炭に変わった花とすすの付いた花器、店内にぽつりと置かれたカフェスペースの黒い金属のテーブルとチェアだけが何も変わらず残っていた。
「さーてブツを探すか。これが俗に言うガサ入れって奴だね」
「私、脅されてたの……! それで、預かっただけなのよ……。あいつらの事なら全部……全部話すから…!」
「ダメだな、それならなんでドッペルに言わなかった?」
あれだけ親しげで、日常的に顔を合わせていたはずだ。
彼はこの町を守ろうと、あんなにも頑張っていたではないか。
「それにそんな事言ってるけど、じゃあそいつらから報酬は貰ってねえんだろうな?」
黙ったファーラはその沈黙が答えになっているのに気が付いていないのだろうか。
脅されていたとするならば、何故相談もしなかったのか。
報酬に目がくらみ、違法と知りながらも手を貸していたのならばそれは契約である。
中へ入り、目的の物を探すが見つからない。
「ねえ、ここは? 地下じゃない?」
甲斐が何度かその場でジャンプすると、不自然に浮く床板がある。
そこに足を強く踏み下ろすと跳ね上がった床板の下には扉があった。
地下に続く石の階段の先に、白みがかった半透明の結晶が入った袋がいくつも木箱に入れられている。
小分け用の袋に注射器、吸引用の器具まで完備されており、フラスコや防毒マスクまである。
ということは薬物はここで生成していたのかもしれない。
花屋に似つかわしくないドラム缶や仰々しい保護服まで何着も掛けられている。
外に出ると、ファーラがドッペルに話しかけられている所だった。
「君の店まで燃えてしまって……本当に、何も出来なくて申し訳ない……」
「い……いいの……。何が起きたのか、私には分からないけど……とりあえずみんなの所へ行くわ」
「まだ結界は解けないから、カイさん達に解いてもらわないと駄目だ。二人を見なかったかい?」
「……知らないわ……。とにかく、私はここから離れたいの……。ごめんなさい……」
出るに出られずにいた二人にドッペルが気付いてしまった。
ばつが悪い顔をして外に出るシェアトと、珍しく難しい顔をしている甲斐にドッペルは何があったのかを理解しようと努めている。
「無事でしたか……! 火を消して下さって、ありがとうございます。本官だけでは何も出来ないので……面目ない……。あの……ファーラさんの店に何か……?」
「きっとあの、爆発の原因を探してくれていたのよ……。ありがとうございます、原因は分かりましたか……?」
ドッペルの腕を掴んで笑うファーラは焦っているようだ。
自分が町の住民と一緒に犯罪に手を染めていた事を知られたくないのだろう。
「……今取り繕っても、どうにもならないよ。おデブ君だって警官だし、連行だってこの後されるんだから」
甲斐の言葉にファーラは顔を真っ赤にして伏せた。
「連行……? 一体なんの話をしているのか……。ファーラさん……?」
「……なんで、私だけ責めるのよ……。こんな町で儲かる訳ないじゃない……。私の親がやってたから継いだ花屋でいくら毎月入って来ると思うのよ……」
優しい彼女は、そこにはもういない。
酷く傷ついた顔をしたドッペルは警官ではなく、一人の男性だった。
「こんな田舎町の犯罪なんかより、もっと酷い犯罪だって沢山あるじゃない……! そういうのを解決しなさいよ……」
「……見逃せないよ、犯罪に重さは関係ない」
真っすぐに言い返され、ファーラは次にドッペルへ標的を変えた。
「あんたみたいな平和な顔した警官、よそではやってけないわ……! ……なんにも、知らないで……! いい気なもんよね! いいわね! 楽な仕事で!」
「優しそうな面してても、お前達を守りたいって思うから飲み物ぶっかけられても耐えて先頭に立ってたじゃねぇか。こいつはどこでも大丈夫だと思うぜ」
「応援がこっちに向かってるみたい。全員連行だからねー。お金が全てだと思うならそれでいいじゃん! 『お金大好きで犯罪だからばれなきゃいっかなって思ったキャハ!』ぐらい言えれば大したもんなのに!」
この失言の多い甲斐をこの場から離さなければとシェアトが思った瞬間、激しい銃撃音と悲鳴が響いた。
「次から次に……! なんなんだよ!」




