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第四十六話 小さな町の時計店


「おい……! 何が起きてんだ!?」

「……祭りの一環とか?」


 そんな悠長な事を言っている場合ではない。

 自分達の張った結界のせいで町から人々が逃げ出せずにいるのだ。

 緊急事態とはいえ、勝手な判断でこれを解く訳にはいかない。

 解除するにもブレインに正確な状況を伝えなければならないだろう。


 この騒ぎ自体が結界を解除させるための工作かもしれない。


「とにかく下に戻って、何が起きてるのかを確認するぞ!」

「偉そうに言う割にしっかり背中によじ登って来るこの図ってシュールだと思わない?」

「う、うるせえな! ほら急ぐぞ!」

「あいあいさー!」

 

 何故か甲斐は来た道を戻ろうとしない。

 それどころか見晴らしのいい展望台の柵に足を掛け始めている。


「……ヘイヘイヘイ! 何やってんだ! おい!」

「ん!? しっかり掴まってて……ね!」



 展望台の上から顔を下にして真っ逆さまに落ちていく。

 飛んだ甲斐の背中でシェアトは声にならない悲鳴を上げ続ける。



「ヒョオオオ! すっごおおおおおい!」

「なんて日だあああああああああああああ」



 地面すれすれでようやく甲斐は耐衝撃魔法をかける。

 すると二人の体は強い力で跳ね返され、態勢は崩された。

 気が付くと足を下にして着地している。


 アスファルトは甲斐の足を中心にしてひび割れ、一部がめくれ上がっているが本人はぴんぴんしている。

 シェアトは何度か足踏みをして異常が無いことを確認する。

 そして震える足を鞭打って、甲斐を連れ、黒煙目指して走り出した。












「皆さん、落ち着いて! 落ち着いて下さい!」


 逃げ惑う人々を誘導するドッペルの周りには怒鳴りながら今の状況を説明するように迫る男性達が集まっていた。


「これはどういう事だ!? なんの為の民警なんだ!」

「落ち着いて! 何が起きているのか、本官にも分かりません! 花屋のファーラさんが消防への連絡をしている最中です!」

「ファーラならどこにも連絡が繋がらないってパニくってたぞ! どうなってやがる! 役に立たねぇな!」

「そんな……!」


 一触即発の空気が立ち込めていた。

 誰もが殺気立ち、言い合う声が平和なこの町に響いている。

 

 子供が不安そうにこちらを見ているのを見て、今にもパニックに陥りそうなドッペルを冷静にさせた。



「いまこの町には他の警官もいます! 必ず皆さんを守ります! だから落ち着いてください!」



 怒鳴っていた男が屋台にあった飲み物をドッペルの顔に投げつけた。

 ちょうどその場面に通りかかった甲斐が止めに入ろうとしたが遅く、直撃を食らった。

 だが、それでもドッペルは口元の笑顔を消さずに立ち続けた。



「……大丈夫ですから、落ち着いて下さい」



 そんな彼の元に、顔を青くした女性が駆け寄ってきた。



「ドッペルさん……! 町から、町から出られないんです……! 見えない壁が……壁があって……! 外部へ連絡もできないですし……!」

「ファーラさん……無事でよかった……でも、そんな……。あっ、カイさん! カイさんと……しぇ、シェアトさん……でしたっけ? 急に爆発が起きて……! 閉じ込められているみたいなんです! 何か、分かったことはありますでしょうか!?」


 こちらに駆け寄って来るドッペルに、自分達が壁を作ったとは今の状況では言えそうにない。

 それどころか彼を頼りにしていると言わんばかりのファーラの瞳が助けてくれと訴えていた。

 彼女もまた容疑者の疑いが掛かっている事をドッペルは知らないのだ。




「ああ、あれあたし達の結界だよ。とりあえずみんなを落ち着かせてて。爆発したとこを見て来るから。びっちゃびちゃだけどドッペルカッコいいじゃん。やるね。デブだけど」




 さらりと言ってのけた甲斐に周囲がざわつく。




 シェアトは背中に乗りながら冷や汗が止まらない。

 空気の読めない甲斐はさっさと煙の上がっている方向へと走り出した。


「お前、なんで言っちゃうかな……。あ、おい。ここも火ぃ出てんぞ。消火していこうぜ。燃え広がったら面倒だ」


 古びた時計屋が、燃え始めている。

 この店を見た途端、二人の視界にはガイドが立ち上がった。




『……分析します。この時計屋の中に、大量の武器弾薬・火薬庫があるようです。反政府勢力に流している証拠品もあるようです。映像記録へ移ります。引火する前に中へ入って下さい』




「やだこのガイド、凄いさらっと怖い事言って来る。よーし! あたしは鎮火にあたるから、行くんだシェアトー!」

「お前も大概だと思うぜ!? ……しゃあねえなあ……」


 ようやく血が止まった足を引きずりながら耐火魔法を入念にかけ、燃える時計店へと入るシェアト。

 そして彼を応援しながら、甲斐は燃える炎を右手に巻き付けるようにして集めては、左手で水を起こして消していく。

 時間は掛かるが、着実に炎は無くなっているようだ。






 古びた時計店は外観の割には狭く、カウンターと幾つかの時計、そして修理台が焦げていた。

 燃えていた炎が外へと糸の様に巻き取られて出て行くのをシェアトは興味深げに目で追った。

 すぐ横を通ると熱を感じる。


 ナビはどうやら壁の向こうに反応しているようだ。

 すぐにバズーカを召喚し、壁に向かって撃ち込み、破壊する。

 すると一見普通の壁だった内側から、分厚い鉄の壁が現れた。



「なるほどな、ここが火薬庫か……。ドアは……ああ、ここか?」



 何の変哲もない壁に本当に薄い切れ込みがあった。

 それはちょうどドアのような形をしていて入り口に間違いなさそうだが、肝心のドアノブが見当たらない。

 一つだけ穴が空いているがここにノブを差し込むのだろうか。

 考えていると焦げた入口のドアを足で押し開け、甲斐が顔を覗かせた。



「ねえー! 火薬見つかったー!? あたし他のとこも鎮火させて来るけど大丈夫!?」

「おー! 悪いけど先に行っててくれー! 火薬庫なのは確実だから、すぐ追い付く!」



 焦げ臭い匂いが鼻の奥にいやに残る。

 修理台の引き出しを開けようと金属の取っ手を握った瞬間、猛烈な痛みを感じた。



「あっ! ちい! っんだよコレぇ!」



 つい先ほどまでこの店自体が炎に包まれていたのだから当然だ。


 驚いた拍子に離し損ねたそのまま引き出しが開いた。

 中に銅の色をしたノブが入っている。

 今度は警戒して水を魔法で作り出し、ノブに浴びせると蒸発する音と共に湯気が上がった。


 そろそろ冷めただろうとおっかなびっくり指でつつくとひんやりと冷えている。

 壁に差し込んで回すとしっかりとはまり込んだようだ。



「どっち回しだ? ん? ……ビンゴ、か……」



 がちゃがちゃとノブを荒く動かすと、小気味いい音が鳴り、厚い扉が中へ入り込んだ。

 そのまま押すと中は店よりも広く、立派な造りになっている。

 そして大量の火薬と、時計仕掛けの爆弾が整頓して並べられていた。


「……はあ……、有罪確定。他の店もこんななのかよ」

『映像、記録しました。データをMr.ブレインへ送信します』

「勝手にしてくれ。……チッ、あいつを先に行かせるんじゃなかったぜ……」


 そうぼやく真意は、自分の足の痛みよりも彼女の身を案じている方だろう。

 痛みに耐えながら顔を歪めても尚、早足で店を出るシェアトは甲斐の姿を探す。

 効率がいい目印が、今この町にはあるのだ。




 青空に似合わぬ黒い煙を探せばいいのだ。




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