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第四十五話 二手に分かれよう

 甲斐に捕まった男は背中に受けた鉄球が効いているのか、表情は暗い。

 流石にここまで痛がられると、甲斐も悪いと思ったのか手にしているお菓子を差し出してみたが拒否されてしまった。

 シェアトは珍しく追いかけて来ていない。 


「……で、お兄さんは反政府勢力って訳だ」


 右目に広がる男の情報を読んでいくと、指名手配されているオコナー・ザボッグというらしい。

 恐らく仲間の元へ甲斐達がこの町に現れた事を告げに走り出したのだろう。

 

「なんで鳥のバルーン使ったの……? 黙って走れば分かんなかったかもしれないのに」

「はは、ホントお前ってバカ! 連絡係が俺一人だけだと思ったか?」













 甲斐を追いかけたい気持ちを押し殺し、装置を探しに来たシェアトは後ろから誰かが付いて来ているのを感じていた。

 一人ではなく、複数人だろう。


 祭りの屋台が途切れ始めた一本道からはナビが路地へと導いている。

 こんな所で盛大に戦闘をする訳にはいかない。


 突然走り出したシェアトに続いて男たちが物陰に隠れながら追い掛ける。

 ところが曲がり角を二つ曲がったところで姿を見失った。


「いない……!?」

「いない訳ないだろ! どうせ装置の所だ! 行かせるな!」


 装置へと続く道は建物の陰で、まだ太陽は高いというのに涼しかった。

 この先を真っ直ぐのはずだが姿は無い。

 真横は海だが飛び込んだような音も聞こえなかった。


 隠れられそうな場所は無いかと見渡す男達が次々と宙に舞っては床に落ち、壁に背をしたたか打ち付けられる。

 何が起きているのか分からずに武器を構えて待つ。

 足音は聞こえるが、何処にいるのか分からない。



「おっかねーもん持ってんな。次は赤外線スコープでも用意しとくんだな。ただのステルスだよ」



 シェアトが最後の一人を後ろから気絶させ、忘れずに拘束魔法をかけるとステルスを解いた。

 日の当たる内に使ってしまうと、影で相手に居場所を知られてしまうのだ。


 男達の顔をそれぞれデータとして照合すると、どれも漏れずに反政府勢力として名前が挙がっている者だった。

 持っていた武器は全てSODOMの名前が刻まれていた。 



「ったく、ここでもあいつの所かよ……。なんだこれ、どうやって使うんだ?」



 手の平ほどの長さの棒を手に持ってスイッチを入れると中から白い光の刃が現れる。

 だがどうやら向ける方向が逆だったらしく、シェアトの右の太ももにざっくりと刺さってしまった。


「いてええぇ……! くそっ……なんだこれ……! お、オフに……くそ……」


 ふっと火を吹き消したように刃は消えたが、傷は勿論無くならない。

 ぱっくりと開いた傷口からは血が流れていく。



「シェアート! シェアシェアシェアート~? あ、いたいた。うっひょう! お楽しみでしたね!?」



 ノリに乗って歌いながら探しに来た彼女は片手にオコナーの腕を持って引きずりながら現れた。

 倒れている人間の山に心躍らせ、座り込んでいるシェアトを見るとオコナーをゴミの様に捨てて走り寄って来た。

 彼女の適応能力が異常なのか、あまりにもたくましい。



「うっわ痛そう……。やられちゃったの?」



 珍しく素直に心配してくれている甲斐に、まさか自分が興味本位で触った武器で怪我をしたなどとは言いにくい。

 とにかく頷いてみたが、お互い治療魔法は使えないのは知っている。

 部隊であれば簡単な止血魔法等は出来るように叩きこまれるのだろうが。

 大した怪我ではないと思うが少し動かすとやはり痛む。




「どれ、ほれおいで」



 すっと自然に腰を下ろして片足を立てて座り、手の平を上に向けて腰の辺りでスタンバイする甲斐にシェアトは目が点になる。


「……は? おいで……って……お前……」

「早く、こいつら告げ口隊なら戻って来ないと怪しまれるんじゃないの」

「それはそうだけど……その体制、まさかとは思うけどお前……?」

「おんぶ。抱っこが不評だったみたいだから、ほれ」


 後ろは海、前はおんぶを強行しようとしている甲斐。

 シェアトに逃げ道は無かった。


 自分よりも重いシェアトをなんなくおぶった甲斐は腕と足に強化魔法を使っており、その背中にいるシェアトは最初こそぶつぶつ文句を言っていたが今は周りを見る余裕が出来たようだ。

 その証拠に甲斐の匂いを嗅いで笑ってみたり、敵がいそうな場所で髪の毛を手綱代わりに使って甲斐を操っていた。


「そこ右だ右! お前もっと俺に配慮して走れよ! 振り落とそうとしてんのか!?」

「だったらもっと早く指示出して! 階段! 一気に駆け上がるから敵がいたら頼むよ!」


 宣言通り、前だけを見て駆け上がる甲斐と見張りとして置かれていた男達をあっという間に片付けるシェアト。

 彼らが意識を失う前に見せた驚きの表情は生涯忘れないだろう。



 辿り着いた先は見晴らしのいい展望台だった。



「あった、これだ……。こんな堂々と置いてるとは思わなかったけど……」


 箱型の大きな機械がそのままの状態で並べられていた。

 停止しようにもどれがそのスイッチなのか分からずにうろうろしていると、音声ガイドが口を出す。


『こちらの装置のスイッチであれば、右側の後ろです』

「おお、ホントだ。シェアト、ちょっと手伸ばしてくれる?」

「はいよ……よっと。……よし、これで結界張れるな」


 甲斐の背から下りて、塞がりかけている傷口を開かないように気を遣いながら腰を下ろした時、町から爆発音が聞こえた。




 それは一度だけでなく、何度も、何度も。




 やがて悲鳴とどよめきが聞こえ、二人が展望台から町を見下ろすと煙が至る所で上がり、祭りに使われていたカラフルなバルーンが空へと舞い上がり始めていた。

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