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第四十四話 役立たずのドッペル

 ドッペルがいなくなり、改めて結界を展開しようとしたが、もう少しで完成といった辺りで結界ごと消えてしまう。

 何度試しても結果は同じだった。


 二人の息が合わない訳ではないようだ。

 音声ガイドで調べてみると、どこかに一定値以上の魔法を妨害する装置があるようだ。


「なんだ、せっかくシェアトをぼろくそ言えるチャンスかと思ったのに」

「そんな、チャンスは、無い」

「でも、どうしよっか。なんのためにそんなものあるんだろうね?」

「ったく、めんどくせぇなあ……。まあ祭りの最中だ、出て行こうなんて思う奴はいねぇだろ。でもよ、全員容疑者ってどういうことだ? おいガイド! 説明しろよ!」


 シェアトの呼びかけに応じたガイドは甲斐の聴覚にも展開された。



『かしこまりました。今回の事件ではこの町全ての住民に容疑がかけられています。反政府勢力がこの近辺で活動をしているという情報も掴んでおり、調査したところ、彼らは変装してこの町に何度も訪れてはいる事が分かりました』



「反政府勢力に加担してる奴がいるだけかもしれねぇだろ。町の全員、って妙じゃねぇか?」


『恐らくこの町が反政府勢力へと武器を流しているものと思われます。一人が負担するには大きすぎる金の動き、そして物資の流れ。時折武器のメンテナンスにも訪れているようです。それにより報酬を得ているんでしょう。町としての収益も緩やかに、しかし着実に上がっています。反政府勢力のいわば隠れ蓑としてこの町が機能しているようです』


「……そっかー。なんか残念だね。でもこれ、結界も張れないみたいだけどどうしたらいいの? 全員逮捕って、二人だけで?」


『証拠となるものを押さえて下さい。魔法を妨害する装置を見つけ出して機能を停止させてください。結界を張り次第、武器携帯許可が下りていない者が武器を所持していれば一旦その容疑で連行します。武器携帯許可が下りているかはこちらが数秒で照会します』



 シェアトには急にこの祭りが、陳腐なものに思えた。



 今までの犯人達で犯罪だと知りながらも行った理由の中で最も多い理由は『金』だ。

 罪を犯している意識があるから表立っては出来ないが、それでも止められぬのは金の魔力のせいだろう。


 この祭りで、彼らは一体何を祝うというのか。

 今日この日を迎えられたことだろうか。

 それとも安定した収入を簡単に得られる『上客』と取引を出来た事を、神のおかげとでもいって今後の安泰でも願うのだろうか。




「ここの民警は何してやがる……」




 愚痴のような独り言だったのだが、音声ガイドは丁寧にシェアトの言葉に反応した。




『ここには一般警官としてドッペルがいますが、彼はあてにせず、速やかに退避させた方が良いでしょう。彼の実力では巻き込まれる可能性も高く、この町に赴任してから町民との結びつきの強い彼は足手まといになるでしょう』


「……ガイドちゃん、なんか感じ悪~い。ドッペルはドッペルで出来る事をしてくれたらいいの。巻き込まれるも何も、彼の持ち場なんだから」

「……だな、部外者は俺達だ。さっさと装置を見つけようぜ。案内しろ」


 






 ナビに従って歩くが、そもそも道が少ないのでメインストリートを歩くしかない。

 祭りというだけあって町の中は人で混み合っていた。

 子供たちは笑いながら駆け回り、若い女性はカントリー風の服装でオルゴールの上を模した舞台上でゆっくりと回りながら踊っている。


「意外と、誰もあたし達の事気に留めないね」

「……だな。田舎ってよそ者は目立つと思ってたんだが、気のせいか?」


 見慣れぬ顔だけでなく、民間警察の制服を着ているのだ。

 警戒されてもおかしくない。


 前も後ろも混み合っているのか進みが悪くなった。

 屋台を見ながら歩いていると、シェアトが誰かに耳元で話しかけられた。

 

「さっきはよくもぶつかってくれたなあ、兄ちゃんヨ。ココにナニしに来たんだ? ホテルなら反対側だゼ?」

「てめっ……!?」

「オット、動くナ。ココでおっぱじめるかイ? アンタらどうせ俺達を逮捕しに来たんだろ?」


 いつの間に後ろに回り込まれたのか。

 攻撃しようかと思ったが先に動くな、と警告された。

 動けばこいつは周り全てを巻き込むかもしれない。

 甲斐にこの状況を伝えなければ。


 瞬時にシェアトの頭には考えが渦巻く。


「シェアト、誰と話してんの? あ、なにそれ! 喋るんだ! いいなあ、ちょうだい」

「カイ!」

「初めまして、オチビちゃん。このままこのクソヤローとおウチに帰ってくれないか? オレだって揉め事はキライなんだ」

「喋り方独特だねえ、すごーい。ねえ、シェアト! このバルーン取ってってば。あたしが持ちたい! でも届かない!」


 振り返ることが出来ないまま、この状況を把握しようとしていたがようやく分かった。

 『よくもぶつかってくれた』といった言葉の意味も。


「カイ! こいつ、ただのバルーンじゃねぇ! 離れろ!」

「……バカでも警官になれんだな。いいか、お前らの敵はこの町の人間全員だ! よくそれを覚えておくんだナ!」



 最後の言葉の瞬間、鳥のバルーンは破裂した。

 耳元で破裂したが特に害は無く、中に入っていた紙吹雪が甲斐とシェアトに降り注いだ。



「と、鳥さああああん! ……これって臓物的な!? イヤアアアア」



 急にバルーンが破裂したので周囲の人が振り返ってしまい、注目が集まる。

 その中で一人、走りながら横道に抜けて行った人物がいた。



「カイ! 今の奴見たか!?」

「うん、怪しげな奴だよね?身軽なあたしが追っ掛けてあげよう。じゃ、そういう事で!」



 走り出す彼女の右手が、ポケットへ入り込み、小銭を握りしめたのが見えた。



 目ざとく屋台にぴったりの金額を投げ入れては商品を引っ掴み、走り続ける甲斐にシェアトは不安しか抱いていない。



「ちょいちょいちょい! 待った! ……はい、止まらない! んじゃ強硬手段になるよー! いいのー!? ソイヤッ!」



 手のひらサイズの鉄球を生成すると即座に前を走るデニムに白い半袖Tシャツ姿の男に投げつける。

 背中に当たった瞬間、よろめきながら倒れ込んでのたうち回っている。


「濡れ衣ならごめんねー。なんで走ってたの? トイレー? 制止振り切ったらダメだよ」


 走りながら購入した餅のように伸びるマシュマロを噛み切りながら男を見下ろす。

 あまりの痛みにより、顔が赤くなっている。



「喋れない? 喋りたくない? あたし、気は長い方じゃないからね」

「なんで、分かった……?」



 男の声は高く、ほんの少し前に聞いたような気がした。



「……と、鳥さん! 鳥さんが人間になった!?」

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