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第三十八話 志願の理由


「ああ、全然いいよ。二人は休みが少なすぎてこのままだとまずいから、そろそろ強制的に休みを取らせようと思ってたんだ」


 一か月後のフルラ達の結婚式に合わせて休みを申請した二人にブレインは笑顔で答えた。

 もしかするとこの頃には部隊に戻され、もう民間警察にはいないかもしれないと甘く考えていたのだが、この様子だとまだ働かされる予感もする。




「あと、二人は今日からバラで出動してもらうよ。もう大丈夫でしょ?」




 ついでといった様子で柔らかな笑顔でさらりと言ってのける。


「……は? バラ……って別行動か?」

「その通り! 見てきた中だと、まあ二人共不足部分が多いけど上手くカバーし合ってたね。ただせっかく二人も応援に来てくれてるんだし、一回の出動で一件解決するよりも二件解決した方がいいじゃないか。効率的だね」

「いやそんなお得感出されても……。いいけど、うへー、シェアト大丈夫かなあ……」

「いや、心配なのはお前だよ! この前だってアニマにしっかりやられてたじゃねぇか!」

「シェアトだって気絶したり、ナビ使わなかったりで現場到着遅い時もあったじゃん! このボケ犬!」


 やんややんやと言い合い始めた二人にも慣れたもので、ブレインは咳払いで二人の間に入り込むとすぐさま結論をねじ込んだ。


「まあとにかくやってみようか。私も片手間で申し訳ないんだけど二人のサポートに回るから、通信で直接話せるよ。はい、じゃあ送るからね。離れて離れて」


 結局互いが相手の心配をしたまま、現場へ送られることになった。

 シェアトを先に送り、甲斐が自分の番に備えて直立しているが中々転送が掛からない。

 それどころかブレインはにこにこ笑いながら話しかけて来た。


「カイちゃん、二人で話すのは初めてじゃない? せっかくだし、座って座って。心配しなくても今日のシェアト君の任務は今までよりずっと楽な物だから大丈夫だよ」


 やられた、と甲斐は思った。

 ここに来てからずっとシェアトとセットで動いていたおかげでこうしてブレインと二人、顔を突き合わせることが無かったのだ。


「あたしこんな感じでもセクハラされたら出るとこ出ますからね……?」

「ははは、それは私も同じさ。飲み物は何が良い? コーヒー飲める? あ、じゃあチェリーロッキーにしょうか」


 応接用の椅子に座るとブレインは斜め向かいに腰を下ろした。

 ジグザグに曲がったストローで泡が星型のジュースに口を付けると炭酸がきつく、全く喉に入って来ない。


「カイちゃん、異世界から来たって聞いてるけど想像より、全然普通の子だね」

「あー……それはどうも。そっか、ブレインさん知ってるんだ。どうも死にぞこないです」


 異世界人に対してこの世界が今までどうやって対処してきたか知っているのだろう。

 ひっそりともう一人の自分と引き合わせ、存在を消されて来た異世界人は今どこで、何をしているのかは誰にも分からない。

 元の世界に帰れる方法なのかもしれないが、本当にその場で消滅してしまっているだけかもしれない。



 確かめようが、無いのだ。



「望んでこの世界に来た訳じゃ無いんだよね? 魔法の無い世界って想像もつかないけど……。うちみたいな機関はあったの?」

「それみんな言いますけど、結構なんとかなるもんスよ。警察はありましたね。あたしのいた日本は平和そのものでしたし……。洗濯機とかそういう家の便利グッズは全部電気で動いてたし……」

「そうなんだ。じゃあ、ついでに聞いていいかな。カイちゃんはどうして部隊に入ったの? フェダインの校長はきっと、卒業しても君の面倒を見てくれたと思うな。わざわざ危険な任務の多い部隊を志望したのはどうして?」


 最初の質問はこの質問の為の掴みだったようだ。

 声のトーンは軽いが、ブレインはじっと甲斐の目を見つめている。

 子供が難しい質問を大人に投げかけた時のような期待と好奇心に満ちた瞳をしていた。


「……えっ、これって再面接? 下手なこと言ったらクビ?」

「ああ、違うよ。ただ私が気になっただけだから。君はこの世界に来てまだ二年ぐらいでしょ? それなのに命を賭ける程この世界に愛着が湧いたとも考えにくくて。……ちょっと失礼、シェアト君からだ。聞こえてるよ、どうしたの?」


 話の途中でシェアトから通信が入ったようだ。

 通信を繋いでいない甲斐にはその内容は聞こえないが、ちょうどいいタイミングだった。









 誰にも言っていない、W.S.M.C特殊部隊への入隊理由。

 それはシェアトの為だ。

 

 

 彼を、守りたかった。

 


 異世界であるこの世界へ来た当初は気が付かなかったが、出現場所である廊下に空いていた穴の中に指輪が一つ落ちていたのだ。

 三年生になってから甲斐は指輪を見つけ出し、仕掛けのある指輪の謎にひたすら打ち込み、解き明かした時、をの報酬として指輪は未来の映像を映し出した。


 幾つかの映像が入っており、一つは『ゼータ』という企業なのか機関なのか、その巨大施設に突入していく特殊部隊の映像だった。

 そこには大佐と呼ばれている大人になったシェアトがうんざりした顔をしてインタビューを受けている姿があった。

 『Z』で大量殺戮兵器を開発していたという噂を聞き付けたメディアが押しかけているようで、レポーターが執拗にシェアトから情報を聞き出そうと迫っていた。

 それは生中継の映像をテレビ越しに映しており、途中に大規模な爆発が起こる。

 そして映っていた者の安否が不明のまま終わっていた。





 もう一つはどこかの施設に入り込んだ者が高慢な口調の誰かに激しく言い寄ると、次の瞬間には酷く攻撃され、その後に『光無き神の子』の団長となったルーカスに保護されている物だった。

 




 そして次の映像ではこの世界の甲斐は非常に優秀だったらしい事が分かった。

 その証拠に在学中にも関わらず数々の功績を残しており、テレビの取材を受けていた。

 魔法技術開発専門学校に在学しながら各機関からの開発依頼を請け負っていたようで、もしかするとこの『Z』の大量殺戮兵器開発はこの世界の自分が携わっていたのかもしれない。






 最後の映像は、もう一人の甲斐がカメラを向いて映っていた。

 研究室だろうか、不思議な青白い光の中で不敵に微笑んでいたのを思い出す。

 床に座り、『W.S.M.Cが総攻撃をかけてきた』、と語る彼女は明らかにゼータと関係していたのだろう。

 死ぬ気で撮って来た映像、と言っていたので前の映像の全てはこの世界の甲斐が撮影したものらしい。

 シェアトをどうにかするように、と言い残した彼女は脇腹を赤く染めていた。

 とにかく未来を変えたいと最後まで言い続けた映像はそこで終わっていた。



 


 

 そして甲斐が魔法学校を卒業する前に急に指輪が光り出した。

 本当に最後の映像となったのは、甲斐のいた魔法の無い元の世界の病院で横たわるもう一人の甲斐の映像だった。






 いなくなったこの世界の甲斐からのメッセージ。

 仲の良かった友人達は未来の映像通りの道を歩き始めている。

 

 問題のシェアトと同じ進路を選ぶことで、彼の危機を回避出来たら。

 そう思っての志願だった。

 今まで誰一人にもこの映像の話を聞かせた事は無い。

 これは自分がこの世界に呼ばれた意味そのものだと思う。




 絶対に、全員が笑う未来を。




 そう心に宿した炎は、灯ったばかりだった。

 その為にも、これから何が起きるのかを見届けなければ。


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