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第三十五話 死にたがりの部隊メンバー


「……珍しいね、トレーニングルームに来るなんて!」


 ヴァルゲインターのおかげで翌日には出撃し、また治癒室送りを繰り返しているネオが待機に回されたのでトレーニングルームへ向かうとシルキーがいた。

 嘘の様な強さを誇るシルキーは絶対に努力をしている事を人には見せたくないようで、一切この部屋には立ち入らなかったはずだ。


「なーんだ、また復活したの? そろそろやめてくんないかなあ、突っ走って攻撃受けんの。生きてると回収しなきゃなんないしさあ」

「はいはい、心配ありがとうございます。腕組みしたまま一体なんのトレーニングをしてるの?」

「うるさいな! 関係ある!? 俺だってこの部隊の隊員だから入室したって問題無いはずなんだけど!?」


 シミュレーションチェアに座り、体感用の器具を装着しながらシルキーを見ていると特に何をする訳でもない。

 続いてノアがシャワーを浴びて来たのか、デニムだけを着用してタオルで頭を拭きながら入って来ると素早く振り向き、舌打ちをした。


「えっ、何その態度。ビビるわあー。シルキー、何やってんだよ。邪魔だぜ」

「うるさい、何が邪魔だ。トレーニングしたって特に役にも立たないくせに」


 ノアと言い合うシルキーを見て、ようやくネオは合点がいったようだ。


「分かった! ひょっとして……シルキー、新人探してる?」

「な、なんで俺があいつらを……!」




 甲斐とシェアトが民警に配属されてから一か月が経った。




 仲の良かった仲間達は皆ダイナに直接聞きに行き、事情を知っていたが興味が無さそうなギャスパーと、二人を目の敵にしていたシルキーには伝わっていなかったようだ。


「あーはいはいはい! お前、嫌われモンだから知らねぇんだよな。あいつら辞めたんだぜ」

「はあ!? い、いつだよ……」

「一ヶ月くらい前だったかな。挨拶に来てたぜ。こんなに早く辞める事になって悔しいですけどって言ってたな。なーんかショックな事言われたらしくて、カイは落ち込んでたぜ~?」


 真剣に聞くシルキーが表情には出さないものの、明らかに驚いているのが分かる。

 吹き出しそうになるのを堪えてノアは反応を楽しんでいた。


「……根性無しだな、本当にあいつらは給料泥棒だったって訳だ。荷物が無くなってせいせいした。最近姿を見ないからサボってるのかと思ったけどだったらいい。さて、俺はこの後仕事なんだ。じゃあな」


 鼻で笑いながらシルキーがトレーニングルームを出るとノアが声を殺して笑い出した。

 一方でネオは何故こうもバレる嘘を吐くのかと呆れながらも一緒に笑っている。











「うわ……会いたくない人に最初に会ってしまった……」



 下を向いて歩いていたシルキーはその声に目を丸くしている。

 甲斐だけでは無く、シェアトまでも隣にいるのだ。


「何を……してるんだ? ここは部外者は入れないはずだが?」

「とうとう部外者扱いッスか。確かに民警にいますけど、来月には帰還ですから安心して下さいよ」

「お疲れ様です。今日で丁度一か月なので中尉へ報告に一度帰って来たんです。ついでに先輩達の顔でも見ておこうかと」


 二人は何故目の前にいるシルキーがこんなにも顔を赤くしているのか分からなかった。

 出撃前で気が立っているのだろうか。


「……どけ! いない一か月はここの雰囲気もかなり良かったのにな! また邪魔者が増えるのか。戻って来なくてもいい!」

「ソウッスカー。でもあたし達めっちゃ連携も出来るようになりましたからね! 超成長してますからね!」

「落ち着け落ち着け! 気を付けて、無事に戻って来て下さい」


 甲斐の口を塞ぎ、シェアトはシルキーに愛想を振りまく。


「……誰に言ってる? このシルキー・オンズが負傷するなど万に一つも無い!」


 振り返る事無く勇み足で向かうシルキーの口元は笑っていた。

 それはもしかすると戻って来た後にノアをどうやって打ちのめそうという不穏な笑いだったのかもしれない。










「ちーっす、戻りましたー。うっわ汗臭!」

「これはな、汗じゃねぇんだよ。男の肉汁だ!」


 ノアは顔の前で手を振っている甲斐にわざと近づいていく。


「発想がキモ過ぎて引く。おっ、ネオネオおネオー! 久しぶりー! 元気?」

「お陰様で。あれ、来る時シルキーに会わなかった……?」

「会ったけど? なんだよ、用でもあったか?」


 思ったよりも早い事実の発覚にネオは嫌な汗が出たが、ノアは大きな声で笑っていた。

 二人に事情を説明するとどちらも涙が出る程笑う。


「いやあ……ほんとノア面白いわ……。でも、これがノアを見る最後になるかもしれないなんて残念でならないね」

「だな、身辺整理はしっかりやっとけよ。エロ関係は特にな」


 甲斐とシェアトはどうやらノアより頭が良いらしい。

 やったことに伴う結果が明確に見えているのだから。


「ま、待てよ……。そんなにあいつキレてたか? どうか今回の出撃で殉職しますように……!」

「縁起でもない事言わないの。二人共民警はどう? うまくやってる?」


 テーブルに置いてあったネオのドリンクケースを手に取って、キャップを開けた甲斐は何の気なしに口を付けようとした時にシェアトが奪い取った。

 手を伸ばして奪い返そうとするが甲斐の腕の長さでは届かず、背伸びをするとシェアトも爪先立ちをする。


「ああ、中々大活躍してるぜ。この調子で残り一月頑張って、こいつと一緒に戻って来るから待ってろよな」

「返せ! 返せ! ……でもなんていうかこう、胸が痛い案件ばっかでねえ。世の中にはいろんな人間がいんだなあって思うよ」

「へえ! カイ! お前のどこに痛む胸があんだ? えっ、それってその平らな上半身の事か?」



 何がなんでもノアは自分の寿命を縮めたいらしい。



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