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第三十四話 事件の終わり

 連行されて行くアニマ、そしてその一派が連行されて行く。

 甲斐とシェアトは、今回の活躍により一層注目を集めた。

 だが、一般の警官と話す気にもなれなかった。


 必ずと言っていいほど犯人を確保した後の応援で駆けつける十名ほどの警官は舞台から応援に来ている二人にとてもフレンドリーで、居心地は悪くなかった。

 今回は保護しなければならない動物達がいるのでかなりの数の警官が動員されて来ている。


 アジトから出た四人は会話も無いまま、ナビを頼りに黙々と来た道を戻る。

 クリス達を先に送らなければならないので、ブレインへ事情を説明すると快く二人の協力者の使用したスポットを特定してデータを送ってくれた。





「ジジイ、動物に変身出来るとか聞いてねぇぞ」

「おっほ、言ってないからのう。護身用だ、わしが扱い、触れた動物の全てを理解している。だからこそ出来る芸当じゃて。筋肉の付き方や威嚇、攻撃から特性まで知っておるからの。しかし鳥類は駄目じゃな、飛び方が分からん」


 タピオもまた、魔力適合者として一つの境地に立っているのだろう。

 後ろを並んで歩いている甲斐とクリスは近況報告をしあっていた。


「……クリス、その、ルーカス元気? やっぱ忙しい? 主成分は砂糖のまま?」

「さあ……、っていうのも私も会ってないのよ。あっという間に仕事が始まって……、それからは互い家に帰るような仕事でも無いからゆっくり今日の出来事を報告なんてしてる時間も無いし……。でもたまに音声で伝言が入っているから元気みたいね」


 クリスの恋人であるルーカス・ベインは異常なまでの甘党で、優しい口調と柔らかな笑顔の華奢な人物だ。

 その反動なのか怒らせると非常に怖く、シェアトがその被害をよく受けていた。


「カイ、気を遣わなくて大丈夫よ。悲しんでいる暇があるなら私は腕を磨かないと! 今回、カイ達が来てくれて良かったと思うわ。貴方達は本当は違う職業だけど民警がいるおかげで、酷い目に遭っている動物達が助かるんですもの。……感謝してる」

「……ありがとう。照れるよ。クリスは命の現場だもんね、大変だろうけど応援してるから。あ、ほらここじゃない?」


 目的地に到着したと音声ガイドが告げ、案内が終了した。

 もっと話したい事や、聞きたい事が山ほどあったが日を改めた方が良さそうだ。


「感謝するぞ若者達よ。ほれ行くぞ、この後も仕事が山積みじゃ。感傷に浸る時間など死ぬ間際だけで良い。おぬしらも考えるならば進め、一人で考えていても何が変わる訳では無い」

「へいへい、ありがとよじい様。平和な世界を俺達が絶対作るから安心して見てろ」



 甲斐に腕を回して引き寄せ、自信有り気に笑うとクリスが深く溜息をついた。



「まあ……犬の世話、頑張ってねカイ。ああ、ビスタニアにもよろしく! カイに迷惑ばっかかけんじゃないわよ、バカ犬!」

「あんまカリカリしてっと皺増えるぞ。なんだよ! とっとと帰れ帰れ!」


 手を振って見送る甲斐の横でシェアトはクリスに舌を出してそっぽを向いた。

 クリスもクリスで大変そうだとは思うが、気の強く愛嬌のある彼女の事だ、きっと癖の強いあの院長と上手くやっているのだろう。












「おはよう、これ昨日の事件。結構大きく載ってるよ」


 全社の新聞を取っているブレインはその中の一つを抜いて甲斐に渡した。


 動くアニマの写真は歯を剥いて威嚇したりと大層不機嫌のようだ。 

 大きな見出しは小さくなったり大きくなったりと読みにくい。



「はーん? どれどれ……『動物はどこへ消えた!? 大規模密売業者逮捕!』……お、魔法動物愛護団体も意見出してるな」



 甲斐の頭の上から覗き込むシェアトのせいで、甲斐が読んでいた場所に影ができた。 



「お手柄だよ~、今回の件で問題について向き合ってもらえるからね。魔力を抜き取る装置とか危険性が高いし、今後の対策が色々考えられ始めてる。取り締まりも強化されるだろう」

「手放しには喜べないけど、良かったー。でも世界的に色々あるね、民警って凄いなあ」

「そうかい? カイちゃんに凄いって言われると僕はなんて言っていいか……」

「そういやブレインさんってずっと民警なのか? ぺーぺーからここまで登りつめてきたのか?」


 何気なく聞いたシェアトの言葉に、珍しくブレインが言葉に詰まっている。

 表情に変化はないが、言葉を選んでいるのだろう。


「……いや、僕は昔君達程のエリート部隊じゃないけど部隊にいたんだ。でも、ダメでね」

「ダメって? 戦場に眼鏡がダメとか?」

「馬鹿にしてるね? ……人の命を簡単に奪う事に、慣れ過ぎたんだ」



 そう言うと苦笑しながら他の新聞に目を通しながら話を続ける。 



「最初は戸惑った、でもそんなのすぐに忘れてしまうよ。殺すか殺されるかの場面で一々何かを考えてられない。出撃から戻ると仲間で普通に笑い合って、仲の良かった奴が戻って来なかった日に震えが止まらなかったんだ。ああ、何の前触れもなく『自分』が終わる時が来るのかって」


 本来は部隊の人間であるシェアトと甲斐は黙ってしまった。

 入隊してからはまだ戦場へ出た事が無い二人は対人間の仕事である事を忘れかけていた。


「言い方は悪いけど、私は民警に逃げて来たんだよ。ここは殺さずのモットーがあるからね。時々本当に生きる価値も無いと思う相手もいるけど、そのモットーに私は救われた。……悪い事を言ったかな? 脅す訳じゃなかったんだ。ただ私には信念よりも自分を守ってしまった、そんなカッコ悪い昔話だ」

「ま、俺には関係ない話だな。俺は世界を変えるんだ、サインをねだるなら今だぜ!」

「サインって……肉球スタンプ? ちょっと欲しいんだけど……」


 どれだけ戦い続ければ、この世界は変わるだろう。

 誰もが争いよりも平和を、武器よりも花束をと願っているはずなのに。

 


 頂点に辿り着かなければ世界は見えないだろうか。

 


「……地形を知るには高みから見ないと分かんねえ……か」


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