表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/482

第三十二話 仲間ってなんだっけ



「……アニマ……これ……」



 甲斐が最初に抱いたのは怒り。

 次に押し寄せたのはそれは大きな悲しみの波だった。


 重厚な扉の先に待っていたのは、固く口を結んでおかなければ今にも叫び出してしまいそうになる光景だった。

 大きな龍が水槽の中で四肢を縛られ、腹部に深々と杭を刺されている。

 顔がぐたりと垂れ下がったとしても、体の浸かっている液体に付かないように調整された水量。

 水槽の中は緑色で、それが龍の血の色なのか、そもそもこの液体の色なのかは分からない。


 こちらを睨む瞳の力に、甲斐は本能的に恐れを感じた。

 恨みと憎しみ。

 それを向ける事すら出来ぬ無力さ、そして拘束されることよりもそれに慣れてきている事に対する怒りなのか、今にも決壊しそうに思える。




「驚いたか!? こいつは上物だ、ここいらじゃあ生息してない。それに厄介なのがこの希少種に対する保護条例でな。ただそのおかげでこいつの価値は高騰! 今や金の成る木だ! こうやって生かさず殺さず、毎日魔力を削ぎ取っても回復が出来るように考えてある」




 ずっと、叫んでいたのはこの子龍だったのだろう。

 数百の鳴き声の中を歩いて来たが、比べ物にならぬ一声が鼓膜を震わす。




 水槽に映ったアニマはまるでお気に入りの絵画でも見ているような表情をしていた。

 フェダインで出会った龍がクロスを気に入り、魔法でサイズを小さくされたまま共に過ごしていたのを思い出す。

 卒業の時に家に持ち帰る為の手続きがかなり大変だったらしい。




「なあ、カイ。なんで俺がこれを見せたか分かるか? お前はもう、戻れねぇんだよ。俺達の仲間にならないってんならここから出す訳にゃいかねぇ。これを残酷だと思うか? 答えによっちゃ、お前もこうなるんだぜ」




 肩に置かれた手を汚らわしいと思った。




 龍が吠え、アニマが笑う。




 甲斐にしてはこれまで上手くやった方だ。




 もう、限界だった。




「馴れ馴れしく触ってんなよ豚オヤジ……。あーっ! もう無理無理! 金が欲しけりゃ自分の脂肪でも売って来なよ! ここまで案内してくれてありがとう! そして茶番も終わりでーす!」

「おいおい、気でも触れたか? 仲良くやろうじゃねぇか、俺は別に動物が憎くてこんな事をしてるんじゃねぇさ。従業員を食わせる為にゃあ時には残酷な事をしなきゃならねぇ。もう大人なら分かるだろ?」

「ああ、そうですか。そりゃ大変ですね。自分の子供に父さん、龍を半殺しにしてるおかげでお前を育てられてるんだぞ。今度の休みに見学ツアーに来なさい、お友達も連れてな! とか言えんの? 言えんなら頭くるくるパーです、もうダメでーす」


 不敵な笑みを浮かべたまま、甲斐は長袖の上着のジッパーを下ろし、そのまま脱ぎ捨てる。

 中に着ていたシャツは汗でじっとりと濡れていたが、外気が心地いい。

 

「カイ、お前は汚い事をした事が無いか? 人に嘘を吐いた事は? そんなに人間綺麗に生きられんぞ! たかが女一人暴れた所で何が出来る? この龍を連れて逃げるか?よく考えろ、デカい話だ。この先ちまちました仕事などしなくとも良くなる」

「人を悲しませるような事はすんなってあたし、親からいいだけ言われてんの。傷つける事もね。龍に対して酷い事すんなって言われた事は無かったけど、あたしの常識とアンタの常識は残念ながら違うみたいだね。民警の東藤甲斐です、アニマ。お縄についてもらいまーす」

「民警……? お前が? ……そうか、そりゃつまらんジョークだ。……もし本当なら、お前をコイツの餌にしなきゃならねぇ」



 煙草に火を付けたアニマに甲斐は近付く。



 このまま拘束すべきだが、どうにも腹の虫が収まらない。

 逮捕されてもきっとまた同じ事を繰り返すだろう。


 出所するまで、アニマは拷問される訳でも無く、痛みも知らず、ただ少し退屈な世界で数年間を過ごすだけだ。

 規則正しい生活と、適度な運動、適度な食事。

 もしかすると今よりも遥かに健康に近づいてしまうかもしれない。



 

 では誰がこの龍の想いに、償いをするのだろう。




 どの位の時間、この龍が地獄を味わっていたのか分からない。

 その時間はもう戻らないというのに。


「キャアータスケテー! コロサレルウー!」

「……!?」

「はいこれであたしが反撃する口実出来た! オラアアアア!」


 大声で叫んだ甲斐に呆気に取られたアニマに脚力、腕力を共に強化した甲斐は一歩で距離を詰めた。

 そしてそのまま拳を振りかぶる。

 しかし咄嗟に彼の右腕がガードに入った。


 激しい衝撃と共にアニマは龍の水槽へと弾き飛ばされる。


 確かに手応えはあった。

 その証拠に彼の右腕は使い物にならない状態だ。

 ゴムのおもちゃのようにぶらりと垂れ下がっている。


 しかし、甲斐はどこか違和感を感じていた。


「その腕……んー……? なんか……人の腕にしては……? こう……もにゅっと……」

「お前魔法警官か……。そうかそうか、これは俺も遠慮してたら危ねぇなあ。人も獣と同じでな……優しくしてりゃ多少の無茶も平気な奴と、殴り付けなきゃ分からねぇ生意気な奴もいるんだ。お前は後者だな」

「ねえ、その腕ってウソモノじゃない? 偽のっていうか……義手! そうだ、義手じゃない?」

「人の話を聞け! これか? これだけじゃねぇさ、腕なんてとっくに食われちまった。足もな。魔法ってのは凄くてなあ、偽の腕でも金さえ払えばこうして元の腕より高性能なもんが付けられる。おかげでお前の攻撃なんざ痛くもねぇ」


 にやりと笑ったアニマは甲斐の足元目掛けて何かを投げた。

 跳び退いたが間に合わず、体に痛みが走る。

 気付けば床に倒れていた。


「魔法を使えない俺がか弱いウサギに見えたか? ……笑わせる! 魔法警官か、丁度いい。死ぬまであと五十年以上はここで飼ってやろう。魔力は高いからな、たまには差し入れもしてやるさ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ