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第三十一話 シェアトの活躍

 クリスをシャワールームへ押し込んで、入り口の横に背中を付けて男達が来るのを待ち構える。

 出来るならば戦闘は避けたかったがこうなっては仕方がない。


 警戒してゆっくりと上がって来る男の顔が一瞬見えた時に腕を伸ばして彼の服を掴んで引きずり出し、床に転がす。

 抵抗していたが、シェアトの強化をしている腕には敵わず、男は受け身も取れないまま叩き付けられて意識を失った。


 間髪入れずに通路へフラッシュバンを投げ入れる。

 明るい中では視界を奪う程の効果は期待できないが、炸裂音により聴覚を奪える。

 混乱している中へ、シェアトは素早く姿勢を低くして突入し、両手にサンダーボールを作り出し、手の平で撃ち込んでいく。




「暫く寝てな!」




 悲鳴など、消えるどころか存在しなかった。

 何もかもが終わった後、倒れている男たちを確認していく。

 顔を認識すると民間警察に世話になったことのある者のデータがシェアトの視界に映し出されていく。

 

「……んだよ、全員一般人の前科もちか……。あのボスにばれなかったのも防音のおかげだぜ。……あん? なんだこいつ」


 足元で死んだふりをしていたミミズクが片目を薄く開けている。

 シェアトがつまみ上げると尖った爪の付いた足で顔を蹴られた。


「いでえええええ! バカ、暴れんなっ……今夜の夕飯にするぞコラア! やめっ、おいっ……参りました……! すいません! すいませんでした!」


 静かになったと思いきや、聞き慣れているシェアトの阿保な悲鳴と命乞いにクリスが顔を出した。


「へたれっぷりも健在ね! ……まあ……ちょっとは強くなったのね、どこか怪我してない?」

「見て分からねぇか!? 顔から血出てんだぞ!」

「動物相手にしたらそんなものよ、それにいきなり首根っこ掴まれたら誰だって嫌でしょ。……ねえ、先生はどこかしら? もしかして迷ってるのかも……」


 煙の中で攻撃していたのでもしかするとタピオを巻き込んでしまったのだろうか。

 風を起こしてまだ霞がかったように通路に籠った煙を外へ出して倒れた男達を見たが、どこにもタピオの姿は無い。


「マジかよ、もう放っておこうぜ。それか怖くなって逃げだしたのかもしれねぇぞ。いなきゃいない方が良い! なあ、バカ鳥!」



 懲りずに今度は首を掴んで顔を近づけると鋭いクチバシがシェアトの鼻をかすめた。



「嫌われてるじゃない !離してあげなさいよ!」

「いいじゃねぇか、こいつは俺のペットにすんだよ。クロスだってあのちびっこい龍、実家で飼ってんだぜ!俺だってなんか欲しかったんだ。……にしてもこいつ、随分デブだな。ほら飛んで付いて来い」


 ぱっと手を離すと、少々太っているミミズクは翼を自信ありげに広げたが、わたわたと羽根を動かしてそのまま落下した。

 上手く起き上がる事も出来ないらしく、うつ伏せの状態で羽根を使ってもがいている。


「こんな調子だから捕まったのかしら……? でも魔法動物でもないのに変ね、どこか怪我してるの?」


 抱き起こしてやると、ミミズクは心底迷惑そうに体を離した。

 そして傍にいるシェアトの裾を咥えて早く進もうと言わんばかりに引っ張る。


「あれあれー? なんかあ、俺の時より嫌悪感出されてるみたいですけどぉー?」

「何よその高い声! もう頭に来た! ルーカスにシェアトは死んだって伝えておくわ!」

「なんでそうなるんだよ! それにその嘘だとルーカスがただすげえショック受けるだけじゃねぇか!」


 また下らないやり取りが始まり、ミミズクは思い切り口を開いてシェアトの足に噛みついた。



 ようやく二人は甲斐のしていたように透明な防音装置を通り抜け、アニマを探す。

 耳につく鳴き声と、重い視線の中でシェアトは眉間に皺を寄せながら周囲を見渡しながら歩いていた。



「ひでえな……あいつらも何も思わねぇのかよ……」

「儲かるもの、普通の職業より全然。需要なんて世界中どこでだってあるし、相手がこういう不法業者だって分かってても取引する所も多いのよ。素材ごとに仕分ける部屋もあるはずだけど、貴方は見つけても入らない方が良いわね」


 ふん、と鼻を鳴らしたクリスにシェアトは歯ぎしりをする。


「素材、か。チッ、これがもし違法じゃなかったとしても居心地は最低だな。どいつもこいつも目が死んでるぜ……。……カイ達はどこだ?」


 人間、というカテゴリーで分類されているのか周囲を警戒しながら歩いて行く二人を動物達はじっと見ている。

 敵ではないと言って分かる相手ではない。

 崩れた信頼を修復するには長い年月が掛かるだろう。

 いや、そもそもそんな手段は存在しないのかもしれない。


 飛べないミミズクは歩くのも遅く、仕方がないのでクリスが抱いて移動していたが急に腕の中で落ち着きを無くし、どうにか出ようとして暴れ出した。


「動物の声に興奮してるのかもっ……こーら! 落ち着いて……キャッ!」



 ミミズクは腕から飛び出すと姿形を変えた。



 その姿は伝説の様に語り継がれ、世界のどこかに生息するとは言われているものの、一部の者しか見た事のない幻獣『麒麟』。

 龍の様な顔、頭には歪んだ角が二本生えている。

 五メートルはあろうかという馬の体には五色の毛が背骨に沿って一直線に生え、尾は牛であり、水色の鱗が怪しく光った。



 言葉を失っている二人を一瞬見ると、腰を低くして後ろ足を折った。



「俺のペットが進化した……!? 経験値溜まったのか……?」

「ツッコまないわよ。……ミミズクが麒麟に……? おかしいわ……、もう何がおかしいって……全部よ……! これ、乗れって言ってるのかしら……?」

「……こいつは俺のペットだからな! お前に乗れって言ってんじゃなくてお・れ・に言ってんだよ! よーしよしよし! ……おい、仕方ねぇから後ろに乗せてやるよ」

「……瀕死の重症を負っても絶対助けてなんかあげないからね……! 覚えてらっしゃい!」



 一瞬、頭を後ろに持っていかれるような感覚がした。



 息も出来ない程の速度で二人を乗せた幻獣は駆け、その体全体を光が包む。

 何処へ向かっているのか、流れる景色が早すぎて見えない。

 数秒で前に座るシェアトがぐらりと力無くクリスにもたれた。




「(気絶してる……! どこまでウザいのこの男……!)」




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