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第二十七話 罠にかかるは…

 話を聞いてみると、どうやらこの地に生物研究と環境の変化の観察、そして怪我をしている希少種などがいないかの見回りも兼ねて定期的に二人は訪れているそうだ。

 タピオの病院は大きいらしく、それなりに優秀なスタッフが揃っているので院長がいなくとも治療は回るようだ。

 そこで新人として入ったクリスが院長の補佐役として駆り出されているらしい。

 タピオの性格的にもクリスが一番相性がいいらしく、本人達は全く認めようとしていないが何をするにも基本的にこのコンビになってしまうという。




 ここから離れた場所に転送装置があったようだが、タピオの耳に動物の悲鳴が聞こえて来たという。



 近年、生き物を商材にする密輸のせいで減っている種族もあり、彼らの命を守り続けて来たタピオは怒りに燃えて走り出してしまった。

 それを追ってきたクリスがようやく追いついた時、もう右も左も分からぬ状況に陥っていた、という訳だ。

 魔法でどうにかしようにも、目印も何も付けてきていないのだ。

 

「正に俺達はそういう輩を捕まえに来てんだよ。だからお前らがいると邪魔になる。迎えに来てやるから大人しくこの辺にいてくれねぇか?」

「……でも、クリスだって攻撃魔法が得意な訳じゃないし危なくない? あたし達はこんな重装備な上、もともと太陽組だったからいいけど……」


 魔法学校のフェダインで同級生だったクリスは甲斐とシェアトと違い、医療に特化した魔法を学ぶ星組に所属していた。

 攻撃も防御も出来ない訳ではないのだが、得意ではない。

 そもそもクリスは勉強嫌いで卒業試験も死にそうになっていた程だ。

 期待は出来ないだろう。


 どうすべきかを考えている時に、少し困ったように眉を下げたクリスが口を開く。


「その任務、お手伝い出来ないかしら?」

「……あん?」

「私達、出来る限りサポートするわ。それに生き物には詳しいし、植物だってそこらの図鑑データになんて負けないわよ。危険を見つけるのに役立つと思うんだけど……」

「こんな場所に老人と若い娘を置き去りにするなど悪魔の所業! 死んだらろくな目に合わぬだろう! 連れて行け!」


 食い気味でタピオがシェアトに向かって指をさしながら発言する。

 

「可愛げ無ぇジジイだな。それに俺のせいみたいになってんじゃねぇか……、なんだよ! 邪魔したらお前らここに埋めて帰るからな! 覚悟しとけ!」

「仲間 が 増えた ! テレッテレー! +HP30+MP200」


 甲斐は真っ赤な顔をしながら決めポーズをして高らかに叫んだ。



「脳ミソ蒸発しかかってんなコイツ……」



 後はアニマに会わなければならない。

 しかしどこを見渡しても緑一色で、道を塞ぐ硬い草は燃やすと毒の煙が出るというので魔法で切って進んで行くしかなかった。

 一体どのあたりに彼がいるのか分からないまま、四人はひたすらジャングルの中を歩いて行く。



「ジジイ、なんか聞こえねぇのかよ……」

「聞こえんなあ。それと若造、わしはタピオだ。まだまだ色々と元気は残っておる、見てみるか?」

「馬鹿が増えた……疲労感が強まる……」

「お互い大変ね……、でも本当に私達以外がここにいるのかしら……。さっきの悲鳴だって人間のせいかどうかは分からないわよ……」

「ほほほ、わしの耳に狂いは無いわ。生き物同士の争いであんな悲痛な声は出ん。生きるか死ぬか、それだけだ。食す以外に生き物の命を思うがままに金に換え、その欲望には底など無い。そんな恐ろしい生き物は人間だけだろて。生き物は皆敏感だからの、知らん欲望に塗れた者に捕まれば恐ろしくて鳴くのだ」


 日差しが強く、慣れているはずのタピオとクリスも額に汗を浮かべている。

 先頭を歩いている甲斐は重装備で熱の逃げ場が少ないので息が荒く、体力が削られていた。




 

 そのせいだろう。



 



 瞳に浮かんだ罠への警告に体が反応するのが遅れたのは。





 金属を踏んだ感触の直後、鋭く削られた銛の刃先が深々と衣服に食い込んでいく。

 短い刃が複数個所に食い込み、下から上へと上がった大きな網によって甲斐は空中へと持ち上げられた。



「おお……捕まっちゃったよ……」


 

 当の本人はいたって呑気なものである。


「カイ! 怪我は!? すぐ下ろしてやるからな! 待ってろ!」


 クリスが両手で口元を覆った。

 タピオはぱっと顔を上げて警戒するように身を低くした。


「酷い……! こんな仕掛けじゃ死んじゃうじゃない……」

「おい、何かこっちに来るぞ。鉢合わせるか?」


 網の中でもぞもぞと動く度に、空間が狭くなっていく。

 魔法を発動しようとしても、何故か力が入らない。

 下でシェアトが網を繋ぐ部分に狙いを定めた時、確かに複数の足音が聞こえて来た。


「逃げるか隠れて! ぐええ死ぬう! 様子見て出て来るようにして! ぎゃああもうミチミチだよおおお!早く! み、見殺しにはしないでね!」


 魔法を使用している所を見られては厄介な事になる。

 一瞬ならば気付かれないとは思ったが、結果的にシェアトは躊躇してしまいタイミングを逃してした。

 我先にと大木の陰に隠れるタピオに続き、クリスがシェアトの尻を叩いて連れて行く。


 その直後、ちょうど数名の男たちが先ほどの罠の辺りに集まり始めていた。




「掛かってる掛かってる……。下ろせ。……なんだあ、ありゃあ? 小物のようだが……随分暴れたな。ハムみたいになってるぜ、見ろよ」


 左右に揺らされながら下へゆっくりと下ろされ、網の中を覗き込んだアニマは押し潰された甲斐の顔をまじまじと見てようやく人間だと分かったようだ。


「は、早く解いてやれ! 人間が掛かりやがった! もしかしたらもうダメかもしれねぇな。……ったく……、なんだこいつ……?」


 数人がかりで網から甲斐を解放すると、首や腕を回しながら立ち上がった。


「体中が痛いんですけど……! はあーあ、助けてくれてありがとう。それじゃ……」

「どこ行こうとしてんだ、嬢ちゃん。……何モンだ? こんなジャングルに女の子一人でピクニックってかあ?」


 周りを取り囲むようにアニマと似た雰囲気のうさん臭い男たちが笑った。

 皆、半袖に迷彩柄のパンツなどラフな格好をしている。

 人種は様々だが日に焼けた肌が目立つ。


「まあ……そんなとこかな。珍しい動物、っていうか金になる動物を何匹かゲットしに来たら迷っちゃって。上手くいかないもんだね。でもこの罠って、動物捕まえる為の物でしょ?人にも会えたし助かったよ」


 相手の反応を待っている間、甲斐は無理矢理笑顔を作った。

 数秒が、異常に長く感じているのは甲斐だけでなくその様子を見守っているシェアト達も同じだった。



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