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第十九話 ホラー展開お望みで?


「離せ! 触んな! 人殺しーーーーーい!」

「……この少女はホテルで焼死しました、っと……」



 口のテープを外してやると案の定少女は騒ぎ出した。

 それに対していち早く苛立ちを見せたのは甲斐だった。


 燃え盛る炎を腕に纏って突きつけると、甲斐のトーンの低い声に怯えたのかそっぽを向いて黙り込む。

 目立つそばかすに赤い瞳、癖の強い栗色の髪は自分で切っているのか所々が直線的にカットされ、胸元まで伸びていた。


「あたし達は民警、分かる? 警察官のカイとシェアトだよ」


 自己紹介をするも聞いているのかいないのか、こちらを睨み続ける少女に甲斐も負けてはいない。


「誰にやられたの? 住民?」

「……そうだよ、あたし……その、嫌われてるから……町のみんなに……」

「だろうな! 俺もお前を好きになってやれる自信ねぇもん!」

「この子もシェアトの事嫌いだと思うけどね。……嫌われてるにしても、殺されかける程って相当じゃない?何したの? ……ああ、名前は?」

「トイフェル……。民警ならあたしの名前なんてすぐ分かるんじゃないの」

「データベースにいれば、な。お前そんなチビすけなのにもうデータに載る様な事してんのか?」


 シェアトの憎まれ口に、トイフェルは何も答えなかった。


「トイフェルちゃんね。それに名前は本人から聞かないと意味ないでしょ。……誰か、保護者の方はいる?先に連絡しておかないと」

「……言ったでしょ、お父さんが殺されたって……。私には……お父さんしか……いなかったんだよ……」


 気まずい沈黙が流れた。

 唯一の肉親を殺された彼女の胸中を思うと言葉が出ない。

 彼女は丈の合っていない薄汚れた半袖の白いワンピースに裸足だった。


 彼女を抱えていたシェアトは、トイフェルの軽さと体のあちこちが骨ばっている事に気が付いていた。


「今はどうやって暮らしてんの? 働いてたりする?」

「何か手伝わせてくれる人を毎日探してる……。家は、小さいけどアパートを父さんの残した貯金で借りてるよ……。いつ追い出されるか分かんないけど」


 年齢の割に小さな体が日常を映し出している。

 目を合わせずに話すトイフェルは言葉遣いも粗雑で、何かに怯えているように見える。


「分かった、じゃあ送ってくよ……って言ってあげたいとこなんだけどそうもいかないんだなーこれが。誰にやられたか分かる? あたし達も面倒事は避けたかったんだけど、あれが日課とは思えないし、足も怪我しちゃってるからさ」

「私、警察になんて行かないから……! 家に帰りたい……。夜になると危ないの……。見て、ほら……もう誰もいないでしょ」


 辺りを見渡すと、ホテルが燃えているというのに誰一人として外へ出ていなかった。

 そして木造のホテルはこうしている間にも屋根を焦がし、煙を起こして周囲を包んでいる。


「はあ……この街は誰も消防を呼ばないのかよ。仕方ねぇ、他に誰もいなかったし放っておいたら隣まで焼けちまう。俺達で鎮火させるぞ」


 頼りない街灯の光は、今や大きな一つの炎と化しているホテルに飲み込まれていた。


「はいよー。でもそこまで水出せるかなあ。雲集めようか?」

「この気候だしな……、それに俺は水系苦手なんだよ。……おし、任せろ」


 空に浮かんだのは大きな魔方陣だった。

 シェアトが腕を振り下ろすとそこから生成された水色のゲルが大量にホテルに降り注ぐ。

 炎は音を立てて消えて行き、ゲルは続々とホテルに降り注いでいく。


「これで大丈夫だな。……さてチビすけ、俺達がいるんだし危なくねぇぞ。殺人鬼だって毎日外うろついてるとは考えにくい。分かるなら先にお前を襲った奴らの所へ案内しろ」

「……やめてよ……! そいつらを逮捕なんてしたら私、この街にいられなくなる! だから警察は嫌なんだ!」


 被害者が被害を認めないのではどうしようもない。

 一体どうしたものかとシェアトが頭を掻いていると、甲斐がようやく口を開いた。


「おなか減ったなあ……。外で話すよりおいしい物を囲んで話す方がいいと思うんだけどどう思う?」

「賛成だな、どっか食い物屋はねぇのか? 事情聴取がてらに聞いてやるよ」


 話にならない、といった顔をしてトイフェルは手錠をはめたままシェアトと同じように頭を掻いた。

 彼女が逃げないように両脇を固め、料理店を探して三人は人気の無い道を歩いて行く。


「なんだかなあ、ただの寂れた街みてぇだけどこんなとこに殺人鬼って……。私怨を買ったとかじゃねぇの?」

「んー……そこまではわかんないけど……。案件読んでると、殺された人たちに関連性はあんま無いんじゃない?ただたまたま夜中に外出してただけみたい。ああ、ほらあんな風に」


 甲斐が指さす前方には辺りを伺う様にそっと家から出て来た男性がいた。

 こちらに気付いたのか動きを止めて警戒している。



「民警だ、安心しろ。おいオッサン、こんな夜中にどこ行くんだ? 火事なら俺が―――」



 急に怯えた顔になった男性は息を吸い込んで後ずさりを始めた。

 こちらから目線を外さず、手の感覚だけでノブを探している。



「おい! どうした?」



 挙動不審になった男性にシェアトは甲斐とトイフェルを下がらせつつ、薬物検査のサーチエンジンを起動する。

 しかし、結果は白だ。


「薬物反応も無しか……、なんなんだよ!」

「殺される……! 化け物……!」


 そう言った瞬間、男性の喉元から何かが噴出した。

 天高く上った鮮血は落ちて来るまでに壁を濡らし、また噴き上げる赤に混じっては落ちていく。

 膝を折り、光を失った男性は首元の傷が信じられないと言ったように震える手を当て、そのまま前のめりに地面に倒れた。




「きゃあああああ!」




 トイフェルは頭を抱え、金切り声を上げる。

 目の前で血飛沫を上げている男性よりも、甲斐はトイフェルの声に驚き、心臓の辺りを抑えながら涙目になっていた。


「ほらね!? ほらね!? だから言ったんだ! 夜は危ないって!」

「……なん、だこれ……! カイ! 後ろは!?」

「えっ、あーいや! 誰もいないよ! それに街灯の下だったオッサンもうちらの方見てあんななったけど、影一つ無かったよ!? 怖えええええ!」

「一気に突っ走るぞ! 被害者増やちまった……! チビすけ、走れるか!?」

「死にたくないから走るよ! どこ行くの!?」

「とにかく走れ! カイ! 後方警戒! あくびしてんな!」

「ああ、ごめん。……ねー、あのオッサンって何見て化け物って言ったんだろうね」


 走りながら甲斐は疑問を口にする。

 確かに彼は三人の方を見て化け物、と口にした。

 しかし周囲には誰もおらず、突然首を切り裂かれた。


 それしかないと思うが、そんなはずはないと思う。

 一瞬の迷いのせいだろうか。

 進行方向にある街灯がキンッという金属音と共に切断され、そのまま甲斐に向かって倒れて来ているのがスローモーションに見えた。

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