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第百五十五話 選んだのは僕たちだから

 カリアの言葉にノアは少し前にシェアトを包んだ水になる魔法を手に用意したまま、止まった。

 ヴィヴィもすかさず甲斐の背中から顔を出して加勢する。



「ヴィヴィ達の仲間はみーんな死んじゃったんだ! それにヴィヴィ達は研究所で生き残ったのもこのデトネーターを使ったからだよん! 武装集団が悪いとはいえ、人を殺してるんだ! アンタがそうやって攻撃しようとするなら、こっちはこっちで持ってるデトネーター全部爆発させてやるから!」


 ヴィヴィは必死にノアに危険度をアピールしている。


「でとねーたあ……? ターミネーターみたいなの? しつこそう……」


 人質は余計な事しか話さない。

 カリアが挑発をやめて、ノアに話しかける。


「……デトネーターは起爆剤の事。ノアさん、僕達は中尉とお話がしたいだけなんです。現に僕らは貴方達には危害を加えていないでしょう?彼女にした事だって、魔法使用の特殊部隊にいる人間からしたら拘束にも値しないですよね?」

「……チッ、テロ予告までされて上官の部屋までむざむざ通したなんて知れたら俺の命は無ぇだろうが……。行くなら黙って行ってくれ」



 攻撃態勢を解除して、ノアは背を向けて歩き出した。

 シェアトはどうするべきか悩みつつも、この二人を信じていいのか分からずに甲斐を心配そうな目で見つめる。


「だーいじょぶだいじょぶ。さあ、中尉のとこまで行くかあ」

「……必ず、無事にお返しします」



 カリアがまだ心配そうなシェアトにしっかりとした声で言った。



 彼らが一体何をしようとしているのか分からない。

 こんな大事にしてしまえば、なんらかの処分は免れないだろう。

 そうまでする意味も見い出せぬまま、甲斐は二人を連れて中尉のいる上官室へと向かって行く。

 付いて行きたい気持ちは強いが、いざ言及された時に自分の失言が取り返しのつかない事を招いてしまいそうで足は動かなかった。



「くそ……! ……そういや、あのチビ……!」



 フルラの事を思い出し、治癒室へと入るとヴァルゲインターが甲斐と同じように両手を包帯で拘束されていた。

 随分と不自由そうだが、外そうともせずにその状態のままカルテを記入している。



「……おい、チビは無事なのか!?」

「……ああ……、さっきの女の子……? なに、アンタも知り合いなの?」

「カイと同じでフェダインの同級生なんだよ……! 無事なんだろ!?」



 そして、女医はペンを走らせるのを止めた。

 ヴァルゲインターは振り向かないまま、黙り込む。



「おい……嘘だろ……!? なんとか言えよ……。お前、医者だろ!? あんなに腕に自信があるとかなんとかいつもほざいてんじゃねえか……!」


 掴みかかると、椅子が回った。

 顔を上げたヴァルゲインターは上唇を持ち上げて前歯を突き出し、目をぐるぐると回しながら笑いを噛み殺していた。


「『オイィ~うそだろぉ~?』ぷひっ……ぶふぁっ…! 『オマエェ医者だろぉ~?』だってぇ~! ぎゃっははははあはははは!」


 人が人を殺す時、きっとこんな風に憎しみと怒り、そして殺意が体を突き動かすのだろう。

 シェアトは自然と握った拳が肩の高さまで持ち上がるのを感じていた。



×  ×  ×  ×  ×



「失礼したくないけど失礼しますねー。ちゅーいー、お客さんですよっと」

「ノックをしたら死ぬのか!? ん!? だからしないのか!? ……なんだ、その手は。……誰だ?」

「……彼女を人質にとりました。初めまして、マラタイト研究所のカリアです」


 ダイナの迫力にカリアは少したじろいだ。


「そいつに人質の価値があるか? うちの部隊の恥ではあるが……もう少し人選を考えた方が良かったんじゃないか? 是非そのまま持って帰ってくれ」



 爪の甘皮を剥きながら、ダイナは笑った。

 てんで相手にしてもらえず、カリアとヴィヴィは顔を見合わせる。

 


「ぜーったい言うと思った! 信じられる!? あれが上司の言葉だよ!? 出るとこ出りゃあこっちの勝ちだわ!」

「こ、こっちはデトネーターとなる魔力を持ってる……! 僕を攻撃すれば衝撃でこの拠点もろとも吹き飛ぶぞ! 仲間を助ける為には仕方なかった……! 彼女を脅してここまで連れて来て貰ったんだ」

「……それは怖いな、震えが止まらないよ。それで、君達はここへ何をしに来た?私に何を望んでいる?」



 ダイナは小さな子供に話しかけるように、首をかしげた。

 驚いた様子でもなく、ノアのように怯みもしないダイナは流石というべきなのだろうか。



「……僕達の研究所は、ついさっき……襲われました。生き残ったのは、僕と彼女……それともう一人の研究員です。もう一人の研究員は武装集団に立ち向かい、瀕死の状態で……そこに現れたこの人を脅して、医者の元へ連れて行くように言いました」


 言葉にすると、なんて薄いのだろう。

 相手からすればどうだっていい事だ。

 逆の立場で考えてみても、可哀想にとは思うがそれにこうして巻き込まれるとなれば話は別だ。

やけを起こして何をしでかすか分かったものではない。

 こうして今、話を聞いてもらえているだけでも凄い事なのかもしれない。


「……そしてここにいた、大きなリボンを付けた医者に僕の仲間は助けてもらえました。……無理矢理付いて来て、こう言うのもおかしいですが…ありがとう、ございました」

「本当におかしな話だ。それで、何故黙ってここから立ち去らなかった? まさかここを乗っ取るつもりか?」



 話の流れが読み取れない甲斐はカリアとダイナ、どちらかが口を開く度に顔を見ていた。 





「いえ、通報をして頂けませんか? 民警へ。然るべき処罰を受けたいと思います」





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