第百話 打倒・SODOMの作戦会議
狐、と称されたエルガ。
もう少しで掴めそうなのにあっという間に煙に巻かれてしまう。
なるほど確かに狐のようだとシェアトの口元が斜めに上がった。
「……中尉にも報告がてらどういう事なのか聞いたが、やはり濁されたんだ。こちらとしても部隊を存続させていく上で『SODOMとの関係を打ち切る事は出来ない』ってさ。ま、そんなことは百も承知なんだよ」
口ではそう言いながらも、苛ついている。
椅子を揺らしながら、また鼻を鳴らすシルキーの声が少し低くなった。
「他の兵器開発会社なんて無名だし、製品が信頼できるかも分かんないんだからさあ。要は替えがきかない。上手く商売してるよな、SODOMも。チッ」
「……という事は、SODOMが強く根付いている機関や部隊はどんな事があってもあいつらを見過ごすしかないと?」
SODOMが武器兵器市場を独占状態なのは分かっていたが、当事者となると非常に厄介な問題だと認識させられたシェアトが眉をひそめる。
「なに?ずいぶんお前、SODOMに牙剥くね。なんか個人的な恨みでもあるのか?」
シルキーからは完全なる好奇心の匂いがした。
ここでSODOM代表のエルガと友人だったと言っても、特に収穫のある話ではないだろう。
「……そんなの、無いですよ。ただ……このまま放っておけば反政府勢力も更に力を強めるのでは?」
「武器も兵器も誰でも売るよってのがダメってことですよね?あ、そうだ! 電話しちゃだめなの? あいつらに売るなよボケカスコラアって」
甲斐がなんとなくだが話を理解したらしく、口を開いた。
「( デンワ……?今時のガキは意味不明な言葉を使うな……)そう言ってはいやめます、と返す相手なら最初からやらないだろう。頭が悪いのは顔だけにしろ」
「頭が悪い顔してます!? あたし!?」
シェアトが吹き出しそうな口元を手で覆った。
シルキーがそれに気が付いて少し気を良くしたらしく、話を続ける。
「それに、SODOMはそいつらからそれだけ良い金貰ってるだろうしな。弱小兵器開発会社ならそれこそ客の安全性を審査するさ。反政府勢力にモノを流した事が分かれば一発でアウト、首が飛ぶ。経営停止じゃすまないぞ?従業員だって全員実名報道だ。そんな爆弾を抱えて転がせるのはSODOM位だ」
「( デンワってなんだ……?なんかエロいヤツの事か……?)でも反政府勢力へ武器を流し続けられては俺達の仕事が忙しくなるだけですよね……。一つ壊滅したって、氷山の一角でしょうし。いたちごっこか……」
SODOMの代表がエルガというだけあって、そう簡単に足元は崩されないようだ。
厄介な事に世界を守るという大義名分を背負っているはずの防衛機関さえ、兵器はSODOMに開発を依頼しているらしい。
守るためには力がいる。
それは人だけに限らないようだ。
× × × × ×
「あれ、なんだ。昨日の反省会でもしてるの?僕だけ仲間外れとは酷いな」
風呂上がり、といった出で立ちでネオが現れた。
髪は濡れたままで、肩にかけた白いタオルに滴が落ちている。
ストライプのシャツを羽織っただけでボタンを留めていないので、細く見えていたがうっすらと割れた腹筋が見える。
黒いスウェットのポケットからヘアピンを取り出して顔に垂れている長い前髪を横に留めた。
「SODOMについて話してたんだよ、こいつら何も分かっていないみたいだからね」
「ああ……、それで?壊滅作戦は順調かな?」
ネオが甲斐とシェアトに笑いかけたが、甲斐は机にでろりと突っ伏して潰れた声を出す。
「よく分かんないけど、ソドムが強すぎて無理って感じみたい。流石エルガというかなんというか……」
何の気無しに口にした名前が、三人の顔色を変えた。
それぞれが違う意味で、シェアトは眉だけを動かして下を向いてしまったし、ネオは小首を傾げて不思議そうに甲斐を見ていた。
一人目を輝かせて、珍しく甲斐に好意的な表情をしているのはシルキーだ。
「そういえばお前、あの狐と会った時から反応してたよね。 どう見ても奴隷が世話になった主人に対して馴れ馴れしく呼びかけたようにしか見えなかったけど!あっはは、どういう関係なんだ?言えよ!」
頬杖を両手でついて、可愛らしい笑顔を向けるシルキーの口から飛び出すのは暴言ばかりだ。
甲斐が机からちらりと目だけを上げてシルキーを指さす。
「行けっあたしの先祖! この失礼極まりない先輩の喉笛を掻き切ってこい!」
指を掴んで曲げようとするシルキーの手を止めたのはネオだった。
「ん? シャーマンかな? 僕がヴァルちゃんに解体されかけている間に面白そうな事してたんだね。それで、カイちゃんはSODOMの最高責任者とどういうご関係なの?僕も気になるな」
「学校が一緒だっただけだ。それ以上でもそれ以下でもねえよ。なあ、カイ。そもそも組み分けだって違ぇし」
シェアトが割り込み、話を一刀両断すると甲斐に強く同意を求めた。
珍しく甲斐が気圧され、適当に頷くとシルキーはつまらなそうに指の骨を鳴らした。
「なんだ、ただの一方的な顔見知りか。気を付けてね、そういうのってイマドキうるさいから。ストーカーとかするならここ退職してからにしてくれない?」
「シルキー……、君はもう少しコミュニケーション能力を養った方がいいよ。まったく……カイちゃんも気にしないでいいからね。でも、カイちゃんと学校が同じって……そんなに若いんだ。会ってみたかったな」
「……おい、ネオ。この僕がそう簡単に引き下がると思うか?わざわざ無駄足踏まされて、立場をわきまえろと暗に言われてすごすご帰って来るなんて……思い出しても死なない程度に痛めつけたまま牢獄に放置してやりたいんだ」
そう言ったシルキーの目は全く笑っていなかった。
「……じゃあ、どうするの?中尉からも手を引くように言われたんでしょ?」
ネオは困ったように笑う。
戦闘中でなければネオは冷静だ。
「なんでも上の言う事を鵜呑みにしてちゃあ、僕のようにリーダーまで上がれないよ? いいの? ……動かざるを得ない何かを掴んで、絶対にあの巣穴から引きずり出して駆除してやる」
「シルキーさんの標的があたしじゃなくソドムに向いて良かった……。もうそれしか言えない」
あまりにもぎらついた目をしているシルキーに恐れをなした甲斐がシェアトに耳打ちをすると、またも聞こえてしまったようだ。
「お前とSODOM、嫌いの数値からいくとどっこいどっこいだけど?」
「やだー、もー! ほんと社会って怖い! 学校なら合わない奴とは会話はおろか存在すら自分の中で消していられたのに!」
SODOMを、というよりも恥をかかせたエルガをどうにかしてやらないと腹の虫が治まらないらしい。
ネオはとても面白い物を見るように笑っていた。




