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空が一円の蒼が広がるファンタジーアイランドの空を、ぼんやりと眺め、時折ため息を吐く一人のゲームプレイヤーが大きな石にもたれかかっていた。
プレイヤーの名前はミライ、現実世界では難波 未来と言う名前だった。
ミライは現実世界では二十歳の時、貿易商を営んでいた父の急死により若くして社長の座に着いていた。
某有名大学の経済学部に進学していたミライは、父から受け継いだ会社を守ろうと、それこそ会社の為に働いた五年間、今では一部上場になるまで成長していた。
ゲームに全くやってこなかったミライがこの世界に入り込んだのは、父の友人でもあった大手ゲーム会社の社長から、あるゲームのモニタリングを頼まれたからだった。
再三、断わりを入れていたがゲーム会社の社長がどうしてもと頼んできて、何より仕事上、広い分野での会社同士での友好関係なので断ることもできないと思い、ミライは渋々了承した。
ミライはゲームなど小学生の時以来だったので、少し興味があり、運営開始時間と共に『ファンタジーアイランドストーリー』に入っていた。
ゲーム開始当初は初めての経験続きだったので、楽しかった。
タンクは前衛で戦い、敵の注意を引きつけ、魔術師系統や弓使いなどの職業がタンクの補助、そして最後方からヒーラーが状況に応じて傷ついた味方の回復、いわば戦闘スタイルや職業に応じての戦闘など様々な事を初心者歓迎のパーティに入れてもらい教わった。
全く知らないメンバー同士ではあったが、同じ目的のために供になって戦うことに楽しみを覚えていた。
しかし、いわゆるお楽しみの時間は長くは続かなかった。
『scarecrow』のお知らせで事態は急変した。
チームのメンバー達は『永遠の眠り』と言う言葉に脅え、ゲームに慣れたチームへと流れていった。
今ではミライが仲間だと言えるメンバーは一人だけになっていった。
しかし、問題はそれだけではなかった。
プレイヤーに最初に与えられた所持金は20万ベルだったが、三日経った現在、防具や武器、そしてご飯などを買ったりして、遂に所持金が半分になっていた。
防具などは買わなくても生き残れるが、問題は御飯代だった。
五感をこの世界と同調している為、腹が減ってきたらHPも減っていく。
毎日の食事代が所持金を減らしていた。
このままいけばお金が無くなり、食事代が買えなくなってしまう。
(どうしようか、この先・・・)
そんな事を考えている時、遠くからミライに向かって走ってくる人影が見えた。
「はあ、はあ・・・、こんな所にいたのかい?ずいぶん探したんだよ」
「ずいぶん息を切らせてどうしたんだよ、おっちゃん?」
ミライに話しかけたこの男性のプレイヤーネームはイマミヤと言う名前だった。
ゲームの外見、そして現実世界でもミライより一回り上の年齢と聞かされていて、ミライはおっちゃんといっていた。
イマミヤもミライと同じゲーム初心者であった。
そもそも、このゲームをした理由も息子と一緒にするはずだったのだが、その息子が運営開始に風邪をこじらせてしまい、一足先にゲームをやって、強い自分を息子に見せたかったからだった。
そしてログアウトできない事になって、どうしようか悩んでいる時にミライと出会い、今では一緒に行動していた。
「ほら、これを見てごらんよ」
満面の笑みを見せるイマミヤの手には、4つほどの黒い石があった。
「確か黒曜石だっけ、それがどうしたの?」
「黒曜石って街で売っているところないよね?これを売ったら結構な額になるんじゃないかなって、場所もばっちり覚えてきたよ」
そんなうまくいくはずがないと思い、イマミヤの能天気な笑顔にミライは溜め息が出そうになる。
しかし黒曜石の売値も分からないのも事実だった。
「じゃあ、いったん街に戻ってみるか。俺もまた転職しようと思ってたし」
「また転職するの、これで四度目だよね?」
「・・・しょうがないじゃん、合わないんだから」
最初は、前衛職、次は魔導士。
ミライは何だかしっくりこなくて辞めてしまっていた。
そして、今なっているヒーラーも仲間が一人しかいないので意味がなかった。
「とにかく、街に戻ってみようか?」
「そうだね」
その言葉を発した後、ミライとイマミヤは街へと足を進めた。