8.ゲーム、スタート
『この僕が、君たちを選んだんだ』
宮本じゃない。
これは。今、目の前にある、宮本歩夢という身体に入っている中身は。
感覚で分かる。雰囲気で分かる。声で分かる。
絶対、宮本じゃない。
「お前、誰だ?」
『おややぁ。気付くの早いね。んー、プラスニ点?』
プラスニ点。
発せられる不思議な数字の点数。
「……は?」
『僕は、この世界に生を受けた人間に次々と点数を付けている。ま、君たちには特に関係はないから安心しなよ。ただの、僕の趣味だから』
「趣味、って」
『あ、邪魔しないでね』
にこりと黒く微笑む、その姿。
全てが見透かされたような奇怪な気持ちになる。
『後、口出しも一切無用。守れなかったら君たちもそれを聞いた人間も消すから。その点だけはよろしく』
意味あり気に微笑むこいつは一体……。
「お前はなんなんだ?」
柊が、強気な声で姿に尋ねる。
それに対し、ほくそ笑む宮本の身体の中にいるナニカ。
『僕? そうだね~、大まかに言えば魂だよ。でも、ある世界で、ホオズキと呼ばれていたっけね』
「ほお、ずき……?」
「ホオズキって、植物のか?」
“ホオズキ”……花言葉、心の平安・不思議・半信半疑・いつわり。
偽りで隠した見抜けない真実。
『そーそー。んー、その小さい方はマイナス十点、黒髪の方はプラス三点だね』
佐藤と柊にも点数を付ける。
プラスに比べてマイナスの数字配分が大きい。
『でも一つだけ。君たちだけに設けたボーナスポイントのチャンスがあるんだよね。僕とゲームをして、楽しませてよ』
にこり、と笑顔を作る。
目が笑っていない、口元だけの微笑み。
『そうしたら、君たちを手厚く可愛がってあげる』
「ふざけんなっ。なんで俺らがお前なんかとゲームしなきゃなんねーんだよ!」
『なぜ? 理由が知りたいの?』
下に見下ろしたように理由を焦らす。
『そんなの……暇だからに決まっているでしょ』
「なっ!?」
『ゲームは簡単。でも、ただのじゃつまらないから、僕のオリジナルゲームね。内容、開始時間、終了時間はこっちで勝手に決めさせてもらうよ』
「……いい、だろう」
ずっと黙っていた佐久間が声を発する。
向こうの条件に、応じた。
『うん。物分りのいい正しい選択だ。プラス一点』
「佐久間……」
「逆らったら、嫌な予感がする。だからゲームに参加してやっただけだ」
「でもどうなるか……」
『さぁ、参加するのは宮本と佐久間だけかな?』
勝手に決めてくるホオズキに柊が刃向う。
「歩夢はなにも言ってないだろ! 勝手に身体を操りやがって」
『この子は、強制参加なんだよ。ルールでね』
『君は……参加するのかな?』
柊の顎下へ人差し指を持っていき、俯く顔を上げさせる。
ホオズキと目が合ったのだろう。
勢いよく顔を逸らす。
「ちっ。俺も、参加する」
舌打ちをしながらも、柊は参戦。
予想通りと言いたげなホオズキの顔を睨む。
『ささ、残りはどうするの? 参加したくないなら、しないでいいよ。自由参加なんだから』
『その変わり、この三人が君たちの分も苦しむけどね』
今から俺の言う言葉を知っているかのように手を大きく開ける。
「俺も……参加する」
「わたしも」
『うん、みんなプラス一点』
結局は全員参加。
初めからこうなることが分かっていたように満足そうなホオズキ。
『では、ゲームスタートとするか』
親指と中指を擦らせ、パチンッと甲高い音を鳴らす。
――――――ゲーム、スタート。
「あれ? わたし……」
操られていた“宮本歩夢”が目を覚ます。
「ホオズキって奴が出てきて……」
「もう!?」
「……もぅ、って?」
「え、いや、なんでもない」
白々しく目を逸らす。
「そんなことより、ゲームの内容ってなんだ?」
聞こえてたのは一番初めにゲームに参加すると答えた彼の声。
「――え?」
「佐久間が自ら話すなんて、初めてだな」
「佐久間? なに言ってんだ。俺は柊だぞ」
「――は?」
自分は柊だと主張する佐久間。
探し見つけて数か月。出会って数日。
柊も佐久間も、嘘をつくような奴じゃないことは分かる。
俺は柊だと主張する佐久間に対し、柊自身は声を一言も発していない。
「……柊」
柊の方を向いて、名前を呼んでみる。
「なんだよ。そして俺はこっちだ」
佐久間が返事をした。
「……佐久間、君?」
佐藤が佐久間に声をかける。
「……ん」
返事をしたのは、柊。
これは、まさかもしかしなくても人格が入れ替わっているのだろうか。
これが、ホオズキの言っていたゲーム……?
「ゲームの内容、“人格入れ替わり”」
宮本の声。
落ち着いた雰囲気で場を沈ませる。
「変わる人数、変わっている間の時間は全てランダム」
落ち着いた……雰囲気?
いや、違う。
これは、ここに誘われた時にも感じた、背筋が凍る冷徹な雰囲気だ。
「そして、このゲームの終了条件はホオズキを楽しませること」
「……楽しませる?」
「歩夢……?」
「え。ぁ、頭の中に急にこの情報が流れてきたんだっ!」
焦ったようにいつもの明るい声に戻る。
……でも、なんとなく分かる。
宮本がおかしい。
「ごめんね、なんか雰囲気悪いね」
「ううん、大丈夫だよっ!」
「無理しなくていいよ、ごめん……。わたし、今日は帰るね」
急いで訂正する佐藤と目も合わせず、いそいそと片付けをし、逃げるようにして去る宮本。
残された、現状の理解していない四人。
うち、人格が変わった二人。
得体も知らないホオズキを楽しませる、そんなのどうやって……。