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5.偶然と必然

 夢で何度も話したことはある。

 現実でも見かけたことはある。 

 でも、佐藤さん側が俺を認識してくれたのは一昨日の自己紹介時。

 一昨日の今日なんだから当たり前だが、初めてだ。

 佐藤さんが俺に話しかけてくるなんて。

「どうかしたのか?」

「ぁ、あのね……一昨日の、話なんだけど」

「あぁ。宮本さんの?」

 こくこく、と頷く佐藤さん。

 リス系の小動物を見ているようだ。

「わたしなりにいろいろ考えたんだけどね。やっぱり、どうしたらいいか分からなくて」

「どうしたら、って……。佐藤さんの、好きなようにすればいいんじゃないか?」

「宮本さんは明るくて、笑顔が温かくて、可愛くて素敵な人……。わたし、宮本さんが友達になろうって誘ってくれたの、嬉しかった」

 それは……俺も、嬉しかった。

 宮本さんのような元気で明るい人と友達になれたら、きっと学校生活は今までとは比にならないくらい楽しくなるだろう、と思う。

「でも――――」

「そんなとこで突っ立って、なに喋ってんの?」

 佐藤さんの向こうから聞こえる、女子にしては少し低めのアルト声。

 漆黒で艶のあるストレートの黒髪が、今日は少し飛んでいる。

「邪魔」

「ぁ、すまん」

 気付けば、下駄箱前で話をしていた。

 邪魔といえば邪魔だろう。

「……柊さん……」

「……んだよ」

 話しかければ、イライラしている声が返ってくる。

 柊さんも低血圧なのだろうか。

 話しかけたはいいが、盛り上がりそうな会話が思い浮かばない。


 こういう時、宮本さんならなにを話題とする……?

 なにを、なにを……?

「き、今日は穂先が少し飛んでるんだな」

 我ながら苦しい切り出しだ。

 見たり挨拶だけなら何回もしたが会話を持ちかけるなんて、高校に入って初めての試みだ。

「……変な夢の所為で、寝不足なんだよ」

 “夢”。

 夢というキーワードに胸のざわめきを覚えつつ、冷静に聞き返す。

「変な夢って?」

「なんつーか、一昨日のメンバーがいて……」

「わ、わたしも見たよ! みんなの夢! 偶然だねっ!」

 成り立った話題を破させまいと必死に繋げる佐藤さん。

 いや……。これは、偶然か?

 俺が毎日見ている夢が、柊さんと佐藤さんにも見えていた。

 俺の考えが合っていれば、おそらく宮本さんと佐久間も見ている。

 それを疑問に思って、宮本さんは俺たちを集めたのか。それなら合点がいく。

 こんなことが、普通の人間に起こることなのか。

 一定の人が、同じ夢を見る。

 必然とは思わないが、偶然とも考えにくい。

「海上君? 教室行かないの?」

「ん、あぁ……行く」

 柊さんと佐藤さんが、各教室に行ったのを見届けてから、俺も自分の教室に入っていった。

   ***

 放課後。

 バイトもあるので、今日は早く帰りたい。

 なのに、何故だろう。

 足が勝手に、特別教棟四階の空き部屋に向かう。

 なにか気になる。

 なにかが頭の端っこで引っかかっている。

 なにか。なにか。

 なにかって……なに?


 ・もう一度、会って話がしてみたいから?


 ・奇妙な夢の手掛かりになるかもしれないから?


 ・それとも――――……。


 頭の中で考えていることがごちゃごちゃになりつつも、足はあの場に進む。

 そして俺は、あの空き部屋のドアを開けてしまった。











 ――――――それとも、あの人たちと友達になりたいから?

   ***

 ガチャリ。

 数日前までは開かずの間とされていたドアが簡単に開く。

「……海上」

「え?」

 宮本さんが待っているであろうと思った。

 “友達になって”。普通の人間なら即OKを出すところだろう。

 しかし俺にはできなかった。

 返事が遅れた申し訳なさから下を向いていたが、ドアを開けて聞こえたのは柊さんの声。

 顔を上げると、柊さんの他に佐藤さん、佐久間がいた。

 待っていると言っていた宮本さんももちろん。

「なん、で……?」

「……足が勝手に、な」

 頬に少し赤みを帯びた柊さんが、不貞腐れたように頭をガシガシと掻く。

 友達なんかいらないと言っていた自分が今ここにいるのが恥ずかしいのだろう。

 俺と同じ……。

「その、な。みんな、海上と同じ考え……だ」

「気になって気になって、来ちゃったんだよ!」

 柊さんの後ろからひょこ、と佐藤さんが顔を覗かせる。

「宮本さんに友達になってって言われて実は嬉しかったんでしょ?」

 柊さんの足りない言葉を佐藤さんが補う。

 図星を突かれたであろう柊さんは効果音が出そうなほど顔を赤くした。

 一見、正反対に思う二人の関係は、案外いいコンビかもしれない。

 端で、椅子に座って頬杖をついている佐久間に声をかける。

「佐久間も、来てくれてたんだな」

「……なんだ、悪いのか?」

 視線だけをこちらに向かせ、俺のそれと合う。

 ここにいるのが不思議そうな、そんな瞳をしていた。

「いんや、全然」

「言っとくが、俺が気になったから来ただけ。誰のためでもないから」

 言い訳が微笑ましく感じる。

「そうか」

 佐久間から視線を外し、机越しにいた宮本さんを横目で見る。

 目が合うと、口パクである言葉を伝えてきた。

 ――――ありがとう、待っててよかった。


 “ありがとう”はこちらの台詞なのに。

 ああ、本当……。

 宮本さんが、待っててくれてよかった。

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