表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の世界  作者: 架空線
4/4

カエル

ばいばいの続き

おじいさんと、ともに家へと戻った。

まだまだ今日は長いのだな、昼までも十二分に時間はある。

いつもなら、いまごろ。

淡々と歩くおじいさんの後ろをただ、歩き続ける。

いい、運動になる。汗が頬を伝うのが分かる。

風が涼しくて、気持ちいい。

思えば、あの女とあいつは、拾いに来るのだろうか。

だとすれば、あの場所から動かない方がよかったのかもしれない。

でも、それは現実的ではないな。

そもそも夜が明けても回収できないような場所に飛ばす時点でおかしい。

おそらく、目標と違う場所に飛ばされたのだろうな。

しかしまあ、別にそれはよかったのかもしれない。

生きているしな、こういうのも変だが。

どうしてくれよう、あの二人。

転送装置のことを世の中に流してやろうか。

・・・信じてもらえるか?

暴力なんてしようもないし、そんな気もない。

でもあんなやつらを野放しにしていいのだろうか。

口止めに殺されたりしないだろうか。こういうのも変だが。

どう、死ぬかか。

最近はそんなことばかり考えてる。

考えると救われるのだ。

今、ここにいると、なんだか自分が別の人間のように思える。

きっと、いつもと何もかもが違うからだろうな。

おじいさんが立ち止り、しゃがんで、なにやら見ている、

どうしたんですか?

顎で指された先を見ていると、カエルが一匹、いやその上に小さいカエル

が乗っている。

カエルですか?、野生のカエル、初めて見ました。

初めて?すごいなそれは。都会じゃ珍しいのかな。

珍しいですよ、いや、でもきっと、居るとこにはいるんでしょうけど。

カエルも見たことないなんて、世間知らずなんだねぇ。都会の子は。

カエルの世間ですか?そう言って笑ってしまった。

カエルも、君に繋がっているんだよ。そういうことに気付く機会が、

ないんだろうけど。

カエルがですか?

そう、まあカエルに限らず、そこらのものから遠くのものまで、

繋がっている。嫌だな、年寄り臭いこと言ってるね。

親子ですかね?

きっとね。

カエルの上にカエルが乗るのは、子作りの場合もあるらしいけどね。

へー。

勉強になったかな?カエルの世間について。

そうですね。と微笑んだ。

しばらく歩き、茶畑が横目に歩くころ。

でも、

おじいさんは言う。

年を取ったからか、前では感じられなかったことを感じられるようになったよ。僕はね。

自然なこと、なんだろうね。

感じられたことを感じられなくなる、鈍くなる。

それもその通りだと思う。

不幸なこともあるし、幸せなこともある。

なんて言えばいいのだろう。

わからなくなってしまったなあ。

そういって頭を掻いた。

なにか、伝えたいことは分かったけれど。

家に帰ると、おじいさんは畑に出ていくという。

なにか手伝いますか?と聞いたが、

悩んだあと、下手に手伝ってもらうより、手伝ってもらわない方がいいかな。と言われた。

これからの作業前の水分補給だろうか、麦茶をごくごくと飲み、言う。

今は一応年金もあるし、以前ほど広くないからね。

それに、

そう言って、いやなんでもないよ。と言う。

君は、なんだろう、好きにしてていいよ。テレビ見てたって、漫画読んでたって。

作業は午前には終わるから、そしたら暇つぶしに出かけよう。

そう言って、玄関から出て行った。

おばあさんは既に畑に出ていたようで、遠くでもぞもぞとなにやら動いているのが見える。

なんだか、寂しいものだな。

人の家をうろうろと物色するようにうろつきたくもない。失礼にすぎる。

外は明るく、家の中は逆に薄暗く感じる。

テレビをつけてみると、チャンネル数が明らかに少なく、またやはり自分にとって面白いと感じるような

ものはやってない。

なんだろうな、この匂い、この家の匂い。

あの科学者の家の匂い。

自分の家の匂い。

ソファーに座って見ると、あの女の家のやわらかすぎるソファーを思い出す。

あれは、やわらかかったけど、これくらいの方がいいな。

ムニムニと押してみる。

思い切って寝転がり、畑仕事をしているのを見る。

なにに水をやっているんだろう、気になる。

でも、ここにいよう。

目に手をかぶせる。

少し、疲れた。そう、疲れてる。

色々と、急に起こりすぎだ。

救われてる?冗談だろ。

冗談、なにを持って?なにをもって生きている?

俺と言う人間。

まともな人間。

やさしいと思ってた人間。

ばかばかしい。

もう、大切なものも、大事なものもなくしてしまった。

こんなにも興味をなくしたのはなぜだろう。

こんなにも、こんなにも些末なのはなぜだろう。

ひどくこわい、ひどくこわい、ひどくこわい。

ひどく、ひどくひどく気持ち悪い。

ぶつぶつと、ぶつぶつと、嫌なものが、嫌なものが

はびこっている、じりじりとうごめいている。


ほら、わきあがってきた。トイレに駆け込んで、ああ、ここ

便所くせぇな。



食器棚の隣には小さな本棚があって、有名な長い長い漫画が1巻からずーっとならんでいる。

最後の巻は最新刊なのかさえわからない。

それらから適当な巻を取って、じっくりと読んでみると、

気付けば、正午が近かった。

ガララと音がして、玄関が開いたようだ。

おじいさんとおばあさんは同時に帰ってきてキャベツとニラを持ってきていた。

おばあさんがそれらを料理して、一風変わったものを昼食に出してくれた。

恐らく、料理に使う調味料からしてなにか食べたとこのない独特な感じがするが、やっぱ新鮮なんだな、味も食感も香りも違う気がする。


ああ、無理だな、と思ったら大体それから食べないが、礼儀以前にすべて食べて見せたいという気持ちが

この二人には感じたが、食べ進めていくうちにあれ、いけるなと思う。

不思議なもんだな。そんなものなのかもしれない。これからは少し無理して2口3口と食べてみようか。

別に、この先長く生きるわけでもないのだけど。

昼食を食べているときに、どこに行くつもりなんですか?と聞くと

山の方に行くとのことだった。

山登りくらいしたことあるよな?

学校の行事ではあります。

そうだよな。よかった。カエルも見たことないって言うものだから、心配になっちゃったよ。

カエルも見たことないの!とおばあさんが驚いたが、

見たことありますって、と言うと、

ついさっきなとおじいさんが言い、

ついさっき!それはよかったねぇ。

気持ち悪かった?

そんなことなかったです。

私は、気持ち悪いと思う。

妙にはっきりと丁寧に言うもんだから、笑ってしまう。

私いまだにだめだもの、目といい、皮膚といい、のどが膨らむところといい。だめ。

でも、いっぱいいるのよ、このへん。

じゃあ、最悪ですね。

そう、最悪。

この年になっても、この見た目でも、最悪の言い方が自分たちと似たようなもので、

少し、衝撃的だ。

さして、変わらないのかも知れない。

それは、いいことなのか。

ある意味絶望的かもしれない。

カエルとおばあさんは繋がっていると、思います?

私とカエルが?なんのつながりもないでしょ。あったとしても、それはいらないわ。

おじいさんは繋がっているって言うんですよ。

繋がっているの?

おじいさんは何も言わずに食器を持ち、台所へと逃げて行った。



お前さあ、あれはない。

何がです?

山へと向かう車中、おじいさんは言った。

・・・何でもない。

でも、

・・・でも?

女に言っても無駄なことってあると思うんだな。

そうですか、苦笑する。

わりとたくさんあるんだよ。

そういっておじいさんも苦笑した。

畦道をのろのろと歩きながら、おじいさんはカエルの歌を歌った。

律儀に歌詞を覚えているらしい。

一番を歌い終わると、お前も歌えと強要してきた。

嫌ですって。

かーえーるーのーうーたーがー

輪唱したことないのか?

だからそれくらいありますって、

カエルの歌だろ?それ。

そうです。

カエルも見たことないくせに?

カエルも見たことなくても、いいじゃないですか。

野生のアイアイなんて見たことあります?

ない。

かーえーるーのーうーたーがー

やれやれ、

かーえーるーのーうーたーがー


誰の姿も見えないが、カエルにはカエルの歌が聞こえただろう。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ