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僕の世界  作者: 架空線
3/4

ばいばい

お母さんが迎えに来ることになったから。

そうおじいさんが言う。

そうですか。

と言っても、どれくらいかかるかは分からないけど。

はい。すいませんがそれまでここに居ていいですか?

それは構わないよ。おかあさんは近くまで来たらまたここに連絡されるそうだから。

そうですか。ありがとうございます。助かります。

(助かる?何に?)

自分に嫌気が差す。

まあ落ち着かないと思うけど、ゆっくりしていきなよ。

すいません。

優しい言葉だが、なんだか人生に疲れ切った人に言うみたいに言われた。

まあとりあえずそこらで座ってなよ、ご飯も食べるだろう?

ご飯、そういえば腹が減っていることに気付く。

どれくらいの間食事をしていないのだろう・・・

のども急に乾いた。

お水もいただけますか?と言うと。

あははは、いいよ好きなだけ飲んで。とおじいさんは笑った。


テレビが置いてある近くにテーブルがあり、座布団があるその後ろにはソファーもあるが、

座布団に胡坐をかくように座りテレビを見る、と言っても何もついていないが。

木のテーブルにレースのような、なんといえばわからないが。樹脂の白いテーブルクロスが乗っている。

それを手で触る、でこぼこしている。

母が来るのか。嫌だな。誰が来ようと嫌なのだが、これから起こるであろう面倒なことを考えると億劫に

なる。

仕事は休むのだろうか、嫌だな。より面倒なことになりそうで。

考えまいとするが、考えまいとするほど頭にこびりついてくる。

テレビをつけるのもなんだか身勝手な気がする、気にしすぎなのかもしれないが。

縁側に移動して腰かける。

日は先ほどより上がって、朝の匂いが強まってきている。

生垣の中に小さな白い花がいくつも咲いている。

手を床に触れさせると、ザラザラとした感触がした、雨のせいだろうか。

先の方がザラザラとしていて、内の方はザラザラしていないことに気付く。

お腹減っている?と背後から声をかけられる。

すいません、減っています。こんな真顔でお腹が減っていると見知らぬ人に

言うことになるとは。

じゃあ、用意するね。笑って言う。


どうしたって格好つかないよな。

じきにこの子のお父さんお母さんも起きてきて、もしかしたらあの女の子の兄弟とかも居て、

騒がしくなるかもしれない。

そうしたらどうしよう、一人場違いというか、浮くな、仕方のないことだが、

自分からおはようございますと言い、あーだこーだと自分のことを説明するのも変だ。

かといって、、ここにぽつんといても不気味だろう。

おじいさんに説明してもらうのもどうだろうか、どうも、何々と言います、今日しばらくの間お世話になります。とでも言おうか・・・うーん。

そんなことは杞憂だった。


食事に呼ばれると、この家は3人暮らしなのだと知った。

こんなふうに、老人と小さな子供と食事をした覚えはない。

いただきます!と幼女がやたら大きな声で言い、おじいさんとおばあさんがそれに続く。

ぼくも頂きますと途中からかぶせるように言った。

幼女はテレビをつける、箸をやたら根本で持っているが器用に使う。

おじいさんはただ食事に集中しているように見えるが、たまに箸を止めて、テレビを眺めた。

おばあさんは正座で食べている。時折こちらを見ているのを目の端で察知した。

それぞれがはしを動かし、食事は進む。

ありふれた光景なのだが、やけに、やけに・・・。

おにいちゃん、だれなの?

僕は名前と年齢を伝えた。なぜこうして食卓を一緒に囲んでいるのかを

理解できるか、あどけない顔に逡巡すると、私はねーと名前と年齢、どこの保育園に通っているかを

教えてくれた。

そうなんだ。

そう!

そういうと食器を持って台所へ走って行った。

こんな近距離でも走り、きちんと台所へ食器を置く姿はなんだか可笑しかった。


食べなれない味ですべてを食べるのはつらかったが、食べきった。

ごちそうさまでした、美味しかったです。というと

そーよかったわーとおばあさんは笑って言った。

なんだか可笑しくて、しかたなかったが、顔には出さすに食器を台所へ持っていき、洗う。


おばあさんはいいのよまとめて洗うからと、後ろから声を掛けるが、

自分の分だけでも洗っておきますと水音に消されぬよう大きな声で返した。

最早癖だな、そう思う。

食器を洗い終えると、手持ちぶさたになった。

また縁側に座る、初めての縁側はいたく気に入った。


青空に雲がぽつんぽつんと降っている。

じーっと見ると、ゆっくりゆっくり流れている。

暇だろう、振り返るとおじいさんが女の子を連れて保育園に送るのでついてこないかということだった。

僕はうなずき玄関へ出ると、女の子は保育園の制服だろうか、なんだかお人形さんみたいになっていた。

正直、こんなところに保育園というものがあるんだなと思ったが、どうやら歩いていくようだった。

山に沿うように流れる車道と段上になっている茶畑に挟まれる道を下りていく、キラキラと太陽の光を反射し、風に揺らいでいる。

そのまま下りていくと、車道に沿う道を離れて、小道に入っていく。

家の合間の小道を抜けると田んぼが広がる。

碁盤の目のようにつながっているあぜ道を3人歩いていく。

草の匂いが強くなってじゅて、土と草を踏みしめる音が響く。

風が強い、田んぼが広がっているからか、山から下りてくるのか。

女の子の帽子は時折飛ばされそうになって、斜めになる。

それをかぶり直していることに気付いたおじいさんは、

帽子はしまっとけって言ってるだろう、飛ばされちゃうから。

と言うが、

いいの!と女の子は一蹴する。

いつもしまっているのに、なんで今日はしまわないかなぁ。

今日はそんな気分じゃないの!

僕はこの年でもなんだかひどく女の子だなぁと腑に落ちて笑った。

先にある家々が少しづつはっきりとしてくる。

やっぱり、こどもって少ないですか? そう大きな声で聞く、風にかき消されぬように。

昔に比べればね、自然と声は大きくなる。

本当に少なくなったと思うよ。

住宅の数はねむしろ増えてるけどね。

増えているんですか?

新しく、こっちに来ている人たちはわりと多いんだ。

でも、都会の方で住んでいた、こどもを養ってない中年以上の人たちが多いから。

若い人たちはそれほど増えていないかな。

なるほど。

農家の人のとこは、出戻ってきたりしてるみたいだけど、そもそも仕事がないからね。

まあ、農作業はわりかし人手不足だけど。そんなに賃金よくないから。

空き家も多いから、家賃は安く済むけどねぇ。

もちろん若い人でも、自分で仕事を作れる、作る人っていうのは居るけどね。

大変なんですね。

大変っていうか、どこも田舎はそんなもんじゃないかなぁ。そういう時代なんだと思うよ。


あぜ道が終わると急にアスファルトになる、なんだか変なの。

アスファルトの小道を上ると車道を挟むようにぽつぽつと家が見える。商店のようなものや食堂も見えた。


横断歩道などない、左を見ても、右を見ても、一つもない。

しかし車の通りもない、何の迷いもなく、車道をつっきり、住宅地の中に入っていく。

住宅街と言うには、全然密集していない。家はあるが空地も多く、倉庫のようなものも多くある。

どれも開け放たれている。

ヤシの木が植えてあったが、土地的にここの気候とは合わなそうだが、地元にもヤシの木を植えている

家があった。暖かい気候でもないのに、なぜヤシを植えたがるのか。

寒い時期のヤシは物言わぬがいかにも寒そうで、葉を落としたそこらの木よりもよほど陰鬱な気分が

漂っているのだ。


整備はされているが、アスファルトなど敷いてなく、クリーム色の土を踏みしめる。

道は広く、風は変わらず強い、土煙が遠くに薄く見える。

時折特に強い風が吹き、体に砂粒があたる。

十字路に差し掛かり、横道を見ると、先の方には現代風の目の慣れた家々も立ち並んでいる。

真っ直ぐすすんで行くと、保育園が見えてきた。

古めかしく、外壁はひび割れている。

下の方はコンクリートのレンガが積まれていて、ところどころ黒くすすけているけれど、ところどころ

白く掠れていて元の色はなんだかよくわからない。淡くピンクがかった外壁との境目から

苔のようなものが少し垂れ下がるように生えている。

園の入り口に黒い鉄格子があけ開かれていて、ところどころ剥がれ落ちて、鉄の地肌が見えている。

すぐそばには女の先生、保母さんが居て、20代後半くらいだろうか。

やけに若く見えるのは、この園の見た目のせいだろうか。

~先生おはよ!と女の子はかけていき、先生を抱きしめに行った。

保母さんも、~ちゃんおはようございます。と言って、

抱きしめてくる女の子を抱え上げた。

それはとてもパワフルで、幸せな光景なのだと思った。

おじいさんと保母さんが挨拶をすると、こちらに目をやり、

お兄さんいらしたんですか?

今朝、家の近くの道路に落っこってたんだ。

えー、拾ったんですか。

拾われたの?とこちらを見て、子供に言うみたいにいう。

勘弁してほしかったが、

拉致されたんです。と返すと。

~さんだめですよ~。と言う

そのあともおじいさんと保母さんは何かしら会話していたが、この感じは何故か苛立つからか、

興味を失う。

女の子の名前とおじいさんの苗字がわかったな。と思った。

そういえば、表札に書いてあったな。

あの子は結局、おじいさんとおばあさんの子供ではないだろうな。

いくらなんでも年が離れすぎているし、親子の雰囲気とはやはり違う。

ま、詮索しても仕方のないことだ。

親が居れば幸せと言うわけでもない。おじいさんやおばあさんの方がいいことだってあるだろう。

そんなことをぼんやりと、考えていた。

また小さい子が母親に連れられてきて、おはようございますー。

と保母さんと挨拶し合っている。

女の子はどこに行ったのだろう、気付けば姿は見えなかった。

ばいばいを言いたかったような気もする。

恐らく、あの子の帰った時にはおれも連れて行かれているだろう。


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