第8話 ヒーロー
この物語は、足立未来高等学校に通う、栗原、五反野、牛田、垳、関屋の五人が繰り広げる、ほのぼの日常系・学園モノ小説である。(栗原シホ)
土曜日なので私は自宅でゆっくりしていた。
突然携帯電話が鳴った。どうやら牛田さんからの電話だ。
「もしもし」
「栗原さん!大至急北千住駅に来て!」
と牛田さんは一言言って、電話を切った。
どうして北千住?と思いながら私は出かけた。
急行で西新井から北千住まで行って、中央改札を出たところに牛田さんが待っていた。
「どうしたの牛田さん?」
と私が聞くと、牛田さんはこう答えた。
「ヒーローに会ったのよ」
続けて牛田さんはこう言った。
「実は先月の第四土曜日に偶然、千住の街中でヒーローに会ったのよ。毎月第四土曜日に活動するということを先月本人が言っていたから…」
「だから今日なのか」
と私。
「そう、あれから1ヶ月。栗原さんにもぜひ会って欲しいから呼んだの」
牛田さんはそう言って、早速駅を出た。
「どこにいたの?」
「先月はこの辺りにいたよ」
牛田さんに案内されたが、いなかった。
「本当にいたの?」
「確かに先月はいたよ!でもあちこち移動していると思うから、必ずいるという確証はない」
「じゃあどうしたら会えるの?」
「とにかく探すしかないよ!」
と牛田さんが答えた。
牛田さんはよく現れる場所として、北千住駅周辺や、牛田・京成関屋駅周辺や、千住大橋駅周辺や、千住龍田町地区、千住桜木地区の名前を出した。
とにかく探す範囲としては足立区の千住地区(南東北の境界は川、西は川と地区の境界線。つまり北東は荒川。南は隅田川と隅田川・荒川を結ぶ小川。西は隅田川と千住桜木二丁目・小台一丁目の境界線に囲まれた地域ということになる。)に絞った。
この千住地区の範囲はWikipediaの『千住』に準じている。
北千住駅から牛田駅まで歩いて行ったが、ヒーローの姿は見当たらない。
「もうすぐ12時だよ」
と私が言うと、牛田さんが言った。
「牛田駅の反対側出口付近にマクドナルドがあるよ」
「じゃあ行こう」
と、牛田駅近くのマクドナルドに入っていった。
「栗原さん、この前もチキンクリスプだったよね」
「牛田さんこそ、この前テリヤキマックだったじゃん」
京成関屋駅周辺にもいなかった。
「とりあえず、京成本線で千住大橋駅まで行きますか」
私がそう言うと、牛田さんは…
「アタイもそうしようと思っていたところ」
と同意した。
一駅なのですぐ着いた。
しかし千住大橋駅付近にもいなかった。
「千住地区の主要な駅はみんな行ったのに…」
「大丈夫だよ栗原さん。千住桜木方面があるじゃないか」
と牛田さんが言った。
ここからまた歩いていった私たちはヒーローを探していった。
牛田さんは通行人のお姉さんに尋ねた。
「こういう人見てませんか?」
と、ヒーローの写真を見せて言った。
「あぁ、この人なら一時間前に北千住駅の近くにいたよ」
「ありがとうございます」
「一時間前っていうと…」
「アタイたちが牛田駅近くのマクドナルドにいた時間帯だ」
「ああああー…」
ひとまずどうするか考える。
「とりあえず、千住桜木方面に行きますか」
「栗原さんがそう言うなら、アタイも行く」
と、私たちは千住桜木方面に向かった。
千住桜木地区に入ったが、ヒーローの姿は見当たらない。
「ヒーローはなかなか会えないもんだね」
牛田さんが言うと、私はこう言った。
「でもこの辺りにいることは間違いないでしょ」
「でも千住地区は広いんだけどね」
「探す範囲としては狭いほうだよ」
気がつけば西新井橋の近くにいた。
ここを渡ると足立区本木に入る。
「さすがにこの先にはいないかな?」
「アタイが言うまでもない」
「じゃあどこに行けば会えるのだろう?」
「あっ!」
牛田さんがあるところを指差した。見ると都営住宅がある方向から全身赤いスーツを着たヒーローが歩いてきたのだ。
右手にトングらしきものを持ち、左手にはビニール袋を持ち、背中にはリュックサックを背負っている。
一般的なヒーローのイメージとはちょっと違った。
早速牛田さんが駆け寄った。
「おぼえていますか?アタイ、1ヶ月前にあなたに一度会ったことがあるんですが…」
するとヒーローはこう言った。
「おぼえているぜ、あとキミにまだオレの名前を名乗っていなかったな」
私も牛田さんに追いついた。
「オレは足立区の美化と環境を守るため、はるばるやって来た愛の戦士。『足立クリーンマン』!」
「おぉ!ご当地ヒーローね」
私が言うと足立クリーンマンはこう言った。
「オレは郷土心が強いんだ。だからオレは足立区の美化に貢献しているんだ」
「地域のために活動するご当地ヒーロー。アタイこういうのスキ」
牛田さんはそう言った。
「ありがとう、ところでそこの子はキミの友達かい?」
と私のほうを見た。
「はい、そうです」
「はじめまして」
私は生でご当地ヒーローに会ったことがないので、ちょっと緊張気味だった。
「キミたちはオレのファン第1号と第2号だ」
「アタイが1号」
「じゃあ私が2号」
「そこでファン1号の携帯電話番号を教えて欲しいんだ」
突然足立クリーンマンに言われて、驚きを隠せない牛田さん。
「で…でも…」
牛田さんが言いかけた時、足立クリーンマンはこう言った。
「大丈夫、悪用なんかしないさ。オレがキミに電話して待ち合わせ場所を伝えれば、簡単にオレにあえるだろう?」
「確かに…」
「1号、ヒーローは嘘をつかないよ。だから足立クリーンマンを信じましょう」
私は牛田さんにそう言った。
「うんわかった。これがアタイの携帯の番号だよ」
と牛田さんはメモを渡した。
「じゃあオレはそろそろ行かなければならないから、これで失礼。また来月!」
「待っているよ!」
私たちは言った。
足立クリーンマンはリュックサックにトングとビニール袋を入れて、北千住駅方面へ走り去って行った。
北千住駅にて…
「じゃあまたね」
私はそう言って、東武動物公園方面のホームに降りていった。
牛田さんも浅草方面のホームに降りていった。
私は急行で西新井駅まで行った。
私は早速五反野さんと垳さんと関屋さんに電話した。
五反野さんと垳さんは「興味ない」と言っていた。
関屋さんは「どうして誘わなかったの?」と意外な返事が返ってきた。
寝る準備が大体終わって、私は風呂に入っていた。
突然、脱衣場に置いてある私の携帯が鳴った。相手は牛田さんだった。
「もしもし」
「もしもし栗原さん?今何しているの?」
「風呂入っていたところ」
「…ハァハァ、タオル巻いているかい?」
「…巻いていないよ」
「ひゃぁぁぁ!凄いの想像しちゃったから風呂上りにかけなおして!」
と、牛田さんは電話を切った。
風呂から上がった私は、牛田さんに電話した。
「何のよう?」
「いやー、来月から足立クリーンマンから電話がかかってくるとなるともうドキドキしちゃって…」
「そうだよね、相手はご当地ヒーローなんだからね」
「それに栗原さんのすっぽんぽんを想像しちゃって、鼻血だしちゃったよ」
「もーう、忘れてよ」
こうして私の一日が終わったのであった。




