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第7話 垳

挿絵(By みてみん)

 この物語は、足立未来高等学校に通う、栗原(くりはら)五反野(ごたんの)牛田(うしだ)(がけ)関屋(せきや)の五人が繰り広げる、ほのぼの日常系・学園モノ小説である。(栗原シホ)


 埼玉県八潮市、ウチはこの町に住んでいる。

近くには垳川が流れていて、この垳川の向う岸は東京都足立区だ。

他の友達と違って、ウチは足立区民ではない。

「今日は休日だし、ゆっくりしていようかな…」

ウチは部屋のベッドの上でボーっとしていた。

ウチは本を読むのがすき。だからいろんな作家さんの本が部屋の本棚にしまってある。

ふと、ある本のことを思い出した。ウチはその本を手に取った。

大月けん()ちさんが書いた『故郷大月』という本だ。

父が買った本で、幼いころに父からもらった。この本の後ろのほうのページには1987年7月18日発行と書かれている。

この本を書いた大月けんゐちさんは、2012年4月21日に亡くなってしまったが、父はその後ウチにこう言った。

『たとえ世間にあまり知られていない作家でも、同じ人間なんだ。大月さんが亡くなって悲しむ人も、必ずいるんだ』

父の言うことは正しいとウチは思った。

この『故郷大月』は大月さんが出した本の中で唯一、千冊以上売れた本で、約六千冊も売れたそうである。買った人のほとんどは大月市民だったそうだ。この本も含め、現在大月さんの本はすべて絶版となっている。出版元の笹子社が2011年6月11日に倒産してしまった為。

だからこの本は、貴重な存在。ウチはよくこの本の第1章を読む。

『今年の4月から聞きなれた国鉄から、聞きなれないJRに変わった。しかし昔とだいぶ変わってしまっても、故郷は故郷だ。』

『生まれも育ちも大月の町。稼ぐために東京さ行ったけれど、やっぱり故郷が一番。』

『苦しくなった時はいつでも故郷に戻ると良い。故郷はいつでも暖かく迎えてくれるはずだから。』

ウチはこの本を読むたびに、自分の故郷を思い出す。

…と言ってもここなんだけれど。

ウチが幼いころはまだ、つくばエクスプレスが未開通で田舎だったが、今はすっかり発展している。

ウチは東京に憧れを抱いて、栗原さんたちと同じ高校を選んだ。


 どのくらい時間が経っただろうか?ウチはずっと悩んでいた。

故郷で暮らし続けるのか?

それとも大東京で孤軍奮闘するのか?

栗原さんたちとは、大人になっても一緒に過ごす機会をつくっていくのか?

それとも高校卒業をもって縁切れなのか?

いろんな考えがウチの頭の中を廻っている。

ウチは栗原さんと牛田さんにメールで今の心境を打ち明けたいと思った。

『ウチは今将来が不安。どうしたらいいのかな?』

あとは送るだけ。しかしウチはやめた。

頭の中で栗原さんと牛田さんがはげましているような気がして。

友達は良いものだ。ウチは再認識した。


 母が昼食をつくってくれたようだ。ウチは食べながら、あることを考えた。『故郷が一番』という言葉が頭の中に浮かんできた。

「故郷が一番…ウチは今なにをすれば良いのだろう」

最近休日に栗原さんたちと遊んでいることが多いため、久しぶりに一人で過ごすのはひじょうに退屈でしょうがなかった。


 ウチはあることを思いついた。

挿絵(By みてみん)

「リフレッシュが必要かな。たまには一人でお出かけっていうのも良いよね」

ウチはそう思い、出かけた。


ふと思えば、埼玉県八潮市垳は全国唯一の地名だ。ウチの名字もまた、全国でもめずらしい名字だと思う。だからウチは『垳』という字をもっと多くの人に知ってもらいたいと思う。

どうしたら良いかはわからないけれど。


 ウチはまず垳川に向かった。小川ではあるがゆえにこの先は東京都足立区とはだれも思わないだろう。県境を示す看板で気づいてもらうパターンも多い。

垳川は『垳』という字を多くの人に知ってもらうためには最適なものだ。しかし、水質がとても良いわけではないのでアピールが難しい。


 そこでウチは神明・六木遊歩道の存在を利用しようかと思う。

名前の通り足立区神明・六木にある遊歩道で、垳川に沿ってつくられている。ついでに言うと垳川の通る地名は、埼玉県八潮市垳・浮塚、東京都足立区神明・六木。この四つの地名から『垳』が選ばれたのはウチにとっては非常に良いし、神明・六木も川沿いの遊歩道名になっているし、ある意味この地域の特色が出ていると、ウチは改めて思った。


 ………浮塚は?

 ………まぁいいや。


 垳排水機場もあるし、垳川の水質安定化を足立区と八潮市でやってくれているし、今後の垳地区にはなくてはならない存在だとウチは思った。

ウチは遊歩道の近くにある公園で遊んでいる子供たちを見て、その後再び八潮市垳に戻った。


 次にウチは垳地区のバス停をまわった。その中で『垳』が入っているのは『垳公民館』と『垳トンネル』の2ヶ所だった。

『垳公民館』はいろんなバスが通っているけれど、『垳トンネル』はあんまりなかった。

一応2系統のバスが停車するけれどどちらも八潮市内のバスだし、『垳公民館』のほうは『垳トンネル』に停車する2系統に加えて足立区役所方面に行くバスが1系統、足立区綾瀬駅方面に行く朝日バスが1系統ある。特に朝日バスは『垳公民館』を出ると終点『八潮駅南口』で便利だし。

(他の3系統は大回りして八潮駅北口まで行く)

『垳公民館』バス停はいわゆる垳地区のターミナルバス停だとウチは思っている。

(言い過ぎかな)

まぁ、帰りは駅から歩いて帰るけれど、学校行くときは『垳公民館』から朝日バスで駅まで行くことが多い。


東京都足立区と八潮市唯一の駅、八潮駅に運ぶバスが停まる『垳公民館』は想像以上に便利だと思う。


 そんな『垳公民館』と『ふれあい桜橋』(こちらも垳地区内)バス停から狭い路地を歩いて行くと、「垳稲荷神社」がひっそり立っている。

ここはよく行く所ではないが、お正月の時に御参りに行ったりすることはあるし、時々願いが叶いますようにと御参りしに行く事だってある。

まぁ、初詣自体は栗原さんたちと西新井大師でやっているけれどもね。

ウチは早速神様にお願いした。

(垳をいろんな人に知ってもらいたい)

挿絵(By みてみん)

ウチは何年経っても日本唯一の地名「垳」を残してもらいたい。そう思ってお願いした。

垳地区には「常然寺」もあるけれど、あそこよりもここのほうが馴染みやすかった。

「垳」をアピールするにも「垳」という字が入っていれば効果的にアピールできるしね。

まぁ、稲荷神社だから狐の守り神も祭られているようだね。


 最後にウチはセブンイレブン「八潮垳店」に行った。

たった1店だけれどもそれでも垳地区に有名なコンビニチェーン店があるのは心強い。

しかも「垳」が店名に入っているのは本当にうれしいこと。

ウチは早速店内に入って、メロンパンを買って家に帰った。


 ウチは将来が不安。しかしこの素晴らしい故郷、改めて見直せば新たな発見もある。

『垳トンネル』・『ふれあい桜橋』バス停は今日調べて初めて知ったし、昔に比べて垳川もだいぶ良くなってきていると自己解釈したし、今後も垳についていろんなことがしたいとウチは思った。

「最近のメロンパンはよりおいしくなったなぁ」

とウチはメロンパンを食べながらつぶやいた。


 ウチはその後、今週授業で習ったものを復習した。

次のテスト(ていうか試験)までまだ十分時間はあるが、今のうちにやっておこうと思った。

分からないところは授業ノートで確認し、テストで高得点が取れるようになりたいとウチは思った。

まぁ、中学校の頃は成績優秀だったから問題は少ないけれどね。

国語・数学・社会はまだ大丈夫だけど、理科・英語は入念に復習したほうがいいと、ウチは思った。


 夜、ウチは風呂の中であることを考えていた。

それは栗原さんたち四人のこと。

特に栗原さんと五反野さんは小学校からの仲なので思い出が次々と思い出せる。

「なんやかんやで、ウチはあの二人のことを友達として好きだと思う。これからもずっと、一緒にいたいと思う気持ちが強いね」

ウチは改めて思った。

風呂から上がったウチの顔は赤くなっていた。それは単にのぼせたとも、友達のことを考えていたからともとれる。


 翌日、いつものように『垳公民館』から朝日バスに乗って、八潮駅まで行ってそこからつくばエクスプレスの区間快速で北千住駅まで行った。

そしていつものルートで学校に行き、1年B組の教室に入った。

「おはよう」

今週も、五人の楽しい学校生活が始まるのであった。

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