第17話 ヒーローと夏
この物語は、足立未来高等学校に通う、栗原、五反野、牛田、垳、関屋の五人が繰り広げる、ほのぼの日常系・学園モノ小説である。(栗原シホ)
今日は月に一度のお楽しみの足立クリーンマンとボランティア活動。
五反野さんは家の事情で行けない。(第13話参照)
垳さんは興味無いと断っていた。(第13話参照)
栗原さんは熊本旅行。(第16話参照)
残る関屋さんも田舎に里帰り。
垳さんはどうして会いに行かないのかな?
他の3人は仕方がないけれど。
アタイは今日も電話の指示通りの場所で待っていた。今日は千住桜木バス停(北千住駅方面)が集合場所。
しばらくするとクリーンマンがやって来た。
「お待たせ!」
「クリーンマン、暑くないの?」
「オレは前もって暑さ対策しているから大丈夫だぜ」
「そう、アタイの友達はみんな忙しそうだったからアタイしかこれなかったけれど、2人でも大丈夫だよね?」
「おう、1人より2人。人1人多いだけで助かるぜ」
アタイたちは早速ゴミを見つけた。
「トングで拾ってゴミ袋へ」
クリーンマンはそう言ってスチール缶を袋に入れる。
アタイもアルミ缶を見つけて袋に入れた。
「アルミ缶とスチール缶ってどう違うの?」
アタイが聞くとクリーンマンが答えた。
「アルミ缶はアルミニウムで出来ていて、スチール缶は鋼で出来ている。ちなみに鋼は英語でSteelっていうぜ。一番わかりやすいのはアルミ缶は簡単に潰れる、スチール缶は簡単には潰れないっていうところだな」
「なるほどね」
ふと見ると向うにペットボトルが落ちている。
アタイは拾って入れるとクリーンマンに質問した。
「ペットボトルのペットって何?」
「PETとはPolyEthylene Terephthalate (ポリエチレンテレフタレート)のことで頭文字を取ってペットと呼ばれているぜ」
と答えてくれた。
「凄い!クリーンマンはやっぱりこういう分野に詳しいんだね」
アタイが言った直後にクリーンマンは近くに捨てられていたタバコの吸い殻を拾って袋に入れた。
「クリーンマンはタバコの起源知っているよね?」
「それはオレも知らん」
「じゃあいつものフリー百科事典で調べよう」
…クリーンマンも知らないものがあったのね。
だいぶ歩いたと思う。その間にもゴミはたくさん集まった。
「おや、北千住駅が見えてきたよ」
アタイが言うとクリーンマンはこう言った。
「あとで休憩取ろうか」
「うん」
アタイはすぐ答えた。
北千住駅西口付近はゴミはあんまり無かった。
「普段から駅前はキレイだな」
クリーンマンが言った。
「駅前は清掃のプロ集団が毎日キレイにしてるんじゃ?」
とアタイが言った。
アタイたちは北千住駅近くのベンチで休んだ。
「やっぱ冷えた麦茶は最高!」
アタイは水筒の麦茶を飲んだ。そしてまた保冷剤入りの袋に入れた。
「キミにはボランティアを2回も手伝ってもらったし、非常に助かるよ」
クリーンマンが言った。アタイはすぐに…
「そんなことないですよ。アタイは町の為に活動しているクリーンマンを応援したくて一緒にやっているんですよ」
と言った。
「ありがとう。そろそろ行くか」
「うん!」
休憩の後、アタイたちは南の方角に向かってゴミ拾いを再開した。
「この辺は人通り少ないね」
アタイが言うとクリーンマンはこう言った。
「ああ、今日はこの辺りもやっておこうと思ったんだ」
特別ゴミが散乱しているワケじゃないけれど、やっぱりあちこちに紙くずやペットボトルが落ちている。
「こういうの見ると、残念な気持ちになるよね」
アタイが言うとクリーンマンはこう言った。
「ああ、でもオレはこの活動を続けるつもりだ」
「そう、アタイはいつでもクリーンマンについていくからね」
「ありがとう。そろそろ着くぞ」
「え?」
アタイが見た先には細い道があった。
「この道はな、『やっちゃば緑道』って言うんだぜ」
「『やっちゃば緑道』?何ソレ」
「元々足立市場と国鉄の貨物線を結んでいた線路の跡地を整備して緑道にしたんだよ。国鉄は今のJRの事だな。『やっちゃば』は青果市場の事だな。『やっちゃ』は『安いよ安いよー!』が『やっちゃやっちゃー!』という風に聞こえたから」
「なるほど」
「ここもゴミ拾いしなきゃな」
「どこまでもついていくよ」
細く長い道を通って行くと下に大きな通りが見えた。
「あれは墨堤通りだよ」
「たしかにあるね。そんな通り」
ゴミ拾いをしながらどんどん奥のほうへ進んで行く。
「おや?高架の上に電車が通っている」
「あれは京成本線だよ」
「JRとメトロとつくばエクスプレスのさらに上を通るんだね」
さらに先に進むと…
「ここで終わりかな?」
「いや、道路の向こう側に続きがあるぞ」
「本当だ」
もう少し先へ進むと…
「ここが本当の終点だぞ」
「あっ!本当に足立市場に着いちゃった」
「結構ゴミも集まったね」
「じゃあさ、さっきのベンチで休憩しようよ」
「いいぜ」
アタイたちは元来た道を戻り、緑道の途中にあるベンチで休憩を取った。
「アタイの水筒の麦茶。良かったら飲んで」
「良いのか?」
「うん」
「じゃあさ、向う見ててよ」
「わかった」
…多分素顔を見られたくないからなのかな。
アタイはそう思い、ずっとクリーンマンとは逆の方を見ていた。
クリーンマンが言った。
「オレはそろそろ行かなくてはならない」
「もう行っちゃうのね」
「ああ、また来月な」
「うん。また来月ね」
帰りは墨堤通りを牛田駅方面に歩いて家に帰った。
「やっぱりカッコイイよね」
家に帰ったアタイは今後の夏休みの計画を確認した。
来月の第4土曜日もクリーンマンの手伝いをするでしょ。
栗原さんたちと遊びに行く用事が出来れば行くし。
…家族旅行は無いし。
その夜の事。
アタイは五反野さんに電話した。
「もしもし」
「もしもし五反野さん。今日また足立クリーンマンに会ったよ」
「へー、良かったじゃん」
「五反野さんは『やっちゃば緑道』知っている?」
「は?なんだソレ」
「クリーンマンに教えてもらったの。千住の南の方にあるよ」
「あのな、幼少期は六木、今は五反野駅付近に住んでいるオレが知っているワケないだろ?」
「そ…そうだよね。じゃあおやすみ」
「おやすみ」
他のみんなには明日電話で話そうと思う…
翌日…
みんなの反応はと言うと…
(栗原)「そんな所があったんだね」
(垳)「だから興味ないって」
(関屋)「アタシも行きたかった」
といった具合。
まあ、夏休みはまだ始まったばかりだからね。
アタイはそう思ったのであった。