第10話 ネットの世界
この物語は、足立未来高等学校に通う、栗原、五反野、牛田、垳、関屋の五人が繰り広げる、ほのぼの日常系・学園モノ小説である。(栗原シホ)
アタイは牛田エリ。人には教えてはいけないヒミツって言うか、クセがある。
それはアタイが同性愛者、いわゆるレズって言うものだ。しかしアタイはなんて言うか、一般的なレズではない。なぜなら一般的なイメージだと「男勝り」「しつこい」「変態」の内、いずれかひとつが該当するはず。しかしアタイはいずれにも該当しない極めて少数派レズなんだ。
アタイがレズだということを知っているのは、栗原さん、五反野さん、垳さん、関屋さんの四人。
ちなみに今アタイは栗原さんと五反野さんに恋している状態なんだ。栗原さんは頼りにしやすくて、親しい仲だ。レズでも受け入れるって言ってくれたし。でも旦那系女子と言えば五反野さんだよ。五反野さんって運動も得意だし、けっこう頼りになると思うんだ。でも短気なところがちょっとねぇ…
アタイは一人、自宅にいた。
『エリキモーイ!』
『こっち来ないで!』
突然アタイの頭の中で昔言われたことを思い出してしまった。
「うう…」
過去の嫌な事は忘れたい。しかし今はもうトラウマになってしまっている。
アタイは垳さんに電話した。まぁ頭が良いということで相談した。
「もしもし」
「もしもし垳さん。相談があって、アタイは過去のトラウマをここ最近また思い出してしまうんだ。アタイの友達の中で一番頭が良い垳さん、なんとかならないかな?」
「ウチの場合、家のまわりを散歩するね。地元が好きだから。牛田さんも自分が落ち着けるようなことすれば良いんだよ」
「ありがとう」
アタイは考えた。自分の落ち着けること、何が一番落ち着けるか?
…これかな?とアタイが思ったのはありのままの自分。鏡に映る自分を見つめながらアタイは思った。
「他の四人とは背が10センチ位違うけれど、日本の女子の平均身長に近いな。むしろみんな男子並みに身長高い!」
カーテンは全部閉めたし、外からは絶対見えない。さらにアタイの親は夕方帰ってくるらしいから大丈夫。
アタイは自分にそう言い聞かせた。
アタイの携帯が鳴った。五反野さんからだった。
「垳から話は聞いているぞ。大丈夫か牛田、今どうゆうふうに落ち着かせているのか?」
「…家の中、鏡の前に立っている」
「オイオイ、おかしいって」
「そうだよね、アタイってやっぱり頭オカシイかな」
「いつもやっているわけじゃないよな。常習的にやっていなければ大丈夫だぜ」
「うん、ありがとう」
アタイの心はだいぶ落ち着いた。
アタイはパソコンを開いた。インターネットに接続してあるキーワードを調べた。
『レズビアン』
何件か見つかった。さらにアタイは
『レズビアン 一般的なイメージ』
と入れて検索してみた。
やっぱりしつこかったり、変態だったり、良いイメージはなかった。
関屋さんに電話することにした。
「牛田さんどうしたの?」
「最近の流行ってなんだろう?」
「動画サイトで踊ってみたが多数投稿されてるみたいだよ。アタイもよく見るよ」
「そう…ありがとう」
早速見てみた。いろいろ投稿されていたようだ。
「今の世の中、注目を浴びれば時の人だもんね」
アタイはそう思いながら映像を見ていた。
本当にこの人たちは一般人なの?…と不思議そうに見た。
関屋さんって、こういうの見て踊ったりしているのかな?
アタイは一番気になったのはそれらの動画に使われている曲の著作権。クラシック系(それも100年以上前)なら問題なさそうだけど、それ以外は対外厳しそう。
アタイはそれでも平気でやってのけるネットの有志たちがどうも信じられなかった。
アタイがネットで…
『自分のオリジナル作品を自由に使用しても良い』
なんて都合の良いことしてくれる人は全然いなかった。
そんなお人好し、いたら世界も変わるねとアタイは思った。
栗原さんにも電話で聞いてみた。
「アタイは二次創作っていうものを、どうとらえたら良いかわかんないよ」
「突然どうしたの?でも牛田さん、過激になり過ぎなければ二次創作は許されるはずだよ」
「でも…」
「そもそも今有名な作品は二次創作無しでは成り立たない部分があると思うよ」
「それ本当?栗原さん」
「二次創作無しの作品なんてファンが少ないことを表しているんじゃないかな?二次創作が多ければ多いほど、ファンに愛されているってことになるわ。二次創作を通じて原作を知ることだってあるかも知れないし。まぁ必ずしもそうじゃないこともあるけれどね」
「なるほどなるほど。じゃあ二次創作は無くてはならないものだね」
「まぁ、内容にもよるけれどね。二次創作は弾圧してはいけない、原作あっての二次創作だから」
「アタイも二次創作やってみたい」
「へぇ、どんな?」
「女子キャラ同士の百合絵」
「やっぱり…」
「ありがとうね」
アタイは早速紙に鉛筆で絵を描き始めた。
一応アタイは絵を描くのも好きだし、他人のキャラクターを描くこと自体は昔からやっていた。
でもアタイは百合絵を描かなかった。
なぜならばアタイが描いたのがゆるキャラだったから。
ネットで偶然見つけたゆるキャラで、青髪の氷の妖精。
アタイも青髪だし、その妖精のコスプレをしたアタイも描いてみた。
アタイはある小説投稿サイトを見てみた。
オリジナル作品ばかりかと思っていたんだけれども、二次創作がけっこうあった。さらに異なる作者の作品同士のクロスオーバーまであった。
クロスオーバーとは、二つ以上の作品のキャラクター同士がコラボすることらしい。
さらにアタイはイラスト投稿サイトも見てみた。
コラボイラストはやはりあった。
アタイがたまたま見つけたイラストには同一作者による3作品の主人公キャラが描かれていた。
作者ブログからわかったのは一人は熊のキャラクターの『ブイブイ』
みんなが楽しめるようにとつくられた児童向けのマンガだ。
もう一人は『しんごうくん』
男児向けにつくられているようだ。
最後の一人は『エリコ』という少女。
オタク向けにつくられた萌えキャラのようだ。
同じ作者なのに全然違う内容なのは驚いた。
アタイはまた栗原さんに電話した。
「同一作者でも作風が全然違うのってあるの?」
「私もよくわからないけれど、そういうこともあるみたいだよ」
「ありがとう」
ネットで調べてみたけれども、他にもそういう人はいるようだ。
どうしたらお子様向けとオタク向けを同時に描いていけるのか?不思議でしょうがなかった。
世の中広い。アタイは今日いろいろな情報を知って初めて思った。
「まだ…アタイの知らないことがあるかもしれない」
道具がそろえば、誰でもアーティスト。今はそんな世の中だとアタイは思う。
夜、アタイは風呂の中でふと思った。
そういえば今がありのままの自分じゃないかな?
そう思って鏡に映る自分の体を見て興奮してしまった。
五反野さんに電話した。
「鏡に映る自分の裸見て興奮するアタイってもしかして変態なのかな?」
「うーん…だろうな。でも軽度の変態だよ」
「そうかな?」
「安心しなって。オレが証明してやる」
「ありがとう」
アタイは一安心した。
翌日、平日なので学校へ。牛田駅で関屋さんとバッタリ会った。
「おはよう」
「おはよう関屋さん」
「アタシ、踊ってみたを投稿してみたいなぁ」
「いやいや、慎重に考えたほうが良いよ」
「そうか?」
そうこうしている内に電車は北千住駅に着いた。
「今日からまた学校生活が始まるね」
「そうだね関屋さん」
こうしてまたアタイたちの学校生活が始まったのであった。