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第1話「入学式」

挿絵(By みてみん)

 春の明るい陽気の朝、7時半を過ぎた頃に一人の少女がスキップしながら駅前の広場の横を歩いていた。

彼女の名前は栗原(くりはら)シホ15才。東京都足立区に住んでいて幼稚園からずっと区内の学校に通っていた。黄髪でポニーテール、先端は若干クセ毛になっている。

今日は「足立未来高等学校」の入学式で、彼女も心がウキウキしていた。

「まもなく、6番線に半蔵門線、東急田園都市線直通、急行中央林間行きが…」

「今日からこの電車で一駅かぁ」

西新井駅の5・6番線で待っていた私はふと、そう思った。中学時代は各駅停車で梅島駅まで行って、そこから歩いて通っていた。

7時37分発の急行中央林間行きに乗り、揺れる車内で、この間卒業した、母校「第四中学校」のことを思い出していた。

「まもなく、北千住、北千住…」

車内アナウンスが聴こえてきた後に、扉の近くによった。

「北千住、北千住…」

7時43分頃に着いたが、この時間は意外と混んでいる。とてもじゃないけれど座れるわけがない。

改札を出ると、見たことがある人がいた。

「栗原!待っていたよ」

「今日から高校生活が始まるね!」

私の名前を呼んだ赤髪の女子は五反野(ごたんの)アキ子。幼馴染で、幼稚園の頃から一緒の学校だった。

一人称は「オレ」。体を動かすのが好きで、体育祭等でも活躍した。

北千住駅は、足立区のターミナル駅だ。日暮里舎人ライナーと京成本線と東武大師線以外の足立区内の鉄道はこの駅を必ず通るし、JR線が停車する唯一の駅だ。(綾瀬駅は停車するのは全部東京メトロ千代田線直通の列車なので)

その為か、広い構造になっているが、昔からよく使っていたので簡単に外に出られた。

駅から学校まで距離はなく、校門に着いたのは8時前だった。

入学式会場は地下1階のようだが、2階の教室で待つことになった。

突然、私と五反野さんは肩をたたかれ振り向くと…

「久しぶり栗原さん、五反野さん」

緑髪の女子が立っていた。

すると五反野さんが…

「おー(がけ)じゃないか!久しぶり」

この女子の名前は垳キミ子。小学校の頃一緒で、その後も何度も会っている幼馴染だ。垳さんがまさか高校でまた一緒になれるなんて!…ということをついこのあいだ本人の電話で知った。

垳さんが二人にそっとつぶやいた。

「栗原さんや五反野さんは良いけど、他の人に覚えてもらえるかな?名字…」

「そうだね、難読だもんね『垳』って」

五反野さんの言う通り、垳は難読だ。鷦鷯(ささき)(くぼ)相老(あいおい)よりも、佐々木、久保、相生のほうが一般的なのと一緒で、垳よりも崖のほうが世間的に一般的だと思う。

よく(けた)や土行《どぎょう》と読み間違えられることがあると、垳さんはよく言っていた。

「垳は地元の中学校を卒業したの?」

「うん、潮止中学校を卒業したよ」

垳さんと五反野さんが話をしていた時、案内放送が鳴った。

「新入生の皆さんは先生の指示に従って、地下ホールに降りてください」

すると隣の教室から…

「A組から降りましょう」

という声がした。

挿絵(By みてみん)

私たちがいる教室は1年B組の教室で、三人ともB組だ。

この高校は「足立未来学園」の一部で、足立未来学園は幼稚園から高校まである。そして、ほとんどの足立未来中学校の生徒は有名大学の付属高校に行ってしまうため、高校はほとんどが外部からの生徒だ。A組の生徒は全員幼小中のいずれかから足立未来学園に入った生徒でかためられ、外部から来た生徒はB組からである。

「じゃあB組もそろそろ行こうか」

若い男性の先生がそう言って、B組の生徒を二列に並べてから出発した。この先生がB組の担任なのかな?と、思いながら私たちは地下ホールへ降りていった。

入学式だからなのか、入場するときに「威風堂々」がながれていた。B組の女子でか行の人は、垳さんと私と五反野さんしかいないので、三人一緒に座れた。

入学式が始まり、最初にこの高校の校長先生が話を始めた。

「みなさんこんにちは、この足立未来高等学校、校長の足立(あだち)です。新入生のみなさん、覚えやすい名字なのですぐ覚えてくださいね。さて、新入生の諸君の中にもA組の生徒は我が足立未来学園の幼小中のいずれかから通っているので、この学園の歴史は知っていると思いますが、他のクラスの生徒は外部の中学校から来ているので、今日はまずこの学園の歴史について話したいと思います。時代が昭和から平成に変わった1989年の9月29日、私の母、足立未来(みらい)先生がこの場所に足立未来幼稚園をつくったのが始まりでした。足立未来幼稚園はこの高校が出来る1年前に京成線の千住大橋駅の近くに移転しました。この幼稚園の卒園生の中には実はこの高校に現在勤務している佐野先生がいたりします。他にこの学園の卒業生でこの学園の教師になった人は幼中それぞれ一名ずついます。さて、話を戻して、1991年2月15日に足立未来小学校、1996年2月23日に足立未来中学校、2006年2月11日に足立未来高等学校を設立しました。この高校設立は時間がかかり、私の母も頭を抱えていました。しかしなんとか、設立にこぎつき、母も一安心したのか高校の第1回入学式を見届けた後、2006年8月5日に帰らぬ人となりました。57歳でした。私は母の息子としてこの高校の開校時から校長をやっています。ちなみにこの学園の学園長先生の阿太知(あたち)先生は、母の弟さんです。幼稚園の園長先生、小中学校の校長先生も、母の家族や親戚がやっております。さて…新入生のみなさんは校庭の真ん中にあるクスノキに気付いたかな?あのクスノキは1988年の幼稚園舎建設時に母が以前まで公園だったこの場所でひときわ目立つこのクスノキを残してくれと頼んだことによって残されたクスノキだったのです。幼稚園舎を壊して高校を建てた時も同様に母が残すよう言っていました。あのクスノキは1945年8月15日、第二次世界大戦終戦後に、平和を願って地域の人が植えたと言う話を母から聞かされました。母は平和のクスノキと名付け、いつまでも残すようにと晩年、母が言っていました。私はこの事を後世に伝えていこうと思っております。それではこの学校の特色について話します…」

校長先生の長話は10分にも及んだ。その後に学園長先生から話があった。

「新入生の諸君、入学おめでとう。学園長の阿太知です。1954年11月3日生まれのいい歳をしたおじさんです。いままで当学園に通っていた諸君もそうでない諸君ものびのびと過ごし、充実した三年間にしてください。そして明るい未来を手に入れるためにもこの学校で多くのことを学んでください」

学園長先生の話は意外と短かった。しかしその言葉にきちんと意味があると解釈した。

その後は、新入生代表で、A組の亀有(かめあり)さんがスピーチをし、その後に先輩方から代表生徒が1人前に出ていた。亀有さんも先輩も聞き取りやすいスピーチだった。

入学式はその後も進んでいき、最後の校歌斉唱も終わり、新入生退場となった。その時になぜか「天国と地獄」がながれていた。

1年B組の教室に戻った私たちは席に座った。廊下側の前から2列目に五反野さんと私、その後ろに垳さんが座った。あくまで仮なので、近いうちに席替えすると思う。

席に座った私たちは次々と入学式のことを話し出した。

まず、五反野さんが…

「校長先生の話、長かったねぇ。20分もかかったんじゃないかな?」

「いやいや10分位だったよ」

と垳さんが言うと、私が…

「でも、いろんなエピソードも聞けたし良かったじゃない?」

「たしかに、深い話だな…」

五反野さんがつぶやいた時。

挿絵(By みてみん)

「みなさんおはようございます!」

クラスを誘導したあの若い先生が入ってきた。

「1年B組担任、佐野(さの)です。今日からよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

クラス全員が声をそろえて言った。

「えー、校長先生が言っていた通り、私は足立未来幼稚園卒園生で、中学校まで足立未来学園で学びました。出来ればみんなが仲良く、そして元気なクラスになってくれると先生は願っています」

先生がそう言ったのでおもわず…

「きっとなれます!」

と、私が言うと…

「おー、栗原!ありがとう、そうだよね、きっとなれるよね!」

…言って良かったと、私は思った。

「今日は入学式だけなので、授業は明日からです。ではさようなら」佐野先生は、そのまま教室を後にした。今日から新しい学校生活、また今朝のように心がウキウキしてきた。

帰りに北千住駅前のマクドナルドに寄った。入学を3人で祝うために…

「やっぱりチキンフィレオだよね」

と垳さん。

「いやいや、ダブルクォーターパウンダーチーズでしょ」

と五反野さん。

「チキンクリスプだよ」

と私。

「それにしても2人とも白ブドウ?オレはコーラだぜ?」

「五反野さん、炭酸が苦手な人も居るんだから…」

と垳さんが言い終わらないうちに…

「ま、そうだよな、炭酸好きそうな顔してないもん」

五反野さんが言った。

「ま、どれもおいしいってことで」

と私がまとめたのであった。

「そういえば垳さんはどうやって帰るの?」

と私が質問すると…

「北千住からつくばエクスプレスの区間快速で八潮まで行って、そこから歩く。五反野さんは?」

「オレは北千住から東武伊勢崎線の普通で五反野まで行って、そこから歩く」

「私は北千住から東武伊勢崎線の急行で西新井まで行って、そこから自転車」

と私も答えた。

「なんで栗原だけ自転車なんだ?」

と五反野さん。

「昔からそうだよー」

と私。すると五反野さんが…

「知っているよー」

…この後マクドナルドを後にした私たちは…

「じゃあまた明日ね」

とそれぞれの乗り場へ向かったのであった。

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