Unknown.Gear -独白-
アリス。
その言葉を思い浮かべるだけで、その心は形容しがたい痛みを覚える。
いつの頃からだろうか。きっとそれは彼女のことを知らされてからだろう。それまでは彼女のことを覚えてすらいなかった。
しかし、生まれてから今まで互いが互いの存在を知らなかったのだ。だから仕方ない。空を彷徨う少年はそう思う。
恐らく彼女は少年のことは知らないまま生きているのだろう。
それは仕方のないことだった。過去の報告によれば、彼女は某国の民間人に拾われたそうだ。その後の行方は定かではないが、その国の死者リストを参照しても該当する人物はいないため、恐らく無事に過ごしているのだろう。
そう。生きていたが故に彼女は上層部から目を付けられてしまった。彼女の真の力に気付いて。そしてそれは自分と彼女、二人がそろって初めて機能する力だった。
その力を利用しようものならば、彼女は無事では済まないだろう。
だから彼女が上層部の手に渡るのを阻止しなければならない。少年は自分の国を裏切る決意をした。
今はまだ裏切らない。彼女が奴らの手に堕ちてしまうその瞬間に裏切り、逃げる。
行く当てはない。とにかく追手のつかないところまで逃げ切るつもりだ。
なぜ、会ったこともない他人同然の少女を助けるのか。
そう問われれば少年はこう答える。
今まで闘うことでしか己の存在を確認できなかった。その少年に初めて出来た、絆。
たった一人の―――